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極悪チャイルドマーケット殲滅戦!四人四様の催眠術のかかり方!

「門真総合病院ICU」

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「門真総合病院ICU」
  9月23日午前五時四十分。稀世のスマホに、坂井から電話かかってきた。稀世は、スマホの画面を確認して(えっ?まだ五時四十分やで…、いったい坂井さん何の用事やろか…。)大きなあくびをしてスマホを取った。
「朝早くにすいません。長井稀世さんの携帯電話ですね。落ち着いて聞いてくださいね。三朗さんが、門真のビジネスホテルで暴行され、意識不明で門真総合病院に搬送されたんです。」
「えっ?坂井さん、サブちゃんは、昨日から東京に行ってますけど。」
「僕自身、この目で三朗さんを確認してきています。僕も門真総合病院に向かってます。とにかく病院へ行ってください。お願いしますよ。」
電話が切れた。まだ部屋の中では、直、まりあ、夏子、陽菜はいびきをかいて雑魚寝で寝ている。稀世は、「大阪府警の坂井さんから、サブちゃんが門真総合病院に運び込まれたと連絡がありました。状況がよくわからないのでとりあえず行ってきます。稀世。」と書き置きして、眠っている四人を残し、ニコニコプロレスのTシャツと短パンに着替え、走って病院へむかった。
 ICUに入ると看護師の奥村みゆきがいた。みゆきから稀世が三朗の身体状況説明を受けていると、大阪府警の坂井が息を切らせてやってきた。坂井から事件の経緯を聞き、その後、昨日の三朗の状況と直近の行動について聞かれた。そこで突然の心停止があり、ドクターとみゆきの必死の蘇生行為が行われた。稀世は、心臓マッサージを受ける三朗の左手をじっと握って、心臓の再鼓動を祈った。ドクターたちの懸命の治療により心臓が再度鼓動を取り戻した後、稀世は「こんなのサブちゃんと違う!」と叫びだした。稀世がパニックを起こしたと思われ、鎮静剤投与され少し落ち着いた事を確認し、ドクターはICUを退出した。

  ICU内に残ったみゆきと坂井に稀世は問われた。
「稀世さん、落ち着いてる?改めて聞かせてもらうけど、三朗さんじゃないってどういうこと?」
「サブちゃんは、絶対に香料入りの整髪料や香水はつけへんねん。最初、気が付けへんかったけど、この人、うっすらと柑橘系の香水と整髪料の匂いがしてるやん。サブちゃんいつも言ってたんや…。「寿司に匂いが移るから香水や匂い付きの整髪料は絶対ダメや。」ってお義父さんにも師匠にも厳しく言われてきたって。私も三年間、一度も香料入りの整髪料や香水をつけてるのを見たことあれへんもん。」
「当日着ていた高級品の数々も含めて、稀世さんの前で言うのははばかられますが、三朗君に金持ちのパトロンがついていて、その女の趣味でつけられた可能性も…。」
坂井が言い始めたが、稀世は、遮ぎった。
「匂いや所持品はともかく、手が違うねん。この人、左手の手のひらの中央部から手首手前の手根に大きなタコがある。お寿司屋さんのサブちゃんには、ありえへんタコや。いつも寝るとき、サブちゃんの左手握って寝てるからわかるんやけど、サブちゃんの手は、柔らかいお寿司屋さんの手やねん。この人のごつごつした左手のこのタコは、一日でできるようなもんやない。おまけに結婚指輪の跡があった。寿司屋は指輪せえへんしな。」
坂井がベッドに横たわる男の左手を確認した。
「これは、「グリップダコ」ですねぇ。よっぽどゴルフをやり込んでる人にできる「グリップダコ」です。あと、稀世さんが言うように、確かに薬指に指輪の跡がしっかりと残ってる。日頃、三朗さんが指輪をしていなかったとするならば、これも、一日でつくもんじゃないですね。」
  坂井も首をひねった。みゆきが坂井に問いかけた。
「じゃあ、この三朗さんそっくりな人はいったい誰なの?」
「まあ、世の中にはそっくりな人が三人は居るっていうし…。「ドッペルゲンガー」ってそっくりさんを現す言葉もあるくらいやから、三朗さんのそっくりさんってことか…。」
「だって、宿帳は無茶苦茶、身分を示すものは何一つなく、奥さんの稀世さんが「違う」っていうなら、他人の空似ってことですよね?」

  坂井とみゆきが頭をひねっていると、突然、稀世のスマホが鳴った。稀世は、着信画面に「サブちゃん」と表示されているのを確認して電話に出た。
「もしもし、サブちゃん?生きてるサブちゃんやんなぁ?」
「あぁ、稀世さん、さっきはごめんなさい。ちょうど、バッテリーがあがっちゃって。今、コンビニで予備バッテリー買って繋ぎましたので、もう大丈夫ですよ。それにしても「生きてるサブちゃん」ってなんですか?
  僕はぴんぴんしてますよ。ついさっき、阪急三番街の高速バス降り場に着きましたから、淀屋橋まで歩いて京阪電車に乗りますね。早かったら三十分くらいで帰りますんで、みんな起こしておいてくださいね。
  帰って、なっちゃんや陽菜ちゃん裸で寝てたら具合悪いですから、お願いしますよ。」
「もしもし、ほんまにサブちゃん?ほんまにサブちゃんやんなぁ?」
「稀世さん、何変なこと言うてはるんですか?うそもほんまもありませんよ。僕は僕ですよ。着信、僕の名前出てませんか?」
「うん、ほんまにサブちゃんや。あぁ、よかった…。」
稀世は気が緩んだのか、その場で倒れてしまった。稀世のスマホの向こうで、「稀世さん、稀世さん、何があったんですか?もしもーし。あれー、なんか電話調子悪いんかなあ。」と三朗の声が聞こえた後、電話は切れ、「とにかく今から帰ります。」とラインの着信メッセージが表示された。
  みゆきが稀世を抱き起し、声をかけるが反応がない。みゆきはすぐに稀世の呼吸、脈を確認し、心配する坂井に答えた。
「呼吸、脈はしっかりしてるので大丈夫ですよ。三朗さんの声を聞いて、気が緩んだのだと思います。」
「それはよかった。ただ、今の稀世さんへの電話が三朗さんからなら、この三朗さんにそっくりな男はいったい何者なんだ…。」
  その時、坂井の携帯が鳴った。
「はい、坂井です。(・・・)えっ、なんだって!(・・・)わかった、すぐにそちらに戻る。」
と言い電話を切ると、みゆきに
「稀世さんのことお願いします。ちょっと事件のことですぐに現場に戻らないといけなくなりましたので、失礼いたします。」
と言い残し、坂井は駆け足でICUを出て行った。

  坂井と入れ違いに、今度は羽藤が駆け込んできた。ベッドに寝ている男を見て
「えっ?…三朗君?」
とつぶやいた。ちょうど意識を取り戻した稀世が、羽藤に気づき
「えっ?羽藤さん?いったいどうしてここに?」
「三朗君どうしたんですか?」
「いや、その人、うちのサブちゃんやないんです。めちゃくちゃ似てますけど…。」
「というと…?」
  稀世は、羽藤に一通りの経緯を話すと、羽藤は、
「稀世さん、私がここに来たことは、誰にも内緒にしておいてください。もちろん、三朗君や直師範にもですよ。よろしくお願いします。」
と深々と一礼し、羽藤も出て行った。
  羽藤の突然のよくわからない訪問に、あっけにとられた稀世は、気を取り直し、みゆきにお礼とお詫びを言うとスマホを見た。
「わー、もう七時五分やん。あっ、サブちゃん、淀屋橋出たってライン入ってるわ。はよ帰らな、サブちゃん帰ってきてまうわ!じゃあ、みゆきさんお騒がせしてごめんね。また、お詫びするから、武雄君と凛ちゃん連れてお店に来てね。」
と言い残し、急いでICUを出て行った。

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エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:28

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