170 / 186
第十三章 激化する呪い
本当の運命の相手
しおりを挟む
クレハが居なくなった瞬間、社長室のような部屋が荒れた飲食店の店内へと変わる。あの隠し扉は幻術だったのだと、その時初めて気付いた。
「遅くなったな、怪我はないか?」
こちらを見て、シロが心配そうに声をかけてくる。
私なんかより、シロの方がよっぽどひどい怪我をしているのに。
思わず伸ばしかけた手を引っ込めて「大丈夫だよ」と苦笑いしながら答えると、シロは辛そうに顔を歪めた。
「西園寺、よく桜を守ってくれたな。恩に着る」
私からカナちゃんへと視線を移したシロは、そう言ってお礼の言葉を口にした。
出会った頃は考えられなかった光景に、シロがかなり人間らしくなった光景を垣間見て、昔ならその変化を嬉しく思っただろう。
しかし、クレハに言われた事が頭を支配し複雑な気持ちになる。
「シロ、一発殴って」
「……いきなり何を言っているのだ、お前は」
話しかけた瞬間意味の分からない事を言われ、訝しげにシロはカナちゃんをまじまじと見ている。
しかし「桜に襲いかかろうとした」というその一言で、シロの顔は途端に般若と化す。
「はぁああ?! 一発で足りるか、百発くらい殴らせろ!」
「気が済むまでやりや」
指をバキバキと鳴らしながら近付いていくシロと、その行為を甘んじて受け入れると言わんばかりに歯を食い縛るカナちゃん。
本気でやりかねない二人を見て私は慌てて止めに入る。
「二人とも止めて! もうこれ以上、私のせいで傷付いて欲しくないよ。こんな中途半端な気持ちのまま……シロの隣にも、カナちゃんの隣にも居れないよ……」
私の叫びを聞いて、シロは振り上げていた拳を静かにおろした。そして、自嘲気味に笑って口を開く。
「いつか、こうなる日が来ると思っていた。顔を上げろ、桜。謝るのは俺の方だ。すまなかった」
「どうしてシロが謝るの? 悪いのは私だよ」
驚いてシロに理由を尋ねると、彼は益々意味の分からない事を言い出した。
「お前らを結ぶ赤い糸が、最近やけにはっきり見えていたんだ」
「いきなり何を言い出してんねや、シロ」
「神が定めた運命の相手。その二人は赤い糸で繋がっている。お前達は最初からお互い結ばれる運命だったんだよ。だから、惹かれ合うのは自然の摂理だ。普通に何もなければ、な」
「普通に何もなければ?」
話についていけず、シロが言った言葉を思わず復唱すると、「ああ」と頷いた彼は、衝撃的事実を口にした。
「昔、俺が切ったんだ。お前らの縁を。そして結び直した、俺と」
「……え?」
「……は?」
思わず、驚きの声がカナちゃんと被ってしまった。
「なんだ、その呆けた顔は。クレハに聞いたんじゃないのか?」
「いや、初耳だよ……コハクの人格形成の話を聞いただけで……」
「ああ、そっちか。無理矢理結び直した縁だ。凡人じゃ桜に相手されないと思ってやった事だ。寿命が多少縮もうが、別に大したことじゃない。元から腐るほどあるからな」
そう言ってクククと喉で笑うシロ。
いやいや、十分大したことだと思うけど! 寿命縮んだんだよ? それをそんな笑いながら……
「え、何? じゃあ、最初に邪魔してきたのお前の方なんか?」
衝撃的事実による放心状態から現実に戻ってきたカナちゃんは、大きな瞳をぱちくりさせながらシロに尋ねた。
「まぁ、そうなるな。お前の執念が切れた縁を結び直したのだろう。ほんとしつこい奴め」
「お前に言われたないわ! てか何してくれとんねん、アホ!」
「だから、コハクは罪悪感を感じて身を引こうとしただろ。だが俺は、そんな事ぐらいじゃ諦めん」
「いや、お前も少しは遠慮って言葉をやな、学んだ方がええんとちゃうか?」
「遠慮? じゃあ、お前が遠慮しろ。俺は運命になど負けん。親父はそうやってお袋を手に入れたからな」
えーっと、つまり、コサメさんも雪乃さんの赤い糸を切って手に入れた。
そしてまだコハクとシロに分かれる前、それを真似して昔、私とカナちゃんを結んでいた赤い糸を切ったと?!
「お前なぁ、俺の縁切れたままやったらどないなってたんや」
「生涯独り身の侘しい人生だ。永遠に誰のものにもならない孤高の男でも目指せばどうだ?」
「誰が目指すか、そんなもん!」
「そうか、ならまた切断して後で適当にその辺の女と結んどいてやるよ」
「あかん! 変な力乱用したらあかんて! お前の悪行、神様ちゃんと見とるからな!」
まさか、そんな真実が隠されていたとは──だめだ、頭が飽和状態でこれ以上処理しきれない。
橘先生が昔、『逃げるなら今のうちだぞ』と言った本当の意味を、ようやく理解出来た気がした。
私が思っていた以上に、コハクとシロの愛情は深かったらしい。容赦なく私の運命の相手を蹴落とすほどに。
今日は色んな事がありすぎた。
頭がパンクして押し寄せてくる疲労感に抗えない身体は、ぎゃんぎゃんと言い争う二人の傍らで、そのまま意識を手放した。
「遅くなったな、怪我はないか?」
こちらを見て、シロが心配そうに声をかけてくる。
私なんかより、シロの方がよっぽどひどい怪我をしているのに。
思わず伸ばしかけた手を引っ込めて「大丈夫だよ」と苦笑いしながら答えると、シロは辛そうに顔を歪めた。
「西園寺、よく桜を守ってくれたな。恩に着る」
私からカナちゃんへと視線を移したシロは、そう言ってお礼の言葉を口にした。
出会った頃は考えられなかった光景に、シロがかなり人間らしくなった光景を垣間見て、昔ならその変化を嬉しく思っただろう。
しかし、クレハに言われた事が頭を支配し複雑な気持ちになる。
「シロ、一発殴って」
「……いきなり何を言っているのだ、お前は」
話しかけた瞬間意味の分からない事を言われ、訝しげにシロはカナちゃんをまじまじと見ている。
しかし「桜に襲いかかろうとした」というその一言で、シロの顔は途端に般若と化す。
「はぁああ?! 一発で足りるか、百発くらい殴らせろ!」
「気が済むまでやりや」
指をバキバキと鳴らしながら近付いていくシロと、その行為を甘んじて受け入れると言わんばかりに歯を食い縛るカナちゃん。
本気でやりかねない二人を見て私は慌てて止めに入る。
「二人とも止めて! もうこれ以上、私のせいで傷付いて欲しくないよ。こんな中途半端な気持ちのまま……シロの隣にも、カナちゃんの隣にも居れないよ……」
私の叫びを聞いて、シロは振り上げていた拳を静かにおろした。そして、自嘲気味に笑って口を開く。
「いつか、こうなる日が来ると思っていた。顔を上げろ、桜。謝るのは俺の方だ。すまなかった」
「どうしてシロが謝るの? 悪いのは私だよ」
驚いてシロに理由を尋ねると、彼は益々意味の分からない事を言い出した。
「お前らを結ぶ赤い糸が、最近やけにはっきり見えていたんだ」
「いきなり何を言い出してんねや、シロ」
「神が定めた運命の相手。その二人は赤い糸で繋がっている。お前達は最初からお互い結ばれる運命だったんだよ。だから、惹かれ合うのは自然の摂理だ。普通に何もなければ、な」
「普通に何もなければ?」
話についていけず、シロが言った言葉を思わず復唱すると、「ああ」と頷いた彼は、衝撃的事実を口にした。
「昔、俺が切ったんだ。お前らの縁を。そして結び直した、俺と」
「……え?」
「……は?」
思わず、驚きの声がカナちゃんと被ってしまった。
「なんだ、その呆けた顔は。クレハに聞いたんじゃないのか?」
「いや、初耳だよ……コハクの人格形成の話を聞いただけで……」
「ああ、そっちか。無理矢理結び直した縁だ。凡人じゃ桜に相手されないと思ってやった事だ。寿命が多少縮もうが、別に大したことじゃない。元から腐るほどあるからな」
そう言ってクククと喉で笑うシロ。
いやいや、十分大したことだと思うけど! 寿命縮んだんだよ? それをそんな笑いながら……
「え、何? じゃあ、最初に邪魔してきたのお前の方なんか?」
衝撃的事実による放心状態から現実に戻ってきたカナちゃんは、大きな瞳をぱちくりさせながらシロに尋ねた。
「まぁ、そうなるな。お前の執念が切れた縁を結び直したのだろう。ほんとしつこい奴め」
「お前に言われたないわ! てか何してくれとんねん、アホ!」
「だから、コハクは罪悪感を感じて身を引こうとしただろ。だが俺は、そんな事ぐらいじゃ諦めん」
「いや、お前も少しは遠慮って言葉をやな、学んだ方がええんとちゃうか?」
「遠慮? じゃあ、お前が遠慮しろ。俺は運命になど負けん。親父はそうやってお袋を手に入れたからな」
えーっと、つまり、コサメさんも雪乃さんの赤い糸を切って手に入れた。
そしてまだコハクとシロに分かれる前、それを真似して昔、私とカナちゃんを結んでいた赤い糸を切ったと?!
「お前なぁ、俺の縁切れたままやったらどないなってたんや」
「生涯独り身の侘しい人生だ。永遠に誰のものにもならない孤高の男でも目指せばどうだ?」
「誰が目指すか、そんなもん!」
「そうか、ならまた切断して後で適当にその辺の女と結んどいてやるよ」
「あかん! 変な力乱用したらあかんて! お前の悪行、神様ちゃんと見とるからな!」
まさか、そんな真実が隠されていたとは──だめだ、頭が飽和状態でこれ以上処理しきれない。
橘先生が昔、『逃げるなら今のうちだぞ』と言った本当の意味を、ようやく理解出来た気がした。
私が思っていた以上に、コハクとシロの愛情は深かったらしい。容赦なく私の運命の相手を蹴落とすほどに。
今日は色んな事がありすぎた。
頭がパンクして押し寄せてくる疲労感に抗えない身体は、ぎゃんぎゃんと言い争う二人の傍らで、そのまま意識を手放した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
バイト先の先輩ギャルが実はクラスメイトで、しかも推しが一緒だった件
沢田美
恋愛
「きょ、今日からお世話になります。有馬蓮です……!」
高校二年の有馬蓮は、人生初のアルバイトで緊張しっぱなし。
そんな彼の前に現れたのは、銀髪ピアスのギャル系先輩――白瀬紗良だった。
見た目は派手だけど、話してみるとアニメもゲームも好きな“同類”。
意外な共通点から意気投合する二人。
だけどその日の帰り際、店長から知らされたのは――
> 「白瀬さん、今日で最後のシフトなんだよね」
一期一会の出会い。もう会えないと思っていた。
……翌日、学校で再会するまでは。
実は同じクラスの“白瀬さん”だった――!?
オタクな少年とギャルな少女の、距離ゼロから始まる青春ラブコメ。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる