あなたならどう生きますか?両想いを確認した直後の「余命半年」宣告

M‐赤井翼

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『あなたならどう生きますか?~両想いを確認した直後に「余命半年」の宣告を受けました~』

1-24「五十五分」

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「五十五分」
 勢いに負けて、三朗が話そうとするが、直に「嘘つき扱い」され、話にならない。そこで、まりあが
「稀世、サブちゃんの親代わりってことやから、話していいね?」
と確認を取り、まりあが昨日からの事の顛末を直に話した。話の途中、直は、涙を流し、共感し、三朗の態度に激怒した。約二十分の説明が終わり、直は腕組みをして考え込んだ。

 一分の沈黙の後、自ら手酌で三朗のグラスにビールを注ぎ、直が一気に飲み干した。
「つまり、昨日、稀世ちゃんが「余命半年」と分かった。ふたり目の医者に聞いてもその判断は揺るがんかった。入院するより、普通の生活で寿命を全うする方がええやろう。
 稀世ちゃんとあほボンの三朗はお互い好き合っとる。あほボンの三朗は、五年間、稀世ちゃんに「好きや」いうのを隠してた。それが、昨日の段になって、急にプロポーズした。
 稀世ちゃんは、優しいから、自分が死んだら、あほボン三朗がバツイチになるから結婚せえへん方がいい。で、「デンジャラスまりあ」はふたりの間に入ってどうしよか迷ってる。ってことやな。」
 乱暴ではあるが、直は稀世と三朗の事を、実に的確にかつ簡潔に、この二日間の事をまとめ上げた。
 
 すっかり、その場の仕切り役となり、順番に聞いていった。
「まずは、あほボン三朗、元々はお前がちゃっちゃと告白してたら、こんなややこしいことにはならへんかったんや。重罪やで。確認するけど、稀世ちゃんのことがほんまに好きで、命があと半年でも結婚する意志に間違いは無いねんな。」
「うん。稀世さん以外の女性には興味ないから、バツイチなんて心配してもらう必要はない。稀世さんの最後の一秒迄、いっしょに居たいって思てる。」
「よし!あほボン三朗にしては、男らしいええ返事や。じゃあ、稀世ちゃん、あんたは、こんなあほボンでも三朗の事好きやと。でも、自分死んだら、あほボンが一緒に死ぬとか、あほ言うことが重たいし、バツイチになった後のあほボンのこと考えるとあほボンに悪いから結婚はでけへんいうことやな。」
と稀世に矛先が向いた。
「はい。サブちゃんの事は大好きです。でも、私のわがままで、サブちゃんの大事な人生を縛ってしまうのは私の希望ではないです。」
「うん、あんたの優しい所が「無駄」にでてるなぁ…。まず、あほボン三朗と付き合ってもいいなんて言う女は、今後、未来永劫、絶対出てけえへんから、そこは心配せんでええ。
 あほボンの後追い自殺は、わしが絶対阻止して、あほボンが死ぬまで、稀世ちゃんの供養させたるから、それも安心しいや。
 「わがまま」って稀世ちゃんは言うけど、そんなん「わがまま」でも何でもない。「死に行く女の権利」や。稀世ちゃんが、せいぜい「わがまま」言うてくれんと、あほボンは、この「告白の五年の遅れ」をそれこそ一生背負って生きていくことになる。あほボンが、稀世ちゃんみたいなかわいくて優しい子に好いてもらえたなんて奇跡に対して、あほボンは全身全霊かけて粉骨砕身の覚悟で最後まで面倒を見るのは当たり前の事やと思いなさいや。」
「でも、直さん、サブちゃんみたいな素敵な人は、きっと次の人が。」

 稀世が直の言葉を遮るが、ブレーキの壊れたダンプカーのように直は止まらない。それ以上に、直のエンジンは回転が上がる。
「大丈夫。あほボンは、この先七代、生まれ変わっても稀世ちゃん以上の人から、好かれることが無いことは、わしが保証する、安心せえ。それに、稀世ちゃん、あと半年、あと半年って言うけど、「まだ半年もある」なんや。だから、結婚して、籍も入れる!
 籍入れたら、稀世ちゃんの名前「ながいきよ」や。もしかしたら、長生きにつながるかもしれへんやないか。べたな洒落かもしれんけど「笑う門には福来る」や。
 そんで、稀世ちゃん、今日でも「余命1ケ月の花嫁」とか「世界の中心で愛を叫ぶ」の映画でも見てみい。そしたらわかるわ。
 ええか、ええ女は、最後に男に尽くさせたるのが仕事や。このあほボン三朗はこう見えて優しい男や。喜んでやりよる。そこは、わしが保証したる。
 ただ、一個だけ老婆心で言うとくと、赤ちゃんだけは諦めてな。トンボやカエルやないから、さすがに半年では赤ちゃん生まれへんから、中途半端になったら、赤ちゃんがかわいそうやからな。」
「で、でも。」
「あーうるさいな。ええちゅうたらええねや!あほボン三朗を最後に男にしてやったって。これは、わしからのお願いや。」
「は、はい。」
「で、最後に、「デンジャラスまりあ」やけど、あんたの大事な稀世ちゃん、あほボン三朗だけじゃ心配やろうから、わしも含めて、稀世ちゃんの「新しい家族」ということで認めてくれへんかな。あんたもいつでもここに来たらええ。あんたも含めて「みんな家族」や。ええかな。」
「はい、直さんにそこまで言ってもらえたら、それがええと思えてきました。稀世とサブちゃんの事、よろしくお願いします。」
「よっしゃ、そしたら、最短で結婚式や。三朗、六曜の入ったカレンダーもってこんかい。」

 一方的に事を仕切り進める直に圧倒されつつ三朗が直に質問した。
「えっ、直さん、「ろくよう」って?」
「だからお前は「あほボン」言うんや。三朗、結婚するなら、「大安吉日」やろ。一日でも夫婦生活楽しみたかったら、最短で結婚や。親代わりのわしと「デンジャラスまりあ」がオッケー出しゃ、それで決まりやないか。速攻、「大安」や「仏滅」って書いてるカレンダー持ってこい!マッハ2で取ってけえへんかったら投げ飛ばすぞ!」

 三朗は、カウンターの奥にかけている予約記入用のカレンダーを取ってきた。みんなに見えるようにカレンダーをテーブルに広げた。直がそこでも仕切った。老眼鏡をかけてカレンダーの日付の数字の下を見ていく。
「今日、月曜日が大安か。ということは、6日後、次の日曜が大安やな。よし、今日は、これから婚約式や。結納道具は写真館の笹井醇一ささいじゅんいちのところで借りて来たる。あと、稀世ちゃんの今日の着物もな。そんで、今から日曜まであれば、みんなに声かけられるやろ。稀世ちゃんは、なんかこだわりの宗教あんのか?」
 直が一人で暴走しだすが、誰もそれを止められない。
「いえ、別にないです。」
「じゃあ、人前式でええな。「デンジャラスまりあ」は日曜日大丈夫かいな?」
「はい。大丈夫です。団体の練習日なんで、練習中止にしたらメンバー全員来れます。」
「よっしゃ、じゃあ、結婚保証人は、わしと「デンジャラスまりあ」で決まりやな。ちなみに、稀世ちゃんは、ドレスと白無垢どっち着たいんや?」
「えっ?えっとですねぇ、うーん、ドレスかな。」
「おっしゃ、今度、わしと試着しに行こ。ここの商店街の笹井んとこの写真館に貸衣装あるからな。あほボンには何着せたい?タキシードがいいか?」
「ううん、サブちゃんは、できたら今の仕事着がいいかな。」
「おっしゃ、じゃあ、三朗は一番きれいな仕事着、クリーニング出しとけよ。」
「は、はい。」
「招待客は?」
「私は、まりあさんと団体のみんなが来てくれたらうれしいな。学校の時の友達は縁切れてるから、それだけかな。」
「僕は、広君夫婦とがんちゃん夫婦くらい。あとは、直さんに任せますわ。」

 稀世と三朗は、いきなりの6日後の結婚式の招待客に対して答えた。
「じゃあ、門真の公民館か市民会館の会議室でええな。あー忙しなってきたで。稀世ちゃんと「デンジャラスまりあ」は夕方まで、こっちに居れるんかいな?」
ふたり同時に頷いた。
「おっしゃ、じゃあ、四時に戻ってくるからな。三朗、商店街の打ち合わせは、猶予やるわ。しっかりと話し進めとくんやで。じゃあな。」
 直は猪のように、店を出ていった。一気に向日葵寿司の店内に静寂が戻った。ポッポーと鳩が鳴いた。午後一時五十五分だった。わずか、五十五分で、婚約から結婚まですべてが決まった。

 三人、顔を合わせて吹き出した。
「あー、お昼まで何を悩んでたんやろ。直さんのおかげで、なんか一気に嵐の空が晴れに変わったって感じ。まあ、直さんが大嵐みたいな人やったけど。
 サブちゃん、まりあさん、これからもよろしくお願いしますね。」
「こちらこそ。稀世さん、まりあさん、すいませんでした。直さん、僕の家、昔からよお来てて、家族みたいなもんです。あの年でまだ合気道の師範やってる達人で、言うこと聞けへんかったときは、よお投げ飛ばされました。でも直さん、あれでいて、めちゃくちゃいい人ですんで、無茶言いますけど、よろしくお願いします。」
「稀世、サブちゃん、まずは婚約おめでとう。お似合いのふたりやと思うよ。これからも仲良くね。精一杯お祝いさせてもらうわ。」

 「ぐぐーっ!」稀世のお腹の音が店内に響いた。顔を真っ赤にして稀世が言った。
「緊張が解けたら、お腹すいちゃった。直さんもほとんど食べずに行っちゃたんで、今から、二回目のいただきますね。」
「うん、サブちゃん、新しくビール三本出してきて。三人で乾杯しましょ。」
「はい、ビール三本いただきましたー。ありがとうございまーす。」
稀世とまりあが大笑いした。三人での乾杯のビールは、今までで一番おいしいビールだと稀世と三朗は思った。


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