あなたならどう生きますか?両想いを確認した直後の「余命半年」宣告

M‐赤井翼

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『あなたならどう生きますか?~両想いを確認した直後に「余命半年」の宣告を受けました~』

1-33「AV」

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「AV」
 午後五時、大いに盛り上がってる、二階の部屋から陽菜のものと思われる悲鳴が上がった。
「きゃーっ、これ何なんー。まりあさん、稀世姉さん、なっちゃんも直さんも見てくださいよー。」
「いやー、変態やん、こんなん。」
「これ、稀世姉さんに似てますよ。どう思いはります、まりあさん。」
「わー信じられへん。」
陽菜と夏子の声が交互に響いた。遅い賄い飯を食べて、ゆっくりと休憩していた三朗の背に電撃が走った。(もしや、あれが見つかったのか?)さーっと、血の気が引いていくのが分かり、ぶるぶると手足が震えた。

 どたどたどたと、五人の足音が、近づいてくる。(逃げるか?いや、逃げ切ることは、できないやろう。ならば、開き直るか。稀世さんとまりあさんはともかく、直さんは、それで納得するやろか。ましてや、先ほどの声は、なっちゃんと陽菜ちゃんのものや。あの子たちの行動は全く読めへん。)と考えているうちに、二階から降りてきた五人の女性に囲まれてしまった。陽菜の左手には黒いビニール袋が握られている。(ああ、やっぱり・・・)
 
 夏子がビニール袋の中身を一つ一つみんな見せながらカウンターに並べていく。順番に三朗の呼吸は浅くなり、脈拍はこれまで経験がないくらい早く打っていた。並べられたものは七つに及んだ。陽菜が持って降りてきた黒い袋は、一昨日、稀世が家に来た際、いの一番に、袋に入れ、押し入れにしまったまさにそれそのものだった。陽菜が、第一に声を上げた。
「三朗兄さん、説明してもらいましょか?」
魔女裁判で清教徒の裁判員の前に立たされた魔女か、ゲリラ軍に捕まった正規軍の捕虜の気持ちが、三朗には瞬時に理解できた。(何を言っても、許されることは無い。)何も言えずに、固まっていた。直とまりあの視線は鋭くそして冷たいものだった。
 夏子は、デモ隊の隊長のごとく興奮している。陽菜は明らかに酔っぱらっている。稀世は、三朗と目を合わせようとせず、左下に視線を向けて動かない。
「さあ、兄さん、黙ってちゃ、何もわからへんやないですか。これは何ですの?」
とカウンターに並べられたものの中央のものを取り上げて、三朗の顔の前に突き付けた。酒臭い陽菜の吐息が三朗の顔にかかる。
「なんも、言えへんのやったら、私が読み上げましょか。」

 左手に持ったDVDを皆に見えるように円弧を描き
「ぽちゃむき、Hカップ女子レスラーAVデビュー140分スペシャル。」
ひとつのDVDのタイトルを読み上げると、端から取り上げ、どんどん読み上げていく。
「「ショートカットのぽっちゃり美女、街角ナンパ即はめ」、「巨乳ダヨ!全員集合!5人でバスト600センチ祭り」、「悶絶レッスルマニア、女子プロレスヘビー級バトルロイヤル」、「ひとめぼれ、プロレスリング上の女神Gカップチャンピオン」、「太った女の子は好きですか?すみからすみまで全部見せちゃいます」、「巨乳ギャルレスリング、KGW2019ベスト180分」。
 兄さん、かなりマニアでんなぁ。こんなん目当てで稀世姉さんに近づかはったんですか?ちょっとなんとか言うて下さいよ。こんなもんがどっさり黒い袋に入って、押し入れの中に。稀世姉さんへのセクハラですか?」

 陽菜が、酔って真っ赤になった顔で三朗に詰め寄る。
「そ、それは、一昨日、稀世さんが、急にうちに来ることになって、い、急いで袋にまとめて押し入れに隠したDVDです。それは、間違いありません。すみませんでした。」
稀世は相変わらず、黙っている。夏子が陽菜に乗っかって三郎に問う。
「三朗兄さん、いつもこんなん見てはるんですか。」
「は、はい。」
「思いっきり、変態ですよねぇ。巨乳マニアでデブ専ですか。どうなんですか。私らのこともそんなエロい目で見てはったんですか。」
「(もごもごもご)」
「えー、何言うてはりますの。みんなに聞こえるように言うてください。巨乳マニアでデブ専の兄さん。」
今度は、陽菜が毒を吐く。
「(もごもごもご)」
「聞こえませんよ、なんですか?男やったら、はっきり言うてください。」
夏子があおる。
「あのなぁ、僕は、巨乳はともかく、デブ専ちゃうわ。ジャケット見てください。どこがデブやねん。みんな健康的でええやないですか!デブちゃいます。「ぽちゃむき」で「ぽっちゃり」で、「ヘビー級」やないですか。どこがおかしいんですか。
 僕は、健康的で大きい、稀世さんがタイプなんです。だから、夏子ちゃんも陽菜ちゃんも対象外なのでエロい目でなんか見たことないです。それにAVから稀世さんじゃなくて、稀世さんからAVなんです。
 一昨日まで、稀世さんに好いてもらってるなんて思ってませんでした。三十歳、童貞、彼女歴ゼロでした。憧れやった稀世さんイメージしてAV見て何があかんのですか。今は、稀世さんがいるんで、もう不要です。捨てるなり焼くなり好きにしてくださいよ。このAVたちに何の未練もありません。捨ててもらっても結構です。こころから、AV達に「ありがとう」と伝えて「さようなら」です。稀世さんさえおってくれはったらAV全部捨てても、我一片の悔いなしです。」

 三朗は一気に話し切り、息が切れている。一同、静まり返った中、「カカカカ」と直が笑い、前に出た。
「この勝負、あほボン三郎の勝ちやな。三朗が言うように「デブ」と「ぽちゃむき」、「ぽっちゃり」、「ヘビー級」は別物やな。そんで、稀世ちゃんおったら、AVはもう要らんと。おまけに、お世話になったAVに「ありがとう」やとさ。三朗のやさしさがそこに出とるわ。
 わしもAVは好きやないけど、今の七本のDVDのジャケット見たら、どれもなんか稀世ちゃんに雰囲気似てる子ばっかりやないか。これを昨日以降に買っとったら、許されへんところやがな。ましてや、この二日間、ひとつ部屋で夜を共にしていながら、稀世ちゃんを大事に思って手を出せへんかった三郎の意志をわしは信じたい。」
「直さん、そうですね。ジャケット見てたら、販売年とそのころの稀世の髪型や、髪の長さが近いような気がするしなぁ。どの女の子もエロさより、健康さの方が出てるやないの。AVなんて男やったら持ってんの普通やと思うし、陽菜と夏子、あんたらこそ稀世の事、「デブ」と思ってんのか?私は、直さんの意見に着くわ。サブちゃんは無罪。さあ、これで、裁判は、2対2や。後は、稀世次第やな。」

 みんなの視線が稀世に集まる。稀世は、真っ赤な顔をして、
「私は、サブちゃんがAV捨ててくれるんやったら、全然問題ないです。これから、買われたらいややけど、サブちゃんの事信じます。これからは、私だけを見てくれると信じます。それに、恥ずかしい話やけど、私もサブちゃんに似てるAV男優のビデオ見たことあるから、おあいこです。なっちゃん、陽菜ちゃん、サブちゃんを責めるのはやめてほしいかな。」
「おっしゃ、稀世ちゃんがそういうんやったら、これで終わりやな。三朗、明日、これブックオフでお別れしてこい。はい、この件はこれでおしまい。」
直の「おんな黄門様」と言われる裁きで、第一次長井家「AVは浮気なのか事件」は無事解決を迎えた。
 三郎は、よくわからないうちに、事が纏まって、ほっとすると同時に、この先、直とまりあにますます頭が上がらなくなった。稀世は三郎と目を合わせ、くすっと笑った。



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