『北の大地のファーストペンギン2025~限界集落復興と結婚したい訳あり男女達の物語~』

M‐赤井翼

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第3部 エピソード2025

「袋叩き」

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「袋叩き」

 4人デートの日は最高に良い天気になった。徹が自分の四駆のハンドルを握り、助手席に広志、後部座席に唯と葵を乗せ釧路方面に向けて快走している。標茶町から摩周国道に入り南下して、くしろ湿原ノロッコ号を横目に見ながら、小高い丘の上に建てられた穴場のビュースポットのサルボ展望台で湿原の湖沼群を見渡した後、「塘路湖エコミュージアムセンターあるこっと」でジオラマと展示パネル見学し、遊歩道を軽く散策した。事前に調べていたであろう徹がガイドの如く話題を提供し4人の会話は盛り上がった。

 その後、ノロッコ号で釧路川を南下し釧路湿原国立公園内をカヌーで水上散策するカヌーツーリングに向かった。男女別れて、グーとパーでチーム分けを行った結果、徹は葵とのペアになった。のんびりと湿原を並んで進むカヌーで徹は葵を退屈させないように一生懸命に話題を振り続ける様子を見て(あぁ、今までふたりで話す事無かったけど、徹さんって結構ええ人なんかもな。)と葵は好感を持った。
 ツーリングの途中で、広志がスマホをエコミュージアムセンターに残した車の中に忘れてきた事に気が付いた。
「徹、悪いけど何件か客と連絡を取らないといけない案件があったんで取りに戻ってくるよ。車はそのまま遠矢駅に移動させてくるから、それまで葵ちゃんのこと頼むよ。遠矢駅で合流して、散策路に移動してお弁当って事でいいよな。」
 広志が徹と葵に声をかけると、「じゃあ、駐車場出る時に電話入れてくんろ。」と徹が答え、広志と唯はカヌー乗り場に船首を向けた。

 徹と葵は、のんびりと仕事の話や生い立ちについて話した。葵の「婚活疲れ」でノイローゼになりかけた話にはひたすら頷き、同意を繰り返した。続いて昨年1月の大寒波の時、電気が使えない中で広志、唯と3人で過ごした3日間の話を聞いた。
「ふーん、あの大寒波の時、大変だったんだべな。まあ、広志はしっかり者だで3人も牛っこもみんな無事だったんだべ。うちは、暖房の準備ができてなかったもんで、2割の牛を死なせることになってしまった…。」
と去年を思い出し落ち込みの表情を見せる徹に葵はやさしい笑顔を向けた。
「まあ、そのおかげっていうたらおかしいけど、それで「アグリ神標津」の仕事をするようになったんやから、結果オーライとちゃうの?それが無かったら、今日のこの日も無かったんやもんね。」

 その後は、徹がネタを振らなくても自然な会話が続いた。葵の口から、この1年9カ月にあった神標津村でのカップリングに話題が進んだ。
「それにしても、神標津の青年部のメンバーって凄いよね。半グレ相手に一歩も引かないでさくらちゃんを守ろうとした典史君、熊を相手にフォーク一本で美咲ちゃんの為に戦った真一君に始まって、この冬の大雪の中、稀世ちゃんを背負って命懸けで助けた三朗君…。
 もちろん、広志さんもあの大寒波の中、ろくに仮眠もとらず、3日間私たちと牛の為に頑張り続けて凄かったもんなぁ。
 大阪に居た時にはそんな「強い・・男の人」なんか全然居れへんかったわ。」
と、広志から「徹は晶さんに好意を持ってるんで、靖君との件は暫く内緒にしといてね。」と言われていたので靖と晶の事は話題から外して言った。
 「そうなんだよな…。うちのメンバーはみんな「いい奴」なんだ。そんな中、調子に乗って、会社を潰しかけた俺だけが取り残されるのは当然だっぺな…。」
と再び、徹は項垂れた。「もう、その件はええって。」と葵に慰められつつ、カヌーを返却するコースに戻した。

 カヌーを返却し、ノロッコ号で一駅南に向かい、下車すると、「ちょっとごめん。トイレ。」と徹が離れた瞬間、唯から「今から出るから駅で待ててな。」と電話が葵にかかってきた。
「ところで、徹さんとはどうなん?ええことあった?」と唯に尋ねられ、「もう、何言うてるんよ!そんなことある訳ないやろ!」と不意を突かれた唯からの質問に、葵は慌てて否定した瞬間、視線が前から外れ、駅舎の影から出て来たふたりの大男とぶつかった。「ガシャッ」っと何かがコンクリートの床に落ちる音がした。
「オーマイガーッ!」大げさに驚く外人特有の叫び声が無人の駅舎に響いた。外人のひとりが画面に大きくひびの入ったスマホを拾い上げる間にホームから発車を告げるベルが鳴った。

 スマホを壊された外人は、早口で葵にまくしたてたが、明らかに訛った英語の言葉は何を言っているのかわからない。ジェスチャーからすると、壊れたスマホとノロッコ号に乗れなかった事を怒っているようだった。
 顔を真っ赤にして怒る男に葵は肩を押され、その勢いで「きゃっ」と声を上げ、尻もちをついた。
 そこに「葵ちゃん、お待たせ。なんか騒がしいっぺな。」とトイレから出て来た徹の目に倒れた葵の姿が目に入った。
「葵ちゃん、どうしたっぺ?この男にやられたんだべか?」徹は葵の横に駆け付けて事情を尋ねた。「私がよそ見してて、ぶつかってスマホを壊しちゃったの。あと、このトラブルでノロッコ号に乗られなくて…。」と答えるのが精いっぱいの葵に二人組の外人は大声でまくしたてて来た。

 「すみません。壊れたスマホは弁償させてもらいますので許してくれっぺ。」と徹は男達に頭を下げ、葵に手を差し伸べ立たせた。葵も徹の横で「アイムソーリー」と英語で謝った。
 壊れたスマホを持った男は、徹を押しのけ、立ち上がった葵に更に絡んだ。大声をあげながら肩口を掴み葵の身体を前後に揺さぶった際、葵のブラウスのボタンがはじけ飛んだ。ブラウスの胸が半分はだけ、下着が見えた。
無人の駅で男は葵の身体を強引に押し込み、駅舎の待合室のベンチに押し倒した。右手で葵の両腕を頭上で押さえつけ、左手で胸を揉んだ瞬間、徹の頭の中で何かが弾けた。
 「ゴルァ!葵ちゃんになにするだ!俺が許さんぞ!」と叫び、男に飛びかかったがみぞおちへの蹴り一発で徹は吹っ飛んだ。

 もうひとりの男が徹の上に馬乗りになり徹の顔に左右の大きな拳を入れた。目から火花が飛び、意識を失いそうになったが「いやーっ!やめて!」と胸を弄られ叫ぶ葵の姿が目に入った瞬間、男の腕を掴み思い切り噛みついた。
 「ギャオッ!」男の顔が歪み、飛びのいた瞬間に徹は立ち上がり葵の上に重なる男の股間に思い切り蹴りを入れた。蹴りの入りは浅かったが、葵を襲っていた男は飛び跳ねた。
 しかし中途半端な急所への蹴りは男の意識を葵から徹に向けた。何を言っているかわからない叫びをあげると同時に腕をかじられた男が徹を背後から羽交い絞めにした。
 奇声を上げながら、徹をサンドバッグにして拳を入れ続ける男を止めようと、怒れる男の腕にしがみつきパンチを止めようとしたが、太もものように太い男の腕は葵の抵抗など無かったかのように拳を出し続ける。
 顔面に拳が入り意識を失いそうになるが、次に来る腹へのパンチできつい吐き気を感じて意識が戻る事が繰り返された。

 再び、「もう止めて!」と葵が男の腕にしがみつくと男は葵を振り払った。葵は吹っ飛び、ベンチに叩きつけられた。

 「葵ちゃん!貴様ら許さないっぺ!」と徹は背後の男の腕を振り解き、スマホの男に拳を入れた。しかし、徹の弱々しいパンチ1発にふたりから10発の割合で拳が帰ってくる。
 鼻血と嘔吐で顔をぐじゃぐじゃにしながら(俺が殴られてる間は葵ちゃんに被害が向くことは無い…。)と思いながら、必死に逆らい続けた。
 拳や蹴りが入るたび、肉は痛みを感じ、骨は軋んだ。「あ、葵ちゃん、に、逃げろ…。」とギリギリの状況で声をかけた瞬間、見慣れた自分の四駆が駅舎の入り口の向こうに見えた。
 四駆から広志と唯が飛び降りて来た。状況を把握した唯はすぐに「110番」に電話を入れた。広志は2人に袋叩きに遭う徹を助けに入った。

 「広志、だめだ…。こいつら格闘技経験者だっぺ…。葵ちゃんを連れて逃げてくれ!」と殴られながら弱々しい拳を出し続けたが徹のパンチに相手は1ミリも引かない。
 徹の声と目線で広志に気付いた一人の男が徹から広志に向き直り、拳を繰り出した。(ボクシングかマーシャルアーツか!)と瞬時に相手の武術を判断した広志は相手の懐に飛び込み、幼い時から高校まで直から教えてもらった「合気道」の立ち技のひとつである「入り身投げ」で相手を背から床に叩きつけた。
 相手の顔面を目掛けおとり技の「踵落とし」の体勢に入ると広志の思惑通り、防御姿勢に入りうつぶせに体を翻した。
 広志は相手の腕を取り、別名「腕押さえ」とも呼ばれる合気道の押さえ技の「一教」の体勢に入り腕の関節を外した。「ごりゅっ」という鈍い音と共に、男は外された腕をもう一本の腕で抱え込みもがいたが、その1秒後、もがく男は動く片腕も肩関節を外された。

 その様子を見たもう一人の男は徹を放り投げると広志に襲い掛かって来た。直線的な動きのパンチはいとも容易く躱され、拳を広志の額の高さまでいなすと、背後に回り込み、体さばき、足さばき、手さばきとの組み合わせの合気道を代表する「四方投げ」で男の後頭部をしたたかにコンクリートの床に叩きつけ意識を刈り取った。

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