『北の大地のファーストペンギン2025~限界集落復興と結婚したい訳あり男女達の物語~』

M‐赤井翼

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第1部 エピソード2023

「暴漢」

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「暴漢」

 翌日の午後、副島からの第一の客人「出口祥でぐちしょう」が村に到着した。真っ先に、直の元を訪れ畜舎と蒸気源泉を確認した。その後、直は、稀世と共に祥を室温30度を超える一郎の畜舎に連れて行った。祥は副島から預かって来た地熱発電と畜舎改修工事の予定表を手渡し、今後の予定について説明をした。
 祥は畜舎内の「暑さ」と組み上げられた直後の地下水の温度を自ら体験し、広志、三朗、真一の持つ畜舎を続けて見学して回り挨拶を交わした後、井戸の位置や畜舎内の水の導線を確認した。畜舎の広さや、牛の飼育数、天井、壁の材質を検討しながら、実験設備の割り振りを考え一郎に説明した。冬の暖房対策についても副島からの提案書を提示し、了解を得た事が稀世にもわかった。
 (なるほどな…、副島のおっちゃんが出口君を送り込んできた理由がわかったわ。技術系のコンサル業務もできるんやな。技術面の難しい事は私じゃあかんもんな。少なくとも、牛の健康が保たれるように、極力ローコストで冷暖房を賄うって事やねんな。
 地下水空調って冬でも効果があるねんな。あと、コンポストって人用のトイレ以外にもそんな使い方があるんや。カーボンニュートラルの考えには適ってるから「アグリ神標津」としての取り組みにも活かせそうやな。)

 祥はその後、直の家に再度赴くと厨房に居た晶とさくらと梱包とバターづくりをしていた那依、まりあと典史にも挨拶した。祥は副島に電話を入れ、畜舎確認と一通りの挨拶を済ませた事の報告と機材の到着予定の確認を入れた。
 一通りの通達事項が終わると、祥はスマホを稀世に手渡した。副島から、明日の便で「北浜唯きたはまゆい」と2人の娘を連れて「蒸芽むすめガイル」が到着することが伝えられた。電話の最後に、「これはおいちゃんの気にしすぎかもしれへんねんけど、万朶野さんには「顔出し」は極力避けるように言うといたってな。昨日のTikTokで素顔出して、「神標津」に居る旨を公開してしもてたから、ちょっと注意しといて。」と言われたが、すぐに電話は切れてしまったので稀世にはその趣旨はよくわからなかった。

 その日の夜は、祥の歓迎会となった。陽気な性格で、気遣いもできる祥はすぐにみんなに打ち解けた。事前に道内の各エリアのJAでの独自の取り組みや農業法人の活動状況を調べてきていたので、今日も「宴」というよりは「経営戦略会議」のような飲み会となった。
 「出口調査・・・・によると…、」で始まる祥の発言に、まりあが「それって何?選挙の時に祥君がヒアリングしてきたの?」と尋ねると、「祥の独自調査」の事を「出口調査」と呼んでいると説明があり、「やっぱり大阪の人は面白いですね!」と女性陣は笑ったが広志を筆頭に男性メンバーは他のエリアの酪農家が何をしているのか改めて知り、自分たちの活動が今まで農協に100%依存していたモノでしかなかったと感じた。
 北海道の市町村別人口は約195万人の札幌市の次は、約31万人の旭川市、約23万人の函館市、以下約16万人の苫小牧市、約15万人の釧路市、帯広市、約11万人の江別市、約10万人の北見市と小樽市を除くと、人口10万人以下の市町村ばかりで道内人口は約501万人と説明があった。

 「皆さんが大きく売り上げを伸ばそうと思うと、北海道内での小さな「パイ」を奪りあうより、やはり首都圏、関西、中京エリアの人口密集部での勝負になると思います。将来的には、苫小牧港から大洗を経ての首都圏や、名古屋への販路も開拓していきたいと思いますが、現行のこの人数であれば、まずは苫小牧から敦賀を経ての京阪神エリアからの物流を考えています。」
と祥は、東大阪にある冷蔵物、冷凍物も保管および発送代行をしてくれる倉庫業者のパンフレットを皆に配布した。添付されていた冷蔵、冷凍物の宅配便発送料は神標津から送る場合の料金と比べると格段に安かった。
 当面は、「アグリ神標津」だけで40フィートのコンテナ一杯に荷を送ることはあり得ないので、他社荷物との「乗り合い便・・・・・」で「神標津ここ」から「東大阪」に送ることが提案された。

 倉庫の使用料や運賃を考えると、1便当たりの売上金額が200万円で採算ラインとなるという。「なるほどね。ローストビーフだけで2000本…、バターなら1トンか。頑張れば生産面はなんとかなる数字ね。」と晶が呟いた。
 稀世は晶に営業業務の協力を願い出た。
「晶さん、京阪地区の営業を手助けしてもらえないでしょうか?美魔女シェフとして顔も売れていて、調理の腕も一流の晶さんが販路開拓を手伝ってくれたら凄く助かるんです。私の付き合いのある店ってテレビの取材で行ったところが中心になるんで全国に散ってて効率が上がらないんですよ。
 副島のおっちゃんからの情報だと、明日こっちに来られる「北浜唯」さんは、「ネット広告」の会社で13年勤務のベテランで、飲食関係の購買担当者名までわかってるビッグデータをおっちゃんが送ってくれてるんで、北浜さんにメール広告を配信してもらってさくらちゃんにアポを取ってもらって、週に数日出張で営業してもらえたらって考えてるんです。」
 晶はその申し出を快諾した。初回出張は発送代行社との契約もあるので「アグリ神標津」の代表である広志と一緒に大阪に行くこととなった。広志は少しうれしそうな顔を見せた。

 午後7時から、みっちり4時間の「経営会議」は終わり、会は解散となった。宴会が開かれていた広間には、既に敦賀港に到着している資材を積み込んだトラックで明日の夕方には資材が到着し、2日後から電気設備工事に入るため、直と典史が引き続き祥を中心に打ち合わせを続けている。一郎の家で工員を3日間預かる事となっていたので、日の出から夕刻までの作業で地熱タービン発電機の設置、配線工事、業務用エアコン、プレハブ冷蔵庫、プレハブ冷凍庫を2日で設置する予定が組まれていた。
 各々の作業立ち合いに備えて、三朗と真一が典史の業務の応援に入ることが決まっている。打ち合わせは淡々と進み、午前0時を前に終わった。

 「典史君、今日も遅くまでお疲れさまでした。表まで見送りに行くね。」
とひょっこり顔を出したさくらが典史と一緒に広間を後にした。
「稀世ちゃん、典史の奴、さくらちゃんとできてるんか?昨日もさくらちゃんのスイーツの為に「鶏」を飼うとか言うてたしな?「もしかしたら」、「もしかする」んとちゃうんか?まりあちゃん以来の道外からの嫁誕生やったら、嬉しいのう。もう「やった・・・」とか聞いてへんのか?カラカラカラ。」
と直がゲスな笑い顔を浮かべた瞬間、表からさくらの悲痛な悲鳴が響いた。
「きゃーっ!突然、何するんよ!あっ、典史君大丈夫?典史君ダメ!血が出てる。いやーっ!助けてー!」
 
 瞬時に立ち上がった直と稀世が靴も履かずに玄関から外に飛び出した。直の家の前に見慣れないワゴン車が止まり、そのヘッドライトの先で血まみれになった典史の姿と、3人の男たちに後部座席に連れ込まれそうになっているさくらが暴れているのが見えた。
 鼻血で顔を染めた典史が渾身の力を込めて、「さくらちゃんに何するんじゃい!彼女に乱暴する奴は許さんぞ!」とさくらの上半身を抱える男の顔面に拳を叩き込んだ反動でさくらは道路に転がり落ちた。別の男が典史の腹に強烈な前蹴りを入れると、典史の身体が「く」の字に折れた。
「典史君!」とさくらが駆け寄るも、3人目の男に背後から抱えられ剥がされた。逆上した典史に殴られた男はジーンズの尻のポケットから「ジャックナイフ」を取り出すと、有無を言わさず典史の左わき腹に突き刺した。
典史のわき腹から吹き出た生暖かい血潮がさくらの顔にかかった。「いやーっ!典史君死んじゃいやー!」再び、神標津の夜空に響いたさくらの悲鳴に「ごるぁ!何しとるんじゃい!」と直の叫びが重なった。

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