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極悪チャイルドマーケット殲滅戦!四人四様の催眠術のかかり方!

「セカンドバッグ」

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「セカンドバッグ」
  午前七時八分、稀世が向日葵寿司の引き戸を開けると「きゃーっ!」と夏子の悲鳴が聞こえた。ガタン、ゴトンと物がぶつかる音が聞こえたと思うと、三朗が頭を抱えて、飛び出してきた。その三朗を追いかけて、左手一本で胸を隠し、真っ赤なパンティー1枚の姿で夏子が右手にビール瓶を持って駆け出てきた。店の入り口に立つ稀世に三朗が、
「あぁ、稀世さん、みんなに言ってくれてなかったんですか?僕が帰ってトイレ入ろうとしたら、両乳首に妖怪の「目玉お父さん」の絵描いた裸のなっちゃんが入ってて、ブリブリってしてたんですよ…。」
と、稀世の背後に隠れ込んだ。夏子は怒りの表情でビール瓶を三朗に投げつけた。間一髪のところで、稀世が瓶を片手ではじいた。ゴン、と鈍い音を立てて、床に落ちた。
「なっちゃん、そんなことしてんと、はよ上がって服着ておいで。その格好で居られたら、サブちゃん入られへんやんか。ちなみに、お尻は拭いたんか?ちょっと臭うで。」
  夏子は真っ赤になってトイレに駆け込んだ。(あぁ、まだ拭いてなかったんやな…。)稀世は、一階から二階の部屋に向かって
「直さーん、まりあさーん、陽菜ちゃーん、みんな起きてる?サブちゃん帰ってきたから、上がるけどええかなぁ?」
「おっ、アホぼん、帰ってきたんか!はよ上がってこい、おもろいもん見れるぞ!」
楽しそうな直の声がした。
「そうそう、サブちゃん、今すぐ二階にダッシュや!」
まりあの声に陽菜の悲鳴が続いた。
「あー、三朗兄さん、今上がってきたらあかん!私、今、すっ裸やし、顔に変な落書きされてるし、ちょっと待って!」
「なんかおもろそうやな、サブちゃんちょっと待っててな。先に私が様子見てくるわ。」
  稀世が二階に上がると同時に、稀世が三朗を呼んだ。
「ギャハハハハ、陽菜ちゃん何その格好と顔!こりゃ見とかなあかんわ。サブちゃーん、はよ上がっておいで!」
「あーん、稀世姉さんまでやめてくださいよ。三朗兄さん、絶対上がってきたらあきませんよ!」
と陽菜の半泣きの声が響いた。三朗がどうしていいのか店のカウンターの奥で立ち尽くしていると、二分後に、陽菜がタンクトップに短パン姿で顔を隠して降りてきた。何が起こっているのか理解できていない三朗に、「絶対に見ないでくださいね。」と一礼して洗面所にこそこそと駆け込んでいく。陽菜の背中越しに鏡に映った顔が見るともなく三朗の視界に入り、思わず吹き出してしまった。
「あー、三朗兄さん見たなー!」
と怒って振り返った陽菜の顔には、黒の太いマジックで瞼に大きな目と長いまつげがかかれ、ほほと鼻の下には、ひげと鼻毛が書き込まれていた。さらに赤いマジックで、口は耳の前まで横線が入り、かつて流行った「口裂け女」風の落書きに笑いが止まらないでいると、いたずらされた素顔をさらしてしまったことに気づいて顔を洗面所に顔を伏せた。(あーあ、昨晩いったい何があったんや。なっちゃんの乳首の「目玉お父さん」の絵と言い、陽菜ちゃんの顔のいたずら書きといい、きっと直さんとまりあさんの仕業やろうし…。昨晩の女子会は、相当乱れてたんやろうなぁ…。)三朗は直感で夏子と陽菜の状況を理解した。
「上がりますよー。今度こそいいですか?」
改めて三朗が声をかけると、まりあから
「ノープロやでー。夏子と陽菜が上がってくる前に、はよ上がっておいで。」
と声がかかった。トイレの中から夏子が、洗面所から陽菜が、「あかーん、まりあさん、絶対見せんといてやー。」と大声を出したが、三朗が二階に上がると同時に、稀世と三朗の爆笑が一階のふたりに聞こえたが、トイレで上半身裸の夏子と顔の落書きを落とすのに必死な陽菜のふたりには、どうしようもなかった。
  直とまりあから見せられた、スマホの動画は、すさまじいもので、若い女の子の尊厳を全て破壊しつくす壮絶なものだった。酔っ払い、裸で騒ぎまくり、直をまりあにいいようにやられている夏子と陽菜の姿に(あぁ、女子会って恐ろしいなぁ…。けど、なっちゃんも陽菜ちゃんも稀世さんと比べたら悪いけど、ぺったんこやな…。これじゃ、何の反応もせえへん…。ごめんな、なっちゃん、陽菜ちゃん…。)と三朗は思った。
  二十分かけてようやく陽菜が、ようやく顔を洗い終わり二階に上がってきた。夏子のTシャツを持ち、一度トイレに降りると、ふたりでうつむき加減に上がってきて、ふたりが笑っている直とまりあに聞いた。
「ど、どこまで見せたんですか…。」
「夏子と陽菜が仕組んだ王様ゲームの中盤までの半分や。夏子のバッグからロイヒマーカーとブラックライトのキーホルダー出てきてからくりが分かったわ。面倒くさい前振りしやがって。とっておきはまだ残してる。これに懲りたら、わしら相手に「イカサマ」なんか二度とせんことやな。」
「せやせや、買い物の女王様ゲームのときは問題なかったくじ棒が、現金賭け出したらいきなり、あんたらふたり勝ちまくるから直さんとおかしいって思てたんや。因果応報ちゅうやつやな。陽菜も舩阪君にこの動画見せられたくなかったら、この先、私らにふざけた真似せんことやな。」
と直とまりあが夏子、陽菜を突き放すように言った。割りばしのくじ棒に「ロイヒマーカー」という「ブラックライト」を当てると発光する無色透明のペンでマーキングして、直、まりあから賭けをしてかなりの額を巻き上げようとしたとのことだった。その後、直とまりあが続けて稀世に聞いた。
「ところで、わし起きたら稀世ちゃんおれへんかったけど、三朗を迎えに行ってたんか?なんか朝早うにごそごそしてたやないか?」
「そうやね、稀世、六時前に出て行ってへんかったか?まあ、私もそのあと二度寝に入ってしもたからようわからんけど…。でも、サブちゃんの方が先に帰ってきてたやん。稀世と駅ですれ違いかなんかか?」
不思議な顔をしているふたりに、稀世は、
「あれ?書置き読んでくれてへんの?いや、直さん、稀世さん、朝一から変なことあって…。サブちゃんも聞いてくれる?えっとね…。」
  
  稀世は、朝一に坂井から電話をもらったところから、門真総合病院で見たものを「羽藤が来たこと」以外をかいつまんで話した。
「三朗、お前、先代から「腹違いの兄弟がおる」とか「生まれたときは双子でひとりが誘拐された」とかいう話聞いてへんか?」
「いっちょ、わしらも偽三朗見に行ってみよか?」
「このアホづらがもうひとりこの門真におるっちゅうのが笑えんなぁ。」
と笑いながら直が連続して茶化した。三朗は返答に詰まり、稀世も明確な回答のしようがない旨を説明した。
  直の根拠のない予測のバカ話の最中に稀世が、ふと三朗のキャリーバッグの上に置かれた革製っぽい「セカンドバッグ」に気がついた。
「サブちゃん、そのセカンドバッグ何?そんなん持ってたっけ?」
稀世が三朗に聞いた。三朗が、セカンドバッグを手に取り、数分前の出来事を話した。
「淀屋橋駅から京阪電車乗って帰ってきて、門真市駅の改札出たら、改札出たところのコンビニから出てきた金髪ロン毛の若い兄ちゃんから、「お兄さん、昨日は大丈夫やった?あんまり無茶苦茶な飲み方したらあかんで。これ、忘れとったでなぁ。スマホとUSBメモリー入ってたからなぁ。大事なもんやろ。まぁ、渡せてよかったわ。じゃぁ、俺は、帰って寝るんで、おやすみ。」って言われて、訳もわからず渡されたんです。そのままその兄ちゃん、改札入っていってしもたから、あとで交番に届けようと思ってたんですよ。」
「サブちゃん、中見たん?」
「うん、その兄ちゃん言うように、古いスマホとUSBメモリーとなんかメモ書いた紙ナプキンが入ってました。」
「ふーん、何やったんかなぁ。その金髪ロン毛の兄ちゃんは、明らかにサブちゃんと分かってそのバッグ渡してきたんやろ?直さん、どない思う?」
「なんか、金目の物やなかったんか?(中身を見て)古いスマホとUSBメモリーか…。バッグも合成皮革の安もんやなぁ。」
「三朗兄さん、そのスマホとUSB見てみようや。もしかしたら、届けたらお礼もらえるようなものかもしれへんで。」
夏子と陽菜が興味を持った。
「まあ、本来の持ち主が確定できるものがあれば、警察に持っていくよりそっちの方が早いやろ。三朗、それ出して、夏子と陽菜に見てもらえや。まりあちゃんも稀世ちゃんもそれでええよな。」

 夏子と陽菜がバッグをそのまま三朗から受け取った。
「こりゃ、いつぞやの貧乏やくざの使ってたスマホと同じころのアイフォーンやなぁ。昨晩、着信履歴、二回入ってるなぁ。あっ、あかん、バッテリ残量2%や。陽菜ちゃん、充電かけといて。(夏子は陽菜に古いアイフォーンを渡した。)まぁ、それは後回しにして…USBは64GBか。結構でかいデータが入ってるかわからんなぁ…。三朗兄さん、パソコン借りていい?」
夏子が三朗のノートパソコンを開き、USBを差し込んだ。
「USBはなんかフォルダひとつだけ入ってるなぁ。プロパティーみたら、結構容量食ってんなぁ…。ん?「C-MART」やて。カタログか通販データかなんかかな?ありゃ、開封パスワードかかってるわ。四ケタやから、もし見る気あったら、一万通りやから、最悪四時間もあれば開けられるけどどうする?」
「なっちゃん、そのパスワードって、この紙ナプキンに書いてあるこの数字とちゃうんかなぁ?ふたつあるけど、どうやろか?」
と陽菜がセカンドバッグの中に入っていた紙ナプキンに書かれた、二つの数字を夏子に見せた。
「おっ、それっぽいなぁ。ダメもとで入れてみよか。なになに、「×○○△」と…。おっ、ビンゴ!開いたで。一発目でヒットや。」
 フォルダを開くと再び「C-MART」のファイル名のアイコンが出てきた。夏子が三朗に聞いた。
「三朗兄さん、このパソコン、ウイルス対応ソフト入ってる?何が出るかわからへんから、大事なファイルあったら、バックアップ先にとっておくで。」
「あぁ、帳簿はバックアップとってるし、確定申告データも大丈夫や。もう買い替えようと思ってたところやから、好きにしてええよ。忘れて行った人が困ってるかもしれへんから…、まあ持ち主につながるかわからへんけど気にせんと早く開いたって。」
「じゃあ、クリック。ありゃ、もう一回パスワードやな。これも四ケタいうことは、紙ナプキンのもうひとつのメモの「□○□×」で…、はい、ビンゴ!さあ開くで。」
「えっ、なにこのタイトル?変な奴ちゃうの?」
稀世が夏子に問いかけた。
「確かに、稀世姉さんが言うように、かなり怪しい臭いがプンプンするなぁ。」
とログインボタンをクリックした。
「ん!開いたらあかんもん開けてしもたんとちゃうか…。」
直が難しい顔をして、呟いた。

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エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:28

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