幻想世界の統合者

砂鳥 ケイ

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第百六十七話:紀元の魔女

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冷たい洞窟の床に転がっていた。
まさに床ペロ状態と言うやつだ。

「これは・・流石に・・・ヤバい・・」

なんて効力なんだよ。

炎から脱出した死神もどきは、自身が纏っていた真っ黒なオーラをこの空間全体へと広げた。


何もやる気が起きない・・・動きたくない・・・死にたい・・・。
なんだこれは?
このまま・・・・ああ、あれか・・・これが、絶望感というやつか・・

言うことの効かない身体に鞭打って、状態回復リフレッシュを行う。

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・今のは流石にヤバかった。何故だか分からないけど、ヤバかった気がする」

恐らく死神もどきが絶望を発動したのだろう。

ムー王女はどこだ!

すぐにムー王女を探す。
そして、壁の隅で倒れているムー王女を見つけた。
先程まで纏っていた水の防御膜も消えている。
駆け寄り、状態を確認する。

やはり、状態が絶望になっている。
すぐに状態回復リフレッシュをしようとしたが、ムー王女は俺のその手を止める。首を横に振りながら。

「こ、これは妾の試練・・じゃ・・・手助けはいらぬ・・」

ムー王女の試練に対する並々ならぬ決意と気迫が伝わってくる。

しかし、もし命の危険があると判断した場合は、試練だとかは言っていられない。
その時は、後でいくらでも怒られてやるから、助けるからな。

常に、ムー王女の状態を監視しながら、死神もどきを探す。

しかし、死神もどきの姿が見えない。

そういえば、絶望を放ってからその姿を見ていない気がする。
当然俺の範囲探索エリアサーチにも反応はない。

つまり、試練は終わったのだ。
そうだと願いたい。

ムー王女は、必死に自らに降りかかる絶望に震えながらも耐えている。
女性のこんな姿を見るのは正直辛い。
助けられるのに助けられないこの歯痒さ。
本当に助けられない?
いや、そんなはずないだろ!

「おい!誰かいるんだろ!いい加減にしろ!試練だか何だか知らないが、彼女は立派にあんたの試練を一人でこなしたんだ!もういいだろ!」

誰かが聞いているという確証はなかった。
しかし、これがムー王女の言うように試練だと言うならば、常に監視の目があるはずだと勝手に解釈した。

するとどうだろうか。
俺の訴えに呼応するかのように一つの閃光が薄暗い洞窟内をボンヤリと照らしていた。
まさに、俺とムー王女の居る場所だった。

ムー王女の苦悶に満ちた表情が、次第に和らいでいく。

心地良さが伝わってくる。
治癒ヒール状態回復リフレッシュとはまた違った何かだった。

1分としない内に、ムー王女がパッと目を開ける。

「いつまでそうしてるのじゃ」
「え?」

言われて気付いたのだが、今俺はムー王女をお姫様抱っこする形で抱えていた。

「あ、ああ、ごめん。降ろすぞ」
「別にそんなに慌てて降ろさなくとも良いが・・・」

ボソボソと何かを喋っていた気がするが、気にしまい。
先程まで差し込んでいた後光のような光がいつの間にやら消えていた。

「さて、入るぞ」
「身体の方はもう大丈夫なのか?」
「うむ。すこぶる快調じゃ」
「さっきの光は一体なんだったんだ」
「まぁ、中に入れば分かるじゃろ」

ムー王女が、何の躊躇いもなしに扉を開け放つ。

まず目に入って来た中の情景に驚かされた。
洞窟とは全く別の自然豊か溢れる高原だったからだ。
隣にいるムー王女も驚いている為、予想していた光景とは違うのだろう。

「こいつは驚いたな」
「前に入った時とは、違う場所のようじゃ」

まさに大自然のど真ん中と言った感じだった。
扉の後ろ側に回ると、扉以外何も見えない。
高原の中にポツンと扉だけが立っているという不可解な光景だった。
まるで、開いた先が行きたい先と繋がっている便利なドアのようだ。

それにしても雄大なっ自然が広がっている。
一体どっちに進めばいいのか分からないが、取り敢えず真っ直ぐ進む事になった。 
というより、ムー王女がどんどんと進んで行く。

「どこに向かえば良いのか、分かるのか?」
「愚問じゃな」

ドヤ顔しながら応える。

「始めて来たんじゃ。分かる訳なかろう?」

聞くだけ野暮だったようだ。

当てもなく暫く彷徨い歩く。
扉があった場所には範囲探索エリアサーチに印をつけておいたので、迷う事はないだろう。

「気付いておるか?」

 ムー王女が何を言っているのか分からなかった。
しかし、辺りを鑑定(アナライズ)しようと発動を試みるが、発動しない。
変に思い、障壁を展開しようと杖先に魔力を込めようとしたが、魔力を込める事も出来ない。
魔力が練れないと言った方が正しいかもしれない。

「魔力が練れないな」
「そうじゃな。魔術禁止区域にでもなっているのじゃろうか。しかし、こんな広大な面積・・・ありえぬ」
「魔術だけじゃなくて、魔力を消費しないスキル系も使えないみたいだな」
「こんな所を強者に襲われればひとたまりもないの」
「その割には、余裕そうに見えるけど?」
「妾は魔女でもあるが、同時に王女でもあるのじゃぞ?いつ如何なる時でも、不安がった表情はせぬのじゃ」

王女様は色々と大変なようだ。

相変わらずの雄大な自然が続く中、一人の人物の姿が視認出来た。

「他に行く当てもないし言ってみるかの」
「そうだな」

近付いてみると、ニコニコと微笑ましい笑顔を向けた愛くるしい少女の姿がそこにはあった。

「初めまして・・でもないですね・・ユウ。会いたかったですよ。そして、水の魔女ムー。お久しぶりですね」
「はい、ご無沙汰しています紀元の魔女様」

ムー王女が少し慌てたように敬語で対応する。
敬語なのも新鮮味があるな。
俺には普通の少女にしか見えないんだけど、一度会ったことのあるムー王女には、彼女の正体が分かったのだろう。
しかし、初めましてでもないとはどういう事なのだろうか?

「初めまして、だと思いますが、冒険者をしていますユウです」

ムー王女の横で、一緒に頭を下げる。

「まずは、水の魔女ムー。見事私が繰り出した試練を乗り切って見せましたね。褒美を差し上げましょう」
「褒美ですか?」

以外な言葉だったのか、少し驚いている。

「ええ、絶対に突破出来るとは、思ってませんでしたからね、特別ですよ?」

''うふふ''と笑う紀元の魔女。

何というか俺が予想していた性格とはだいぶ違うようだ。

「水の魔女ムー、両手をこちらへ。私の手に重ねるようにして置いて下さい」

同じように紀元の魔女は、掌を上に向けた状態で両手を前に出している。

二人の掌が重なった瞬間、お互いの掌が眩いばかりの光を発していた。

その様を一部始終観察していると、ムー王女のスキルが一つ増えている事に気が付いた。

それに、いつの間にやら鑑定アナライズが使えるようになっている。
魔術無効エリアから抜けたのだろうか?

「貴女に魔術を一つ与えました。今後の魔女活動に役立ててくれれば嬉しいわ」
「ありがとうございます。ちなみにどのような魔術なのでしょうか?」

紀元の魔女は、言われて何故だか俺の顔を見る。

俺が答えろって事なのだろうか。
いや、確かに知ってるけど。
その様子を見たムー王女も何故だか、こちらに視線を送る。

「えっと、状態回復リフレッシュだな。さっきの戦いで受けたような状態異常を瞬時に治してくれる便利な魔術だよ」
「そんな貴重な魔術を・・ありがとうございます。必ずや魔女活動に役立てて見せます」
「貴女は優秀な魔女です。他の魔女たちと協力して、来るべき日に備えて下さい」
「はい!分かりました!」

その後は、ムー王女と紀元の魔女はたわいない話をしている。
と言ってもムー王女が一方的に質問責めにあっているだけな気もする。

「魔女になって辛く感じたことはありませんか?悩み事はありませんか?ちゃんと3食取っていますか?栄養の偏りは身体に負担が掛かりますよ。睡眠もしっかり取っていますか?お肌の天敵ですからね」

まさに返答の時間すら許さないマシンガンのように放たれる質問。

「それだと、答えれるものも答えれないんじゃ・・」
「あ、そうですね」

この人、誰かに似てるんだよね。
それに、最初に言っていた''来るべき日''というのが気になる。

一人物思いに耽っていると、いきなり名前を呼ばれた。

「時にユウ。私から貴方に一つ質問があります」
「えっと、なんでしょうか?」
「先程の死神戦ですが、貴方ならどう戦いましたか?」

死神戦。つまり魔術が効かない相手にどう挑むかって事か。

実は、それは俺も考えていた。
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