63 / 79
60、ウィルハーモニー王家の抱える問題
しおりを挟む
リヴァイにエスコートされて園遊会の会場へ入ると、ふわっと甘い香りが鼻につく。匂いのした方へ視線を送ると、入り口近くには彩り豊かなスイーツがずらりと並べられていた。
中央に設置された丸い円卓のテーブルには、美味しそうにスイーツを頬張る人々の姿がある。かと思えば、隅のベンチには楽器を握りしめて緊張に震える子供達の姿も目立つ。
ああ、なるほど。演奏が終わるまでスイーツはお預けなのか。緊張で胃に入っていかないんだね。園遊会の光と闇を見た気分になった。
美しい庭園の奥にはステージが用意されており、立派なグランドピアノがおいてある。運んでくるの大変だっただろうな。
「まずは面倒な挨拶だけ先に済ませておこう。その後は比較的自由だから」
周囲を観察していると、リヴァイが園遊会の主宰である王妃様の所へ案内してくれた。
「母上、リオーネをお連れしました」
会場で一番ゴージャスな装いをされている王妃様は、とても眩しく見えた。
美しい容姿をされているのもあるけど、自信に満ち溢れた内側のオーラが抑えきれずに溢れ出てくる感じのすごさを感じる。それに身につけた装飾品が太陽の光に反射してキラリと輝き、直視できない物理的な眩しさが輪をかけている。
何を言いたいのかというと、とりあえず威圧感がすごい。
「エルレイン王妃陛下にご挨拶申し上げます。リオーネ・ルシフェン・レイフォードです。本日はお招き頂き誠にありがとうございます」
淑女の礼にならい、右足を引いて床につかないようにドレスの裾を掴み、体を屈めて挨拶をする。
「リオーネ、よく来てくれましたね。今日は是非、楽しんでいってくださいね」
リヴァイと同じアプリコット色の髪を綺麗に結い上げた王妃様は、優しく微笑んで迎えてくださった。
「はい。お気遣い頂きありがとうございます」
「また貴方の演奏を聞きたいわ。良かったらどうかしら?」
こちらへ詰め寄ってきた王妃様はそう言って、私の手を両手で包み込むように握りしめた。ひぃぃ。
「母上、今日は演奏しないと申し上げたはずですが?」
「少しくらい、いいじゃない。リヴァイド、貴方ばかり独り占めしてズルいわ。レイフォード公爵家の奇跡の双子の演奏を、皆楽しみにしているのに」
「とりあえず離れてください」
王妃様から隠すように、リヴァイは私を引き寄せると腕の中に閉じ込めた。
「リヴァイド。貴方がそうやってリオーネを閉じ込めていては、彼女の輝かしい奏者としての未来を奪っているのと一緒よ」
王妃様の言葉がぐいぐい胸に刺さる。輝かしい奏者としての未来って、私の対極にある言葉だよ。
「誰もが皆、奏者を目指しているとは思わないで下さい。リオーネは演奏する事よりも、音楽を聞いて触れる方が好きなのです。だから私は彼女に無理強いをしてまで、演奏しろなんて命令したくありません」
「でも折角素晴らしい才能を持っているのに勿体ないわ」
「母上の仰っている事は、戦いを望まぬ者に素晴らしい戦闘の才能があるから、魔物の討伐に行けと言っているのと同義です。園遊会は本来、美しい庭園でお茶を楽しみながら歓談して交流を図るついでに、希望者に演奏できる機会を与えた会場でしょう? それならリオーネがわざわざ演奏する必要もありません」
「それは貴方の屁理屈よ。子供の我が儘と変わらないわ」
「たとえ子供の我が儘と言われようが、私がその意志を曲げるつもりはありません」
違う、リヴァイは私を庇ってくれているだけだ。私が楽器を弾ければ、リヴァイと王妃様がこんな喧嘩をする必要なんてないのに。
キリキリと胃が痛む。
やはりいつまでも隠し通せるものじゃない。正直に話すしか……口を開きかけたその時、意外な人物が止めに入ってくれた。
「まぁまぁ母上、落ち着いて下さい。リヴァイドは久しぶりにリオーネ嬢に会えて嬉しいのですよ。愛し合う二人を無理に引き離しては可哀想でしょう?」
「エルンスト……貴方、今までどこに行っていたのですか!」
「あー、えーっと、そのー…………草が生い茂った美しい場所、ですかね?」
またどこかのダンジョンをさまよって居られたのだろう。エルンスト様は、お世辞にも王子様とは思えない風貌をされていた。
「まったく、服がボロボロになるまでどこをさまよっていたのですか! 本当に貴方は楽器の練習もせずに、毎日野蛮な剣ばっかり握って! 少しは第一王子としての自覚を持ちなさい!」
王妃様のお説教を聞き流しながら、今のうちに逃げろと、エルンスト様が目配せしてくれた。
「では挨拶も済みましたので、これで」
「待ちなさい、リヴァイド!」
「まぁまぁ、そんなカリカリせずに」
「エルンスト、貴方は早く着替えてきなさい!」
ごめんなさい、王妃様。
「よし、今のうちに逃げるぞ」
これ幸いと言わんばかりに、リヴァイは私の手を引いてその場から離れた。
王妃様の座る席とは反対側の離れた位置にあるベンチに腰かけて一息つく。
「すみません、リヴァイ。私のせいで王妃様と喧嘩になってしまって……」
「なーに、別にいつもの事だ。気にしなくていい」
「いつもの事、なのですか?」
「母上は、音楽至上主義者だからな。良い演奏をする者は可愛がり、逆に下手な演奏をする者を嫌悪する。見ていて本当に反吐が出そうになる」
「リヴァイ?」
「だっておかいしだろ? 音楽が出来ないだけで見下し、否定するなんて。誰だって得手不得手はあるし、音楽を極めたからって、襲ってきたモンスターに抗う事は出来ない。もし今この会場が凶悪なモンスターに襲われたら、太刀打ち出来るのは騎士達と兄上だけだ。そんな国のために命を懸けて戦ってくれている者達を、剣を持つ野蛮人だと罵るなんて」
ああ、なるほど。
エルンスト様はあまり楽器が得意ではない。だからエルンスト様に対する王妃様の当たりも強くて、逆にリヴァイは優れた音楽の才能があるから可愛がられてきたのだろう。
エルンスト様はまぁ、あの超ポジティブ思考の性格で我が道を行くお方だし、王妃様のお小言は軽く受け流しておられるのだろう。自分の事を悪く言われても怒らないけど、仲間が傷つけられらと怒るタイプだしね。
そんな兄をリヴァイは尊敬してるからこそ、その不公平な態度の母の異質さが許せないのかもしれない。
とはいえ、ここはウィルハーモニー王国。
楽器を美しく奏でることが一種のステータスとして見られる音楽至上主義の国だ。王妃様と同じ思考の方は、きっとたくさん居られるだろう。
ゲームの中で、リヴァイド陛下は国の在り方を悩んでいた。メインイベントでウィルハーモニー王国を救うイベントがあって……救う?
あああああ!
私は、大事なことを忘れていた。
エルンスト様が置き手紙を残して旅立つ事で、この国は段々騎士不足になっていくんだ。カリスマ的強さを持つエルンスト様に憧れて騎士を目指す者が居なくなり衰退。
文化人気質のこの国では、剣をもって戦うことは野蛮なことだっていう貴族達の考えもあって、英才教育を受けた優秀な貴族の騎士が育たない。
騎士はほとんど平民出身で、十分な訓練を積んでいない上に、正しく指導出来る者も少なく弱々なのだ。
ゲームの中では、リヴァイド陛下とルイス公が傭兵としてモンスター討伐に同行してくれたっけ。ゲームだから深く考えてなかったけど、普通に考えたら王自ら、公爵自らモンスター討伐に行くっておかしな事だ。
それくらい、まともに戦える者が居なくて、近隣のモンスター退治は冒険者頼りになっていた。ゲームの中でその問題を解決するのが、ウィルハーモニー王国でのメインストーリーイベントだった。
イベントの途中で、リヴァイド陛下は教会に祈りを捧げながら言っていた。
『俺は子供の頃に母を亡くした。武芸に優れた兄が旅立った後、園遊会の最中にワイバーンが襲ってきて甚大な被害を受けたのだ』と。
その事が契機になって、リヴァイド陛下は強くなろうと決意したって過去の事を少し話してくれた。
確執を抱えたまま、ゲームではそうしてリヴァイド陛下の家族はバラバラになってしまったんだ。
「リヴァイはその思いを、王妃様にお伝えした事はございますか?」
「ないな。父上に止められているのだ。母上は認められるために、とても苦労して努力して音楽を極め、王妃になった。だからあまり否定しないでやってほしいと」
「そうなのですね……」
実際にお会いした時の陛下は、穏やかでとても優しそうな印象を受けた。
王妃様と共に歩んできてその苦労を傍で見てきたからこそ、リヴァイにそのように仰ったのかもしれない。
それに話を聞く限り、陛下はあまり争いを好まれる方ではないのだろう。
でもいくら音楽至上主義とはいえ、それが他を極端に卑下して良い理由にはならないはずだ。子供に正しい倫理観を教えるより、波風立たないよう現状維持される。それが王妃様に対する優しさなのか、尻に敷かれているだけなのかは、正直よく分からない。
そんな状態だからこそ、陛下はリヴァイに真偽の腕輪を与えてお育てになったのかもしれない。自分の目で見て、何が正しいかきちんと判断できる子に育つように。
普通なら才能もあって周りからもチヤホヤされて育ったら、それこそ高飛車な子供に育つだろう。自分が偉い、何をしても許されるんだって勘違いして。でも彼はそうならなかった。
それはきっと、人を疑う事を知らないどこまでも真っ直ぐなエルンスト様の背中を見て育ったからなんだろう。
でも作中でエルは、自分のせいで弟に不憫な思いをさせている事だけは心苦しく思っていた。このまま自分がここに居ても、弟の成長によくない。自分が居なくても弟なら立派な王様になれると信じて、本音は告げずに置き手紙を残して王国を飛び出した。
そこから十数年の月日が流れ、ウィルハーモニー王国の危機を主人公達と一緒に裏で解決しながら見守っていた。本当は姿を現すつもりはなかったものの、リヴァイド陛下の身に危険が及び、その攻撃から守るためにエルは飛び出した。
他人の空似だって認めようとしないエルに、リヴァイド陛下は『これは私の独り言です』って前置きして、兄に対する思いと感謝を述べた。
それを聞いてエルは号泣しちゃって、主人公達に
『いい加減認めて下さいよ』
『往生際悪いですよ』
『代わりに僕が、道中聞いた弟さんの自慢話を全部語りましょうか?』
って諭されつつ、半分冗談で脅されつつ認めたんだよね。
『たとえどこに居ても、貴方は俺の自慢の兄です』
そう言いきったリヴァイド陛下が本当に格好よくて、感動の和解シーンが脳裏に浮かぶ。やっぱりこの兄弟の絆はぐっとくる!
「どうしたのだ、急にじっとこちらを見て」
ゲームの感動シーンを思い出しながら、どうやら私は本人を凝視していたらしい。
「リヴァイはすごいなと、改めて思っただけです。私に出来る事があるなら、遠慮なく仰ってくださいね。貴方の力になりたいのです」
「こうして傍に居てくれるだけで、かなり救われてるよ。ありがとう」
ちょっと待って、私が傍に居たからさっき王妃様と衝突したばかりじゃないか。
リヴァイはそう言ってくれるけど、現状私は足を引っ張っているだけだ。このままではいけない、何とかしなければ。
それに思い出してしまったからには、王妃様の命は何としてでも助けたい。
仲違いしたまま永遠に会えなくなるなんて、悲しすぎる。リヴァイド陛下も、その事をとても悔いていたし。
『俺が一度でも本音でぶつかっていれば、兄は出ていかずに済んだのかもしれない。母は死なずに済んだのかもしれない』と。
園遊会は年二回開かれるってルイスが言っていた。ゲームのイベントがそのまま起こるとは限らないけれど、危険が潜んでいるのは間違いない。今後開かれる園遊会には、全て参加した方が良さそうだ。
幸いエルンスト様はまだ旅に出ていない。
流石に今日ワイバーンが襲ってくるなんて事はないと思いたいけど、念のためにいつでも戦える準備だけはしておこう。
先生にもらった転送バッグ、ミニマムリングで小さくして持ってきててよかった。
中央に設置された丸い円卓のテーブルには、美味しそうにスイーツを頬張る人々の姿がある。かと思えば、隅のベンチには楽器を握りしめて緊張に震える子供達の姿も目立つ。
ああ、なるほど。演奏が終わるまでスイーツはお預けなのか。緊張で胃に入っていかないんだね。園遊会の光と闇を見た気分になった。
美しい庭園の奥にはステージが用意されており、立派なグランドピアノがおいてある。運んでくるの大変だっただろうな。
「まずは面倒な挨拶だけ先に済ませておこう。その後は比較的自由だから」
周囲を観察していると、リヴァイが園遊会の主宰である王妃様の所へ案内してくれた。
「母上、リオーネをお連れしました」
会場で一番ゴージャスな装いをされている王妃様は、とても眩しく見えた。
美しい容姿をされているのもあるけど、自信に満ち溢れた内側のオーラが抑えきれずに溢れ出てくる感じのすごさを感じる。それに身につけた装飾品が太陽の光に反射してキラリと輝き、直視できない物理的な眩しさが輪をかけている。
何を言いたいのかというと、とりあえず威圧感がすごい。
「エルレイン王妃陛下にご挨拶申し上げます。リオーネ・ルシフェン・レイフォードです。本日はお招き頂き誠にありがとうございます」
淑女の礼にならい、右足を引いて床につかないようにドレスの裾を掴み、体を屈めて挨拶をする。
「リオーネ、よく来てくれましたね。今日は是非、楽しんでいってくださいね」
リヴァイと同じアプリコット色の髪を綺麗に結い上げた王妃様は、優しく微笑んで迎えてくださった。
「はい。お気遣い頂きありがとうございます」
「また貴方の演奏を聞きたいわ。良かったらどうかしら?」
こちらへ詰め寄ってきた王妃様はそう言って、私の手を両手で包み込むように握りしめた。ひぃぃ。
「母上、今日は演奏しないと申し上げたはずですが?」
「少しくらい、いいじゃない。リヴァイド、貴方ばかり独り占めしてズルいわ。レイフォード公爵家の奇跡の双子の演奏を、皆楽しみにしているのに」
「とりあえず離れてください」
王妃様から隠すように、リヴァイは私を引き寄せると腕の中に閉じ込めた。
「リヴァイド。貴方がそうやってリオーネを閉じ込めていては、彼女の輝かしい奏者としての未来を奪っているのと一緒よ」
王妃様の言葉がぐいぐい胸に刺さる。輝かしい奏者としての未来って、私の対極にある言葉だよ。
「誰もが皆、奏者を目指しているとは思わないで下さい。リオーネは演奏する事よりも、音楽を聞いて触れる方が好きなのです。だから私は彼女に無理強いをしてまで、演奏しろなんて命令したくありません」
「でも折角素晴らしい才能を持っているのに勿体ないわ」
「母上の仰っている事は、戦いを望まぬ者に素晴らしい戦闘の才能があるから、魔物の討伐に行けと言っているのと同義です。園遊会は本来、美しい庭園でお茶を楽しみながら歓談して交流を図るついでに、希望者に演奏できる機会を与えた会場でしょう? それならリオーネがわざわざ演奏する必要もありません」
「それは貴方の屁理屈よ。子供の我が儘と変わらないわ」
「たとえ子供の我が儘と言われようが、私がその意志を曲げるつもりはありません」
違う、リヴァイは私を庇ってくれているだけだ。私が楽器を弾ければ、リヴァイと王妃様がこんな喧嘩をする必要なんてないのに。
キリキリと胃が痛む。
やはりいつまでも隠し通せるものじゃない。正直に話すしか……口を開きかけたその時、意外な人物が止めに入ってくれた。
「まぁまぁ母上、落ち着いて下さい。リヴァイドは久しぶりにリオーネ嬢に会えて嬉しいのですよ。愛し合う二人を無理に引き離しては可哀想でしょう?」
「エルンスト……貴方、今までどこに行っていたのですか!」
「あー、えーっと、そのー…………草が生い茂った美しい場所、ですかね?」
またどこかのダンジョンをさまよって居られたのだろう。エルンスト様は、お世辞にも王子様とは思えない風貌をされていた。
「まったく、服がボロボロになるまでどこをさまよっていたのですか! 本当に貴方は楽器の練習もせずに、毎日野蛮な剣ばっかり握って! 少しは第一王子としての自覚を持ちなさい!」
王妃様のお説教を聞き流しながら、今のうちに逃げろと、エルンスト様が目配せしてくれた。
「では挨拶も済みましたので、これで」
「待ちなさい、リヴァイド!」
「まぁまぁ、そんなカリカリせずに」
「エルンスト、貴方は早く着替えてきなさい!」
ごめんなさい、王妃様。
「よし、今のうちに逃げるぞ」
これ幸いと言わんばかりに、リヴァイは私の手を引いてその場から離れた。
王妃様の座る席とは反対側の離れた位置にあるベンチに腰かけて一息つく。
「すみません、リヴァイ。私のせいで王妃様と喧嘩になってしまって……」
「なーに、別にいつもの事だ。気にしなくていい」
「いつもの事、なのですか?」
「母上は、音楽至上主義者だからな。良い演奏をする者は可愛がり、逆に下手な演奏をする者を嫌悪する。見ていて本当に反吐が出そうになる」
「リヴァイ?」
「だっておかいしだろ? 音楽が出来ないだけで見下し、否定するなんて。誰だって得手不得手はあるし、音楽を極めたからって、襲ってきたモンスターに抗う事は出来ない。もし今この会場が凶悪なモンスターに襲われたら、太刀打ち出来るのは騎士達と兄上だけだ。そんな国のために命を懸けて戦ってくれている者達を、剣を持つ野蛮人だと罵るなんて」
ああ、なるほど。
エルンスト様はあまり楽器が得意ではない。だからエルンスト様に対する王妃様の当たりも強くて、逆にリヴァイは優れた音楽の才能があるから可愛がられてきたのだろう。
エルンスト様はまぁ、あの超ポジティブ思考の性格で我が道を行くお方だし、王妃様のお小言は軽く受け流しておられるのだろう。自分の事を悪く言われても怒らないけど、仲間が傷つけられらと怒るタイプだしね。
そんな兄をリヴァイは尊敬してるからこそ、その不公平な態度の母の異質さが許せないのかもしれない。
とはいえ、ここはウィルハーモニー王国。
楽器を美しく奏でることが一種のステータスとして見られる音楽至上主義の国だ。王妃様と同じ思考の方は、きっとたくさん居られるだろう。
ゲームの中で、リヴァイド陛下は国の在り方を悩んでいた。メインイベントでウィルハーモニー王国を救うイベントがあって……救う?
あああああ!
私は、大事なことを忘れていた。
エルンスト様が置き手紙を残して旅立つ事で、この国は段々騎士不足になっていくんだ。カリスマ的強さを持つエルンスト様に憧れて騎士を目指す者が居なくなり衰退。
文化人気質のこの国では、剣をもって戦うことは野蛮なことだっていう貴族達の考えもあって、英才教育を受けた優秀な貴族の騎士が育たない。
騎士はほとんど平民出身で、十分な訓練を積んでいない上に、正しく指導出来る者も少なく弱々なのだ。
ゲームの中では、リヴァイド陛下とルイス公が傭兵としてモンスター討伐に同行してくれたっけ。ゲームだから深く考えてなかったけど、普通に考えたら王自ら、公爵自らモンスター討伐に行くっておかしな事だ。
それくらい、まともに戦える者が居なくて、近隣のモンスター退治は冒険者頼りになっていた。ゲームの中でその問題を解決するのが、ウィルハーモニー王国でのメインストーリーイベントだった。
イベントの途中で、リヴァイド陛下は教会に祈りを捧げながら言っていた。
『俺は子供の頃に母を亡くした。武芸に優れた兄が旅立った後、園遊会の最中にワイバーンが襲ってきて甚大な被害を受けたのだ』と。
その事が契機になって、リヴァイド陛下は強くなろうと決意したって過去の事を少し話してくれた。
確執を抱えたまま、ゲームではそうしてリヴァイド陛下の家族はバラバラになってしまったんだ。
「リヴァイはその思いを、王妃様にお伝えした事はございますか?」
「ないな。父上に止められているのだ。母上は認められるために、とても苦労して努力して音楽を極め、王妃になった。だからあまり否定しないでやってほしいと」
「そうなのですね……」
実際にお会いした時の陛下は、穏やかでとても優しそうな印象を受けた。
王妃様と共に歩んできてその苦労を傍で見てきたからこそ、リヴァイにそのように仰ったのかもしれない。
それに話を聞く限り、陛下はあまり争いを好まれる方ではないのだろう。
でもいくら音楽至上主義とはいえ、それが他を極端に卑下して良い理由にはならないはずだ。子供に正しい倫理観を教えるより、波風立たないよう現状維持される。それが王妃様に対する優しさなのか、尻に敷かれているだけなのかは、正直よく分からない。
そんな状態だからこそ、陛下はリヴァイに真偽の腕輪を与えてお育てになったのかもしれない。自分の目で見て、何が正しいかきちんと判断できる子に育つように。
普通なら才能もあって周りからもチヤホヤされて育ったら、それこそ高飛車な子供に育つだろう。自分が偉い、何をしても許されるんだって勘違いして。でも彼はそうならなかった。
それはきっと、人を疑う事を知らないどこまでも真っ直ぐなエルンスト様の背中を見て育ったからなんだろう。
でも作中でエルは、自分のせいで弟に不憫な思いをさせている事だけは心苦しく思っていた。このまま自分がここに居ても、弟の成長によくない。自分が居なくても弟なら立派な王様になれると信じて、本音は告げずに置き手紙を残して王国を飛び出した。
そこから十数年の月日が流れ、ウィルハーモニー王国の危機を主人公達と一緒に裏で解決しながら見守っていた。本当は姿を現すつもりはなかったものの、リヴァイド陛下の身に危険が及び、その攻撃から守るためにエルは飛び出した。
他人の空似だって認めようとしないエルに、リヴァイド陛下は『これは私の独り言です』って前置きして、兄に対する思いと感謝を述べた。
それを聞いてエルは号泣しちゃって、主人公達に
『いい加減認めて下さいよ』
『往生際悪いですよ』
『代わりに僕が、道中聞いた弟さんの自慢話を全部語りましょうか?』
って諭されつつ、半分冗談で脅されつつ認めたんだよね。
『たとえどこに居ても、貴方は俺の自慢の兄です』
そう言いきったリヴァイド陛下が本当に格好よくて、感動の和解シーンが脳裏に浮かぶ。やっぱりこの兄弟の絆はぐっとくる!
「どうしたのだ、急にじっとこちらを見て」
ゲームの感動シーンを思い出しながら、どうやら私は本人を凝視していたらしい。
「リヴァイはすごいなと、改めて思っただけです。私に出来る事があるなら、遠慮なく仰ってくださいね。貴方の力になりたいのです」
「こうして傍に居てくれるだけで、かなり救われてるよ。ありがとう」
ちょっと待って、私が傍に居たからさっき王妃様と衝突したばかりじゃないか。
リヴァイはそう言ってくれるけど、現状私は足を引っ張っているだけだ。このままではいけない、何とかしなければ。
それに思い出してしまったからには、王妃様の命は何としてでも助けたい。
仲違いしたまま永遠に会えなくなるなんて、悲しすぎる。リヴァイド陛下も、その事をとても悔いていたし。
『俺が一度でも本音でぶつかっていれば、兄は出ていかずに済んだのかもしれない。母は死なずに済んだのかもしれない』と。
園遊会は年二回開かれるってルイスが言っていた。ゲームのイベントがそのまま起こるとは限らないけれど、危険が潜んでいるのは間違いない。今後開かれる園遊会には、全て参加した方が良さそうだ。
幸いエルンスト様はまだ旅に出ていない。
流石に今日ワイバーンが襲ってくるなんて事はないと思いたいけど、念のためにいつでも戦える準備だけはしておこう。
先生にもらった転送バッグ、ミニマムリングで小さくして持ってきててよかった。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい
斯波@ジゼルの錬金飴③発売中
ファンタジー
ブラック企業を辞退した私が卒業後に手に入れたのは無職の称号だった。不服そうな親の目から逃れるべく、喫茶店でパート情報を探そうとしたが暴走トラックに轢かれて人生を終えた――かと思ったら村人達に恐れられ、軟禁されている10歳の少女に転生していた。どうやら少女の強大すぎる魔法は村人達の恐怖の対象となったらしい。村人の気持ちも分からなくはないが、二度目の人生を小屋での軟禁生活で終わらせるつもりは毛頭ないので、逃げることにした。だが私には強すぎるステータスと『ポイント交換システム』がある!拠点をテントに決め、日々魔物を狩りながら自由気ままな冒険者を続けてたのだが……。
※1.恋愛要素を含みますが、出てくるのが遅いのでご注意ください。
※2.『悪役令嬢に転生したので断罪エンドまでぐーたら過ごしたい 王子がスパルタとか聞いてないんですけど!?』と同じ世界観・時間軸のお話ですが、こちらだけでもお楽しみいただけます。
スローライフ 転生したら竜騎士に?
梨香
ファンタジー
『田舎でスローライフをしたい』バカップルの死神に前世の記憶を消去ミスされて赤ちゃんとして転生したユーリは竜を見て異世界だと知る。農家の娘としての生活に不満は無かったが、両親には秘密がありそうだ。魔法が存在する世界だが、普通の農民は狼と話したりしないし、農家の女将さんは植物に働きかけない。ユーリは両親から魔力を受け継いでいた。竜のイリスと絆を結んだユーリは竜騎士を目指す。竜騎士修行や前世の知識を生かして物を売り出したり、忙しいユーリは恋には奥手。スローライフとはかけ離れた人生をおくります。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~
こひな
恋愛
市川みのり 31歳。
成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。
彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。
貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。
※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる