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極悪チャイルドマーケット殲滅戦!四人四様の催眠術のかかり方!

「C-MARTと明日香・ルース」

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「C-MARTと明日香・ルース」
 直が開いたファイルのホーム画面を端から順に読み上げた。
「C-MART(チャイルド・マーケット)へようこそ。私たちは、あなた好みの子供をご用意いたします。サンプル確認、ご購入につきましては、お渡ししたスマートフォンからのご連絡のみの受付となります。なお、詳細な個人情報につきましては、会員登録された方のみへの公開となりますので、当ファイルは、たとえ身内といえど閲覧させることのないようにお願いいたします。ご購入いただきました、商品の所有権につきましては、会員様のものとなりますが、「スナッフ」、「臓器使用」等のご利用で廃棄物が発生した際、また「愛玩商品」扱いで「飽きが来た」、「嗜好が変わった」等、商品が不必要になった場合には当社にて商品を処理いたしますので、独自に廃棄すること無いようご協力の程、よろしくお願いします…。
  ってなんやこれは! 「スナッフ」に「臓器使用」に「愛玩商品」やとーっ!おい、三朗、お前なんちゅうもん持っとんねや。事情によっては許さへんぞ!」
  大激怒した、直が三朗のシャツの襟をつかみ怒りの声を上げた。返す言葉もなく、なすがままにされる三朗。慌てて、稀世が直の腕をつかみ三朗を庇った。まりあも夏子、陽菜もその勢いに押され声が出ない。
「な、直さん、サブちゃんは、これ預かっただけで、サブちゃんの持ち物とちゃうねんで!そこわかってる?直さん、ちょっと落ち着いてよ!急に怒り出したけど、いったい何なん?「スナッフ」って何?あと、「臓器」とか「愛玩」って言ってたけど、「ホルモン系の肉屋」か「ペットショップ」の商品ファイルなん?」
「き、稀世ちゃん、このファイルなぁ、考えたくないねんけど、えらいもんかもしれへんで…。これをどうするもんか…。」
「えっ?」
 直が、説明を止め、パソコンを操作し始めた。ホーム画面の「ユーザーID」の表示の下の「入り口」ボタンをクリックし、画面が変わった。
 背景一面に多数の子供たちの写真が並んでいる画面の中央に登録商品数「9月22日時点、51名」と表示され、その下に「検索方法選択」とあり「総閲覧」、「条件検索」とボタンがある。直は、全員がのぞき込むパソコンの画面上のカーソルを「総閲覧」に移動させクリックした。
 エクセル画面のような四角い罫線に囲まれたリストが出てきた。リストの最上段には、左から「現在通し番号」、「商品登録番号」、「氏名」、「現状」、「性別」、「年齢」、「血液型」、「健康状態」、「生体情報詳細」、「画像」、「動画」とあり、その下の一番上には、「1」、「23002」、「相田瑠奈」、「販売中」「女」、「5」、「RH+A」、「良好」、「有り」そして「幼い少女の写真」が二枚、バストアップと全身像の正面写真が掲載されている。「動画」の項目は「有り」となっている。
 そのような、リストが五人分表示されている。幼児から小学生くらいまでの男女でそこに統一感はない。五人目のリストの下に「戻る」、「1・2・3・4・5・6・7・8・9・10・11」、「次へ」とボタンがある。直は、一番上に表示されているリストの「相田瑠奈」の名前をクリックした。
 正面からの顔写真が左上に表示された横に、パーソナルデータが並ぶ。「生体情報詳細」ボタンを直がクリックすると、医療レコードと電子カルテらしきものが表示された。画面を見る五人にはその詳細はわからないが、「血液検査の結果」らしきものと、「検査日」、「検査機関」との表記があり、何がしらの医療に関わるものであることは間違いないものと判断した。
 「画像」、「動画」は、着衣のもの、全裸のもの等、複数のファイルが表示された。だれも、ひとことも言葉を発することなく、直が次々とクリックしていく画面を注視した。「相田瑠奈」のファイルを閉じ、「現在通し番号」2の「宇山誠也」をクリックすると、今度は6歳の男の子のファイルが開いた。さっき見た「相田瑠奈」と同様に多数の項目が次々と表示され続けた。(単なるロリコン相手のエロビデオやない…。女の子だけやなく、男の子もあるんか…。これは、かなり奥が深い…。それに、医療レコードまで…。「スナッフ」、「臓器」、「愛玩」というキーワードからして、もうわしらの手に負える話とちゃう。さっさと坂井さんに投げてしまうか…。)直は、考えながら、画面を流し読みしていった。
「一覧表示のリストの人数に出ている、五十一人の子供たちが、何がしらの目的で販売されとるんや。わしが予想するには、子供の「臓器売買」と「愛玩」いうのは「性的倒錯者」むけに子供を売っとんねやろ…。「スナッフ」いうのはよおわからんが、このファイルから足が付くような「へま」はしとらんやろうから、わしらにできることは、警察にこれを届けるまでやろな…。」
直がページを次々と繰りながら、力なく言った瞬間、稀世が叫んだ。
「直さん、今の「現状」ってとこもう一回クリックして。」
「なんや、ここか?」
と直がクリックした。「受付中」、「予約・商談中」のボタンが出た。稀世が、
「直さん、「予約・商談中」をもう一回クリックして。」
直が「予約・商談中」をクリックすると、「現在5件」とあり、五名の一覧リストが表示された。稀世が、直を押しのけ、パソコン正面に割り込み画面の前で固まった。(・・・・・・・、こ、この子・・・・・)稀世が、小刻みに震える。
「稀世さん、どうしたんですか?なにか気になることでもあったんですか?」
三朗が聞いた。稀世は、リストの最下段を指さし、
「こ、このル、ル、ルース・明日香って、あ、あの明日香ちゃんとちゃうの…。」
と呟いた。三朗が稀世の横から画面を覗き込んだ。
「えっ?一昨日、こども食堂にお母さんが探しに来てたハーフの女の子ですか?稀世さん、この写真じゃ小さくてわかりにくいですから、「画像」か「動画」をクリックしてくださいよ。」
 稀世がおそるおそる「動画」をクリックした。ムービー画面に移り、よく知った明日香の顔が映った。再生ボタンを押すと「明日香・ルース、五才の女の子です。犬と遊ぶのが好きです。」と正面を向いた明日香が無表情に話す。続いて全裸でカメラの前で黙ってゆっくりと一回転まわり動画は終わった。
「な、なんやこれ!明日香ちゃん、どないされてしもたんや!」
稀世が呻いた。直が「稀世ちゃん、ちょっと代わってくれ。」と五名の一覧表示画面から、「ルース明日香」の名前をクリックし直した。明日香のパーソナルデータが、表示された。画面の上部に「予約・商談中」の文字が点滅している。情報登録日は、明日香の母親の今日子が、向日葵寿司に「明日香が来ていないか?」と探しに来た「9月21日」となっている。(明日香ちゃんは、21日にC-MARTに誘拐されたんや…、それで売りに出されて、今、売買の対象になってしもてんの…。)稀世の頭は混乱した。詳細画面を、詳しく見ていくと、医療レコードは、過去に何度か見た門真総合病院の電子カルテと同じフォーマットのものが表示された。作成日も直近の検査日であろう日付けになっている。
「あ、明日香ちゃん…。」
稀世は、それ以上の言葉が出てこなかった。

 沈黙の時間が流れる中、夏子が自分のスマホをググって声を上げた。
「直さん、「スナッフ」ってこれちゃうかなぁ。えーとねぇ、「スナッフフィルムとは、娯楽用途に流通させることを目的で実際の殺人の様子を撮影した「快楽殺人動画」、「猟奇殺人動画」等の映像ソフトの俗語である。「セックスサディスト物」や「「チャイルドポルノ」を基にしたものも多い。アメリカの連続殺人犯のデッド・バンディが愛好者であったことが有名である。最近では、「ウクライナ21」という殺人ビデオがネット上で公開され一般に知られることとなった。」ってあるわ…。」
「夏子、今なんて言った!「実際の殺人の様子を撮影した」やと!明日香ちゃんが、その対象になりえることがあるちゅうんか!」
  稀世が我を忘れて、夏子に掴みかかる。慌てて、三朗とまりあが止めに入った。
「稀世さん、なっちゃんは「スナッフ」について調べたことを読み上げただけですよ。落ち着いてください。」
「稀世!サブちゃんが言うように、落ち着くんや!明日香ちゃんが「スナッフ」の対象になったと決まったわけやあれへん!」
ふたりに羽交い絞めにされた、稀世は、急にのど元にすっぱいものを感じ、ふたりを跳ねのけキッチンのシンクに走り、嘔吐した。
「そ、そんなん酷い、酷すぎるわ…、あ、明日香ちゃん、お願いやから、無事でおって・・・。」
朝から何も食べていないため、黄色い胃液しか出なかったが、頭の中でぐるぐると回る「よからぬ想像」からの「おぞましい光景」により稀世は、吐き続けた。
「お母さん、どうしたん?ゲーゲーしてんの?なんか悪いもん食べたん?」
 騒ぎで目を覚ましたひまわりが部屋に入ってきて稀世の足に掴まり心配そうに見上げている。
「ごめんね、ひまちゃん。うるさくしてしもて…。何でもないんよ…。」
とだけ返して、水栓を開いた。シンク横の食器かごのグラスに水を注ぎ、口を漱いだ。三朗も心配そうに、稀世の顔を見ている。
「ひまちゃんは、お父さんとちょっと奥の部屋でお着替えに行こうな。」
と三朗が、ひまわりの手を引き、奥の部屋へ移動した。うがいでやや落ち着きを取り戻した稀世は、パソコンの前に戻り、泣きながら、直に言った。
「直さん、坂井さんへの連絡はよしとして、明日香ちゃんが絡んだ以上、これは身内の事件や。もしかしたらひまちゃんがその被害者やったかもしれへん…。そんな事件が門真で起こってるんや。警察任せだけやなく、私らも動こう。明日香ちゃんは、私らの手で助け出さんとあかん。ましてや、子供たちの命や体を売り物にするような奴は絶対に許されへん。直さん、知恵と力を貸して。お願いやから!」
「あぁ、子供は社会の宝や!その宝をおもちゃにしたり、金もうけの商品にするような奴は、わしも許されへん。ましてや、これを見る限り、五十一人の子供が助けを待ってるはずや。稀世ちゃん、一緒に戦おう!
  そこでやが、夏子、陽菜、このファイルお前らふたりで徹底的に分析して、作成者や取扱者のコンタクト方法を調べろ。稀世は、明日香のお母さんの今日子はんに電話して、明日香が、今、家に居るんかを念のため確認せえ!くれぐれも余計な心配かけるような話し方はするんやないで。わかったな!」
「うん!」
 稀世、夏子、陽菜は同時に頷いた。
「さて、まりあちゃんは、わしと金城事務所行ってくれるか。あそこの先生ら、こういったアングラネタにも明るいから、まずは情報収集や。ちょっと早い時間やけど、今から行くぞ。朝九時には、いったん戻る。それまで各自でやれることやっとけ。」
 直とまりあは、さっと着替えて店を出て行った。時計は、午前八時をさしていた。

 午前九時、稀世と夏子、陽菜の作業は行き詰まっていた。稀世が今日子に電話したところ、やはり一昨日の幼稚園終了から後、明日香は自宅に戻っておらず、今日子は、警察に捜索願を出した。警察は、事件と事故で捜索しているという事以上は何も情報はなかった。(凛ちゃんの時と違い、身代金目的の誘拐ではなさそうやな…。余計にまずい、早くしないと…。)と稀世は思った。
  夏子を中心にシステムを分析していったが、ファイルは市販のマイクロソフト社のファイル管理ソフトで作成されており、ファイル制作者名は「D」とあるだけで、製作者特定できる情報は得られなかった。画像の撮影日時や位置情報は削除されていた。ありとあらゆるページを閲覧したが、メールアドレスや問い合わせフォームや連絡先の記載は一切発見できなかった。
 一般的なネット検索でも「C-MART」を調べたが、コンビニエンスストアの小売店支援システムという全く関係のなさそうな東北の会社の情報とキッズ・マタニティー関連商品の合同展示販売イベントの情報くらいで有益なものは見つけられなかった。(あとは、金城司法書士事務所の森先生と副島のおっちゃんの情報待ちか…。)稀世は焦った。三朗は、ひまわりを連れて、一階で仕込み作業を行っている。
「おう、帰ったぞ。上がらせてもらうで。」
  一階から直の声が聞こえた。まりあと一緒に難しい顔で部屋に入ってきた。先に、稀世が「明日香は一昨日に幼稚園を出てから家には戻ってないって。母親の今日子さんが警察に捜索願を出したんやけど、今朝の時点では何の情報もあれへんって。」と報告した。続いて、夏子と陽菜が、ファイル分析の結果、製作者が「D」となっている以外に、何らコンタクトにつながる情報は得られなかった旨が、語られた。直が、一杯の緑茶をすすり、
「森先生と副島はんのところでは、はっきりとした情報は得られへんかった。ただ、闇社会では、「日本人の
子供」を「性的倒錯者の愛玩物扱い小児」として売り飛ばしたり、「チャイルドポルノ」のモデルとして誘拐したり、考えたくもないが子供物の「スナッフフィルム」も存在するということを聞いてきた。
 あと、先生たちのとこに、「難病患者会」やその家族会の名簿の買い付けや、販売の怪しい業者が来たことは、あるっちゅうことやった。「国際ドナー検索ネットワーク」って名乗っとったそうやが、おそらく、臓器売買の闇のネットワークで、大人のものは、隣の国に行けばいくらでも、特定の民族に政治的な罪状つけて逮捕、裁判もろくにせんと死刑判決ってな。やりたい放題な国の制度を悪用して、強制的にドナーを作り出すんやと。残念な話やが、一部の日本人の金持ちもその制度を利用することがあるらしいわ…。
 せやけど、その国でも、さすがに子供は罪に問われへんいう事で、ドナーが作られへんから、余計に高値がつくってな…。そこで国内で「誘拐」する非合法組織があるっちゅう噂があるんやと。昔、都市伝説になった、東京の「夢の国」では、園内での子供の誘拐を防ぐために「子供用の靴は売らへん。」いう話も生々しく聞いてきたわ。」
と一気に話し切った。(結局、明日香ちゃんに繋がる情報はなんも無しか…。)稀世はギリギリと奥歯をかみしめた。

 午前九時半、一階から三朗が仕込みを終え、ひまわりを連れて上がってきた。両手に持ったお盆に五つの小桶がのっている。
「まぁ、皆さん、お腹すいてたらいい考えも出ませんから、チラシ寿司でも食べてください。」
とチラシ寿司用の小桶をテーブルに並べ、ひまわりを奥の部屋に連れて行った。ひまわりの好きな、子供番組のDVDをかけ、「しばらくひとりで見ててな。」と言い残し、三朗は、部屋に戻ってきてみんなに聞いた。
「で、なんか掴めそうなんですか?」
 全員が首を横に振った。

 重苦しい雰囲気の中、稀世のスマホが鳴った。着信は、坂井からのものだった。直は、「まだ坂井さんには何も言うな。」と無言でジェスチャーをした。
「はい、長井です…。」
 坂井からの電話では、今日の夜中、三朗にそっくりな男を襲った犯人が捕まったとのことだった。ニコニコ商店街と大阪中央環状線の道路を挟んだ西側のバーで飲んでいた前科持ちのチンピラが、泥酔しきった被害者の後をつけ、途中、ふらつく被害者を介助してホテルに入り、音を消すためにユニットバスに全開で湯を張り、部屋の電気ポットでベッドにうつぶせに倒れ込んでいる被害者の頭部を殴打し、財布、腕時計、指輪、旅行バッグを盗んで出て行ったとのことだった。路上の、監視カメラとホテルの廊下、エレベーターホールの監視カメラに犯人が映り込んでいたということだった。
 犯人のチンピラをよく知る同僚の刑事がカメラ画像で気がつき、寝込みを襲い、緊急逮捕につながったとの報告と今朝の勘違いに対する詫びの連絡だった。一通りの話を聞いた後、稀世は坂井に聞いた。
「坂井さん、その犯人ってなんかの組織に入ってるような奴やったんですか?被害者の身元につながるようなものは見つかったんですか?」
「いや、破門ヤクザで、今は、一匹もんらしい。被害者の身なり見て、金持ちやと思ってつけて行ったって言ってたらしいです。犯人の部屋にあった被害者の旅行カバン内に現金で八千万円入ってたそうです。これは驚きました。それ以外にもロレックスの腕時計とプラチナベースのエメラルドの指輪と財布から抜き取ったという現金約三十万円を確保しました。被害者の身元につながるようなものは、犯人が先にすべて抜き取り、ごみとして出してしまったようです。
  すでにごみ回収車が来た後だったので、今、ごみ回収車が帰ってくるのを待っている状況です。免許証や、カードの類は朝の回収ゴミに出したようで、ごみ回収のパッカー車が戻ってきたら、2トンのごみのをさらえないといけないので、今日いっぱいはかかると思います。三朗さんは、無事に帰ってきてるんですよね。本当に今朝は、慌てさせてしまって申し訳ありませんでした。」
「はい、サブちゃんは、きちんと帰ってきて普段通りにお店の準備しています。坂井さんも大変やろうけど、頑張ってください。では。」
 稀世は、「三朗そっくりさん」の襲撃犯は捕まり、破門ヤクザの単独犯だったとみんなに伝え、スマホをテーブルに置いた。(!)三朗がひらめき、稀世たちに聞いた。
「そういえば、あのセカンドバッグに入っていた、古いスマホは見たんですか?USBでファイルを最初に開いたときに見たホーム画面で「サンプル確認、ご購入につきましては、お渡ししたスマートフォンからのご連絡のみの受付となります。」ってあったやないですか。そのスマートフォンが、あの古いスマホとちゃいますの?前、なっちゃんが、貧乏ヤクザのスマホでSiri使ったやないですか。あの手は試さはったんですか?」
「あぁ、完全にスマホのことは忘れとったわ。さすが私のサブちゃん!頼りになるわぁ!」
稀世が三朗に抱きついた。「稀世さん、稀世さん、みんなの前ですよ。」と照れた。陽菜が充電を終えたスマホを持ってきた。
「なっちゃん、この機種って、あの手使える奴か?」
「うん、いけると思うわ。みんな静かにしてな。ホームボタンを押して…、やるで…、「Siri、最後にかかってきた電話にかけて」…。」
電話の発信画面に切り替わり、発信先に「D」と出た。陽菜が画面を写メで撮った。コール開始前に、夏子が「Siri、電話を切って。」(よし、切れた糸が、何とか繋がった。明日香ちゃん、絶対に助けるから待っててね。)稀世は、小さくガッツポーズをした。(ん?「D」!)まりあが大きく深呼吸し頭の中を整理して、ゆっくりと話し出した。
「ところで、サブちゃん、このセカンドバッグ、今朝、門真市駅で金髪のお兄ちゃんに「あんまりめちゃくちゃな飲みかたしたらあかんで。」って渡されたんやんなぁ。(頷く三朗)そんで、稀世、もう一回聞くけど、みゆきさんの話では、サブちゃんのそっくりさんは、血中アルコール濃度がどえらい高かったいう話やったんやなぁ。(頷く稀世)
 つまりは、そのサブちゃんのそっくりさんが、昨晩、門真市駅近くのバーで飲み倒して、セカンドバッグを忘れて店を出て、ホテルに帰って、チンピラにやられてしまった。バーの兄ちゃんは、そんなこと知らんから、サブちゃんを見て、昨晩の客であるサブちゃんのそっくりさんと勘違いして、セカンドバッグを渡した。(頷くみんな)
 このUSB内の「C-MART」のファイル制作者が「D」で、このスマホにかけてきた発信者が「D」。つまりは、このスマホが、「C-MART」の「D」というやつと繋がる唯一の連絡手段というわけやなぁ。(頷くみんな)
 昨日サブちゃんのそっくりさんの泊まったコネクティングルームの隣の部屋は、「山本花子」いう女やったなぁ。今から、そのスマホでSiriで電話かけてみて、出たのが「女」やったら、「D」が「山本花子」である可能性が高い。もし、「男」やったら、「山本花子」に「D」と呼ばれる「男」の仲間が居るって言う事や。(頷くみんな)
 明日香ちゃんの失踪が誘拐やとするならば、失踪日と情報掲載日が同じやから、「C-MART」で掲載前提でこの門真で明日香ちゃんを狙って誘拐して、客としてのサブちゃんのそっくりさんを門真に呼び出したっていう事とちゃうか。それなら、明日香ちゃんは、まだ門真周辺に囲われてる可能性が高いと思う。(頷くみんな)
 夏子、さっきの手でもう一回電話をかけることはできるよな。(頷く夏子)サブちゃん、今から「D」に電話をかけて、そっくりさんになりきって電話に出れるかな。そっくりさんが、どこのもんかわからんから、念のため標準語で話してな。あと「金持ち」っぽくな。
  向こうが、こっちの名前を言えば、そいつになりきるんや。例えば相手が「山田」いうたら「山田」、「鈴木」いうたら「鈴木」になりきるんやで。そうすれば、明日香ちゃんとコンタクトできるかもしれへん。
  ただ、ことと次第によっては、相手は相当やばいやつかもしれへんから、嫌やったら、降りてくれてもええよ。絶対無理はせんとって欲しいねんけどな…。危険を伴う話になるかもしれへんから、稀世と一緒にしっかりと考えてや。(ふたりで顔を見合わせ、無言で頷く三朗と稀世)
 そしたら、電話内容を録音できるようにして、「D」とやらに電話をかけてみようや。サブちゃん、大丈夫か?」
「はい、明日香ちゃん救出のため、このニコニコ商店街の平和のため、そして、今も恐怖と闘っている五十一人の子供の命のため、頑張ります。いつも皆さんが命懸けで戦ってきてるのを見てるだけやなくて、今日は、僕も一緒に戦います。」
「よお言うた。三朗!わしは、お前を見直したぞ。今回は、お前がキーマンや頼むぞ!」
直が三朗の背をバシッとたたいた。

 午前十時、夏子がピックアップマイクをスマホの背面に取り付け自分のスマホに繋ぎ、録音を始め、古いスマホのホームボタンを押した。
「Siri、最後にかかってきた電話にかけて。」
 プルルルルルル。コールが鳴った。三朗は緊張の面持ちで次のコールを待った。スマホを持つ手が汗ばみ微妙に震えているのが傍目に見てわかる。五コール目の途中でスマホが繋がった。若い男でボイスチェンジャーがかけられた声だった。
「はい、「D」です。加藤様、決意なされましたか?昨晩、二度お電話させていただいたのですが、お出になられなかったので、悩んでおられるのかと思っておりました。それとも、昨日のバーで飲みすぎてしまいましたか…?」
「あぁ。」
三朗は短く相槌を打った。
「予定通り、本日の夕方四時に桑才新町の倉庫でお嬢さんのお相手をお連れします。桑才新町の倉庫街の南端の倉庫で、現在、「入居者募集中」の看板と赤いのぼりが出ていますのですぐにわかると思います。必ず、おひとりでお越しください。必ずですよ。
  本日、相手の「明日香ちゃん」を確認いただきます。元気でかわいらしい子ですよ。まあ、加藤様には、「かわいらしい」は関係なかったですね。失礼しました。加藤様が本日契約となれば、その時お支払いいただく半金の八千万は現金でお持ちください。残金は、お嬢さんの美月ちゃんの手術が終わった後で結構です。」
「あぁ。」
「今日の契約が終わりましたら、明日は、美月ちゃんと明日香ちゃんを当方の指定する病院でマッチングテストを行います。事前に美月ちゃんにマッチする子として明日香ちゃんを用意していますので、おそらく外れることはないと思われますので、三日後には、移植手術を行います。これで、年末年始には、美月ちゃんと一緒にハワイで泳げますね。
  全国で腎臓の移植を十数万人の患者が待っている中、さすがは関西大手の加藤運輸の社長様です。ちょっとお金を払っていただくだけで、すぐにドナーが見つかる弊社のサービスがお役に立てそうです。ずっと入院中の美月ちゃんと一緒に屋外で遊べるのを楽しみにしていてください。では、本日の午後四時にお待ちしています。」
と言って、「D」との電話は切れた。

 三朗は、気が抜けて椅子にへたり込んだ。
「サブちゃん、ナイス!明日香ちゃんが生きてることはわかったし、今日、会うとこまで進んでしまうなんて、さすが、私のサブちゃんは、そこらの男とちゃうわなぁ!もう、二度惚れしてしもたわ。」
と稀世が背中から三朗に抱き着いた。直が、シビアな顔をして、
「稀世ちゃん、まだスタート地点に着いたばっかりや。相手の人数も組織もわからへんねや。はしゃぐのは後にせぇ。三朗が、「あぁ」って二回言っただけで、勝手に「D」いうやつがしゃべっただけやろ。
 夏子、陽菜、関西の加藤運輸の社長調べろ。あと、娘の「みつき」いうたかな、腎臓って言うてたん調べてみろや。」
「うん、もうやってるで。加藤運輸は、大阪の中では、大手の長距離トラック便の会社で、社長は、「加藤三郎」やて。「加藤茶」の「加藤」に三朗兄さんと違うおおざとの「三郎」やね。会社三代目で三十三歳の若社長って三朗兄さんと一緒やなぁ。顔写真がホームページに出てるけど、ほんま三朗兄さんにそっくりや。ただ、こっちの三朗さんは「大阪の長者番付上位100」にずっと入ってる金持ちやけどな。陽菜ちゃんの方はなんか出た?」
「私の方はスマホでググったんやけど、加藤三郎さんって、「子供難病家族会」の大阪支部の役員やってるわ。娘の「みつき」ちゃんは、「美しい月」って書いて「美月ちゃん」やね。先天性慢性腎不全で五才やて。
  記事読んでみたら、かわいそうやけど、早くに発症して、ずっと入院生活みたい…。助かる可能性は移植しかないみたいやな。子供難病家族会の会報記事で、加藤さんが、「子供の臓器移植ネットワークの国際化の必要性」ってコラム書いてはるわ。」
 まりあがぽつりと呟いた。
「金城事務所の森先生と副島さんが言ってた、子供の「臓器移植」の線が強そうやわねぇ。さっきの明日香ちゃんのC-MARTのデータファイルからして、門真総合病院から漏れたデータ使って、明日香ちゃん狙いで誘拐したんやろ。まぁ、身代金目的やなく臓器売買のために誘拐なんてことやらかす非合法組織のやることやから、腎臓一個取ったら、「明日香ちゃん解放」ってことにはならんやろうから、三日後の手術までに何とかせなあかんっていうのは決まりやわなぁ。」
「だから、まりあさん、警察に任せるより、私らで動かなあきませんよ。警察に任せたら、何日かかるかわからへん。私らは、組織が云々言うより、まずは明日香ちゃんの救出や。まずは、今日は、私らだけで動く作戦をたてましょ。なぁ、サブちゃん、その方がええやんなぁ。」
「うん、僕は稀世さんが一緒やったら、どんな相手でも構いません。今日は、店は夜お休みにして行きましょう。ひまちゃんは、広君のところのかずみさんに預かってもらって、とにかく明日香ちゃんを一分、一秒でも早くお母さんの元に戻してあげましょう。」
 三朗が力強く、直やまりあたちに向かって言った。
「とにかく、相手のことが分からん以上、こっちも動けるもん、集めなあかんな。粋華はアメリカに帰ってしもたところやから、わしは、とりあえず、羽藤を呼ぶわな。
  あいつには、貸しもあるし、仮にC-MARTの連中から変な武器が出てきたときにあいつ居ったら安心やろ。」
「私は、舩君連れてくるわ。舩君居ったら、稀世姉さん、十人分やん。強くて、格好良くて、私のダーリンやからなぁ!」
直と陽菜が言うと、まりあが
「八人か…。子供一人の取引の一回の顔合わせにそうそう大人数来ることはあれへんやろう。羽藤さんと舩阪君居ったら心強いな。夏子と陽菜は、前使った、「熊撃退スプレー」、「スタンガン」装備と「防刃ベスト」着用で参戦や。ありったけの手錠と偵察用ドローンとか使う可能性のあるもの用意してみて。
  サブちゃんも夏子の店で扱ってる「防刃ベスト」は着用な。万一のことがあったら、稀世に恨まれてしまうから、危険を感じたら、サブちゃんは逃げるんやで。サブちゃんは、明日香ちゃんの身柄を確保した後は、坂井さんへの連絡係や。それで作戦を練っていくってことでええかな?」
と全員に問いかけると、皆、一斉に頷いた。

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