『北の大地のファーストペンギン2025~限界集落復興と結婚したい訳あり男女達の物語~』

M‐赤井翼

文字の大きさ
8 / 78
第1部 エピソード2023

「最悪だった神標津農協男性メンバーの第一印象」

しおりを挟む
「最悪だった神標津農協男性メンバーの第一印象」

 (何、この澱んだ空気感…?この人たち、本当に「婚活」する気あるのかいな…。普通は、初対面の時って「前向き」な話をするもんやろうし、多少の「背伸び」はあっても少しでも自分を良く見せなあかんのとちゃうの…。まずは、リーダーからして自分の村の悪口はあかんやろ。「ウエルカムトゥー神標津!」くらい言わな…。「いきなりこんな村ですみません。」って謝罪の挨拶でスタートって何なん?「廃業を考えてる」とか「親の借金がヤマ程あります」って最初に言う奴も大概「女心」をわかってないよな。
 そして真面目そうなサブリーダーの取り繕い方が「痛い」な…。18歳のお調子者と高卒ルーキーはまだ前向きそうやけど…。いかんせん「結婚対象年齢」とちゃうしな…。幸ちゃん、わざわざ北海道くんだり・・・・まで連れてきて、「オールすか・・」って、私の払った「準幸結婚パートナー紹介システムズ」の入会金と今回の旅費はどうしてくれるんよ…。くすん。)
 2年前の初秋、女1人対男6人の31歳を迎えた「安稀世やすきよ」の北海道神標津村での婚活滞在訪問歓迎会は最悪なイメージでスタートした。

 牛の糞の臭いが漂う中、ガラガラとうるさい扇風機だけが「涼」をとる機材でエアコン未設置の集会所の16畳の座敷に並んだ10枚の座布団といかにも「ケータリング」という中華のオードブルと取り皿とグラスと箸が並べられた「」の字に並べられた低い座卓の宴会場の居心地は稀世にとっては非常に悪いものだった。
「すみません、遅くなりまして。村の雑貨屋の冷蔵庫が不調で冷えた飲み物が手に入らなかったので氷水で冷やすのに少し時間がかかってしまいました…。」
と神標津農協青年会の最新入会員の24歳の「岩井三朗いわいさぶろう」が「準幸結婚パートナーズ紹介システムズ」の「ADアドバイザー」の27歳の「薄井幸うすいさち」と共に両肩にクーラーボックスをかけて汗を流しながら駆け込んできた。
 会話が盛り上がっている事を期待していた幸は、澱んだ空気を瞬時に感じ取った。(えーっと、こういう雰囲気の時には、私が率先して場を盛り上げなあかんかったよな。その為にも、まずは「アルコール」やな。未成年がふたり居るけど、そこはお任せでいくか…?)と思った幸はあえてテンション高めで皆に声をかけた。

 「お待たせしましたー!ビール、チューハイ、ウーロン茶に炭酸飲料がありまーす!氷もあるので白糠町の「しそ焼酎」の「鍛高譚」、中標津町の牛乳原料の焼酎「ミルク酒」もありますよー!清里町のホワイトオークの「ウイスキー樽」で仕込んだジャガイモ焼酎の「浪漫俱楽部」に池田町の十勝ワイン「トカップ」も赤、白、ロゼと揃えてますからねー!
 レディーファーストで稀世さんから希望を聞かせてもらいますねー!男性陣はセルフで取りに来て下さーい!」
 幸は稀世が北海道限定販売のビールの「サッポロクラッシック」を希望したので冷やしたグラスと併せて幸が酌をしに行くが、その間、6人の男たちは席を動くことなく、三朗がお盆に酒とグラスとアイスペール、ミネラルウォーターをセットしてひとりで配膳にまわっている。
 未成年の2人にも普通に缶酎ハイをサーブしていくが、誰も年上の三朗を手伝おうとしないのを稀世は見逃さなかった。(このヒエラルキーって何なん?18歳の子はお兄ちゃんがいるからわからんでもないけど、高卒1年目からも「サブロー」って呼び捨てにされて、嫌な顔一つせんと配膳してるこの人もよう分からんな。幸ちゃんの資料によると、高卒5年の経験がある訳やろ…。未成年にいい様に使われてるってどうよ…。)と稀世が思っていると、「乾杯」の発声なしに、リーダーたちは「手酌」で飲み始めたので取り繕うように、幸が皆に声をかけた。
「今日から5日間、こちらでお世話になる「安稀世」さんの歓迎会ですから、まずは乾杯しましょう!そして、自己アピールをして懇親会に入りましょうね!では、皆さん、「乾杯」でーす!」

 神標津農協青年部リーダーの「岩本徹いわもととおる」はつまらなさそうに、グラスを掲げたものの発声は無かった。事前のメンバーからのヒアリングでは、本来「積極的な40歳までのメンバー」で構成される青年部であるが、36歳という最年長というだけでリーダーシップは無く、組合長の「坂井一郎さかいいちろう」から指名され、嫌々やっているとの事だった。
 実質的に青年部をまとめているのは、岩本と同級生の「西沢広志にしざわひろし」との事だった。面倒見の良い西沢は、常にリーダーである岩本のサポートにまわり北海道農協や神標津農協の会合に参加し青年部を取りまとめている。
 30歳の「岡山和樹おかやまかずき」は、「口ばっかり」の「あかんたれ」という噂だった。酪農技術や販路開拓能力も乏しいが、青年部で3番目の年齢というだけで岩本と西沢がいないところではリーダー風を吹かしているいじめっ子キャラとの事だった。
 その弟の「岡山翔おかやまかける」は現在18歳で、高校を1年の夏休みを前に中退し、農協メンバーになって1年であるが、兄に似てお調子者のビッグマウスである。
 27歳の「載田龍二さいだりゅうじ」は年老いた親が勇退次第、即「廃業」し札幌に出ると公言し、事あるごとに「神標津の農業、酪農に未来はない…。」と愚痴ばかりである。

 26歳の「加藤典史かとうのりふみ」は青年部メンバーの中で最もやる気を見せる好青年なのだが、親の代からの農協からの借金で常に金が無い。親譲りの「お人好し」で典史の代になってからも借入金は増える一方の「農協のカモ」にされているらしい。
 19歳の「杉田真一すぎたしんいち」は今春、農業高校を卒業したてのルーキーで素直でまじめな性格で皆から可愛がられているが32歳の稀世にすると13歳年下は「範囲外・・・」である。
 そして、神標津農協青年部のヒエラルキーの最下層に位置するのが、24歳の「岩井三朗いわいさぶろう」だった。父母は「岩井勤いわいつとむ」と東京出身で25年前に嫁いできた神標津村「最後の道外からの嫁」であり、3人の男兄弟の末っ子である。
 農業を継がず、東京に一般就職で出ていった長男、次男に代わり、岩井家を継ぐために、父の勤から「同じやるなら、最先端の大型農業を見てこい!」と言われ、高校卒業と同時に最初に北海道で一番大きな十勝の足寄農協に就職し、「酪農」、「穀物栽培」、「野菜栽培」、「果樹栽培」を学び、続いて成果物の物流を学ぶために札幌にある石狩農協の「JAさっぽろ」に移り知識を得た。海外農園での3か月の実習経験もある。
 今年5月に父「岩井勤いわいつとむ」の急逝に伴い、神標津に「Iアイターン」してきたゆえ北海道農協本部から連絡係として重宝されているため、リーダーの岩本からは覚えが悪い。
神標津農協うちは、相撲部屋と同じく「入会」順位がモットーだから、お前は一番下っ端だっぺ。」と不条理な役回りや「パシリ・・・」をやらされている。
 しっかりとした農業理論と「利益を生む農業」を実践してきた三朗は典史と真一からは慕われていると事前に幸から情報を得ている。

 青年部メンバーの自己紹介が終わった時、52歳の神標津農協組合長の「坂井一郎さかいいちろう」が家族と共に現れた。稀世は坂井から、46歳の妻の「那依ない」と中学3年生の娘「れい」の紹介を受けた。
「大阪からわざわざ、神標津までご足労いただき、ありがとうございます。見ての通り、むさくるしい男しかいませんが、安さんのお眼鏡にかなう男が居ましたら、わしか嫁の方に遠慮なく言うてくださいな。三朗の母「まりあ」さんが四半世紀前にここに来て以来、道外から嫁いで来てくれた人は居らないんですよ。
 恥ずかしながらうちの長女も村を出たし、他の家の女の子も高校を出て村に残る予定の者は居らんのです。一時は千人以上居った村民も今は、300人を割り込み、若い男は村外で働いてるものを除けば、ここに居る8人だけなんですよ。
 このままだと、村そのものが無くなる、いわゆる「限界集落」ってやつで…。無茶は言えないですが、どうか安さんが長くここに居てくれることを望んでます。」
と丁寧に稀世へ酌をした。

 一郎と那依から、「しそ焼酎」、「ミルク酒」、「十勝ワイン」を順に勧められ、ゆっくりと味わった。
「いやぁ、北海道は今まで札幌、小樽と函館くらいしか来た事無かったんですけど、道東にはいっぱい美味しいお酒があるんですね。釧路で食べた魚介類も美味しかったですし、婚活はともかくしばらく居ついてみたいですね。」
と「リップサービスおべんちゃら」を返すと、赤ら顔の岩本が向かいの席から声を荒げ吐き捨てた。
「安さんは、大阪内地の街の人だかんべ。確かに「北海道・・・」には「旨い物」はたくさんある。しかし、「神標津・・・」にはなーんもなかんべ…。どうせ、こんな村で結婚する気もないだろうて、無理せんと5日間、観光と食道楽して帰るんだっぺな。仲間に変な「気」を持たさんとってくれっぺな。」

 稀世は岩本を睨み付け、言い返そうとしたが那依に止められた。稀世の耳元で「安さん、ここ・・は堪えてね。うちの青年部のリーダーは「負け犬・・・」根性が染みついちゃってるのよ。もちろん「前向き」な子もいるから、私に任せておいて。」となだめられて抜きかけた矛を収めた。
 (「村には何もない。」って諦めてるのは、私の出身の「神子原みこはら」の昔の姿…。ここは、婚活は置いておいて皆の意識を改革するのが先やな。私の目標としている「羽咋市のスーパー公務員」の「高野誠鮮たかのじょうせん」大先生を見習ってこの村で何ができるのかを考えなあかんよな…。)と最悪な「ファーストインプレッション」を心の奥に押し込んだ。
 会場のマイクは幸に回され、稀世の紹介が始まった。

しおりを挟む
感想 67

あなたにおすすめの小説

『80年を超越した恋~令和の世で再会した元特攻隊員の自衛官と元女子挺身隊の祖母を持つ女の子のシンクロニシティラブストーリー』

M‐赤井翼
現代文学
赤井です。今回は「恋愛小説」です(笑)。 舞台は令和7年と昭和20年の陸軍航空隊の特攻部隊の宿舎「赤糸旅館」です。 80年の時を経て2つの恋愛を描いていきます。 「特攻隊」という「難しい題材」を扱いますので、かなり真面目に資料集めをして制作しました。 「第20振武隊」という実在する部隊が出てきますが、基本的に事実に基づいた背景を活かした「フィクション」作品と思ってお読みください。 日本を護ってくれた「先人」に尊敬の念をもって書きましたので、ほとんどおふざけは有りません。 過去、一番真面目に書いた作品となりました。 ラストは結構ややこしいので前半からの「フラグ」を拾いながら読んでいただくと楽しんでもらえると思います。 全39チャプターですので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。 それでは「よろひこー」! (⋈◍>◡<◍)。✧💖 追伸 まあ、堅苦しく読んで下さいとは言いませんがいつもと違って、ちょっと気持ちを引き締めて読んでもらいたいです。合掌。 (。-人-。)

『夏子と陽菜の犯科帳4 THE FINAL~カルト新興宗教「魂の解放」から洗脳娘を救い出せ!~』 

M‐赤井翼
現代文学
第3話から1年開いての「なつ陽菜犯科帳」の最終話です。 過去のお約束通り、最後はなっちゃんも陽菜ちゃんの「花嫁姿」で終わります! 今度の「敵」は、門真に転居してきた「武装カルト宗教組織」です。 偶然出会った、教団に妹を奪われたイケメン日南田大樹(ひなた・ひろき)の為になっちゃん&陽菜ちゃんと「やろうぜ会」メンバーが頑張ります。 武装化された宗教団体になっちゃん、ひなちゃん、そして「やろうぜ会」がどう戦いを挑むのか! 良太郎の新作メカも出てきます! 最終回という事で、ゲストとして「余命半年~」シリーズの稀世ちゃんと直さんも緊急参戦! もう、何でもござれの最終回! 12月29日までの短期連載です! 応援お願いしまーす! (⋈◍>◡<◍)。✧♡

『「愛した」、「尽くした」、でも「報われなかった」孤独な「ヤングケアラー」と不思議な「交換留学生」の1週間の物語』

M‐赤井翼
現代文学
赤井です! 今回は「クリスマス小説」です! 先に謝っておきますが、前半とことん「暗い」です。 最後は「ハッピーエンド」をお約束しますので我慢してくださいね(。-人-。) ゴメンネ。 主人公は高校3年生の家庭内介護で四苦八苦する「ヤングケアラー」です。 世の中には、「介護保険」が使えず、やむを得ず「家族介護」している人がいることを知ってもらえたらと思います。 その中で「ヤングケアラー」と言われる「学生」が「家庭生活」と「学校生活」に「介護」が加わる大変さも伝えたかったので、あえて「しんどい部分」も書いてます。 後半はサブ主人公の南ドイツからの「交換留学生」が登場します。 ベタですが名前は「クリス・トキント」とさせていただきました。 そう、南ドイツのクリスマスの聖霊「クリストキント」からとってます。 簡単に言うと「南ドイツ版サンタクロース」みたいなものです。 前半重いんで、後半はエンディングに向けて「幸せの種」を撒いていきたいと思い、頑張って書きました。 赤井の話は「フラグ」が多すぎるとよくお叱りを受けますが、「お叱り承知」で今回も「旗立てまくってます(笑)。」 最初から最後手前までいっぱいフラグ立ててますので、楽しんでいただけたらいいなと思ってます。 「くどい」けど、最後にちょっと「ほっ」としてもらえるよう、物語中の「クリストキント」があなたに「ほっこり」を届けに行きますので、拒否しないで受け入れてあげてくださいね! 「物質化されたもの」だけが「プレゼント」じゃないってね! それではゆるーくお読みください! よろひこー! (⋈◍>◡<◍)。✧♡

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

​『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』

月神世一
SF
​【あらすじ】 ​「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」 ​ 坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。  かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。  背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。 ​ 目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。  鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。 ​ しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。  部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。 ​ (……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?) ​ 現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。  すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。  精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。 ​ これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。

処理中です...