あなたならどう生きますか?両想いを確認した直後の「余命半年」宣告

M‐赤井翼

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『あなたならどう生きますか?~両想いを確認した直後に「余命半年」の宣告を受けました~』

1-34「ドレス選び」

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「ドレス選び」
 直の「大岡裁き」もとい「菅野裁き」で長井夫婦への最初の難関を軟着陸させ、店のテーブルで、引っ越し作業への慰労会へと進めることとなった。稀世とまりあと直の向かいに夏子と陽菜が座った。三朗が、特上握りの小桶とみんなで食べられる大桶で直の追加分も含めて十三人前の寿司を並べた。陽菜は、まりあからこの後ビール禁止の命令を受けた。
 酔いがさめるにつれて、自分のやらかしたことの重大さに気付いたのか、夏子と共に三郎に謝りに来た。先ほどのAV騒動は、完全にノーサイドとなった。女子会二次会は、お寿司パーティーとなった。半分ほど、桶が開いたところで、直が紫の大きな風呂敷包みを持ち出した。中から、出てきたのは「ウエディングドレスカタログ」だった。稀世と夏子と陽菜から「キャー、素敵」と歓声が上がった。稀世が席の中央で、両サイドの席のまりあと直の席に夏子と陽菜が付き、まりあと直は向かいの席に移った。ニッセンのカタログくらいあるドレスカタログはずっしりと重かった。
「こんな重たいの持ってきてもらってすいませんでした。」
と稀世が直にお礼を言った。
「何言うてんねん、稀世ちゃんの一生一代の晴舞台やないか。稀世ちゃんは、わしの孫みたいなもんや。気にせんとな。それよりも、気に入ったやつあったら、付箋貼っといてな。候補絞ったら、笹井に言うて、取り寄せるから、試着に行こな。」
「直さん、私らも試着できないんですかー。」
夏子が聞いた。
「まあ、笹井に言うたるけど、取り寄せは結構手間かかる言うてたから、笹井ンとこにあるドレスでよかったら、わしから言うたるわ。」
「きゃーっ、結婚する予定も見込みもないけどドレスは来てみたかってん。陽菜ちゃん、お互い、ドレスとタキシード着て交互に写真撮ってSNS上げようや。」
「こらこら、直さんは、稀世のために重たいカタログ持ってきてくれてんねんから、あんたらは後。まずは、稀世。決めていきや。ところで、お色直しはするんか。」
「うん、そこまでは考えてなかった。まずは、カタログ見てみるわ。」
その後も、稀世と夏子と陽菜はキャーキャー言いながら、ページを進めていた。どんどん付箋の数が増えていく。そんな、光景をカウンターの中から、三朗は見守った。

 約一時間かけて、候補が絞られてきたようだった。六時を過ぎて、一般客が入ってきだしたので、女子会は三次会と化して二階に上がっていった。三朗は、改めて直とまりあに礼を告げるとともに、先ほどのAV事件の味方のお礼を述べた。ふたりして、「あんたが、稀世を大事にしてる間は味方してやるよ。泣かしたら即地獄行きやで。」とすごまれ冷汗が出た。

 夜の部の営業は、昨日のお披露目会と違って、従来の客の入りに戻り、三朗ひとりで十分こなすことができる仕事量だった。寿司を握り、配膳し、下膳する。下膳してバックヤードに入った際、二階から響いてくる黄色い声が耳に入った。(女の子は、あんなカタログ一冊でよく何時間も盛り上げれるもんやなぁ。)と感心すると同時に不思議に思ったが、楽しそうに話し、笑っている稀世の声を聴くのは楽しかった。

 午後八時、女子会三次会は、お開きとなった。候補のドレスは四着に絞られ、金曜日の午後に笹井写真館で試着の予定となったらしい。直の口利きもあり、夏子と陽菜も五千円で二回写真を撮ってもらえることになったと喜んでいた。このことが後日、笹井写真館に大きな影響を与えるきっかけになるとは、その時には誰も気づいてはいなかった。三朗はふざけて「直さんは、ドレス写真撮らはらへんのですか?」と聞くと、「お前、ふざけたこと言うとったら、生駒山に埋めんぞ。」とデコピンされた。稀世もみんなも腹を抱えて笑っていた。おでこは痛かったが悪い気はしなかった。

 稀世の大正のアパートの家具については、テレビ、冷蔵庫、電子レンジ、炊飯器、電気ポット、洗濯機等、ここにそろっているものは、夏子たち若手に譲ることになったとの事だった。それ以外の家財は、明日、ここを整理して、木曜日に稀世が電車で戻り、再び夏子と陽菜が運ぶのを手伝ってくれることになった。
「なっちゃん、陽菜ちゃん、悪いけど木曜日、また稀世さんの事、頼むわな。」
と三朗もお願いした。

 夏子が、ハイエースを取って戻ってきた。まりあと陽菜が乗り込んだ。乗りがけに、まりあが言った。
「サブちゃん、日曜日はええ式にしよな。楽しみにしてるで。それと今晩、私はサブちゃんに賭けてっから、頼むで?」
「はい。いろいろとありがとうございました。ところで賭けってなんですか?」
「まあ、いろいろあるから。結果は、稀世から聞くから、頼むで。」
(ん?)何を言ってるのかわからないまま、ハイエースは大阪市内に向けて出発した。
 稀世は、再び直と二階に上がっていった。三朗は残った客の対応に戻った。午後9時半、最後の客が勘定を済ませて、暖簾を片付けた。下膳してシンクにたまった食器類を洗い、木桶と塗り箸は布巾で丁寧に吹き上げ棚にしまい、それ以外は食器乾燥機に入れた。カウンターとテーブルをふき取り清掃を済ませ、ごみを表に出した。(稀世さんと直さん、まだ話してんのかな?)
「お客さん引けたんで、店閉めました。上あがっていいですか?」
「サブちゃん、お疲れさまー。今日の夜はなんも手伝えなくてごめんね。サブちゃんのケーキ残してるから、上がってきて。」

 二階に上がると、直と向かい合って座り、ノートにいろいろと書き込んでいる最中だったようだ。ノートのページをめくろうとすると
「ダメっ。まだ見せたらへん。」
と言って、稀世にノートを取り上げられた。直がキッチンに立ち、紅茶を入れて、冷蔵庫からかわいらしいケーキを出してくれた。
「すいません。直さん、今日もいろいろと、ありがとうございました。ずっと二階から楽しそうな声してはりましたね。じゃあ、いただきます。」
「せやな、孫に囲まれてるようで、わしも楽しかったわ。夏子と陽菜はちょっと行儀から教えたらなあかんけどな。」
と言って笑っていた。

 稀世は、奥の部屋に行き、何やらごそごそしている。三朗がケーキを食べ終わろうとする頃、稀世が大きなボストンバックを手に部屋から出てきた。
「遅くなってすいません。直さん、お願いします。」
「おっしゃ、じゃあ行こか。」
「えっ、ええええ、どこ行くんですか?もう九時ですよ。ねえ、直さん、稀世さんをどこに連れて行かはりますの?何があるですか?」
「お前は何も知らんでええ。じゃあ、稀世ちゃん、借りていくで。」
「えっ?」
「サブちゃん、また連絡するわな。しっかり戸締りしてね。」
とふたりは部屋を出て行った。リビングには、三朗ひとりが残された。部屋の隅には、黒いビニール袋が残されていた。

 ひとり残され、直が稀世をどこに連れて行ったかもわからず、風呂に入り、洗濯機を回し、リビングでひとり寂しくビールを飲んだ。すっかり、三日前のさみしい部屋に戻ってしまった。三朗の携帯が鳴った。稀世からのメールで「先に寝ていてください。」とだけあった。稀世に電話を掛けたが、コールが鳴るだけで、途中で圏外のコールに変わった。三朗は、何やら、不吉なものを感じた。




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