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第1部 エピソード2023
「農業法人」
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「農業法人」
「稀世ちゃんは石川県羽咋市の神子原出身だそうじゃのう。稀世ちゃんの眼から見て、神子原のようにこの神標津は再生の「芽」は在りそうかのう?正直に意見を聞かせてくれんか?」
直が殊勝に頭を下げ、稀世に問いかけた。
「私の居た羽咋には「スーパー公務員」の「高野誠鮮」大先生が居られました。都市部の学生に対し宿泊型の農業体験をしてもらう「烏帽子親農家制度」をはじめに、「空き家・農地情報バンク制度」での定住促進を企画したりしました。わずかな金額ですが、「市」から予算が出た事と、高野大先生が「公務員」の立場で動かれたことで「JA」と敵対しつつも道の駅などでの農家の独自販売手法を実現され、最終的には皆さんもご存じのようにローマ法王に食べさせたという「神子原米」の「高級ブランド化計画」により、農業所得の増加対策に成功しました。でも、私は「一民間人」でしかないのでそこまでの事は…。」
と話をすると、岩井まりあが初めて発言した。
「そうよね。確かに「高野さん」はあの当時「公務員」の立場だったもんね。安さんが言わんとすることはよくわかるわ。でも、2017年に「荒くれ漁師をたばねる力 ド素人だった24歳の専業主婦が業界に革命を起こした話」を出版された「坪内知佳」さんの事例もあるじゃない。もちろん「酪農業」と「漁業」の違いはあると思うんだけど、2022年に再度「ファーストペンギン シングルマザーと漁師たちが挑んだ船団丸の軌跡」の実録本とドラマ「ファーストペンギン」でブレイクした山口の小さな漁村の事例だって実話でしょ?」
まりあは真剣な顔をして稀世に問いかけた。「坪内知佳」氏の本とドラマに関しては、「うちの村もこんなことできたらいいのにね。」と息子の三朗に勧められて読み、ネットでドラマは見たという事だった。
那依も「私もドラマは見たよ。稀世ちゃんは当時の坪内さんと違って企業再建の「プロのコンサルタント」なんだから何かできるんじゃない?」と那依はまりあの意見に賛同した。
(あぁ、よもやの「坪内知佳」さんや。あの時は2010年からの「6次産業化補助金」が始まったところで、最初に手を挙げたところは「補助金ジャブジャブ」の時代やったからなぁ…。あの本の後、国の補助金は取り合いで競争率も高いし、たくさんの「失敗事例」も出たから、よほど独自の「高利潤」の企画でないと採用にはなれへんよな…。)稀世は口にはしなかったが、難しい顔をしていた事で一郎と直から「まだコンサルタント契約をしたわけじゃないんだから正直に意見を聞かせてほしい」と言われ、本音を吐露した。
一郎と那依は稀世の意見を聞き、現在の神標津村の「議員」にも「公務員」にも「高野氏」のような気概を持ったものは居らず、「坪内氏」が有効活用した「国の補助金」が今はない事を納得したが、直とまりあはそうではなかった
「稀世ちゃん、「売れる商品」、「受け入れられるサービス」があったら何とかなりそうか?」、「今は「絵空事」でしかないんだけど、素案はあるの。それが実現可能かどうかを安さんの意見を聞かせて欲しいんだけど。」と直とまりあが口を開いた。
稀世は、二人の言うものが「実現可能」なものであっても、「予算」は必要であり、その実行に伴う「人員」は必須であることを伝えた。
「まりあちゃん、今すぐ三朗を呼び出せ。「アレ」持ってこさせろよ!一郎は広志と典史と真一も呼べ。うちのバカ息子も含めて「ぐうたら」にはばれんようにここに来るように言うんやぞ。」
直はまりあと一郎に声をかけると、那依には多めにビールを冷やしておくように言った。(えっ、いったい何が始まるの?直さんの「圧」が怖いんだけど…。)と状況が掴めない稀世に直は冷えた缶ビールを手渡し「乾杯!」とだけ言うと一気にロング缶を空けた。
まもなく、西沢広志と加藤典史がやって来た。杉田真一は岩本徹と岡山兄弟と載田龍二に連れられて飲んでいるようなので来ることができなかった。続いて、岩井三朗が大きな紙袋とノートパソコンとDVDを持ってやってきた。直に言われるがままに、パソコンを一郎の家の液晶テレビに接続し画面が同期している事を確認すると、紙袋の中の資料を取り出した。
「一郎、ここはわしが仕切らせてもらってええか?」直が一郎に許可を求めると「もちろんオッケーです。びしっとお願いします。」と頭を下げた。
稀世を中心にその右に一郎と那依、左に直とまりあが座り、向かいの席に広志、典史そして三朗が座ると最初に横向きのコピー用紙の綴りが2人に1部配られた。表紙には「菅野直様」、「神標津村酪農再生計画について」、「令和2年7月」、「金城司法書士事務所 副島大」と印刷されていた。(えっ?「金城司法書士事務所」に「副島大」って門真の金城事務所の提案書なの?)稀世は瞬時にタレント時代に付き合いのあった大阪府門真市の「よろずコンサルタント」でコンサル業務の「いろは」を教えてくれた金城司法書士事務所の補助者の副島の事を思い出した。
「まずは、20ページくらいの資料やから全員目を通してみてくれるか。」直の言葉に7人はうなずき、まりあと三朗以外の5人はページをめくり始めた。5年前に「直」宛で作られた提案書の内容は、神標津農協に向けて作られた「オリジナル」の内容だった。
内容は「脱JA」での「収益モデル解説」に始まり、「将来ビジョンイメージ」に続き「農業法人化」、「オリジナル商品提案」、「販路開拓」について書かれており、最後に「事業計画収支予算書」と「予算概算見積り」となっていた。中には「私設「道の駅」建設」や「首都圏アンテナショップ出店」等の莫大な予算がかかるものもあったが、それ以外は現実的なものが多かった。
稀世は提案書の内容に引き込まれていった。(これって絶対に「副島のおっちゃん」の提案書や…。おそらく「事業開始必要初期資金」と「販路開拓」の営業人員でとん挫したんやろ。確かに、初期資金だけ何とかなったら、「販路開拓」は私の持つネットワークでスタートはできる。「オリジナル商品」もここで十分可能なものが挙げられてる。あとはみんなの「やる気」や…。直さんと一郎さんはそれをわかってて西沢さんと加藤さんと岩井さん、そして今日は来られへんかったんやけど杉田君に声をかけたんや。ただ問題は「資金」やな…。今の「儲からない酪農業」で皆にそんな余裕資金があるとは思われへんから…、)稀世が読み終わると、一郎と那依、そして広志と龍二は真剣な表情で二度目の読み直しに入っているのを見て「やる気」を感じた。三朗はまりあと直となにやら打ち合わせに入っている。
広志と龍二が2度目を読み終わった時点で、7人に向かって直が口を開いた。
「これは、5年前にここを訪れてくれた当時結婚相談所のアドバイザーもやってた大阪のよろずコンサルタントさんの提案書なんじゃ。元は、大阪からの移住者や嫁候補を募集する話で役所が呼んだ人だったんやけど、わしと「話」が合ってな…。「定住するにも嫁に来るにも「仕事」と「金」が無いと難しい」って言われて、帰阪後、作ってもらった提案書じゃ。
しかし、当時のわしらには「資金」と「やる気」が全く足らんかった。村の補助金は皆無で、道農協は「独立の為の資金は融資できん!」ってな。もちろん「販路開拓」なんか誰も経験はない。乳を搾って、取れた野菜をJAに一括納品するしかできんかったわしらには到底無理だった。
コンサルタントが提案してくれた「独自商品」は何とか作ったとしても自分らでは売れないではどうしようもなかったし、新商品にチャレンジしてみようって奴も居らんかった。
わしも76歳になった。ここが最後のチャンスだと思う。わしの2人目の連れ合いが長患いの末、去年亡くなった。看護の手も離れた。幸い、道会議員の立場だったんで遺族共済年金でわしは食うには困らん。更に、3000万円の生命保険も入ってきた。この話をあほの徹にもしたけど、「その金持って札幌に行こう!」っていう始末や。
稀世ちゃんが協力してくれてここに居る皆が頑張るんだったら、わしが出資したるから「このプラン」にチャレンジしてみたい。皆の意見はどうじゃ?」
広志が「ちょっと話す時間をください。」と発言し、三朗と典史に意見を求めた。青年部の「調整役」らしく、メンバー全員に声かけの機会は均等に与えて欲しいという事と、出資と利益配当について詳細を詰めたいという意見が出た。三朗は提案書の利益計画書をテレビモニターに映し出した。
直は稀世に意見を求めた。稀世は「一般論として聞いて欲しいのですが…、」と農業法人と今の農協のみを卸し先として営む個人事業の税務、資金面、労働条件、傷病時の補償等のメリット、デメリットについてわかりやすく説明をした。現在の個人事業と大きく変わるのは、「給与所得者」になるという事だった。今までの「収益」、「経費」は法人で受けるところまでは大きくは変わらないが、「給与所得控除」が新たに受けられることと、万一の傷病時に「社会保険」から補償が受けられることと、業務を法人メンバーに預けられるメリットは皆の心に響いた。
「僕が働けなくなったら皆に任せて、仮に誰かが働けなくなったら僕らでカバーしあうって事ですね?」と典史が尋ねると具体的な事例を稀世は示した。更に「この先、皆が結婚して家族を持つ際に、「定休日」、「臨時休暇」って有った方が絶対いいと思うよ。」と加えた。一郎が那依の出産が牛の出産と重なり立ち会えなかった事や、娘の急な発熱の時に付き添えなかった事が語られた。
「まあ、今、街でOLやってる女の子に「休み無し」の仕事って言ったら、お嫁さんには来ないわよ。」と那依とまりあが口添えすると、広志は大きく頷いた。
続いて典史から「債務」についての質問が出た。新規借り入れについては法人で行ったものについては親子間での債務引き継ぎは発生せず、詳細は精査しないといけないが、典史の背負った債務については個人使用用途以外の機材、資材のローン等については新規法人で引き継ぐことも可能であると稀世は回答すると、典史は少しほっとした表情を浮かべた。
午後11時を迎えた時、一郎の携帯電話が鳴った。飲み会が終わったので今から出席したいという杉田真一からの電話だった。当然のごとく了承し、しばらくすると真一が会議に加わった。皆からの質問、疑問に稀世は的確に回答し、三朗の足寄農協、さっぽろJAでの取り組み事例の紹介も加わり、新規事業に対する理解度は高まり、メンバーに「農業法人」化するメリットは十分に伝わった。
金城司法書士事務所が提案した「新商品」については、オリジナルの「バター」や「チーズ」商品については、足寄農協、JAさっぽろ時代に三朗が道の駅での販売用に作ってきたノウハウが活きた。それ以外の新商品については、明日以降に直と那依、まりあの女性陣で試作してみることとなった。
時計の針は午前1時を指し、ひとまず会議はお開きとなった。
「じゃあ、とりあえず仮称「株式会社アグリ神標津」準備スタートって事でええな!明日の午前中、稀世ちゃんはわしらが預かるから、お前らはしっかりと自分の仕事せえよ!はい、今日はここまで!」
直の中締めの後、自宅へと帰っていく各々の顔には今までになかった「生気」が感じられた。
「稀世ちゃんは石川県羽咋市の神子原出身だそうじゃのう。稀世ちゃんの眼から見て、神子原のようにこの神標津は再生の「芽」は在りそうかのう?正直に意見を聞かせてくれんか?」
直が殊勝に頭を下げ、稀世に問いかけた。
「私の居た羽咋には「スーパー公務員」の「高野誠鮮」大先生が居られました。都市部の学生に対し宿泊型の農業体験をしてもらう「烏帽子親農家制度」をはじめに、「空き家・農地情報バンク制度」での定住促進を企画したりしました。わずかな金額ですが、「市」から予算が出た事と、高野大先生が「公務員」の立場で動かれたことで「JA」と敵対しつつも道の駅などでの農家の独自販売手法を実現され、最終的には皆さんもご存じのようにローマ法王に食べさせたという「神子原米」の「高級ブランド化計画」により、農業所得の増加対策に成功しました。でも、私は「一民間人」でしかないのでそこまでの事は…。」
と話をすると、岩井まりあが初めて発言した。
「そうよね。確かに「高野さん」はあの当時「公務員」の立場だったもんね。安さんが言わんとすることはよくわかるわ。でも、2017年に「荒くれ漁師をたばねる力 ド素人だった24歳の専業主婦が業界に革命を起こした話」を出版された「坪内知佳」さんの事例もあるじゃない。もちろん「酪農業」と「漁業」の違いはあると思うんだけど、2022年に再度「ファーストペンギン シングルマザーと漁師たちが挑んだ船団丸の軌跡」の実録本とドラマ「ファーストペンギン」でブレイクした山口の小さな漁村の事例だって実話でしょ?」
まりあは真剣な顔をして稀世に問いかけた。「坪内知佳」氏の本とドラマに関しては、「うちの村もこんなことできたらいいのにね。」と息子の三朗に勧められて読み、ネットでドラマは見たという事だった。
那依も「私もドラマは見たよ。稀世ちゃんは当時の坪内さんと違って企業再建の「プロのコンサルタント」なんだから何かできるんじゃない?」と那依はまりあの意見に賛同した。
(あぁ、よもやの「坪内知佳」さんや。あの時は2010年からの「6次産業化補助金」が始まったところで、最初に手を挙げたところは「補助金ジャブジャブ」の時代やったからなぁ…。あの本の後、国の補助金は取り合いで競争率も高いし、たくさんの「失敗事例」も出たから、よほど独自の「高利潤」の企画でないと採用にはなれへんよな…。)稀世は口にはしなかったが、難しい顔をしていた事で一郎と直から「まだコンサルタント契約をしたわけじゃないんだから正直に意見を聞かせてほしい」と言われ、本音を吐露した。
一郎と那依は稀世の意見を聞き、現在の神標津村の「議員」にも「公務員」にも「高野氏」のような気概を持ったものは居らず、「坪内氏」が有効活用した「国の補助金」が今はない事を納得したが、直とまりあはそうではなかった
「稀世ちゃん、「売れる商品」、「受け入れられるサービス」があったら何とかなりそうか?」、「今は「絵空事」でしかないんだけど、素案はあるの。それが実現可能かどうかを安さんの意見を聞かせて欲しいんだけど。」と直とまりあが口を開いた。
稀世は、二人の言うものが「実現可能」なものであっても、「予算」は必要であり、その実行に伴う「人員」は必須であることを伝えた。
「まりあちゃん、今すぐ三朗を呼び出せ。「アレ」持ってこさせろよ!一郎は広志と典史と真一も呼べ。うちのバカ息子も含めて「ぐうたら」にはばれんようにここに来るように言うんやぞ。」
直はまりあと一郎に声をかけると、那依には多めにビールを冷やしておくように言った。(えっ、いったい何が始まるの?直さんの「圧」が怖いんだけど…。)と状況が掴めない稀世に直は冷えた缶ビールを手渡し「乾杯!」とだけ言うと一気にロング缶を空けた。
まもなく、西沢広志と加藤典史がやって来た。杉田真一は岩本徹と岡山兄弟と載田龍二に連れられて飲んでいるようなので来ることができなかった。続いて、岩井三朗が大きな紙袋とノートパソコンとDVDを持ってやってきた。直に言われるがままに、パソコンを一郎の家の液晶テレビに接続し画面が同期している事を確認すると、紙袋の中の資料を取り出した。
「一郎、ここはわしが仕切らせてもらってええか?」直が一郎に許可を求めると「もちろんオッケーです。びしっとお願いします。」と頭を下げた。
稀世を中心にその右に一郎と那依、左に直とまりあが座り、向かいの席に広志、典史そして三朗が座ると最初に横向きのコピー用紙の綴りが2人に1部配られた。表紙には「菅野直様」、「神標津村酪農再生計画について」、「令和2年7月」、「金城司法書士事務所 副島大」と印刷されていた。(えっ?「金城司法書士事務所」に「副島大」って門真の金城事務所の提案書なの?)稀世は瞬時にタレント時代に付き合いのあった大阪府門真市の「よろずコンサルタント」でコンサル業務の「いろは」を教えてくれた金城司法書士事務所の補助者の副島の事を思い出した。
「まずは、20ページくらいの資料やから全員目を通してみてくれるか。」直の言葉に7人はうなずき、まりあと三朗以外の5人はページをめくり始めた。5年前に「直」宛で作られた提案書の内容は、神標津農協に向けて作られた「オリジナル」の内容だった。
内容は「脱JA」での「収益モデル解説」に始まり、「将来ビジョンイメージ」に続き「農業法人化」、「オリジナル商品提案」、「販路開拓」について書かれており、最後に「事業計画収支予算書」と「予算概算見積り」となっていた。中には「私設「道の駅」建設」や「首都圏アンテナショップ出店」等の莫大な予算がかかるものもあったが、それ以外は現実的なものが多かった。
稀世は提案書の内容に引き込まれていった。(これって絶対に「副島のおっちゃん」の提案書や…。おそらく「事業開始必要初期資金」と「販路開拓」の営業人員でとん挫したんやろ。確かに、初期資金だけ何とかなったら、「販路開拓」は私の持つネットワークでスタートはできる。「オリジナル商品」もここで十分可能なものが挙げられてる。あとはみんなの「やる気」や…。直さんと一郎さんはそれをわかってて西沢さんと加藤さんと岩井さん、そして今日は来られへんかったんやけど杉田君に声をかけたんや。ただ問題は「資金」やな…。今の「儲からない酪農業」で皆にそんな余裕資金があるとは思われへんから…、)稀世が読み終わると、一郎と那依、そして広志と龍二は真剣な表情で二度目の読み直しに入っているのを見て「やる気」を感じた。三朗はまりあと直となにやら打ち合わせに入っている。
広志と龍二が2度目を読み終わった時点で、7人に向かって直が口を開いた。
「これは、5年前にここを訪れてくれた当時結婚相談所のアドバイザーもやってた大阪のよろずコンサルタントさんの提案書なんじゃ。元は、大阪からの移住者や嫁候補を募集する話で役所が呼んだ人だったんやけど、わしと「話」が合ってな…。「定住するにも嫁に来るにも「仕事」と「金」が無いと難しい」って言われて、帰阪後、作ってもらった提案書じゃ。
しかし、当時のわしらには「資金」と「やる気」が全く足らんかった。村の補助金は皆無で、道農協は「独立の為の資金は融資できん!」ってな。もちろん「販路開拓」なんか誰も経験はない。乳を搾って、取れた野菜をJAに一括納品するしかできんかったわしらには到底無理だった。
コンサルタントが提案してくれた「独自商品」は何とか作ったとしても自分らでは売れないではどうしようもなかったし、新商品にチャレンジしてみようって奴も居らんかった。
わしも76歳になった。ここが最後のチャンスだと思う。わしの2人目の連れ合いが長患いの末、去年亡くなった。看護の手も離れた。幸い、道会議員の立場だったんで遺族共済年金でわしは食うには困らん。更に、3000万円の生命保険も入ってきた。この話をあほの徹にもしたけど、「その金持って札幌に行こう!」っていう始末や。
稀世ちゃんが協力してくれてここに居る皆が頑張るんだったら、わしが出資したるから「このプラン」にチャレンジしてみたい。皆の意見はどうじゃ?」
広志が「ちょっと話す時間をください。」と発言し、三朗と典史に意見を求めた。青年部の「調整役」らしく、メンバー全員に声かけの機会は均等に与えて欲しいという事と、出資と利益配当について詳細を詰めたいという意見が出た。三朗は提案書の利益計画書をテレビモニターに映し出した。
直は稀世に意見を求めた。稀世は「一般論として聞いて欲しいのですが…、」と農業法人と今の農協のみを卸し先として営む個人事業の税務、資金面、労働条件、傷病時の補償等のメリット、デメリットについてわかりやすく説明をした。現在の個人事業と大きく変わるのは、「給与所得者」になるという事だった。今までの「収益」、「経費」は法人で受けるところまでは大きくは変わらないが、「給与所得控除」が新たに受けられることと、万一の傷病時に「社会保険」から補償が受けられることと、業務を法人メンバーに預けられるメリットは皆の心に響いた。
「僕が働けなくなったら皆に任せて、仮に誰かが働けなくなったら僕らでカバーしあうって事ですね?」と典史が尋ねると具体的な事例を稀世は示した。更に「この先、皆が結婚して家族を持つ際に、「定休日」、「臨時休暇」って有った方が絶対いいと思うよ。」と加えた。一郎が那依の出産が牛の出産と重なり立ち会えなかった事や、娘の急な発熱の時に付き添えなかった事が語られた。
「まあ、今、街でOLやってる女の子に「休み無し」の仕事って言ったら、お嫁さんには来ないわよ。」と那依とまりあが口添えすると、広志は大きく頷いた。
続いて典史から「債務」についての質問が出た。新規借り入れについては法人で行ったものについては親子間での債務引き継ぎは発生せず、詳細は精査しないといけないが、典史の背負った債務については個人使用用途以外の機材、資材のローン等については新規法人で引き継ぐことも可能であると稀世は回答すると、典史は少しほっとした表情を浮かべた。
午後11時を迎えた時、一郎の携帯電話が鳴った。飲み会が終わったので今から出席したいという杉田真一からの電話だった。当然のごとく了承し、しばらくすると真一が会議に加わった。皆からの質問、疑問に稀世は的確に回答し、三朗の足寄農協、さっぽろJAでの取り組み事例の紹介も加わり、新規事業に対する理解度は高まり、メンバーに「農業法人」化するメリットは十分に伝わった。
金城司法書士事務所が提案した「新商品」については、オリジナルの「バター」や「チーズ」商品については、足寄農協、JAさっぽろ時代に三朗が道の駅での販売用に作ってきたノウハウが活きた。それ以外の新商品については、明日以降に直と那依、まりあの女性陣で試作してみることとなった。
時計の針は午前1時を指し、ひとまず会議はお開きとなった。
「じゃあ、とりあえず仮称「株式会社アグリ神標津」準備スタートって事でええな!明日の午前中、稀世ちゃんはわしらが預かるから、お前らはしっかりと自分の仕事せえよ!はい、今日はここまで!」
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