『北の大地のファーストペンギン2025~限界集落復興と結婚したい訳あり男女達の物語~』

M‐赤井翼

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第1部 エピソード2023

「直とまりあ」

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「直とまりあ」

 稀世は、幸からの略歴紹介の間、この32年間の人生を振り返っていた。(あぁ、「経営コンサルタント」って偉そうに言っても、自分の人生ひとつ「きちんと設計」できへんで19歳の女の子に婚約者をNTRされた三流の女やもんな…。でも、「女」としてはダメでも「コンサルタント」としても私は死んでへんで!幸い坂井組合長と奥さんはまともみたいやから、神標津農協の立て直しから提案してみるのも一興やな…。)と考えていると、マイクが稀世にまわって来た。
「安稀世32歳です。もちろん独身です。過去はアイドルやら女子プロレスラーをやっていましたが、直前まではフード関係の経営コンサルタントでした。
 皆さんのお役に立てるかわかりませんが今日から5日間のお付き合いの程、よろしくお願いします。」
と頭を下げると、岡山弟のかけるが挙手し「稀世ちゃん、バスト100のGカップってほんとだっぺか?」とゲスな質問が飛んだ。酔った兄の和樹が質問させているのは明らかだった。

 坂井の嫁の那依が「翔、バカな質問しないでよ!初対面の安さんに何聞いてるのよ!」と憤慨してくれたので、稀世は怒ることは無かった。
「はい、過去の公式プロフィールにあるようにその通りです。その手の質問に私は慣れてますが、この先、普通の女性にそのような質問をすることは避けてくださいね。ハラスメント行為ひとつで取引が台無しになる事はたくさんあります。
 社会経験の多寡を問わず、社会人としての常識は早い時期に身に付けた方がいいと思います。」
と毅然とした態度で応えたので、「ちっ!説教たれられたっぺ!」小声で舌打ちをして岡山兄弟と岩本は稀世から目を逸らせ、3人で焼酎をあおった。

 その態度を見た、西沢は稀世に「すみません。あいつらちょっと酔っぱらっちゃってて、いつもは「ああ・・」じゃないんですよ。」とサポート役らしく取りなして3人の元に移動した。
「安さん、気を悪くしないでな。あいつら、安さんみたいなかわいこちゃんに慣れてないんでな。セクハラと受け取らんで欲しいんだが、婚活に関しては、うちのメンバーでは西沢かちょっと年下になるけど岩井くらいかな。まあ、金は無いが加藤もまじめでいい奴だ。さすがに19歳の杉田は年が離れすぎかな。
 まあ、今日はこれくらいでお開きにして、汚いところだがうちにきてゆっくりしてください。娘の礼がいろいろと安さんに興味を持ってるんで相手してやってください。」
 一郎が稀世に声をかけた後、「さあ、今日はこれくらいでお開きだ。明日も暑くなりそうだから、子牛の健康管理はしっかりとするようにな!」と稀世の歓迎会を締めた。

 稀世は坂井家に連れていかれ、風呂に入るとゆっくりとビールでもてなされた。坂井は高校卒業後、上京し民間工場で働いていた時に同じく上京就職組の那依と付き合いが始まり「アイターン」で20年前に神標津に戻ってきた事が語られた。
「あー、お二人とも東京に居たんですね。それで他の人と話し方が違うんですね。」
 稀世が相づちを打つと、那依が尋ね返した。
「安さんは石川の羽咋の神子原出身だって事でしたけど、くにに帰らなくてよかったの?ちなみに私も高野誠鮮さんの「ローマ法王に米を食べさせた男」は読んだし、10年くらい前のテレビドラマも見てたのよ。」
 那依の質問で話の潮目が変わった。
「私の父親は大阪に出てる間に亡くなったので、母は金沢の老人ホームに入って神子原にはもう家は無いんです。那依さんも高野大先生のご本読まれてたんですね。私もあの本が大好きです。何と言っても羽咋のスーパーマンですからねぇ。学生の時に経営コンサルタントのアシスタントをしていた時に大学の先生から勧められて、そりゃあ「感動」しましたね。
 常に「前向きシンキング」!自分で「限界」という名の壁を作らなければ何でもできる!ってね。失礼を承知で言わせてもらうと、ここの青年部の皆さんにはちょっとそのマインドが足りてないというか…。」

 遠慮気味に稀世が呟くと、一郎が稀世と那依の会話に割って入って来た。「そうなんだ。最初から「何もできない。」、「神標津には何もない。」と決めつけてちゃ何も事は起こらないし進まない。「婚活」でここに来た安さんには申し訳ないが、安さんなりの「神標津村再生計画」を立ててもらえないだろうか…。」と頭を下げた。
 稀世は「どこまでできるかわかりませんが…。」と断りを入れ、神標津村および神標津農協の状況について一郎と那依からヒアリングを行った。一郎は稀世の的確な質問と現状分析を受け入れた。
「那依、岩井さんとこの「まりあさん」と相談役の「なおさん」呼んでくれ。ここは、頼りにならんカンカチコの男より、「実行力」と「想像力」のある「女の意見」の方が役に立つだろう!」
と言い、那依もそれに納得した。(「岩井さん」って今日いた三朗さんと関係があるのかな?相談役の「直さん」って人も今の話の流れだと「女の人」なのかな?)と思っていると、那依が「二人ともすぐに来てくれるってさ。」と一郎と稀世に告げると、娘の礼は「えー、まだお仕事の話が続くの?私、稀世ちゃんに芸能界の事聞きたかったのに…。」とねて部屋を出て行った。

 5分後、「岩井まりあ」が到着した。まりあは稀世の想像通り25年前に最後の道外からの嫁として神標津村に嫁いできたという47歳になる三朗の母であった。続いて現れた「相談役」と呼ばれる76歳にして元気溌剌の「菅野直かんのなお」は、再婚により苗字は違うが「後ろ向きリーダー」の岩本徹の実の母との事だった。
 事前に那依から稀世の事を「経営コンサルタント」と聞いていたまりあと直は稀世を温かく迎えてくれた。

 「安さんの事は親しみを込めて「稀世きよちゃん」と呼ばせてもらうわな!」と直が切り出した。この村は、北の中標津町、南の別海町に挟まれ、1999年から2011年までの地方自治体の「平成の大合併」の時に両町から合併の提案がなされたが神標津村議会はこの申し入れを受け入れなかった。当時3232の地方自治体で大規模な合併が行われ、2093の自治体が合併の道を選び新たな588の団体が誕生した一方、1139の市町村は独立を選んだ。
 バブル崩壊後の日本の人口減少と高齢化の波は、首都圏と一部の街を除き一気に進み、地方部の多くの市町村では若者の都市部への流出が進んだ。北海道内は四国、山陰、東北以上にその傾向は強く、道内労働人口は激減した。財政力のある自治体は「町おこし」政策に積極的に取り組み、産業強化による労働市場維持や観光特化により新たな労働の場の育成に成功したが、神標津村の村会議員は当時すでに平均年齢65歳を超えたいわゆる「高齢者議員」ばかりで将来を見据えた政策を打たず、現状維持に努め大きな変革は行わなかった。

 労働人口の村外流出により、市民税収入は激減し、まず教育環境の維持ができなくなった。義務教育後の教育は村外でしか受けられなくなり、そのことが更なる人口流出に繋がった。
 生活道路整備や独立生活に支障のある高齢世帯の村内での介護施設経営が維持できなくなった。地域コミュニティにおいては、冠婚葬祭や村行事、主産業である酪農作業も新たな投資援助は行われなくなり、いつしか65歳以上の高齢者人口が50%を超え、その比率は年々高くなり、「限界集落」を超え「超限界集落」へ、そして令和の現在では「消滅集落」へと移行してしまっている状況が直の口から稀世に語られた。

 空き家、空き地の増加に伴い、村外や外国人窃盗団による空き巣狙いが増え治安は悪化し、大雪時期の雪おろしの手が足りない事で住居、建物の損壊事故が増加しただけでなく、自然災害によるインフラ維持にも支障が出てきているという。
 焦りを感じた議会が5年前に依頼した外部からのコンサルタントにより「企業誘致」、「イベント開催」、「古民家を活用した観光」、「空き家の活用」等の提案が行われたが、村の予算と人手ではどれも機能せず、周辺の市町村がオリジナルの「飲食品」ブランドや商品を立ち上げたり、観光特化した施策を打つ中、神標津村ではこの20年ほぼ何も実現せず時だけが流れていったという。

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