67 / 68
閑話
よいこのクリスマス 下
しおりを挟む次の日、広場は観光スポットと化し、装飾された木も増えていた。朝市の広場に面し、買い物をすませた人々はツリーを見物している。午後からラルフといっしょに見てまわった。
ミナトの手が冷えないようにラルフはずっと握っていた。
テーブルを並べたスペースもあり、ワインを売るテントからいい香りがただよう。ハチミツやローリエ、ナツメグ、りんごや柑橘系のスパイス入りのワイン壺が焚火台で温められていた。テントの前は人だかりで盛況してる。
人だかりの中から出てきたツァルニに声をかけられた。人だかりは見知った顔が多く、非番の兵士たちがホットワインへ群がっていた。
「ラルフ、ミナト! 」
呼ばれてふり向くと、馬をつないだヒギエアが歩いてくる。
「ヒギエア、どうしてここへ!? 」
「ミナトがこっちで面白いことをしてるって手紙をもらってね。いても立ってもいられなくて来てしまった」
彼女へ手紙を送った覚えはない、ラルフが口笛を吹くマネをしてて送った犯人はすぐに判明した。楽しげに話すヒギエアをクリスマスツリーまで案内する。
「あらまあキレイ! ミナトはユールを知ってるの? 」
「ユール? 」
ヒギエアの故郷でも樫の木などへ飾りつけをする。冬至の祭りで故郷の神々へ捧げものをして太陽の復活を祈るという。ラルフたちの祭りとは異なり、神様もちがうけど祈る目的はおなじみたいだ。そこにジーザスの面影はなかった。
「オゥ、ジーザス。クリスマスじゃなかったの!? 」
背後でシヴィルがなげき、ホットワインを危うく手から落としそうになっていた。
「シヴィル、いまクリスマスって言った? 」
「ううん、人混みクルシイデスって言ったよ! 」
聞いたことある単語が聞こえたけど、シヴィルは首を横へふって否定する。手に持っていたホットワイン2つを押しつけ、再び人だかりへ消えた。ツァルニは彼を追いかけ、ヒギエアもホットワインを買いにいく。
「ミナト、空いてる席で飲もう」
クリスマスツリーの前でカップを持ったまま取り残されていたら、ラルフがほほ笑んだ。
アーバーが手招きしてテーブル席へ腰をおろした。ホットワインを買いに行ってたヒギエアやツァルニたちも戻り、おしくらまんじゅうのように座る。ホットワインで体は温かいけど、毛皮ラルフとくっつけば尚更あったかい。
「ここの温ワイン、甘めなのね」
「はちみつ多めだから私好みだ。ミナト、ミラたちのおみやげも買って帰ろう」
「へへへ~、ツァルニと間接チュウ」
「シヴィルッ、自分のワインを飲めっ! 」
テーブルは様々な声があふれかえる。こっちへ手をふるエリークの姿も見かけた。家族と来ていたが、うしろを飛びまわる白い光りは3つくらいに増えていた。
ランプの明かりが中庭のクリスマスツリーを照らす。ソファーへ横になってながめたら、ラルフが背中へおおいかぶさった。
「窓をあけていたら寒くないか、ミナト? あっ、腰ひもがあんなところに!? 」
「金糸が入ってキラキラしてるからつい……」
中庭のツリーへ金糸と赤い腰帯を巻きつけていた。飾りつけの道具をさがしてる時に草木の妖精が持ってきたものだった。笑ったラルフはミナトを持ち上げてソファーへ寝そべる。彼へ乗るかたちになってミナトの顔は赤くなった。
一緒の毛布にくるまっていると、正面のソファーでリラックスしていたヒギエアが口をひらく。
「ちょっとあんたら、イチャイチャしすぎ。私もいるのよ」
「ヒギエアめ! ミナトと私の仲を引き裂こうというのか? そもそも泊まるとは聞いてないぞ」
「しょーがないじゃない、飲みすぎちゃって落馬したら大変でしょう? 」
毛布のすきまから黄金色の目をのぞかせたラルフが唸った。動じないヒギエアはワインを飲み干す。酔っぱらい達の攻防を眺めていたら、ラルフが思い出したように起きあがる。
「『サンタサン』の話をしていただろう? 私もミナトへ贈り物があるんだ! 」
ラルフからの贈りもの、期待に胸をふくらませ受けとった。
それは硬くてゴツゴツした石像。ミナトは髭モジャの神像をプレゼントされた。
「……思ってたのとちがう」
「ミッミナト!? やっぱり女神像のほうが良かったか!? 」
腹をかかえたヒギエアがソファーへ突っ伏して大笑いしていた。
――――――――――
読んで頂きありがとうございます。
見直していたら季節ものが書きたくなってアップしました。
おまけ
暦のはなし
紀元前3000年ごろエジプトで農耕に適した季節を知るために生まれたシリウス暦(太陽暦)、もっとも日の長い夏至の日が1年の始まり、季節が変化する4つの時期に分けて種まきや収穫を管理していました。
古代ローマではロムルス暦が使われていて1年は10カ月で冬の期間はわりと適当でした。
Martius:軍神マルスの月
Aprīlis:女神ウェヌスの月
Māius:豊饒の女神マイアの月
Jūnius:結婚を守護する女神ユーノーの月
quīntus:5番目の月
Sextīlis:6番目の月
September:7の月
Octōber:8の月
November:9の月
December:10の月
冬:約61日くらい
ロムルス暦では1年の始まりは暖かくなる現在の3月(Martius:マーチの語源、戦の神マルス)でした。
紀元前800年ごろローマでも太陽暦が取り入れられましたが、数百年単位で運用していると実際の太陽の運行とズレが出ます。
紀元前153~45年のあいだの暦の大改造により冬は2つに分けられて現在の1月と2月ができました。年はじめは1月(Jānuārius:ジャニュアリーの語源、門の守護神ヤヌス)、2月は戦死者の慰霊祭の主神Februus(フェブルウス)です。紀元前45年ごろローマ皇帝ガイウス・ユリウス・カエサルがユリウス暦を導入しました。
現行の太陽暦(グレゴリオ暦)は1500年代にローマ教皇がユリウス暦を改良して導入したものだと云われています。1年12カ月365日、4年に1回調整のため366日になります。うるう年が2月にあるのは、3月が始まりだった古代ローマのなごりです。
日本では戦国時代キリシタンのあいだで利用されはじめ、1872年に太陰暦を廃止して太陽暦を導入しました。
95
あなたにおすすめの小説
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。
明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。
新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。
しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…?
冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。
悪役令嬢の兄に転生!破滅フラグ回避でスローライフを目指すはずが、氷の騎士に溺愛されてます
水凪しおん
BL
三十代半ばの平凡な会社員だった俺は、ある日、乙女ゲーム『君と紡ぐ光の協奏曲』の世界に転生した。
しかも、最推しの悪役令嬢リリアナの兄、アシェルとして。
このままでは妹は断罪され、一家は没落、俺は処刑される運命だ。
そんな未来は絶対に回避しなくてはならない。
俺の夢は、穏やかなスローライフを送ること。ゲームの知識を駆使して妹を心優しい少女に育て上げ、次々と破滅フラグをへし折っていく。
順調に進むスローライフ計画だったが、関わると面倒な攻略対象、「氷の騎士」サイラスになぜか興味を持たれてしまった。
家庭菜園にまで現れる彼に困惑する俺。
だがそれはやがて、国を揺るがす陰謀と、甘く激しい恋の始まりを告げる序曲に過ぎなかった――。
追放された味見係、【神の舌】で冷徹皇帝と聖獣の胃袋を掴んで溺愛される
水凪しおん
BL
「無能」と罵られ、故郷の王宮を追放された「味見係」のリオ。
行き場を失った彼を拾ったのは、氷のような美貌を持つ隣国の冷徹皇帝アレスだった。
「聖獣に何か食わせろ」という無理難題に対し、リオが作ったのは素朴な野菜スープ。しかしその料理には、食べた者を癒やす伝説のスキル【神の舌】の力が宿っていた!
聖獣を元気にし、皇帝の凍てついた心をも溶かしていくリオ。
「君は俺の宝だ」
冷酷だと思われていた皇帝からの、不器用で真っ直ぐな溺愛。
これは、捨てられた料理人が温かいご飯で居場所を作り、最高にハッピーになる物語。
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
炎の精霊王の愛に満ちて
陽花紫
BL
異世界転移してしまったミヤは、森の中で寒さに震えていた。暖をとるために焚火をすれば、そこから精霊王フレアが姿を現す。
悪しき魔術師によって封印されていたフレアはその礼として「願いをひとつ叶えてやろう」とミヤ告げる。しかし無欲なミヤには、願いなど浮かばなかった。フレアはミヤに欲望を与え、いまいちど願いを尋ねる。
ミヤは答えた。「俺を、愛して」
小説家になろうにも掲載中です。
完結·氷の宰相の寝かしつけ係に任命されました
禅
BL
幼い頃から心に穴が空いたような虚無感があった亮。
その穴を埋めた子を探しながら、寂しさから逃げるようにボイス配信をする日々。
そんなある日、亮は突然異世界に召喚された。
その目的は――――――
異世界召喚された青年が美貌の宰相の寝かしつけをする話
※小説家になろうにも掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる