『北の大地のファーストペンギン2025~限界集落復興と結婚したい訳あり男女達の物語~』

M‐赤井翼

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第2部 エピソード2024

「決算」

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「決算」

 9月に入り暑さもやわらいだ神標津に1年ぶりに副島がやって来た。8月末で締めた「株式会社アグリ神標津」の第1期決算の調整試算の為だった。
 売上は好調で予想以上の利益が上がっていた。会計知識のないメンバーはいったいいくら納税しないといけないのかと戦々恐々で副島を迎えた。しかし、その心配は杞憂に終わった。
放火事件で燃えた直の家の畜舎の火災保険金は建物は所有者の直に支払われ、設備什器部分だけが法人受け取りで、新建屋は定期借地権扱いで法人名義で建築したので、その償却で今期の利益をしっかりと圧縮することができた。
 実際には直に下りた保険金を無利息での役員貸し付けとしてアグリ神標津に入金したのだが、手元に入る営業利益と実際には出費が伴わない経費である減価償却費の税務上のからくり・・・・で多額の内部留保もできる事がメンバーに伝えられた。

 副島から資本金を増資しない限りは消費税はもう一年「免税」で営業できるので預かり消費税は自由資金として使用することができる。営業利益、経常利益とも黒字で終わることが確定している事が説明された後、単純に利益に法人課税されるくらいなら、「投資」を兼ねて首都圏への営業拠点として「東京に事務所兼アンテナショップを分譲で購入する事」が提案された。
「まあ、今しばらくは東京の中心部は不動産価格は上がる一方と予想されますんで、借りるより買う方がええと思います。購入金額の多くは、利益と相殺できますんでいざ・・という時の借入担保資産としても使える不動産を一等地に持つことはステータスでもあるし、ええと思うんです。幸い、菅野さんに下りた火災保険金を頭金にして低金利の融資を受ければ減価償却効果と併せて、一部を賃貸で貸すことで家賃収入を得れば、実質的にほぼ無料で物件を持つことも可能な物件の目途もつけてます。
 事務所だけでなく、アンテナショップを持つことで首都圏の飲食店の開拓や「BtoC」の拠点にもなりますわな。」
と説明すると、「東京には専属で誰か配属されるんの?」と粋華が副島に質問した。

 副島は、神標津から派遣するも現地で採用するも良しとの見解を示すと「私でもできるかな?」と粋華が再度尋ねた。
 営業トークと業販卸を身に付ければ、不定期なサポートを稀世と祥が行う前提であれば粋華が業務を行う事は難しくないという回答だったので、「私、立候補します!」と粋華は挙手した。
 先月以来、粋華が上坊となにかしらの関係を持っている事を知っていた直と稀世は素直に後押ししてくれたので副島は「じゃあ、その線で進めさせてもらいますわ。」と答え、話題は第2期の新規事業に移った。

 今月前半に「蝦夷竜胆」の蜂蜜を採取する為に蜜蜂の巣は設置されており、「ミードワイン」の製造の準備はスタートしている。「町田メロン」とイチゴの水耕栽培もスタートしており、年末の初出荷を目標にしている。
 熟成式のチーズも年内には仕上がる予定で、試作品でモニタリングを行った「ジャージー牛のビーフジャーキーの細切れ入りチーズ」と「白鮭の「鮭とば」入りチーズ」はワインにもウイスキーにも合うと好評での「夜の飲食店」向けの販売も数字としては読めるところまで来ている。
 近隣の酪農家への酒粕、米粉糊とデントコーンを合わせた高栄養価サイネージはニュージーランドからの輸入サイネージと比べると、近隣エリアでの販売においては輸送費がかからないことがメリットとなり、輸入品と変わらぬ価格で販売しても利益が確保できるようになっていた。予約も好調で10月末から1番草のサイネージの出荷が始まる。
 その1番草の生育だけでなく、神標津村内の通常の耕地農法での野菜栽培でも効果が証明された「バクシート」が内地のホームセンターでの採用も予定されている。
副島から各企画ごとの進捗状況と見込み売上、利益がホワイトボードに書き込まれていくのを見ながら、直は手酌で試作ミード酒を飲みながらつぶやいた。
「わずか1年でよくここまで来たもんじゃのぉ。今までの業務にひと手間を加えて高付加価値化した商品、サービスをJAを通さず「直取引」する事でこんなにも利益が出ることを20年前に知っておればこの村もこんなに廃れることは無かったんじゃな。
 まあ、廃村直前でのV字回復の第一歩としては100点の出来じゃったと副島さんに感謝しないといかんな。カラカラカラ。」

 最後にアグリ神標津スタッフの皆が待ちかねた「ボーナス」の話題となった。副島の考えでの東京の不動産購入を前提に置くと、幾分かの「法人税」、「法人市民税」を納める「黒字決算」で税務申請はする事にして、上がった利益は極力スタッフに還元する方針が語られると大きな歓声が上がった。
 累進課税制度や個人収入に関わる税務の簡単な解説があった後、社員によるワラント債、転換社債購入の説明がなされた。株式、金融商品の課税と所得税課税の税率の差を考慮し、一定以上の収入になるとメリットが出てくる金融商品取り扱いのルールを皆が理解した。
「まあ、急ぎ資金が必要でない人は来年の「決算配当」を考えておくのもええでしょうね。」と切り出して、2期の消費税免除期間が終われば増資する前提である事が副島から説明があった。
ワラント債は社債で持ち続けるか株式にするかの選択権を行使しても「社債」の部分は満期まで消滅しないのに対し、転換社債は株式への転換によって「社債」そのものが消滅する。ワラント債の場合、新株を引き受ける際にその時の株の時価により追加の払い込みが必要であるのに対し、転換社債はその必要が無い事が語られた。
「まあ、アグリ神標津は他人資本をアテ・・にしての「上場」は無いですから、あくまで社債金利や株式配当による節税効果を前提に考えてください。よう分からんって人は明日、もう一度説明しますんんで声をかけてください。」
 副島の発表はトータルで2時間に及び、スタッフ一同は「大阪にいる時より収入が増えるとは思ってなかったわ。」、「家賃と食費がかかってない事を考えたら美味しい話よね。」と笑顔を見せている。

 会の仕切り役が広志に変わった。事業拡大につき、社員の業務負担が大きくなっている事を鑑みて、現在の「業務委託会員」や「準社員」ともいえる「パート従業員」の社員化の提案がなされた。
 現在、実質的に半分近い時間をアグリ神標津の業務に当てている神標津農協青年部リーダーの岩本徹と岡山和樹と翔の兄弟を社員に迎え入れることを提案した。徹は自らの失態で直の家の3棟の畜舎、冷蔵・冷凍舎、水耕栽培棟が放火された後、社員登用は遠慮しつつも、積極的に配達業務や業務協力に参加している。岡山兄弟も同様にアグリ神標津に関わる業務をこなして来ており、女性陣とのコミュニケーションも取るようになってきているので反対の意見は無かった。
「じゃあ、決算が終わったら改めて俺と一郎さん、直さんで誘うという事でいいですね?」
と提案を終えた。

 最後に稀世が第2期の売り上げを「2倍以上にあげるで!」と目標をぶち上げた。業務の効率化、新規事業、販売網の拡張・拡大を具体的に提示しラストに全員での「ぱにゃにゃん!アグリ神標津!」の掛け声で締めくくった。

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