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閑話
よいこのクリスマス 上
山間の風がつよく吹き、体を丸めたミナトはスレブニーの背中で暖をとりながら橋を渡った。ブルーグリーンの川は色がくすんで寒々しく見える。
つい先日、ヴァトレーネへ帰ってきた。冬場の海は荒れるものの南にある港町の気候は温暖、こちらは芯から凍える寒さだ。山をこえた北城塞都市はもっと寒いというのだから、皆どうやって寒さをやり過ごしているのだろう。
「ミナト様、お帰りなさい」
「ただいま。はぁ~、こっちは寒いね」
ほほえんだミラが扉をしめたら屋内は暖かい空気に満ちていた。帝国製のコンクリート建築は、炉の熱を壁の中へとおして部屋全体が暖かくなっている。広場にある大きな建物もおなじ、ただし個室や廊下は寒暖の差があって油断できない。
羊毛のくつ下をぬぎ暖炉の火へあてると、指先があたたまりミナトはほっとした。去年は港町で過ごしたけど、今年はラルフの用事もあってヴァトレーネで冬越しの予定だ。
ロマス帝国の暦で10番目と呼ばれる月は12月にあたる。なんでも昔は3月の暖かくなる時期が年はじめだったが、月へ名づけた神さまの関係で1月が年始になって長いらしい。
「なんか足りないなぁ……去年のは何だったんだろう? 戦勝の祭り? 」
ミナトの世界ではちょうどクリスマスの時期、去年の港町では祭りのようなものが行われていた。ヴァトレーネの町は12月なのに深閑としてる。去年は戦のせいで考えるヒマもなかったので今さら疑問がわく。
「ミナトォ……」
「ラルフおかえ――うひゃあ冷たいっ! 」
帰宅したラルフが抱きつく、外気でひえた体がくっつきミナトはおもわず叫んだ。寒さが苦手なラルフの動きは鈍重としている。温めたはちみつミルクを飲み、彼はほどなく復活した。
「去年の祭り? あれは農耕神の祝祭だよ。あとは来年も太陽が復活していい作物ができますようにという祈りかな」
ムートンソファーへ埋まったラルフが答えてくれた。帝国本土や港町では民も交えて大体的に祭りおこなう。ヴァトレーネは北城塞都市ほど寒くないものの、冬は屋内へ閉じこもり各家庭でしずかに過ごす。
色とりどりの飾りつけをして、ロウソクを灯しご馳走を用意する。クリスマスに似て非なる祭りだった。とは言えミナトもなんちゃってクリスマス、ツリーを飾りつけケーキを食べて、プレゼントを贈る――――。
「あっサンタさん、いないの!? 」
「サンタ? 農耕神はサートゥルヌスだぞ」
「なにその強そうな名前の神さま!? 」
「待てミナト、まずはその『サンタサン』とやらを説明してもらおう」
ミナトも上手に説明は出来なかった。いい子へプレゼントをくばる赤い服の髭モジャおじさんだと伝えたらラルフはうなっていた。
屋敷でも祝祭の準備をはじめた。祭りの期間中はミラや他の使用人たちとも食卓を共にする。ふだん食事を作ってもらってるミナトも腕をふるう機会がありそうだ。
飾りけのない中庭を見ていたら、草木の妖精がミナトの顔をのぞきこむ。おっさん妖精は日本のクリスマスについて知っていた。
「クリスマスツリか~、たしかにこっちの世界にはないなぁ~」
「でしょ? 殺風景でさびしいよね」
「カラフルな紐とか巻けばいいんじゃねーか? 屋敷のおもてに小さいモミの木があるぜ」
ぴょんぴょんと跳ねるオッサン妖精について行くと、背丈の低いモミの木があった。屋敷のそばで最適、ミナトはさっそく飾り付ける道具をさがした。
「おや黒髪の人、いったい何をしているのかね? 」
散歩していた商人が興味深げに聞いてきた。ミナトが祝祭でツリーを飾り付けてることを説明すると、おもしろがり金属の皿や魔除けのガラス細工を持ってきた。キラキラしてクリスマスツリーらしくなった。
目立つ場所だった為、寒いのにもかかわらず人が集まってくる。皆はさまざまな物をもち寄り、周りの木々を飾りつける。農家の人がリンゴをつるし、ハシゴをつかって高い木へのぼる人、ツリーは色とりどりに装飾された。
個性的なものからキレイなものまで、町の人たちは出来上がったツリーを評している。様子を見にきた詰め所の兵士も和気あいあいと輪へ加わった。
「ミナト、何事だ? 」
「ラルフごめん……こんな騒ぎになるとは思わなくて……」
兵士に連絡を受けたラルフも広場へ出てきた。このころにはちょっとした騒動になって、広場はたくさんの人々であふれ返っていた。場をおさめたラルフにより、飾られたツリーは祭りの期間中そのまま展示されることになった。
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