おーばー!〜弱小女子野球部の監督に元最強選手の男子高校生が就任してハーレムになった件〜【明鈴高校女子野球部一年生前編】

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ライバルの結果は。

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「なあ、司……」

 練習を始める前、一度体をクールダウンさせたため再びアップをする時間を取った。
 そうでなくても道具を準備しないといけないため、巧にとって暇な時間だ。

 その準備に入る前、巧は司に声をかけた。
 何も話してはいないが、司は何が言いたいのかわかっているようだ。

「負けたみたいだね」

「ああ、速報で見た」

「私は明音から連絡来たよ。相当落ち込んでた」

 負けた。それは共に合宿をして互いに高めあった水色学園のことだ。
 水色学園は明鈴と同じで、午前中に試合が始まって昼過ぎまで試合が行われていた。
 バス移動中には結果を知っていたが、ミーティングもあり司と話す時間がなかったため、ここで初めて水色学園について話ができた。

 その水色学園は明鈴よりも一試合多くしているが、それは県内の学校数が多いから。進んだのは明鈴と同じ、準々決勝まで。明鈴も水色も、そこで敗退した。

 試合と言えば、光陵高校は今日準決勝が行われており、今まさに試合中だ。午後から始まっているため、まだ半分も終わっていないだろう。

 明鈴と水色は今日敗退し、鳳凰は早々に敗退している。
 合宿を行った四校の中、甲子園のチャンスがあるのは光陵だけだ。

「明鈴も水色も、もう少しだったんだよな……」

 明鈴も水色も早々負けたわけではなく、勝ち進んだことで甲子園のチャンスはあった。
 負けるというのはどのタイミングだろうが悔しいことには変わりない。ただ、強豪に負けてしまったということで、もし勝ち進めていれば甲子園の切符を手にしていた可能性があったかもしれないと考えてしまう。
 他にも強豪校はある。それでもそんな『タラレバ』のことが頭にチラついていた。

 そして水色に関して言えば、今日の準々決勝で負けた相手よりも一つ前の四回戦で戦った相手の方が強かった。実力だけを見れば勝てる相手だった。
 しかし、四回戦で力を出し切り、選手が疲弊してしまったということが負けた要因の一つでもある。
 ただ、今日の相手もここまで勝ち進んできていて弱いはずもない。
 相手チームも大会を勝ち進んで試合を重ねている。それだけ戦っても体力が尽きないように練習を積んできたのかもしれないし、選手層が厚かったのかもしれない。どちらにせよ、何かしらの理由があって、水色は負けたのだ。
 少なくとも弱い相手にたまたま負けたなんてことではない。

 それがわかっているからこそ、悔しいのだ。
 足りないところがあったという現実を突きつけられるのだから。

 明鈴も同じだ。試合の途中まで勝っていたし、最終的に一点差だった。
 最後の最後まで皇桜を追い詰めた。勝てない相手ではなかった。そのことで、より一層悔しさが増していた。

「私は今から準備するからメッセージ送っただけだけど、巧くんは時間あるなら明音に連絡してあげて。あの子抱え込みやすいし」

 抱え込みやすい司が言っても説得力はないが、「もう帰ってるみたいだから」と促されたため、巧は「わかった」と返事をする。

 幸い時間はある。
 本来であれば明鈴の部員のフォローをしたいところだが、ミーティングの中で完全とはいかないまでも、ある程度元気は取り戻している。
 まだ足りていない部分は元々ミーティングの後……練習することになった今は練習の後で話をするつもりなので疎かにするつもりもない。

 明音とは友人として話がしたい。そして一度落ち込んだ司の元気を取り戻すために協力してくれた恩人でもあった。
 もし明音がいなければ、明鈴の正捕手が不在という事態になる可能性だってあったのだ。

 友人としても、恩人としても、放ってはおけなかった。



 家に着いてから私は何もしていなかった。
 汗で体がベタついているけど、ジャージに着替えただけで、シャワーも浴びず、エアコンもつけずにソファに座って項垂れていた。

 私はまだ一年生で、あと二年ある。それでもレギュラーとして試合に出ている分、勝てなかったことにショックはあった。
 何より、無理言って三重県の実家を出て、愛知県で一人暮らしをさせてもらい、しかも十分な生活ができるようにしてくれた両親に申し訳がなかった。
 野球のためにこんな暮らしをさせてもらっているのに、その野球で結果が出せなかったのだから。

 親はプロになることを望んでいるわけではない。反対をしているわけではないが、この生活を許してくれているのは私が将来的に自立するためだ。

 それでも、やはり野球で結果を残したいという気持ちは変わらない。そのために私はここにいるのだから。

 流石に汗が滲んできた。飲み物を入れようかと立ち上がった瞬間、虫の鳴き声が聞こえるだけで静かだった。うるさい鳴き声。
 そんな室内で携帯が鳴り響いた。

 携帯には『藤崎巧』と表示されている。
 私は一コール半鳴ると、すぐに電話に出た。

「……もしもし」

 私の声は少し掠れている。たった数時間だけど、負けてからはほとんど無言だった。
 そんな数時間無言なことなんて今までいくらでもあったけど、その数時間がいつもよりも長く感じ、話し方を忘れたように声がちゃんと出なかった。

『お疲れ様。今大丈夫だった?』

 巧の声を聞くと、一気に色々な感情が押し寄せてきた。
 負けてから今まで泣かなかった。三年生の方が最後の夏で負けて悔しいと思ったから。他のみんなは泣いている人もいたけど、私は泣くのを我慢した。
 それでも、巧の声を聞いた途端、涙が押し寄せてきた。

「大丈夫。もう家にいるから」

 なんとか声を絞り出した。泣いていることがわからないように。
 それでも少し、声が震えていたかもしれない。
 私は矢継ぎ早に続けた。

「負けちゃった」

『知ってる』

 巧が負けたことを知っているとわかっていたけれど、そう言わずにはいられなかった。

『俺たちも負けた』

 そう言う巧はいつも通り……というわけではないけれど、弱いところを見せなかった。

「ごめん、巧も辛いのに」

『いいよ。今は明音の話を聞くために電話したんだし』

 自分のこともあるのに、わざわざ自分のために電話をかけてくれたことが嬉しかった。
 優しくされて、恋心が燃え上がってしまう。
 もちろんそんなことで電話をかけてきたわけじゃないことはわかっているけど。

 その気持ちを隠すように、照れ隠しでちょっとした憎まれ口が口から溢れてしまう。

「明鈴の人たちはいいの? 私に構ってたら怒られちゃうんじゃない?」

 こんなことを言うつもりじゃなかったから、つい言葉に出した時に私はハッとなった。
 嫌な気分にさせてしまったのではないか。
 そう思ったけど、巧の口調は穏やかだった。

『ミーティングとかで話はしたし、後でアフターフォローはするつもり。もちろん疎かにするつもりはない。……勝手に心配しているだけだけど、明音のことも心配なんだよ』

 そう言われて私の気分は舞い上がった。
 続けて巧は『友達として』と言ったことは少し残念だったけど、どんよりしていた気分が幾分かマシにはなった。

 ただ、試合の話を戻そうと考えていると、やはり気分は落ち込んでしまった。

「勝ちたかったなぁ……」

 そんなことを言っても仕方ないことはわかっている。それでもつい口から溢れた。

「私さ、野球をするために水色に入ったんだよ。でも結果は残さなかった。……ヒットも打ったし、守備も大きなミスはなかったけど、他の打席で打ってたり、守備もアウトにできたプレーがあったかもしれない」

 もし自分が打った打席ではなく、他の打席でヒットを打っていればもっと点が入ったかもしれない。
 守備もサードだったから、守る位置によってはレフト前ヒットを防げたかもしれない。
 守備はもちろん、バッターの癖やランナーの状況によるけど、守備範囲がもっと広かったら位置だって変わる。私の守備範囲は決して狭いわけではないけど、名手というほど広くはない。

 全て結果論だけど、こうしていれば点が入ったかもしれない、アウトにできたかもしれない。そんなことは考えても考えても考えが尽きない。

『極端な話、全部ホームランにできて、サードを守っているのにライトの打球が捕れたりしたら、どんな試合でも多分勝てるよ。でもそんなことはできるはずない』

 当たり前のことだけど、こうやって言葉にされるとハッキリとわかる。

『それができないから、九人でするんだ。ショートの守備範囲が広かったら三塁際の打球でも処理できるし、サードの守備範囲が広かったら二遊間の打球もショートが処理できる。そういうちょっとした違いで、変わることなんていくらでもある。全員名手でも、ヒットは打たれるさ』

 現実はそうだ。多分女子選手よりも体格がいい、男子選手でプロの名手をかき集めたとしても、一本もヒットを打たれないということはない。
 逆に全員が男子選手でプロの強打者をかき集めても、アウトを取られることだってあるのだ。

『それが水色の力だ。……明鈴もそうだけど。疲れとかもあったかもしれないけど、それなら疲労があってもベストパフォーマンスができる体を作るか、スタメンと遜色のない控えを揃えるしかないんだよ』

 結局、試合に勝つ能力はあっても、大会で勝ち抜く能力が足りなかった。
 だから負けたのだ。

「……私は悔しい。力が足りなかった。もっと強くなりたい。強くなって勝ち続けたい」

 一度引っ込んでいた涙が、我慢していた涙がとめどなく溢れた。
 壊れたダムのように、涙は止まることを知らない。ただ溢れ続けた。

 私が「悔しい、悔しい」と泣き続けている間、巧はしばらく相槌を打つだけだった。
 それでもただ話を聞いてくれることが嬉しかった。

 十分ほど泣き続けた後、やっと涙が止まる。

「……今更だけど、巧は時間大丈夫なの?」

『俺から電話かけてるから大丈夫……って言いたいところだけど、そろそろ時間かな。明鈴のみんなも負けて落ち込んでたけど、練習しようってなって準備中にかけたんだ。あと数分ってところかな』

 巧は合間の時間にわざわざ電話をくれた。
 もう少し話したいところだったけど、仕方がない。

「練習終わった後、時間あるかな?」

『ん? まあ帰って風呂入った後なら時間あるけど……』

「そうじゃなくて、そっち行っていいかな?」

 会いたい。
 それは直接的に言うのは少し恥ずかしかった。

 司にも会いたいし、巧とも話したかった。

『いいけど、いつ終わるかわからないぞ? 試合もしたから五時くらいに終わりたいけど、多分終わらないし、練習の後三年生と話したいこともあるから。まあ遅くても七時には学校閉められるから、それまでには終わるけど』

 五時……というと今から一時間半くらいだ。七時だと三時間半くらい。二時間も空いている。
 ただ、普段なら長いと思うような二時間も、たったの二時間だと思えるほど巧の顔が見たかった。

「時間潰すからいいよ。バッティングセンターとか行けばいいし。三年生と話す前に連絡くれたら向かうから」

『わかった。また連絡するよ』

「うん、じゃあまた後で」

 そう言うと、私は電話を切った。
 長いのか短いのかわからないけど、二十分弱も話していた。もっと長い時間話していたようにも感じ、短くも感じる時間だった。

 アプリの巧とのトーク画面を閉じると、通知が一つ来ていた。
 母親からだ。

 内容を見た私は、母に電話をかけた。

「もしもし。……うん、負けちゃった。……え、明日は休みだけど。……うん。……わかった、今日は帰るよ。……うん、一泊する。ちょっと人に会うから時間わからないけど、……いや、友達。……迎えかぁ……。お願いしたいかな。昔住んでたとこの近くの駅とか。……そう、そこ。……じゃあ、また連絡するね」

 電話を切ると、再び室内は静かになり、虫の鳴き声だけが聞こえる。爽やかな鳴き声だ。

 同じはずの空間なのに、帰ってきた時と比べるとスッキリしている気がした。
 多少気分が晴れたからだろう。

 時間はあるけど、早く準備をしたほうがいい。
 そう思った私は、熱くなった空気を入れ替えるために窓を開け、扇風機を回す。
 渇いた喉を潤すためにコップ一杯の麦茶を飲み干すと、汗を流すためにシャワーを浴びた。
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