おーばー!〜弱小女子野球部の監督に元最強選手の男子高校生が就任してハーレムになった件〜【明鈴高校女子野球部一年生前編】

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起用と期待 vs伊賀皇桜学園

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『明鈴高校、選手の交代をお知らせします。ピッチャー結城棗さんに代わりまして、豊川黒絵さんが入ります。
 五番ピッチャー豊川黒絵さん。背番号14』

 黒絵は静かにマウンドへと向かう。
 ただそれは緊張しているわけでもない。威圧感にも近い雰囲気を醸し出していた。



「なつ……」

「巧くん、ごめん」

 黒絵との交代で、降板して戻ってくる棗に声をかけようとしたところ、棗の声がそれを遮った。
 遠慮がちに声をかけようとしたタイミングで、先に棗が言い切っただけだが。

 棗が謝る理由がない。巧は口を開こうとしたが、棗の言葉が続く。

「巧くんの期待に応えられなかった。私がまだ弱かった」

 棗はそう言いながら、「でも……」とさらに続ける。

「次、チャンスがもらえるなら、次こそは抑えたい。この試合はもう出られないけど、勝って次の試合も、その次の試合も私は投げたい。私を出したことを後悔させたくない」

 棗は巧の気持ちを察したように、そんな言葉を吐いた。

 巧は棗を出したことを後悔しているわけではない。自分の起用が間違っていると考えていた。
 それでも、そう考えることが棗にとっては失礼なことでもあった。

 棗自身、今回の登板は課題が残り、悔しい登板となっただろう。
 アウトは一つ取ったが、ピンチを作って降板してしまった。そのピンチを自分で抑えることができなかったということが、何よりも悔しいのだろう。

 ただそれも、結局のところ巧が棗を信頼しきれていなかったのだ。

 棗には武器がある。キレのある球だ。
 しかし、それだけではまだ不完全でもある。
 薄々と感じていたが、その不完全を完全に近くする術は、簡単には思いつかない。そうでなくとも、この大会までに時間がなかったため、見て見ぬふりをしていた。

 それではダメだ。

 チームのために、棗のために、そして巧自身のためにも、もう一つ……いや、二つでも三つでも武器を作らなければならない。

「この夏は無理だけど……」

 巧は悔しさを滲ませながら言葉を絞り出す。今から練習しても、次の試合には間に合わない。次の準決勝は二日後だ。
 そして巧は続ける。

「来年の春……いや、今年の秋までに何ができるか考えておくよ」

 武器を増やす。
 それは簡単なことではない。
 そして棗にあった武器を探さなくてはいけない。

 棗以外の選手のことも、当然考えなくてはいけなかった。

「一緒に、ね?」

 そうやって笑いながら言う棗に、巧は「そうだな」と返した。



『八番ライト、溝脇のど香さん』

 投球練習を終えた黒絵は、代打から途中出場している溝脇と対峙する。

 パワーのある溝脇は、真芯で捉えられれば一発もある。元々五番を打つ強打者のため、警戒しなければいけない。

 黒絵も球速があるため捉えさせにくくはあるが、球威は調子に左右される。
 まるで鉛玉のように重く感じる時もあれば、軽く……大袈裟に言えばピンポン玉のように感じる時もある。
 安定感に欠けるとはいえ、絶好調の時の球質は、少なくとも明鈴では一番だ。

 そんな今日の黒絵は……、

 絶好調だった。

 初球から内側のストレート。司の構えた位置より真ん中より、やや高くに甘く入ったストレートだった。
 しかし、溝脇はそれを前に飛ばせない。

「ファウルボール」

 甘く入ったにも関わらず、溝脇は捉えきれない。
 ミスショットなのかどうかもわからない。ただ甘い球でも、真後ろに転がるだけのファウルとなった。

 コントロールは思うようにいかない。
 二球目の外角低めに構えた球は、少し外に逸れてボールとなる。

 ただ、それでも球速は十分だ。

「……118キロか」

 初球は117キロ。今のところ黒絵の最高は119キロのため、それに近い球速が出ているということになる。
 柳生には及ばないとはいえ、それでも十分過ぎるほどの球を投げれている。純粋にストレートだけで見れば、その球質は柳生のストレートに勝るとも劣らない。

 三球目、司は内角高めに構える。
 左投げの黒絵の指先から、右打者の溝脇の内側にストレートがズバッと決まった。

「ストライク!」

 今度は司の構えるミットに一直線だ。
 コースいっぱいの球に、溝脇は手が出ない。

 三コースに散らされたストレート。四球目は残されたコースだ。

 外角高めのストレートはやや逸れたが、追い込まれている溝脇は思わずバットを出した。

「ファウルボール」

 バックネットに直撃するファウル。
 やや振り遅れている。

 それでもしっかりと当ててくるのは、流石溝脇と言ったところだろう。

 四隅へと散りばめ、四球を投じた。これで次のコースはどこに投げてもおかしくはない。

 そこで司が選択したのは……、初球と同じ、内角低めだ。

 セットポジションからの投球動作。黒絵の指先から白球が放たれる。

「……おぉ」

 その球に、巧は思わず感心の声を出した。

 溝脇のバットが回る。そしてやや遅れて、白球が司のミットに収まった。

「ストライク! バッターアウト!」

 ラストボールは……チェンジアップ。
 その球速は、99キロ。約20キロもの球速差で、溝脇のタイミングを完璧に外していた。

 しかも、そのチェンジアップは以前のものとは比べものにならないくらい完成に近いものだった。

 最初はチェンジアップとも言えない、ただ緩急を外すためのもの。どちらかと言えばスローボールにも近いものだ。
 そこから皇桜との練習試合、夏の大会と経て、ストレートとフォームがほとんど変わらないものへと変貌を遂げていた。

 前の試合までは見ればわかる、隙のあるものだった。腕の高さやリリーフポイントがストレートとは違い、奇襲でもなければバレてしまう可能性が高かった。
 指から抜いて投げるというより、それに躊躇して緩く投げている感が否めないものだ。

 ただ、今のチェンジアップは完全に指から抜けていた。
 ややコントロールは心許なく、司の構えたコースよりも甘く入っていたが、そもそもストレートとの球速差でバットに当てることを許さない球のため、今回はさほど問題にもならなかった。

 とにかく三振が欲しい場面で三振を奪えたことは大きい。
 ワンアウトランナー二、三塁だったため、ゴロでも外野フライでも一点の可能性があった。
 それをツーアウトランナー二、三塁へと、アウトカウントを増やしたことは、間違いなく明鈴の選手たちの心に余裕を持たせることだ。

 フライは掴めばいい。ゴロであれば一塁へ送球すれば、このピンチを脱することができるのだ。
 
 ただ、気は抜けない。
 ここで打席に入るのは途中から九番に入っている吉高だ。
 コントロールが乱れやすいこともわかっているだろう。そして、普段から投手をリードしている吉高であれば、どのタイミングでチェンジアップを投げようとするかもわかるだろう。

 ここが一つ、黒絵と司の正念場だ。
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