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第2部 エピソード2024
「電気肉と町田メロン」
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「電気肉と町田メロン」
穴吹と上坊が帰京する日がやって来た。午後2時50分の羽田行に乗る予定なので、昼食を終えると根室中標津空港に送る予定になっている。時間を無駄にすることなく、2人は朝7時から精力的に動き出している。
新設された広の家の120坪の大型休眠畜舎を改造したアグリ神標津として3舎目の野菜工場に向かった。新品のインバータ式のエアコン装備の建屋は断熱材でしっかりと壁、天井が整備され水耕栽培に必要な機材が設置されているが、何を作るのかまだ決まっていないとの事でポンプとメイン配管だけでラックやパレットはまだ未設置であった。
さくらと那依、まりあ、そして三朗と祥が立ち合い、設備の説明を行った。内部を分割し違った温度帯で40坪ずつ使えるようになっている事と、隣接する元畜舎にはプレハブ冷蔵庫と冷凍庫がある事を説明すると穴吹と上坊は何やら2人でこそこそと話し込んでいた。
「あの、この野菜工場を借切る事は可能ですか?僕たちからの生産委託という事で年間包括契約を考えてます。役員さんに話してもらえると助かります。栽培開始までは専門業者を入れますので、栽培のノウハウを教わった上でその後の生育管理と収穫、一部加工の上、出荷までをお願いしたいと考えています。」
と穴吹から言われ、即時返答しようがない案件と判断した那依は一郎、まりあは直、三朗は広志に連絡を入れ、昼食時に条件等の打ち合わせに入る事となった。
午後9時になると、穴吹と上坊は厨房に移動した。畜舎の世話に向かう三朗と晶が入れ替わり、稀世、直と健司が加わった。厨房の作業テーブルの上には昨日のうちに上坊から依頼のあった60センチの観賞魚用の水槽と100ボルトの交流電源を15000ボルトに昇圧させるトランスと電極が健司によって準備されていた。
そこに晶がプレハブ冷蔵庫から出してきたひと月の間冷蔵庫で熟成期間を経たステーキに最適とされる「リブロース」と脂肪分が少なく赤身でひき肉や細切れにされることが多い「ネック」が並べられた。さらに一昨日、さばいたばかりの同じ部位が2枚ずつ用意されている。
「上坊先生、いったい今から何をしはるんですか?調理というより「理科の実験」って感じですけど…。」
と稀世が質問をした。
「はい、今、安さんが言ったようにまさに実験です。アグリ神標津さんでやられてる「熟成肉」ですが、「コクがあり、柔らかく、旨い」と引き換えに長時間の熟成を必要とする為に「保管場所」と「時間」のコストがかかります。
今から、簡単にその「コスト」を省く方法を皆さんに実感してもらおうと思います。良かったらビデオ撮影しておくとよいと思いますよ。」
言われるがままに稀世はビデオカメラを回し始めた。上坊は笑顔を見せると水槽に食塩を放り込み水を注ぎ入れ攪拌し、一昨日、卸したばかりのステーキサイズの「リブロース」と「ネック」の両端に電極クリップを挟み食塩水溶液の中に放り込んだ。
「さて、演出の為に照明を落としましょうか。」と上坊に言われ、那依が部屋の照明を切った。薄暗くなった厨房の中で上坊はトランスに付けられたスイッチを入れると電圧計を見ながらボリュームダイヤルをひねっていった。電圧計が100ボルトから徐々に上がっていくと水槽内の2種類の牛肉が青白く発光し始めた。5000ボルトを超えると水中の肉から青いプラズマ放電が始まり、15000ボルトまで昇圧されると肉の発光で部屋が幻想的に照らされ明るくなった。
「食肉っていうのは魚介と違って「新鮮」イコール「旨い」ではないですよね。3大旨味成分とされる昆布に多く含まれるグルタミン酸、干しシイタケ、海苔に含まれるグニアル酸と並ぶカツオや肉類のうまみ成分のイノシン酸は卸されてから徐々に肉内で天然化合されていきます。もちろん、精肉はその元の生物の呼吸と血流が止まると同時に腐敗も始まりますので冷蔵貯蔵が必要です。
鶏肉であれば48時間、豚肉は約1週間で熟成するのですが、大型哺乳類の牛だと約1か月かかります。電気肉は通電により人工的に肉内のイノシン酸を増加させますので熟成時間を劇的に短縮させることができます。まあ、電気肉の歴史については「気持ちのいい話」ではありませんので割愛しますが、このようにカットされた牛肉であれば十数分の通電で格別の旨さになります。さて、試食してみましょうか。」
上坊はトランスのボリュームを下げて電源を落とした。再び灯けられた照明の下で水槽から取り出された肉に見た目の変化は見られなかった。
コンロ上の2枚のフライパンに油をひくと、「リブロース」、「ネック」を別々のフライパンに卸して2日目の肉、冷蔵庫でひと月寝かせた肉、電気肉を並べて焼くと簡単な塩コショウだけで6枚の皿に移した。
試食した感想はその場にいたもの全員共通の意見だった。卸して2日目の肉はどちらも固く、味気なかった。続いて食べた熟成肉と電気肉の「リブロース」については味の違いを感じないほどどちらも柔らかくコクがあった。「ネック」にいたっては、電気肉の方は赤身とは思えないほど柔らかく、食べやすさを感じた。
「ぎょへー、電気肉って凄いなぁ!これやったら急な大量注文が来ても安心やで!」
と言いながら、稀世はおかわりを求めた。
直は上坊が最後まで話さなかった「気持ちのいい話ではない」という言葉に引っかかっていた。「祥ちゃん、上坊シェフが言いかけた「電気肉の歴史」ってなんじゃいな?」と質問すると「うーん、お肉を食べてる時にする話じゃないんですけど…、」と断りを入れた上で、絞首刑の後の死体は死後硬直するが、電気椅子刑にかけられた死体は死後硬直しないことに気がついた肉屋の息子の刑務官が精肉で試したことが電気肉の始まりという説を小さな声で囁いた。
「へー、なんにでも「気づき」はあるもんなんじゃな…。まあ、そこはホームページに載せない方がよさそうじゃ。カラカラカラ。」と笑いながら缶ビールを開けた。
電気肉の試食は好評で、昼食では「鶏肉」の電気肉のソテーが提供された。鶏肉はブラジル産の冷凍肉が使用されたが、1分ほど通電したもも肉は「有名地鶏」に匹敵するコクがあり、午前中の牛肉の試食をしていない者にもその効果を知らせるには十分なプレゼンテーションとなった。
養鶏も始めた典史とさくらは牡鶏と排卵を終えた雌の「ひね鶏」の活用に困っていたと話をしたところ、上坊が「電気鶏加工をしてもらえればクリスマスに一括購入させてもらいますよ。」とその場で商談がまとまった。
食事をしながら穴吹からパソコンとプロジェクターを使って、水耕栽培舎の活用方法が提案された。
「西沢社長の新野菜工場のひと区画40坪を年間契約させて欲しいんです。みなさんにお世話してもらいたいのはコレです。」
とパソコンのマウスをクリックすると「町田メロン」という聞きなれない名前がホワイトボードに映し出された。
穴吹の解説によると、神奈川県と隣接する東京都町田市の町工場が開発した特許製法の水耕栽培方法によりハウス栽培されたメロンの名称との事だった。「町田式水耕栽培」が行われているビニールハウス内の写真が大写しにされた。
製法に必要な機器が特許使用料も込みで提供されている「町田式水耕栽培」についての解説が始まった。本工場では300坪のハウス内に106センチ角で深さ15センチの水耕栽培槽を並べた連結循環型栽培槽48台が稼働している。土壌栽培と違い、根が抵抗なく自由に伸びることができることから水耕栽培にチャレンジした農家は多かったが、従来の一か所のポンプで作る水流での育成は根が同方向に流されることで絡まり根腐れを起こして、その多くが失敗した。
2009年に町田市の「農商工学連携事業」の一環として、法政大学、玉川大学と10社の企業と農家の有志が集まり高級メロンの水耕栽培方法の開発を始めた。農業とは縁のない町工場の社長が水槽の中央から四方八方に広がる水流を作り出すポンプを開発した事で根は絡むことなくのびのびと繁茂できるようになり、2011年に糖度14から15度のマスクメロンの栽培に成功した。
「町田式水耕栽培方法」のシステム販売と栽培指導を行う法人が立ち上げられた。育成に手間がかかり、4カ月ほどの期間で一株から3個から6個の収穫であるがゆえに「高価格」となるマスクメロンが、町田式では「芽かき」、「摘芯」、「摘果」を必要としない「放任栽培」で良いという。水槽内の特殊ポンプのおかげで自由に広がる根から大量の養分を吸収できるため一株で30個から40個は収穫でき、その最大量は60個になるという。
露地栽培と違い、ハウス内栽培は虫や野鳥の害はなく季節を問わず安定して収穫できる夢の工法であるが、「町田メロン」は増産しない方針でひと玉4000円から2万円の高級メロンとなり、パティスリーではとても使えないという事だった。
そこで穴吹と上坊がシステム使用料と技術使用料を支払うので広志の野菜工場の一部屋40坪を借り受け、今年は5株の育成を委託したいという事だった。年3回生産として年間450個を納品してもらえばそれ以上の成果についてはアグリ神標津で自由に扱ってよいという。
「本当にそんなに美味しい話ってあるんやろか?自然栽培の5倍以上収穫できて、生産も「楽」やったらみんなやってるんとちゃうの?」
と稀世が正直な感想を述べると、穴吹から日本農業についてのリアルな状況が語られた。
新たな事にチャレンジする意欲を持った若手が少なく、新規事業に対して投資ができる余裕がある農家はほとんどなく、ドラスティックな変化を求めない「安定志向」の農協の指導方針等がその原因として並べられた。
アグリ神標津メンバーは1年前の自分たちの事を思い出し、黙ってうなずいた。
「町田式の採用事例って他にあるんですか?」三朗が質問すると、北海道内でも牛の糞尿の発酵熱で発電し、ハウスに暖房を入れ栽培している事例が紹介された。他にも群馬県高崎市の「障がい者事業所」、横浜市の「花き農家」のハウス栽培事例が紹介された。更に沖縄本島での米軍から返還された遊休地での栽培実績が語られた。
「注意しないといけない事はありますか?」とさくらが挙手すると、上坊が回答した。
「停電だけは絶対に避けてください。ポンプが止まるとすぐに根腐れしてしまいます。一応、僕たちがお願いする部屋に関しては非常用電源は用意させてもらうつもりですのでそこは安心してください。」
続けて説明された、今回アグリ神標津に委託を考えた理由が「エアコン設置」だった。メロンは寒さに弱いだけでなく、「酷暑」にも弱いという事だった。
「ヒーターのあるハウスはいくつもありますが、クーラーの付いた「水耕栽培舎」は珍しいですからね。あと、ここの皆さんは新しい事にチャレンジしていく「夢」と「パワー」がある事が一番の理由です。どうか、一緒に美味しいメロンを安価で提供できるよう協力お願いします。」
と穴吹と上坊が一緒に頭を下げると、満場一致でメロンの委託栽培受注が決まった。
皆に感謝され、3週間後の再来村を約束して2人は神標津村を後にした。
穴吹と上坊が帰京する日がやって来た。午後2時50分の羽田行に乗る予定なので、昼食を終えると根室中標津空港に送る予定になっている。時間を無駄にすることなく、2人は朝7時から精力的に動き出している。
新設された広の家の120坪の大型休眠畜舎を改造したアグリ神標津として3舎目の野菜工場に向かった。新品のインバータ式のエアコン装備の建屋は断熱材でしっかりと壁、天井が整備され水耕栽培に必要な機材が設置されているが、何を作るのかまだ決まっていないとの事でポンプとメイン配管だけでラックやパレットはまだ未設置であった。
さくらと那依、まりあ、そして三朗と祥が立ち合い、設備の説明を行った。内部を分割し違った温度帯で40坪ずつ使えるようになっている事と、隣接する元畜舎にはプレハブ冷蔵庫と冷凍庫がある事を説明すると穴吹と上坊は何やら2人でこそこそと話し込んでいた。
「あの、この野菜工場を借切る事は可能ですか?僕たちからの生産委託という事で年間包括契約を考えてます。役員さんに話してもらえると助かります。栽培開始までは専門業者を入れますので、栽培のノウハウを教わった上でその後の生育管理と収穫、一部加工の上、出荷までをお願いしたいと考えています。」
と穴吹から言われ、即時返答しようがない案件と判断した那依は一郎、まりあは直、三朗は広志に連絡を入れ、昼食時に条件等の打ち合わせに入る事となった。
午後9時になると、穴吹と上坊は厨房に移動した。畜舎の世話に向かう三朗と晶が入れ替わり、稀世、直と健司が加わった。厨房の作業テーブルの上には昨日のうちに上坊から依頼のあった60センチの観賞魚用の水槽と100ボルトの交流電源を15000ボルトに昇圧させるトランスと電極が健司によって準備されていた。
そこに晶がプレハブ冷蔵庫から出してきたひと月の間冷蔵庫で熟成期間を経たステーキに最適とされる「リブロース」と脂肪分が少なく赤身でひき肉や細切れにされることが多い「ネック」が並べられた。さらに一昨日、さばいたばかりの同じ部位が2枚ずつ用意されている。
「上坊先生、いったい今から何をしはるんですか?調理というより「理科の実験」って感じですけど…。」
と稀世が質問をした。
「はい、今、安さんが言ったようにまさに実験です。アグリ神標津さんでやられてる「熟成肉」ですが、「コクがあり、柔らかく、旨い」と引き換えに長時間の熟成を必要とする為に「保管場所」と「時間」のコストがかかります。
今から、簡単にその「コスト」を省く方法を皆さんに実感してもらおうと思います。良かったらビデオ撮影しておくとよいと思いますよ。」
言われるがままに稀世はビデオカメラを回し始めた。上坊は笑顔を見せると水槽に食塩を放り込み水を注ぎ入れ攪拌し、一昨日、卸したばかりのステーキサイズの「リブロース」と「ネック」の両端に電極クリップを挟み食塩水溶液の中に放り込んだ。
「さて、演出の為に照明を落としましょうか。」と上坊に言われ、那依が部屋の照明を切った。薄暗くなった厨房の中で上坊はトランスに付けられたスイッチを入れると電圧計を見ながらボリュームダイヤルをひねっていった。電圧計が100ボルトから徐々に上がっていくと水槽内の2種類の牛肉が青白く発光し始めた。5000ボルトを超えると水中の肉から青いプラズマ放電が始まり、15000ボルトまで昇圧されると肉の発光で部屋が幻想的に照らされ明るくなった。
「食肉っていうのは魚介と違って「新鮮」イコール「旨い」ではないですよね。3大旨味成分とされる昆布に多く含まれるグルタミン酸、干しシイタケ、海苔に含まれるグニアル酸と並ぶカツオや肉類のうまみ成分のイノシン酸は卸されてから徐々に肉内で天然化合されていきます。もちろん、精肉はその元の生物の呼吸と血流が止まると同時に腐敗も始まりますので冷蔵貯蔵が必要です。
鶏肉であれば48時間、豚肉は約1週間で熟成するのですが、大型哺乳類の牛だと約1か月かかります。電気肉は通電により人工的に肉内のイノシン酸を増加させますので熟成時間を劇的に短縮させることができます。まあ、電気肉の歴史については「気持ちのいい話」ではありませんので割愛しますが、このようにカットされた牛肉であれば十数分の通電で格別の旨さになります。さて、試食してみましょうか。」
上坊はトランスのボリュームを下げて電源を落とした。再び灯けられた照明の下で水槽から取り出された肉に見た目の変化は見られなかった。
コンロ上の2枚のフライパンに油をひくと、「リブロース」、「ネック」を別々のフライパンに卸して2日目の肉、冷蔵庫でひと月寝かせた肉、電気肉を並べて焼くと簡単な塩コショウだけで6枚の皿に移した。
試食した感想はその場にいたもの全員共通の意見だった。卸して2日目の肉はどちらも固く、味気なかった。続いて食べた熟成肉と電気肉の「リブロース」については味の違いを感じないほどどちらも柔らかくコクがあった。「ネック」にいたっては、電気肉の方は赤身とは思えないほど柔らかく、食べやすさを感じた。
「ぎょへー、電気肉って凄いなぁ!これやったら急な大量注文が来ても安心やで!」
と言いながら、稀世はおかわりを求めた。
直は上坊が最後まで話さなかった「気持ちのいい話ではない」という言葉に引っかかっていた。「祥ちゃん、上坊シェフが言いかけた「電気肉の歴史」ってなんじゃいな?」と質問すると「うーん、お肉を食べてる時にする話じゃないんですけど…、」と断りを入れた上で、絞首刑の後の死体は死後硬直するが、電気椅子刑にかけられた死体は死後硬直しないことに気がついた肉屋の息子の刑務官が精肉で試したことが電気肉の始まりという説を小さな声で囁いた。
「へー、なんにでも「気づき」はあるもんなんじゃな…。まあ、そこはホームページに載せない方がよさそうじゃ。カラカラカラ。」と笑いながら缶ビールを開けた。
電気肉の試食は好評で、昼食では「鶏肉」の電気肉のソテーが提供された。鶏肉はブラジル産の冷凍肉が使用されたが、1分ほど通電したもも肉は「有名地鶏」に匹敵するコクがあり、午前中の牛肉の試食をしていない者にもその効果を知らせるには十分なプレゼンテーションとなった。
養鶏も始めた典史とさくらは牡鶏と排卵を終えた雌の「ひね鶏」の活用に困っていたと話をしたところ、上坊が「電気鶏加工をしてもらえればクリスマスに一括購入させてもらいますよ。」とその場で商談がまとまった。
食事をしながら穴吹からパソコンとプロジェクターを使って、水耕栽培舎の活用方法が提案された。
「西沢社長の新野菜工場のひと区画40坪を年間契約させて欲しいんです。みなさんにお世話してもらいたいのはコレです。」
とパソコンのマウスをクリックすると「町田メロン」という聞きなれない名前がホワイトボードに映し出された。
穴吹の解説によると、神奈川県と隣接する東京都町田市の町工場が開発した特許製法の水耕栽培方法によりハウス栽培されたメロンの名称との事だった。「町田式水耕栽培」が行われているビニールハウス内の写真が大写しにされた。
製法に必要な機器が特許使用料も込みで提供されている「町田式水耕栽培」についての解説が始まった。本工場では300坪のハウス内に106センチ角で深さ15センチの水耕栽培槽を並べた連結循環型栽培槽48台が稼働している。土壌栽培と違い、根が抵抗なく自由に伸びることができることから水耕栽培にチャレンジした農家は多かったが、従来の一か所のポンプで作る水流での育成は根が同方向に流されることで絡まり根腐れを起こして、その多くが失敗した。
2009年に町田市の「農商工学連携事業」の一環として、法政大学、玉川大学と10社の企業と農家の有志が集まり高級メロンの水耕栽培方法の開発を始めた。農業とは縁のない町工場の社長が水槽の中央から四方八方に広がる水流を作り出すポンプを開発した事で根は絡むことなくのびのびと繁茂できるようになり、2011年に糖度14から15度のマスクメロンの栽培に成功した。
「町田式水耕栽培方法」のシステム販売と栽培指導を行う法人が立ち上げられた。育成に手間がかかり、4カ月ほどの期間で一株から3個から6個の収穫であるがゆえに「高価格」となるマスクメロンが、町田式では「芽かき」、「摘芯」、「摘果」を必要としない「放任栽培」で良いという。水槽内の特殊ポンプのおかげで自由に広がる根から大量の養分を吸収できるため一株で30個から40個は収穫でき、その最大量は60個になるという。
露地栽培と違い、ハウス内栽培は虫や野鳥の害はなく季節を問わず安定して収穫できる夢の工法であるが、「町田メロン」は増産しない方針でひと玉4000円から2万円の高級メロンとなり、パティスリーではとても使えないという事だった。
そこで穴吹と上坊がシステム使用料と技術使用料を支払うので広志の野菜工場の一部屋40坪を借り受け、今年は5株の育成を委託したいという事だった。年3回生産として年間450個を納品してもらえばそれ以上の成果についてはアグリ神標津で自由に扱ってよいという。
「本当にそんなに美味しい話ってあるんやろか?自然栽培の5倍以上収穫できて、生産も「楽」やったらみんなやってるんとちゃうの?」
と稀世が正直な感想を述べると、穴吹から日本農業についてのリアルな状況が語られた。
新たな事にチャレンジする意欲を持った若手が少なく、新規事業に対して投資ができる余裕がある農家はほとんどなく、ドラスティックな変化を求めない「安定志向」の農協の指導方針等がその原因として並べられた。
アグリ神標津メンバーは1年前の自分たちの事を思い出し、黙ってうなずいた。
「町田式の採用事例って他にあるんですか?」三朗が質問すると、北海道内でも牛の糞尿の発酵熱で発電し、ハウスに暖房を入れ栽培している事例が紹介された。他にも群馬県高崎市の「障がい者事業所」、横浜市の「花き農家」のハウス栽培事例が紹介された。更に沖縄本島での米軍から返還された遊休地での栽培実績が語られた。
「注意しないといけない事はありますか?」とさくらが挙手すると、上坊が回答した。
「停電だけは絶対に避けてください。ポンプが止まるとすぐに根腐れしてしまいます。一応、僕たちがお願いする部屋に関しては非常用電源は用意させてもらうつもりですのでそこは安心してください。」
続けて説明された、今回アグリ神標津に委託を考えた理由が「エアコン設置」だった。メロンは寒さに弱いだけでなく、「酷暑」にも弱いという事だった。
「ヒーターのあるハウスはいくつもありますが、クーラーの付いた「水耕栽培舎」は珍しいですからね。あと、ここの皆さんは新しい事にチャレンジしていく「夢」と「パワー」がある事が一番の理由です。どうか、一緒に美味しいメロンを安価で提供できるよう協力お願いします。」
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