おーばー!〜弱小女子野球部の監督に元最強選手の男子高校生が就任してハーレムになった件〜【明鈴高校女子野球部一年生前編】

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信頼と迷い vs伊賀皇桜学園

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 ついに試合も終盤、六回の表となった。
 リードはたった二点。一時は五点もあったリードが、あっという間に詰められている。
 気を引き締めて守っていかなければならない。

 代走としてマネージャーの由衣を出した明鈴は、当然選手の交代が行われる。

『明鈴高校選手の交代並びにシートの変更をお知らせします。代走致しました佐久間由衣さんに代わり結城棗さんがピッチャーに入り、ピッチャーの大星夜空さんがセカンドに入り、セカンドの姉崎陽依さんがサードに入ります。
 三番セカンド大星夜空さん。背番号4。
 五番ピッチャー結城棗さん。背番号10。
 八番サード姉崎陽依さん。背番号7。
 以上に代わります』

 リリーフとしてしっかりと準備をした棗がマウンドへと上がる。
 以前の皇桜との練習試合から一カ月程度ではあるが、大会に向けて先発からリリーフへと調整を続けてきた棗。登板機会が少ないながらもしっかりと抑えている。
 皇桜のレギュラー相手にどれほど通用するのかはわからないが、高望みはしない。一イニングを投げ、続けて最終回に黒絵へと繋げたい。

『五番ピッチャー、柳生さん』

 打席には柳生。強打の柳生に対して、大きい当たりだけは避けたい。
 棗は警戒しながら柳生を睨みつけるが、柳生は打席でも威圧感を発揮する。

 打たれるかもしれない。

 ただ、棗はそんな威圧感にも動じない。

 初球。まずは様子を見るストレートだ。
 外角低めへの際どく力強い球に、柳生はそれを見送った。

「……ボール」

 僅かに外れる。

 球速はさほど出ていない98キロ。それでもそれ以上の球速に見える、思い切りの良い球を良いコースに投げ込んだ。

 棗はストレートが速いわけでもなく、変化球の変化量も多いわけではない。

 それでも巧が信頼しているのは、球のキレだ。

 ストレートはスピンがかかり、球速以上に感じる。変化球も変化量が大きいわけではないが、鋭い変化をする。
 そのため真芯で捉えられれば反発する、いわゆる『軽い球』ではあるが、キレのある球から真芯で捉えさせない投球をする。

 四月時点ではただの平凡な投手だったが、そこを意識して練習し、まだ発展途上ではあるが、球速の割には三振を奪え、凡打に抑えることができる選手へと成長しようとしていた。

 まだ未完成。それでも度々見せる完成形に近い投球が、巧を期待させている。

 長いイニングで勝負する先発は、球筋を見極められれば痛打となるため難しいが、現段階でもリリーフとしてなら十分な能力を持っていると巧は考えていた。

 そのストレートが一閃。外れてはいるが外角低めのコースを貫いた。
 体感した球速と実際の球速のギャップに、柳生は顔を顰めている。

 ただ、それだけで抑えられないのが皇桜というチームの選手だ。

 二球目を強引に引っ張ると、大きな打球となった。
 しかしタイミングが早すぎたため、打球は大きく逸れてファウルとなる。

 やはり捉えられてしまえば打球は飛ばされる。
 それでも体感と比較して球速が出ていないため、完璧に捉えさせることはなかった。
 その体感と実際の球速とのギャップが、必要以上に柳生のバットを早く振らせたのだ。

 しかしそれは結果的にファウルとなったとはいえ、肝を冷やす一撃だったことには変わりない。
 若干甘く入った外角低めのスライダーを叩かれた。

 棗はその打球を見た後の三球目、さらにコースを厳しく攻める。

 内角高めへの力強いストレート。
 コースギリギリの球を、柳生のバットは弾き返した。

「センター!」

 打球は高々と上がる。
 大きな打球だ。

 センターの由真は、打球に合わせてゆっくりと下がる。
 ただ、大きな打球に後退は止まらない。やがてフェンスへと到達する。

 まずい。

 巧がそう直感すると、由真は打球に合わせるようにゆっくりとジャンプする。

「アウトォ!」

 グラブを上げて捕球をアピールすると、審判が力強くそうコールした。それを見て、巧は胸を撫で下ろす。

 ほとんど完璧に捉えた打球ではあったが、打球が高く上がりすぎた。
 ほぼ真芯だが、キレのあるカーブは見た目以上に変化せず、ボールの下側を叩いた形となった。
 柳生のミスショットというよりも、棗がそう打たせたというような打球だ。

 ひとまずワンアウト。幸先は良い。
 ここから下位打線へと入っていくが、それでも六番は打撃の良い本堂だ。侮ってはいけない。

 今回は柳生がレフトでの出場だったため五番だったが、普段は溝脇が五番に座っている。そしてどちらも三年生だ。
 皇桜は一、二年生が多くベンチ入りしており、三年生が九人、二年生が八人、一年生が三人だ。これは恐らく三年生引退後を見据えているのだろうが、やはり主力は三年生となっている。

 そして一から五番までは三年生。その中で六番に本堂は座っている。
 二年生でレギュラーを手にしており、打撃に期待ができる。つまり、三年生引退後の四番候補と言っても差し支えないだろう。

 そんな強豪の主力と同学年である棗は意識せざるを得ない。

 それが伝わってくる投球。
 棗は初球から内角低めギリギリのコースに、カーブを決めていった。

「ストライク!」

 本堂は食い込んでくるカーブに手が出ない。いや、際どい球であり初球だからこそ、手を出さなかったのかもしれない。

 どちらにせよ、打てないと判断して見送ったのだ。棗の球がそれだけ良かったということになる。

 そして二球目、今度も厳しいコースを棗は攻めていく。

 棗の指先から放つ球は、初球とは対極に位置する外角高めに直進する。
 その球を、本堂はまた見送った。

「……ボール」

 際どい投球。力の入った球だが、僅かにリリースポイントが早かった。
 大きく外れたわけではないボール一個分程度の差。それだけでもストライクかボールかという違いが生まれる。
 そして、たった一つのカウントが、勝負の結果を左右してしまう。

 三球目、今度は外角低めに入れるようなスライダーを棗は投じた。
 しかし、これも僅かに外れる。

 際どいコースを攻めていくが、なかなか上手く決まらない。

 ツーボールワンストライク。良い球は来ているのだが、ストライクカウントが思うように増えない。
 そうなってくると、徐々に雰囲気も悪くなる。
 四球目はわかりやすく乱れた球だ。

 体に近い内角へのスライダー。本堂は避けようとしたものの、球が変化して本堂の体を追っていく。

 鈍い音と共に、本堂はそのまま転倒した。

「デッドボール!」

 審判は慌てて本堂の様子を確認したが、本堂は少し痛がる様子を見せながらも平気そうだ。

 しっかりと避けようとしたこともあって、当たったのは背中。体の横であれば腰の骨や肋骨もあったが、当たったのが背中だったため、本堂は特に怪我をした様子もなかった。
 転倒したのは、当たった勢いと、衝撃を和らげるためにわざと転けたのだろう。

 ワンアウトでランナーは一塁。
 幸先良く柳生を仕留めた後だったが、本堂に対してのデッドボールでランナーを出してしまった。

 そして、この状態で打席に入るのは七番の太田……ではない。

『七番太田結々子さんに代わりまして、光本幸さん。バッターは光本幸さん。背番号17』

 皇桜はここで代打の切り札、光本を投入した。
 人数が多く、選手層の厚い皇桜にはまだ代打も代走も残されている。そのためチャンスでもないこの場面で、チャンスを広げるためや、あわよくば点を取るために代打を投入できた。

 そもそも皇桜は今ベストメンバーで戦っている。
 レギュラーの一人である太田は退いたが、それ以外で代打を出す必要性がないのだ。

 点差を詰めるための勝負に出た、ということだろう。

 明鈴としては点差を詰められたくない。一瞬崩れるような片鱗を見せたため代えたいところではあるが、自信を持って棗を投入している。
 試合を壊す展開になる前に、この光本に打たれるようなことがあれは代えるつもりだ。しかし、まだたった二人の打者としか対戦していない。
 ここはまだ様子を見ても良いと巧は判断する。

 ただ、念には念をだ。

「誰かー、……七海、黒絵を呼んできてくれ」

 誰かでは誰が行くべきか悩むだろうと思い、一番ブルペンに近かった七海を指名して黒絵を呼びに行かせた。
 ここで棗が抑えてくれれば続投だが、万が一にも打たれれば即交代だ。ここで大崩れするわけにはいかない。
 チームの勝利のためにも……そして今まで得点してきた選手たち、守ってきた選手たち、粘り強く投げた伊澄や、棗と黒絵の準備が整うまで繋いでくれた陽依や夜空といった投手陣のためにも。

 黒絵を隣に座らせ、いつでも行けるように準備をさせる。

 不安がよぎる中、その不安が的中した。

 初球のカーブ、二球目のスライダーと司の構えた際どいコースとは程遠い場所に大きく外れる。
 そして今度は安全に行こうとするあまり、甘く入ったストレートを痛打された。

「レフト!」

 一歩目の早かった伊澄は打球に反応し、確実にフェンスまで到達すると判断したため、跳ね返ったボールを即座に処理した。

 すぐに中継に返したため、ファーストランナーの本堂は三塁を蹴ろうとしていたが、少し回ったところで止まった。もし打球処理にもたついていれば、迷わずに本塁へ突入していただろう。
 本堂は打撃が良いが体の線は細く、足も平均以上だ。

 光本はあまり足が速くないが、それでもフェンスまで到達した打球であれば二塁まで行くことは容易だ。
 長打となり、ワンアウトランナー二、三塁となった。

 そしてこの状況で迷っている暇はない。
 まだたったのワンアウトしか取れていないが、巧は動いた。

「黒絵、行ってこい」

「うん」

 いつもはうるさいほどはしゃいでいる黒絵が、この時ばかりは静かにマウンドを見つめていた。

 まるでそれは、嵐の前の静けさのようだった。
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