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監督と選手
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「私はプロになりたい」
夜空は第一声、そう言い放った。
「夜空なら実力的には問題なさそうだな」
確実にとは言い切れないが、研究のため強豪校の試合などを見てもそれに匹敵するかそれ以上の実力が夜空にはあると感じていた。
問題としては知名度だが、その点も問題ない。中堅校ということで全国的にはあまり露出していないとはいえ、夜空個人が注目されているため、今でも知っている人は知っている。甲子園で実績がないため、実力的にはドラフト上位の希望があるが、それが無理でも下位でなら問題なく指名されそうな実力だ。
ただ、一つだけ気がかりなことがあった。
「去年は代表に選ばれなかったんだっけ?」
中学時代は同年代で最強選手と名高い夜空だったが、高校二年生時の代表には選ばれなかった。しかし、去年も何人か有望な二年生は選ばれていたはずだ。
「あ、あー……。ちょっとね」
夜空は気まずそうに目線を逸らす。何か理由はあったのだろう。
「何?」
「いや、黒歴史だから。その話は置いといて、ね?」
なんとか話を逸らそうとする夜空だ。絶対何かあったのだろう。
「いいから早く言え」
話が進まない。巧は苛立った声で強く言った。……一応先輩だが、夜空に言われて対等な関係でいるのだ、別に悪いことはしていない。そういうことにしておこう。
「……はい」
夜空は観念したかのようにポツリポツリと話し始めた。
「代表選考の前に都道府県代表選あるじゃん?」
「あるな」
都道府県代表選は多くの選手にチャンスが与えられるように数年前から実施されており、秋大会後に行われている。日本代表候補の選手が集められ、各都道府県一チームずつとあとはチーム数を合わせるために何チームか作り、都道府県代表チームとして戦う。
そしてそこで目に止まった場合、晴れて日本代表へと選出される。そうでなくともプロのスカウトからも注目される可能性のある大会でもあった。
「一応去年の三重県代表には選ばれてたんだよね」
「それは良かったな」
知名度としては問題ないだろう。そもそも巧は去年の都道府県代表戦に夜空が出ていたことを知らないため、そこまで大々的に活躍はしていないだろう。
メディアとしても大記録や珍記録などを報道することも多いため、世間一般の注目を集めているわけではなさそうだ。
しかし、プロのスカウトや日本代表の選考会には注目されている可能性はあるはずだ。
それを言いづらそうにし、『黒歴史』だと言うということは答えは一つしかない。
「なんかやらかした?」
「うん、やっちゃった」
なるほど。実力云々ではなく、素行の問題で代表を落とされた可能性も大きいだろう。そして、素行が悪いとなれば、プロも指名を敬遠する可能性だってある。
「だってさ、色々あった時期だったからイライラしてたし、ショートの人がすっごい威張ってくるからどんなもんかなぁって思ってたのに私のプレーについてこれないから合わせてたらそれはそれで文句言ってくるんだもん」
「それで、言い返したと?」
「うん。合わせたら『手抜くなよ』ってキレてきたから『お前に合わせてんだよ、下手くそ』って言っちゃった」
「言っちゃったじゃねぇし……」
かわいこぶって『テヘペロ』といった表情をしているが、全然可愛い問題じゃない。
「てか女子怖ぇ……」
男子の前では猫を被るけど女子同士だと言葉や態度が荒くなるというのは話に聞いていたが、本当だったとは……。いや、その点は男子も同じか。
「それで、色々あってイライラしてたって言うと、佐久間由真さんとかのこと?」
「あぁ……、うん。由真とは秋大会前にもバトったからさ」
夜空の気性が荒いというのは知っていた。しかし、高校に入ってから再開した時には落ち着いたように感じていた。ただ、それも由真とのことがあってからということだろうか。
「もう、素行の問題なんてどうしようもないから。獲ってくれる球団があるかどうかでしょ」
「ですよねぇ……」
球団の印象次第だ。喧嘩した程度なので、比較的マシだろうが、周りに見られている場で上級生に対してというのが若干気がかりではある。
ただ、素行不良でもやはりプロに通用すると判断されれば指名されることだってある。むしろ喧嘩した程度で日本代表選考から外れたというのが考えにくいことでもあった。
「この話は夜空の態度次第っていうことで。次は長所と短所た起用方法について」
「えー……。長所はバランス良いとか何番でも打てるし大体守ろうと思えば守れるところかなぁ? 短所は短気なところ。起用方法はセカンド一択。まあ、状況によっては外野も守るけど、あくまでもセカンドには拘りたい」
起用方法については問題ない。本職のセカンドを守らせる方が夜空の本領を発揮できるため、セカンドは夜空に確定だ。ただ、煌をスタメンにして代打を出した時は外野が手薄になってしまうため必要であれば外野に回すが、その点もあまり多い起用ではない。
長所は夜空の言う通りで短所もある程度当たっているが、一つだけ巧が思っている点を夜空は言わなかった。
「まあ、だいたいそうだけど、短所としてはメンタル弱いのもあるでしょ」
「え、そうかな?」
自覚がないのか?
まだ高校に入って二か月弱というのに、弱い面を数々見てきている。
「俺に対して結構弱気だし、由真さんのことでも落ち込んでるでしょ」
「う、それは、うん」
夜空は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
自覚はなかったが、言われて納得はいっているようだ。
「実際、由真さんとか他の三年生との関係で色々落ち込んだのは知ってるけど、その辺はどうなの? 自分が悪いと思ってるのか、他の三年生が悪いと思っているのか、どっちもどっちなのか。あともう会いたくないか、また一緒に野球したいと思ってるか」
この話を突っ込んで良いものか悩んだが、話をしないことには解決しない。個人的に由真を部に戻そうとは考えているが、夜空が反対なのであれば無理に由真を部に戻す必要はない。
「私が悪いと思ってるよ。サボってる子とかもいたから、『ちゃんと練習しろ!』って言うこと自体は間違ってなかったと思うけど、野球に対する気持ちは人それぞれだから、上も目指したいと思ってない子もいるわけだしさ」
巧は夜空と似た考えのため、夜空がそこまで悪いと思っていなかった。確かに人によって志の違いはあるが、部活で与えられた練習を放棄することは違うと思っている。
夜空と他の三年生との衝突はざっくりと聞いた話によると、志の違いから部内で温度差があったことによるものだった。由真に関しては、本人がどういった気持ちで部から離れたのかはわからないが、他の三年生とはまた違った理由のようだ。
「自分の気持ちを押し付けすぎたから、みんなが許してくれるならまた戻ってきて欲しいとも思うよ。……現実的に考えると野球部に所属したくて転校していった人とか、そもそも野球自体辞めている子もいるから難しいだろうけどさ」
元より夜空は後悔していると巧は思っていた。ただ、他の三年生との仲違いが夜空の心に大きな傷を残していたのがはっきりとわかった。一度話をしなければ本心はわからないものだったため、この機会に話をできてよかった。
「話は逸れたけど、このまま逸れた話題で進めてくよ。……皇王学園から練習試合の話が来てる」
「皇王……」
夜空は暗い雰囲気のまま、静かに息を飲み込んだ。去年、最後の退部者である由真との仲違いのきっかけとなった試合が皇王との練習試合だった。
「試合の条件としては伊澄の先発……五イニングか八十球を投げること。あとは夜空のフルイニングの出場。伊澄には了解を得ているし、珠姫にも話した」
伊澄は二つ返事で了承した。むしろ『完投させろ』とでも言いたげだったが、それは無理もある。試合のルールとしても条件があったからだ。
「試合形式は九イニング制。普段とは違うけど、夏の大会の決勝と甲子園を想定した練習だな」
女子野球は基本七イニング制だ。しかし、県大会決勝や甲子園のように、規模が大きくなれば九イニング制となる。
「夜空はどうしたい?」
巧の問いかけに、夜空は少しの沈黙を挟む。去年のこともあって悩んでいるのだろう。
「……いいよ。巧くんが試合した方がいいと思うなら、それに従う」
ノリノリで試合を受けた、というわけではなさそうだ。ただ、良いと言ったのだ、試合を受ける以外の選択肢はない。
「巧くんはさ」
夜空が続けて話を始める。巧はその言葉を待った。
「私も珠姫も、問題を抱えてるけど、私は正直言って平和な今の状況を壊したくないんだよね。このままじゃダメだってのはわかってるんだけどさ」
確かに平和だ。夜空もキャプテンらしく落ち着いており、一年生も実力があって今後に期待を持てる。ただそれは今後というわけであって今年ではない。
「巧くんは現状が壊れることが怖くない?」
怖くない、と言えば嘘になる。チームとしてもまとまっている現状で下手にアクションを起こせばそれが崩壊する危険性だってある。
「壊したくはない。極端なことを言えば、珠姫の復活も、夜空と三年生の関係もどうなったって俺には関係のないことだからさ」
酷く冷たい意見だ。
巧には関係のないこと、しかし、関係がないのにどうにかしようとしている。
「俺は後悔をしたくないし、夜空も珠姫も後悔をして欲しくない。このまま平和になあなあで終わって夜空は後悔しない?」
過去のトラウマはいずれ過去のものになって忘れる場合もあれば、しがらみとなって一生付き纏うこともあるだろう。
巧は中学三年生の夏、体を壊すまで投げたことを後悔もしたが、投げずに負けていれば後悔しただろう。結果的に投げてよかったと思ってもいる。
ただ、投げずに高校に入って、プロになったとして、その時の後悔を忘れられるだろうか?
今ここで明鈴高校女子野球の監督をしていることで、体を壊した後悔もさほどない。ただ、もし投げずに負けていれば、プロになったとしても自分から逃げたという負け犬の烙印を自分自身を押していただろう。
「私は……多分、後悔しそう。だって、私のせいで野球を辞めた人もいるのに、私だけのうのうと野球を続けているのが、正直今でも良いことなのかわからない」
三年間溜めた想い。多分キャプテンになった重圧もあって、誰にも話せなかっただろう。大地や珠姫、気付いていても聞けないこともある。巧が全て受け止めなければならない。
「後悔のないように、夏の大会を迎えよう。俺は出来る限りのことをするよ」
夜空は元から一人じゃない。でも一人で抱え込もうとしていた。
これで二等分だ。夜空の過去も、珠姫のイップスも、これからは巧が一緒に背負っていく。
これが正しいのかわからない。それでも、後悔のないように夏を迎えよう。
夜空は第一声、そう言い放った。
「夜空なら実力的には問題なさそうだな」
確実にとは言い切れないが、研究のため強豪校の試合などを見てもそれに匹敵するかそれ以上の実力が夜空にはあると感じていた。
問題としては知名度だが、その点も問題ない。中堅校ということで全国的にはあまり露出していないとはいえ、夜空個人が注目されているため、今でも知っている人は知っている。甲子園で実績がないため、実力的にはドラフト上位の希望があるが、それが無理でも下位でなら問題なく指名されそうな実力だ。
ただ、一つだけ気がかりなことがあった。
「去年は代表に選ばれなかったんだっけ?」
中学時代は同年代で最強選手と名高い夜空だったが、高校二年生時の代表には選ばれなかった。しかし、去年も何人か有望な二年生は選ばれていたはずだ。
「あ、あー……。ちょっとね」
夜空は気まずそうに目線を逸らす。何か理由はあったのだろう。
「何?」
「いや、黒歴史だから。その話は置いといて、ね?」
なんとか話を逸らそうとする夜空だ。絶対何かあったのだろう。
「いいから早く言え」
話が進まない。巧は苛立った声で強く言った。……一応先輩だが、夜空に言われて対等な関係でいるのだ、別に悪いことはしていない。そういうことにしておこう。
「……はい」
夜空は観念したかのようにポツリポツリと話し始めた。
「代表選考の前に都道府県代表選あるじゃん?」
「あるな」
都道府県代表選は多くの選手にチャンスが与えられるように数年前から実施されており、秋大会後に行われている。日本代表候補の選手が集められ、各都道府県一チームずつとあとはチーム数を合わせるために何チームか作り、都道府県代表チームとして戦う。
そしてそこで目に止まった場合、晴れて日本代表へと選出される。そうでなくともプロのスカウトからも注目される可能性のある大会でもあった。
「一応去年の三重県代表には選ばれてたんだよね」
「それは良かったな」
知名度としては問題ないだろう。そもそも巧は去年の都道府県代表戦に夜空が出ていたことを知らないため、そこまで大々的に活躍はしていないだろう。
メディアとしても大記録や珍記録などを報道することも多いため、世間一般の注目を集めているわけではなさそうだ。
しかし、プロのスカウトや日本代表の選考会には注目されている可能性はあるはずだ。
それを言いづらそうにし、『黒歴史』だと言うということは答えは一つしかない。
「なんかやらかした?」
「うん、やっちゃった」
なるほど。実力云々ではなく、素行の問題で代表を落とされた可能性も大きいだろう。そして、素行が悪いとなれば、プロも指名を敬遠する可能性だってある。
「だってさ、色々あった時期だったからイライラしてたし、ショートの人がすっごい威張ってくるからどんなもんかなぁって思ってたのに私のプレーについてこれないから合わせてたらそれはそれで文句言ってくるんだもん」
「それで、言い返したと?」
「うん。合わせたら『手抜くなよ』ってキレてきたから『お前に合わせてんだよ、下手くそ』って言っちゃった」
「言っちゃったじゃねぇし……」
かわいこぶって『テヘペロ』といった表情をしているが、全然可愛い問題じゃない。
「てか女子怖ぇ……」
男子の前では猫を被るけど女子同士だと言葉や態度が荒くなるというのは話に聞いていたが、本当だったとは……。いや、その点は男子も同じか。
「それで、色々あってイライラしてたって言うと、佐久間由真さんとかのこと?」
「あぁ……、うん。由真とは秋大会前にもバトったからさ」
夜空の気性が荒いというのは知っていた。しかし、高校に入ってから再開した時には落ち着いたように感じていた。ただ、それも由真とのことがあってからということだろうか。
「もう、素行の問題なんてどうしようもないから。獲ってくれる球団があるかどうかでしょ」
「ですよねぇ……」
球団の印象次第だ。喧嘩した程度なので、比較的マシだろうが、周りに見られている場で上級生に対してというのが若干気がかりではある。
ただ、素行不良でもやはりプロに通用すると判断されれば指名されることだってある。むしろ喧嘩した程度で日本代表選考から外れたというのが考えにくいことでもあった。
「この話は夜空の態度次第っていうことで。次は長所と短所た起用方法について」
「えー……。長所はバランス良いとか何番でも打てるし大体守ろうと思えば守れるところかなぁ? 短所は短気なところ。起用方法はセカンド一択。まあ、状況によっては外野も守るけど、あくまでもセカンドには拘りたい」
起用方法については問題ない。本職のセカンドを守らせる方が夜空の本領を発揮できるため、セカンドは夜空に確定だ。ただ、煌をスタメンにして代打を出した時は外野が手薄になってしまうため必要であれば外野に回すが、その点もあまり多い起用ではない。
長所は夜空の言う通りで短所もある程度当たっているが、一つだけ巧が思っている点を夜空は言わなかった。
「まあ、だいたいそうだけど、短所としてはメンタル弱いのもあるでしょ」
「え、そうかな?」
自覚がないのか?
まだ高校に入って二か月弱というのに、弱い面を数々見てきている。
「俺に対して結構弱気だし、由真さんのことでも落ち込んでるでしょ」
「う、それは、うん」
夜空は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
自覚はなかったが、言われて納得はいっているようだ。
「実際、由真さんとか他の三年生との関係で色々落ち込んだのは知ってるけど、その辺はどうなの? 自分が悪いと思ってるのか、他の三年生が悪いと思っているのか、どっちもどっちなのか。あともう会いたくないか、また一緒に野球したいと思ってるか」
この話を突っ込んで良いものか悩んだが、話をしないことには解決しない。個人的に由真を部に戻そうとは考えているが、夜空が反対なのであれば無理に由真を部に戻す必要はない。
「私が悪いと思ってるよ。サボってる子とかもいたから、『ちゃんと練習しろ!』って言うこと自体は間違ってなかったと思うけど、野球に対する気持ちは人それぞれだから、上も目指したいと思ってない子もいるわけだしさ」
巧は夜空と似た考えのため、夜空がそこまで悪いと思っていなかった。確かに人によって志の違いはあるが、部活で与えられた練習を放棄することは違うと思っている。
夜空と他の三年生との衝突はざっくりと聞いた話によると、志の違いから部内で温度差があったことによるものだった。由真に関しては、本人がどういった気持ちで部から離れたのかはわからないが、他の三年生とはまた違った理由のようだ。
「自分の気持ちを押し付けすぎたから、みんなが許してくれるならまた戻ってきて欲しいとも思うよ。……現実的に考えると野球部に所属したくて転校していった人とか、そもそも野球自体辞めている子もいるから難しいだろうけどさ」
元より夜空は後悔していると巧は思っていた。ただ、他の三年生との仲違いが夜空の心に大きな傷を残していたのがはっきりとわかった。一度話をしなければ本心はわからないものだったため、この機会に話をできてよかった。
「話は逸れたけど、このまま逸れた話題で進めてくよ。……皇王学園から練習試合の話が来てる」
「皇王……」
夜空は暗い雰囲気のまま、静かに息を飲み込んだ。去年、最後の退部者である由真との仲違いのきっかけとなった試合が皇王との練習試合だった。
「試合の条件としては伊澄の先発……五イニングか八十球を投げること。あとは夜空のフルイニングの出場。伊澄には了解を得ているし、珠姫にも話した」
伊澄は二つ返事で了承した。むしろ『完投させろ』とでも言いたげだったが、それは無理もある。試合のルールとしても条件があったからだ。
「試合形式は九イニング制。普段とは違うけど、夏の大会の決勝と甲子園を想定した練習だな」
女子野球は基本七イニング制だ。しかし、県大会決勝や甲子園のように、規模が大きくなれば九イニング制となる。
「夜空はどうしたい?」
巧の問いかけに、夜空は少しの沈黙を挟む。去年のこともあって悩んでいるのだろう。
「……いいよ。巧くんが試合した方がいいと思うなら、それに従う」
ノリノリで試合を受けた、というわけではなさそうだ。ただ、良いと言ったのだ、試合を受ける以外の選択肢はない。
「巧くんはさ」
夜空が続けて話を始める。巧はその言葉を待った。
「私も珠姫も、問題を抱えてるけど、私は正直言って平和な今の状況を壊したくないんだよね。このままじゃダメだってのはわかってるんだけどさ」
確かに平和だ。夜空もキャプテンらしく落ち着いており、一年生も実力があって今後に期待を持てる。ただそれは今後というわけであって今年ではない。
「巧くんは現状が壊れることが怖くない?」
怖くない、と言えば嘘になる。チームとしてもまとまっている現状で下手にアクションを起こせばそれが崩壊する危険性だってある。
「壊したくはない。極端なことを言えば、珠姫の復活も、夜空と三年生の関係もどうなったって俺には関係のないことだからさ」
酷く冷たい意見だ。
巧には関係のないこと、しかし、関係がないのにどうにかしようとしている。
「俺は後悔をしたくないし、夜空も珠姫も後悔をして欲しくない。このまま平和になあなあで終わって夜空は後悔しない?」
過去のトラウマはいずれ過去のものになって忘れる場合もあれば、しがらみとなって一生付き纏うこともあるだろう。
巧は中学三年生の夏、体を壊すまで投げたことを後悔もしたが、投げずに負けていれば後悔しただろう。結果的に投げてよかったと思ってもいる。
ただ、投げずに高校に入って、プロになったとして、その時の後悔を忘れられるだろうか?
今ここで明鈴高校女子野球の監督をしていることで、体を壊した後悔もさほどない。ただ、もし投げずに負けていれば、プロになったとしても自分から逃げたという負け犬の烙印を自分自身を押していただろう。
「私は……多分、後悔しそう。だって、私のせいで野球を辞めた人もいるのに、私だけのうのうと野球を続けているのが、正直今でも良いことなのかわからない」
三年間溜めた想い。多分キャプテンになった重圧もあって、誰にも話せなかっただろう。大地や珠姫、気付いていても聞けないこともある。巧が全て受け止めなければならない。
「後悔のないように、夏の大会を迎えよう。俺は出来る限りのことをするよ」
夜空は元から一人じゃない。でも一人で抱え込もうとしていた。
これで二等分だ。夜空の過去も、珠姫のイップスも、これからは巧が一緒に背負っていく。
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