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第1章「地球墜落編」

「プロローグ 地球時間2024年1月 双子座カストル星系内ニコニーコ星宇宙軍」

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「プロローグ 地球時間2024年1月 双子座カストル星系内ニコニーコ星宇宙軍」
 
 「だ、大統領!ニコニーコ大統領!ただいま地球で遭難した上陸用小型宇宙船リトルシップと4人のプリンセス達の捜索の斥候隊の第1陣、第2陣が帰着しました。第1陣が行方不明だったプリンセス様達が搭乗していた上陸用小型宇宙船リトルシップを海中で発見しました。第2陣がプリンセス達らしき人物の地球上での生存を確認したとの報告です。」
ニコニーコ星宇宙軍の上級参謀将校が興奮気味に内線電話の受話器を耳にあてたまま、ニコニーコ星大統領のニコニーコ・ウトー・カズーシに報告した。

 まもなく、2名の若い情報将校が入室してきた。2人はカズーシの正面に立ち最敬礼するとまず1名の将校が報告を始めた。
「第1斥候隊の「ガスエービ」大尉です。上陸用小型宇宙船リトルシップは地球の北半球の座標点東経136度76分14秒、北緯36度86分55秒、日本国石川県能登半島中腹西部の羽咋市千里浜ちりはまドライブウェイ 「千里浜インター」西200メートルの海中から信号をキャッチしました。上陸用小型宇宙船リトルシップの緊急避難信号は、現在から25日前、地球時間2024年1月1日16時10分に発信されています。陸地ではなく海中に不時着し沈没した模様です。船体は海底着座で地球側には発見されておりません。
 幸い地球の軍の潜水艦等の航路深度より浅いところに着底しています。海中擬装を施してきましたので今すぐ発見されることは無いと思われます。
 しかし、リトルシップは脱出時に非常用ハッチを使用したようで、内部は完全浸水しております。自立飛行は不可能と思われますので中型の「遭難救助艦サルベージ」の派遣が必要と思われます。なお、船内に生命反応はありませんでした。」
ガスエービが手短に状況を報告すると「海中…。」、「沈没…。」、「生命反応なしか…。」と口々に呟きカズーシの周りに集まった幹部スタッフの表情が一気に曇った。

 次の将校が発言を始めたがその報告は途中で途切れ、最後まで報告されることは無かった。
「第2斥候隊「ノトドン」中尉です。なお、墜落したリトルシップの機内には生命反応・・・・はなく周辺に捜査を広げました。その結果、4人のプリンセス様と従者のチャプローらしき姿は地球時間2024年1月4日に能登半島最北部の「輪島」という町等で確認されています。
その後、地上に派遣した諜報員からの連絡によると、マリーア第1王女、ピヨ第2王女、ナチュコ第3王女、ピナ第4王女と従者のチャプローは移動しつつも健在です。調査の結果、1月1日16時10分操縦不能に陥り、16時12分に、海上に不時着後沈没し、自力にて千里浜なぎさドライブウェイまで退避。地球人とコンタクトの後の状況につきましては、大統領閣下には申し上げにくいのですが…。」
CICに長い沈黙の時間が流れた。

ニコニーコ星宇宙軍星間移動艦隊司令部CICコンバット・インフォメーション・センターで大統領に報告を上げる太陽系方面隊艦隊の上級情報将校2名に対してCIC中央の大型モニターの前の席で「どっかり」と座ったニコニーコ星の「王」であり、政治のトップである「大統領」のニコニーコ・ウトー・カズーシは、4人の娘の父であると同時に宇宙軍の最高責任者である。
行方不明になった娘たちの生存の吉報に、「ほっ」と一瞬「父親」としての表情を見せたが、すぐに難しい顔に戻り2人の情報将校にねぎらいの言葉をかけた。
「まずは、我が娘達が迷惑をかけすまなかったのぉ。2800光年の長駆航行ご苦労やったな。娘たちに関する報告は後で聞くわ。
リトルシップは地球に不時着したという事やな。陸上ではなく海中に墜落したという事に間違いはないんやな。
 太陽系の第3惑星地球は「グレイ」、「レプティリアン」との協定関係がややこしいでなぁ…。いかんせん、「地球」は星間航行の技術も持たぬ未開の人類ゆえに、我々、高等生物の存在も十分に認知されてへん。今の報告やと幸い・・にして77年前に「グレイ」の「バカ」が地球のアメリカ「ロズウェル」でやらかした「失態」の二の舞にはならずに済んだんやな。
 至急、火星域の大型宇宙母船マザーシップを派遣し、リトルシップを速やかにかつ隠密に回収しろ。決して地球人に我々の存在を知られるんやないで。」
とリトルシップ墜落を報告した第1陣偵察隊の上級将校ガスエービに冷静に命令を下した。
「はい、速やかにかつ隠密にリトルシップの回収に入ります。今回取得しましたデータは情報部に提出しておりますので報告はノトドン中尉に任せ、私はすぐに地球に戻ります。」
 ガスエービ大尉は緊張した面持ちでニコニーコ大統領に再度敬礼すると踵を返してCICを出ていった。

カズーシは本星の艦隊司令部の幹部たちを呼び寄せ、大型モニターに映し出された情報を精査しながら、リトルシップの回収に向けて次々と指示を繰り出していく。
「念のため、「グレイ」、「レプティリアン」の外交情報部にも今回の事故については連絡をしておくようにしておいてくれ。」
 カズーシは参謀長に指示を出すと、視線を第2斥候隊のノトドンに向けた。その視線はいつものような「自信たっぷり」の眼光は無く、「娘たちを心配する父親」の眼だった。

大統領の前に残された第2陣の斥候隊の情報将校は、大統領にすべき報告を頭の中で必死に整理していた。(ありのままを報告すべきなのだろうか…。ニコニーコ大統領の日頃の王女たちへの溺愛っぷりからすると私の報告の仕方ひとつで「地球」を滅ぼしかねない…。下等な「星」一つが滅ぶことは大したことではないが、「グレイ」、「レプティリアン」も触手を伸ばしている「星」であることがややこしいぞ。さて、どう報告したものか…。)
 冷や汗をかき、小刻みに震えている情報将校の様子に気づいた大統領は、娘たちの身にただならぬことが起こっていることを感じ取った。

 カズーシは一刻も早く4人の娘たちの安否を確認したいのだが、ニコニーコ星のプリンセスの「私用」で出かけた旅の最中の事故という事もあり、最高指導者としての立場がそれを邪魔している様子が明らかに見て取れる。大きく深呼吸を一つした後にカズーシはノトドンに問いかけた。
「ではノトドン中尉、「バカ娘達」の状況について聞かせてもらおうか…。」
 ノトドンは真っ青な顔をして、「はい…。では、プリンセス様達の遭難信号受信時の大型宇宙船マザーシップのCIC内録画データからご覧ください。」と言葉にするのが精一杯だった。
 参謀長がオペレーターに指示を出すと大型のモニターに船内の様子が映し出された。

今から25日前の地球時間2024年1月1日午後4時30分。火星軌道上の宇宙航行母艦マザーシップに地球外周軌道上のニコニーコ公国宇宙軍の緊急連絡が入った。
「緊急電です。本日午後4時10分に地球に向かった4人のプリンセスたちの乗った上陸用小型宇宙船リトルシップと連絡が取れなくなりました。地球の北半球で突如反応が消えました。」
慌てた口調の地球外周軌道の中型宇宙船からの無線だった。
 地球と火星の距離は約7730万キロあり、光と同じ速度の電波での通信は約250秒のタイムラグがあく。地球上の映画やアニメのようにリアルタイムで電波や光を使った会話は物理上、現実には無理である。
「何!ニコニーコ大統領の御子女達の安否はどうなのだ!」
 母船の質問に対して500秒かかって
「現在安否は不明です。リトルシップのマーカーが突如消滅しましたので、墜落した可能性が高いと思われます。非常用位置探査システムが起動しましたら、即、小型艇を出撃させリトルシップ及びプリンセスたちを追跡する準備に入っております。」
と返事が来た。
マザーシップは「早速調査せよ。通信回線は常時オープンにしておく。新たな情報が入り次第、随時報告を求む。」と送信したものの、リトルシップの墜落地点ははっきりとせず、プリンセスたち5名の乗組員の安否も不明のまま時は過ぎた。

地球時間1月5日午前9時5分、マザーシップは火星領域から地球上空「高度5万キロ」の軌道に移動してきていた。
低高度静止衛星軌道の200キロから1000キロと言われる外気圏を民間の観測衛星、軍事用監視衛星、GPS衛星以外にスペースデブリと呼ばれる使命を終えた衛星や宇宙ゴミ等がせわしなく地球の周りをまわっている。さらに2000キロから1周24時間という固定位置に留まる地球同期軌道と呼ばれる高高度衛星軌道の3万6千キロまでの間にも多くの人工浮遊物が見られる。
 アメリカ宇宙監視システムSNNは1957年から宇宙天体の観測を始め、衛星軌道上の人工物のカウントもその業務になっている。少し古いデータとなるが、2008年発表で8000以上の宇宙空間での人工物を追跡している。
 軌道上にある人工物には稼働中の人工衛星だけでなく、ロケットの部品や破損した衛星等の宇宙ゴミスペースデブリも含まれる。その宇宙空間中の人工物の93%がスペースデブリであったとの報告もある。その後の15年で中国、インドなどの宇宙開発に加わった新興国の宇宙開発も進み更にスペースデブリが増えていると予想される。

 母船マザーシップは徐々に船体を地球に近づけ地上4万キロにまで近づいた。マザーシップの上級情報将校のガスエービとノトドンが地球に向けたカメラ画像と宇宙空間レーダーをモニターしながら、ため息交じりに呟き、祈った。
「どうして地球人はデブリを回収しないんだ。これだから野蛮人の星は困る。こんな野蛮人の星の人間に捕まったらプリンセスたちは無事でいられるのだろうか。あぁ、無事であってください…。」
 ガスエービがカメラとレーダーの向きを少しずつずらし、地球をスキャンしていく。ノトドンはガスエービに震える声で言った。
「確か、地球時間の1947年にアメリカのニューメキシコ州ロズウェルに不時着した「グレイ」達は野蛮な地球人に人体実験を繰り返された後に全員殺されたのだったですよね…。
 宇宙船に乗っていれば野蛮で未開な地球人など恐れるに足らずですが、生身の人間となれば我々とて能力や特性的なアドバンテージはあるものの、肉体的なアドバンテージはありませんよね。万一のことがあったとき、カズーシ大統領はどうするのでしょうか…?」
 ガスエービは困った顔をして「中尉、つまらぬことを考えている暇があったらしっかりとモニターしろ。微弱な電波も見落とすなよ!」と檄を入れた。

 マザーシップは少しずつ移動し、プリンセスたちが訪問する予定だった地球の北半球北緯37度、東経162度上空に位置すると、リトルシップの緊急信号を探し200キロ四方をスキャンした。画面に一つの輝点ブリップが表示された。表示された機番コードを調べるとマリーア達が地球遊覧の為に乗機していたリトルシップの信号であることが分かった。
「プリンセスたちの「ミニシップ」からの信号をキャッチしました。地上に不時着したわけではないようです。日本国の石川県の能登半島西岸の海中から信号が出ていますが無線は通じません。個人装備の非常用位置探査装置は「ミニシップ」と同一場所から発信していますが詳細はわかりません。」
 救難信号をキャッチした事をガスエービが艦長に報告を上げた。

「日本という事は、「グレイ系」や「レプティリアン系」|異星人《エイリアンの多いところだな。我々の同志の通信可能な連絡員はいるか?」
「残念ながらこの周辺に我々の同志は居りません。そこで、12年前からいる石川県羽咋市の「グレイ系」の連絡員に通信を試みたのですが全く返信がありません。繰り返すと同時に、偵察用ミニシップを出動させようと思います。現地の日暮れまでお時間をいただきたいと思います。」
艦長の問いに対し、ガスエービは自ら地球に捜索に出動することを意見具申した。
 同日、午後6時。日没後、出撃準備に入ったガスエービにノトドンがカメラモニターを見ながら報告を入れた。
「艦長、ガスエービ大尉殿、こちらの持つデータと現地データに差異があります。本来であれば、「能登半島」に沿って、小規模な街の「生活灯」が確認できるはずなのですが、なぜか本日この時間に限っては、金沢以北及び以東から富山までが真っ暗です。以前、このエリアを訪れた際のデータと比較ください。」
マザーシップの第1艦橋司令部の大きなモニターと捜索用の小型宇宙船ミニシップの小さなモニターに映し出される現在の能登半島には1年前の映像と違い、全く明かりが見えない。いつもは見える海上の漁船の明かりも見えない。羽咋の千里浜ドライブウェイの西側に緊急信号の発信を示す輝点ブリップが弱々しく点滅している。
「羽咋の西側のプリンセスたちのリトルシップ信号場所にはガスエービ大尉、能登半島周辺捜査にむけノトドン中尉を今すぐ発進させろ。」

 1月6日午前0時。マザーシップに帰還したノトドンから地上の映像が届いた。
「艦長、プリンセスたちが行っているであろう、地球の北部の島国、「日本」の石川県の「能登」の画像です。信じられないことなのですが…。」
と再生された映像を見て艦長は言葉を失った。
「な、なんだこの状況は…。それに本当にこれはプリンセス達なのか…?」

 本星宇宙軍CICの大型モニターでリトルシップ遭難からの約5日分の動画が短縮で 
再生されたところで一時停止させた。ノトドンが言うには、艦長は中規模母艦を数隻地球周辺に残し、本星への帰還を決定したとのことだった。大型の母艦の方がワープ距離が長く、本星迄1カ月以上かかる中規模母艦に対し、20日で2800光年を航行できる母艦の方がより早く現状を伝えられると判断したからだった。
「ここからショッキングな動画が続きます。どうか冷静に御視聴の上、分析、判断に誤りがないかご確認いただけますようお願いいたします。
と断りを入れるとノトドンは動画を再度スタートさせた。
 
 大型モニターに「崩れた山々」、「寸断された道路」そして「建物が瓦解した街並み」に「焼け落ちた街」、「津波で流された街」が次々に映し出された。
「なんだこの瓦礫の山は?ここは現在の地球の中で戦争中のウクライナかイスラエルのガザなのか?まるで爆撃された街…。「戦場」そのものじゃないか?
プリンセスたちは地球上でも「平和」で有名な「日本」に遊びに行ったんやなかったんかいな?「ホットスパに入って、旨い食い物と酒を楽しんでくるわ。」と言っていたはずやぞ。いったい何が起こっているんや?」
カズーシ大統領は両の拳を震わせながらうなった。

 悲惨な状況の街の動画の最後に映し出された、仮設テントに群がる人々の姿が映し出された。
「おい、今のシーンを巻き戻し再生するんや。」
カズーシが叫ぶと、オペレーターが画像をゆっくりと巻き戻した。(やはりそうなんだ。実の父である大統領が見間違うはずはない。いったい、大統領はこの状況をどう判断するんだ…?)ノトドンは後に発せられる大統領の言葉を想像すると背中に冷たい汗が流れた。
「そこだ、ストップ!止めろ!エプロンの娘と配膳をしている男にズームしろ!」
 カズーシが停止させた画面に映し出されていたのは、白い災害用仮設テントの下で、集まった多くの老人や子供たちに「ちまきの握り飯」や「蒸しパン」に「汁物」らしきものを配布するニコニーコ大統領の4人娘の内、第3王女ナチュコ、第4王女ピナと従者のチャプローの3人の姿だった。
 力なく大統領は膝から床に崩れ落ちた。
「ナチュコ、ピナ…。な、なぜ、こんなところで娘たちが配食労働などさせられているのだ…。戦地で「捕虜」になり、強制的に「奴隷労働」をさせられているとでもいうのか…。それに従者のチャプローまで…。」
さらに映像再生を進めると、場所を移して瓦礫を撤去する第1王女マリーアと第2王女ピヨの姿も確認できた。白い作業用ヘルメットを被り、煤だらけになりながら白い息を吐き、道路を塞ぐ倒壊家屋の瓦や柱を運んでいる姿に、大統領の目から涙が溢れた。(まずは4人とも生きているのがわかってよかった…。だがしかし、私の大事な娘たちに下等労働使役を強いる地球人は許すわけにはいけへんぞ!)左の拳をわなわなと震わせつつ、右腕を突き出し参謀長に向かって叫んだ。

「おい、今すぐ、太陽系方面作戦司令部メンバーと本国近衛師団攻撃隊司令を呼べ!我が、ニコニーコ公国の王女と知っての仕打ちであれば地球人を許すわけにはいけへん!情報収集を続けると同時に、攻撃隊を組織し太陽系に向かう準備に入るんや!」




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