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第八話:狐人≪ルナール≫
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俺はある店屋の前にいる。
一番気になっていた所だ。ドーナツをほぼ一周して宿屋の近くにその店はあった。
中に入ると客は誰もおらず店主が一人だけ。
店の中を見渡してみるが商品は見当たらない。
だが俺にはこの店が何の店なのか分かっていた。
俺は店主に一言。
「商品を見せて貰っても?」
店主は目つきの鋭い小太りな男だった。
「今うちで扱っているのはこれだけだよ」
店主は商品のリストを見せてくれた。
1.ズームフォルム:最大で1km先までを見渡すことが出来る。
価格:金貨10枚
2.フレイムヒート:触れている物を最大で100℃まで温めることが出来る。
価格:金貨15枚
3.魔力吸収Lv1:モンスターを魔術で倒した時に一定の割合で魔力を回復する。
価格:金貨50枚
4.フラッシング:眩い光を放つことが出来る。
価格:金貨5枚
5.スモークベルグ:自分を中心に白煙を発生させることが出来る。
価格:金貨20枚
どれもパッとしないな。
魔術書というから攻撃系を想像していたが、どうやら非攻撃のものが多いようだ。
それにしても手に入れても必ず覚えれるわけではない教科書のくせして高いな。
まぁ、しょうがない。
「エナジードレイン以外を売ってください」
店主が驚いていた。
「あんた、どこかのお貴族様かい?」
やっぱり衝動買いするような金額ではないようだ。俺は適当にごまかす。
「まさか、しがない商人ですよ。魔術書を集めるのが趣味なだけです」
俺は、店主から魔術書を4冊購入し質問攻めにあう前に足早に店を出た。後でゆっくり試してみることにする。
すべてを見て回ったわけではないが、だいたい主要施設の場所の把握と、この街の構造を理解する事が出来た。
いつの間にか昼になっていたので、近くの食堂に足を運ぶ。
昼時だってのに人がほとんどいない。
人混みは得意な方ではないのでラッキーなんだけどね。
相変わらずメニューの名前を見てもいまいちピンとこないため、いつもの手を使う。
「おすすめをお願いします」
しばらく待って運び込まれてきたのは、シチューのようなものと焼き魚だった。
さっそく食べてみる。
うん、なんというか、シチューは冷めている。焼き魚は川魚?なのか生臭さが際立っている。
この世界に来て初めて、美味しくないと思ってしまった。
とりあえず腹が膨れたので良しとするが、次からはここ以外にしようと心に決めた。
一旦宿屋に戻り、服を着替えた。商人スタイルから戦闘スタイルだ。
もちろん昨日買った魔導服を着ている。
目的地は魔導師ギルドだった。
程なくして目的地へ辿り着き、受付嬢に依頼を受けたいと告げると何枚か依頼票を持ってきてくれた。
「あなたのレベルだとこの辺りかしら」
俺は依頼票を手に取る。
内容は、モンスター討伐から薬草採取、はたまた森林伐採や荷物運搬なんてものまであった。
幅広い分野だな。
俺は適当にモンスター討伐と薬草採取を選んだ。
受付嬢は追加で任務の詳細が書かれた用紙を持って来た。
モンスター討伐はモンスター名称、生息地域、討伐数が記載されていた。薬草採取の方は薬草の種類と採取場所と数量が記載されている。
基本目標数量を達成したとしてもオーバー分まで換金してくれるそうだ。同じような依頼はいくらでもあるからとの事だ。
薬草に関しては全て持ち帰る必要があるが、モンスターに関しては昨日作成した身分証兼ギルドカードに任務を受けた時点で対象モンスターの討伐数を表示させる事が可能なようだ。
てっきりモンスターは全て持ち帰るものだと思っていた。
普通の人には無理だろうけど俺には可能だからね。
俺はギルドを後にする。
偶然だがモンスターの生息地域も薬草の採取場所も近い所にあった。
ラッキーと思いつつ目的地へと足を運ぶ。
南門から出て30分くらい歩いた先が目的地周辺だった。
ちなみに、このプラーク王国は外と繋がっている東西南北の4つの出口がある。それ以外は高い城壁に覆われている。高さ30mはあるだろうか?
街の外へ出て早速レーダーを頼りに対象を探す。
このレーダーは更に便利な使い方があった。
対象を探したいと思うとレーダー内に目当ての対象があれば反応するというものだ。
しかし、予め知りえているものでないと反応してくれない。
つまり、自力で1個は見つけないとだめなのだ。
下を見ながら近くを捜索していくと、薬草のような物を発見した。
赤いハーブのような形をしている。
名前:レッドセペリ
説明:HP回復ポーションの材料の一つ。
どうやら、お目当ての薬草のようだね。
サクッと採取しストレージにしまった。
この情報を元にあとは、レーダーの反応を頼りに乱獲していくだけだ。
どこに咲いているか分かるのは、チート以外の何物でもない。あっという間に目標数量が採取出来た。
さて、次は討伐の方か。先ほどと同じように自力で1匹探す必要がある。
受付嬢に教えてもらった討伐対象を思い出しながらひたすら走って探す。
色々なモンスターはいるが、お目当てのやつがいない!
依頼に示されていた場所以外を探してみる。
お、あれか!
受付嬢に聞いていたものと酷似したモンスターが現れた。
まずは、油断せずに鑑定を使った。
名前:ポイズンベム
レベル7
種族:茸
弱点属性:火
スキル:毒散布Lv1
レベル7か、まぁ俺の偽りのレベルにあった任務だしね。
強いやつが出てきたら逆におかしい。
モンスターの形状は動くキノコだった。
サクッとファイアーボルトで丸焼きにした。もちろん威力は最小限に抑えている。それでも原形を留めないほど黒いススの塊と化してしまった。もっと抑えないとだめなようだ。
ギルドカードを確認してみる。
ちゃんと討伐数が反映されていた。
目標数を狩り終え、急ぎ街へ戻る事にした。というのも雲行きが怪しかったからだ。
今にも雨が降りそうになっている。
案の定、ちょうど宿屋に戻ってきた時に雨が降ってきた。
ギリギリだったな。まぁ洗浄を使えば濡れてもすぐに乾かせるんだけどね。
でも濡れるっていうのは何か抵抗あるし。
その後はずっと雨だった。
ウトウトしていると、いつしか眠ってしまった。
気が付くと辺りは真っ暗になっている。
夜か。
せっかくなので、夜の街を散歩してみる事にする。
街は真っ暗で静まり返っている。
さすがに24時間営業のお店はないようだ。
宿屋に戻ろうかと思ったその時、レーダーに動く複数人の反応があった。
気になったので、こっそりと反応があった方へ向かってみた。気配を殺して。
暗くてよく見えないが3人の男が走っている。1人は肩に荷物を抱えているようだ。
あれ、おかしいな。レーダーの反応は4人なんだが。
あの肩に担いでいる荷の中に人がいるのか。
より一層怪しく思えてきた彼らをこっそりと尾行する事にした。
彼らはどこかの建物の中に入っていった。
俺は壁に耳を当て聞き耳を立てる。しかし、よく聞こえない。
なんて思っていると視界の端にメッセージが現れた。
”聞き耳スキルを獲得しました”
案の定スキルを獲得してからは筒抜けのようによく聞こえる。
しばらく聞いていて、分かった情報は、
どこかから獣人族をさらって来た。
中にいる人数は5人。
護衛付きの奴隷商人がもうすぐ来るので、引き渡しまで待っている。
うーん。どうするか。
最初に見た3人は、職種は盗賊でレベルは10~15程度だった。
俺は別に正義の味方でも獣人の味方でもないのだが、この状況を見てしまったからには、どうにかしないとと思ってしまう。
ストレージから服を取り出した。
フード付きの黒いローブだ。
昨日購入しておいたのだ。主に姿を隠したい時に使用する為に。
まさかこんなに早く使う事になるとは思わなかった。
「奴隷商人が来るまで時間がないな」
意を決して中へ踏み込む。相手の居場所はレーダーで手に取るように分かっていたので、そっと歩み寄り、背後から一撃で相手を気絶させる。なるべく物音を立てないように。
恐らくコイツは見張り役だったのだろう。
残りの4人は一ヵ所に集まっている。俺はストレージから小石を4つ取り出す。
俺は今扉の前で踏み込むチャンスを伺っている。
相手はこの中にいるのだ。
心臓の鼓動がバクバクと音を立てていた。
大きく深呼吸して心を落ち着かせる。
そして扉を開けた。
目に入ってきたのは4人の盗賊たちが酒を酌み交わしていた姿だった。
彼らが驚いた表情でこちらを見る。
俺は、待ったなしに小石を彼らの腹に命中するように投げた。
もちろん威力を最小限に抑えてだ。
小石は見事狙い通りに命中し男たちはバタバタとその場に倒れていった。
視界に1つの大きな袋が目に入った。
その袋を開けようと近づいた時、レーダーにこの建屋に近付いてくる新たな3人の反応があった。恐らく奴隷商人とその護衛だろうか?
仕方がないので袋のまま担いでその場を後にする。
手頃な場所がなかったので、近くに人がいない事を確認し、宿屋の自分の部屋まで戻ってきた。
恐る恐る袋を開けてみる。その中にいたのは、やはり獣人族の女の子だった。ココナくらいの年齢だろうか?
唯一違うのは、耳と尻尾があることだ。
狐かな?
名前:ユイ・ハートロック
レベル:17
種族:獣人族 狐人
職種:なし
スキル:なし
状態:喉麻痺、催眠
狐人で名前はユイか。状態が催眠となっている。恐らく睡眠薬か何かで眠らされているのだろう。
喉麻痺はなんだろう?
誘拐犯になにかされたのだろうか。
俺は彼女をベッドに寝かせた。
後にイスの背もたれにアゴを置く形で座り、彼女が起きるのを待った。無理に起こすのも良くないしね。
気が付けばいつの間にか外はすっかり朝になっていた。
またしても、ウトウトしながらイスに座ったまま眠ってしまったようだ。
目を開けると至近距離に顔が見える。
どうやら彼女が気が付いたようだ。
にしても顔が近い。俺と彼女の距離は10cmあるかないかだ。
一瞬ドキっとしてしまったじゃないか。落ち着くんだ。
普通だったら驚いて後ろに下がるのだろうが俺はあえて下がらない。年上の風格を見せないとね。
つまり堂々としてよう。という事。
彼女は、俺の目をジッと見ている。
なぜ何も喋らないのだろう。流石に堪えきれなくなったので、ユウの方から話しかける。
「おはよう。よく寝れたかい?」
しばらく待ったが彼女からの返事はない。警戒しているのだろうか。
しばらく沈黙が続く。待てども一向に返事が返ってくるそぶりがない。
あーもう!無理だ。にらめっこも飽きた。
俺はイスと一緒に後ろに一歩下がる。
とりあえず、この状況を説明した方がいいか。
「俺の名前はユウ。昨日の夜に君が不審者に連れ去られているのを偶然目撃したから、隙を見て助けたんだ」
彼女は依然として俺の目を見つめたまま喋らない。
少しの沈黙があった後、彼女が口をモゴモゴさせている。何か喋りたいのだろか。
必死に何か伝えたそうにしている。
「もしかして声が出ないのかい?」
彼女はコクリコクリと頷いた。
これは想定してなかったな。さてどうするか。
あの盗賊たちにやられたのか、何かのスキルだろうか。
俺は再度彼女のステータスを確認した。
名前:ユイ・ハートロック
レベル:17
種族:獣人族 狐人
職種:なし
スキル:なし
状態:喉麻痺
これか。喉麻痺ってことは、ヒールで治せるのだろうか。
ヒールを唱えた。
彼女は驚いた表情を見せたが、依然口をモゴモゴさせている。
あれ、効いてないのだろうか。俺はすぐにステータスを確認した。
やはり治ってない。
何故だろうとしばらく考えていた。彼女は頭を横に振っている。
ああ、そうか。治癒Lvか!
俺の治癒はLv3。MAXLvは確か5だったはずだ。
すぐに治癒のLvを5まで振り、祈るように唱える。
「ヒール!」
気のせいだろうか。先ほどよりも眩い光に包まれてたような。
すぐに鑑定で確認した。
状態欄が消えていた。どうやら今度は成功したようだ。
俺は彼女に喋ってみるように促す。
彼女は恐る恐る口を開く。
「あ・・あー・・。話・せ、る・・・」
その表情は凄く驚いていた。
「良かった。治ったみたいだね」
すると、急に彼女は顔を真っ赤にして両手で顔を塞ぎ大泣きしてしまった。
え、なんで・・。
俺はなぜ彼女が急に泣き出してしまったのか、この時は分からなかった。
俺にはリアルで妹はいないし、こんな経験はない。
どうして良いか分からなかった為、いつもミリーにしていたように、優しく頭をなでなでしてみた。
すると俺の胸元に飛びついてきて泣いている。
困ったなこの状況。さてどうするか。
どれくらい時間が経ったのだろう。俺はその状態のまま一歩も動けずにいた。
彼女はしばらく俺の胸に顔を埋めて泣いていたのだが、今は泣き止んでいる。
しかし依然として顔を埋めたままだ。とりあえず声を掛けてみる。
「大丈夫かい?」
するとしばらくして、彼女がやっと顔を離してくれた。
目は泣いていたせいだろう、赤く充血している。
「う、うん」
コクリと頷いた。
「あ、あの・・えっと、ありがと。お兄ちゃん。私の声治してくれて」
彼女はお礼を言ってきた。
「いや、お礼を言われる事はしてないよ。それに、ゴメンな」
俺は謝った。
彼女は謝られた事に少し驚いていたようだった。
「俺たち人族が君に辛い思いをさせてしまった。だから、ゴメンな」
素直な気持ちだった。こんな幼い少女を拉致して奴隷にするなんて、到底許せる話じゃない。
「お兄ちゃんは悪くないよ!私を助けてくれた私の王子様だもん!」
ん?王子様?擁護してくれたのは嬉しいけど。王子様とはこれいかに・・。
「改めて自己紹介しようか。俺の名前はユウ。魔術師をしている」
彼女がやっとニコリとしてくれた。
「私は狐人のユイです。ヨロシクお兄ちゃん!」
「辛いことを思い出すかもしれないけど、何があったのか教えてくれるかい?」
彼女を元の場所に送り届けるためにも俺は聞かなければならなかった。
ユイはおもむろに話し始めた。
「うん・・。私はミザールという狐人の村で暮らしていたの。
でも急にモンスターの大群が襲ってきて、みんなやられちゃった・・」
「私は1人ぼっちになって、途方に暮れて歩いていたら、首元がチクッとして急に眠たくなっちゃって」
そうだったのか。しかしモンスターが襲ってきたのは、はたして偶然だったのだろうか。作為的な何かを考えてしまう。
でも困ったな、これだとユイを送り届ける先がないぞ。
「お兄ちゃん!お願いがあるの!」
何故だか目をキラキラさせている。嫌な予感がする。
「何?」
ユイは恥ずかしそうにモジモジしている。
「えっと、えっとね、私の・・その、お兄ちゃんになってほしいの!」
なんだと・・。
「お兄ちゃんは私を危険から救ってくれたし、それに、ずっと昔に無くしちゃった声まで取り戻してくれたの」
ずっと昔に無くした?
てっきり、盗賊どもにやられたのかと思っていたが、ずっと前からだったのか。
「えっと、ユイを助けたのは、そもそも俺達人族がユイに酷い事をしちゃったからで、当然の事なんだ。むしろお礼を言われる筋合いなんてないんだ」
「いやっ!」
ユイは、俺に抱き着いてきた。
「いやっ!いやっ!」
ユイは頭をフリフリさせている。
俺は振り払おうとするが、ユイはしがみついて離れない。
さて、どうしたものか・・。
かつて竜王にやられそうになった時よりも俺は動揺していた。
今の俺には、ユイを納得させて離れさせる方法が思い付かない。それにこのまま見放して、また同じような奴らに捕まっても後味が悪い。
「はぁ・・分かったよ。俺がお兄ちゃんになってあげる」
「ほんとっ!?やったぁ!」
ユイが飛び上がって喜んでいる。
「俺は世界を旅してる途中なんだ。もしユイと同じ種族の町があったら、そこでお別れだからな」
ユイが、頬を膨らませて、ムーと言っている。
「分かった!でもいいよー、その頃にはどうせお兄ちゃんが私と離れたくなくなってると思うからさー」
そんなことはない!と声に出して言えない自分が情けない。
そりゃ、こんなに可愛い妹がいたら、兄としては誇らしいし、元の世界で1人っ子だった俺は、妹という存在に少し憧れた時期もあった。
それは認める!さっきの返答にNo!と答えられなかった。それも認める!
「まぁ、じゃ改めて自己紹介だな。俺の名前はユウ。これからもよろしくな、ユイ」
「私はユイ。よろしくお願いします!お兄ちゃんっ」
お兄ちゃんと言われることに慣れていないので、いちいちドキッとしてしまう。
慣れなければな。
一番気になっていた所だ。ドーナツをほぼ一周して宿屋の近くにその店はあった。
中に入ると客は誰もおらず店主が一人だけ。
店の中を見渡してみるが商品は見当たらない。
だが俺にはこの店が何の店なのか分かっていた。
俺は店主に一言。
「商品を見せて貰っても?」
店主は目つきの鋭い小太りな男だった。
「今うちで扱っているのはこれだけだよ」
店主は商品のリストを見せてくれた。
1.ズームフォルム:最大で1km先までを見渡すことが出来る。
価格:金貨10枚
2.フレイムヒート:触れている物を最大で100℃まで温めることが出来る。
価格:金貨15枚
3.魔力吸収Lv1:モンスターを魔術で倒した時に一定の割合で魔力を回復する。
価格:金貨50枚
4.フラッシング:眩い光を放つことが出来る。
価格:金貨5枚
5.スモークベルグ:自分を中心に白煙を発生させることが出来る。
価格:金貨20枚
どれもパッとしないな。
魔術書というから攻撃系を想像していたが、どうやら非攻撃のものが多いようだ。
それにしても手に入れても必ず覚えれるわけではない教科書のくせして高いな。
まぁ、しょうがない。
「エナジードレイン以外を売ってください」
店主が驚いていた。
「あんた、どこかのお貴族様かい?」
やっぱり衝動買いするような金額ではないようだ。俺は適当にごまかす。
「まさか、しがない商人ですよ。魔術書を集めるのが趣味なだけです」
俺は、店主から魔術書を4冊購入し質問攻めにあう前に足早に店を出た。後でゆっくり試してみることにする。
すべてを見て回ったわけではないが、だいたい主要施設の場所の把握と、この街の構造を理解する事が出来た。
いつの間にか昼になっていたので、近くの食堂に足を運ぶ。
昼時だってのに人がほとんどいない。
人混みは得意な方ではないのでラッキーなんだけどね。
相変わらずメニューの名前を見てもいまいちピンとこないため、いつもの手を使う。
「おすすめをお願いします」
しばらく待って運び込まれてきたのは、シチューのようなものと焼き魚だった。
さっそく食べてみる。
うん、なんというか、シチューは冷めている。焼き魚は川魚?なのか生臭さが際立っている。
この世界に来て初めて、美味しくないと思ってしまった。
とりあえず腹が膨れたので良しとするが、次からはここ以外にしようと心に決めた。
一旦宿屋に戻り、服を着替えた。商人スタイルから戦闘スタイルだ。
もちろん昨日買った魔導服を着ている。
目的地は魔導師ギルドだった。
程なくして目的地へ辿り着き、受付嬢に依頼を受けたいと告げると何枚か依頼票を持ってきてくれた。
「あなたのレベルだとこの辺りかしら」
俺は依頼票を手に取る。
内容は、モンスター討伐から薬草採取、はたまた森林伐採や荷物運搬なんてものまであった。
幅広い分野だな。
俺は適当にモンスター討伐と薬草採取を選んだ。
受付嬢は追加で任務の詳細が書かれた用紙を持って来た。
モンスター討伐はモンスター名称、生息地域、討伐数が記載されていた。薬草採取の方は薬草の種類と採取場所と数量が記載されている。
基本目標数量を達成したとしてもオーバー分まで換金してくれるそうだ。同じような依頼はいくらでもあるからとの事だ。
薬草に関しては全て持ち帰る必要があるが、モンスターに関しては昨日作成した身分証兼ギルドカードに任務を受けた時点で対象モンスターの討伐数を表示させる事が可能なようだ。
てっきりモンスターは全て持ち帰るものだと思っていた。
普通の人には無理だろうけど俺には可能だからね。
俺はギルドを後にする。
偶然だがモンスターの生息地域も薬草の採取場所も近い所にあった。
ラッキーと思いつつ目的地へと足を運ぶ。
南門から出て30分くらい歩いた先が目的地周辺だった。
ちなみに、このプラーク王国は外と繋がっている東西南北の4つの出口がある。それ以外は高い城壁に覆われている。高さ30mはあるだろうか?
街の外へ出て早速レーダーを頼りに対象を探す。
このレーダーは更に便利な使い方があった。
対象を探したいと思うとレーダー内に目当ての対象があれば反応するというものだ。
しかし、予め知りえているものでないと反応してくれない。
つまり、自力で1個は見つけないとだめなのだ。
下を見ながら近くを捜索していくと、薬草のような物を発見した。
赤いハーブのような形をしている。
名前:レッドセペリ
説明:HP回復ポーションの材料の一つ。
どうやら、お目当ての薬草のようだね。
サクッと採取しストレージにしまった。
この情報を元にあとは、レーダーの反応を頼りに乱獲していくだけだ。
どこに咲いているか分かるのは、チート以外の何物でもない。あっという間に目標数量が採取出来た。
さて、次は討伐の方か。先ほどと同じように自力で1匹探す必要がある。
受付嬢に教えてもらった討伐対象を思い出しながらひたすら走って探す。
色々なモンスターはいるが、お目当てのやつがいない!
依頼に示されていた場所以外を探してみる。
お、あれか!
受付嬢に聞いていたものと酷似したモンスターが現れた。
まずは、油断せずに鑑定を使った。
名前:ポイズンベム
レベル7
種族:茸
弱点属性:火
スキル:毒散布Lv1
レベル7か、まぁ俺の偽りのレベルにあった任務だしね。
強いやつが出てきたら逆におかしい。
モンスターの形状は動くキノコだった。
サクッとファイアーボルトで丸焼きにした。もちろん威力は最小限に抑えている。それでも原形を留めないほど黒いススの塊と化してしまった。もっと抑えないとだめなようだ。
ギルドカードを確認してみる。
ちゃんと討伐数が反映されていた。
目標数を狩り終え、急ぎ街へ戻る事にした。というのも雲行きが怪しかったからだ。
今にも雨が降りそうになっている。
案の定、ちょうど宿屋に戻ってきた時に雨が降ってきた。
ギリギリだったな。まぁ洗浄を使えば濡れてもすぐに乾かせるんだけどね。
でも濡れるっていうのは何か抵抗あるし。
その後はずっと雨だった。
ウトウトしていると、いつしか眠ってしまった。
気が付くと辺りは真っ暗になっている。
夜か。
せっかくなので、夜の街を散歩してみる事にする。
街は真っ暗で静まり返っている。
さすがに24時間営業のお店はないようだ。
宿屋に戻ろうかと思ったその時、レーダーに動く複数人の反応があった。
気になったので、こっそりと反応があった方へ向かってみた。気配を殺して。
暗くてよく見えないが3人の男が走っている。1人は肩に荷物を抱えているようだ。
あれ、おかしいな。レーダーの反応は4人なんだが。
あの肩に担いでいる荷の中に人がいるのか。
より一層怪しく思えてきた彼らをこっそりと尾行する事にした。
彼らはどこかの建物の中に入っていった。
俺は壁に耳を当て聞き耳を立てる。しかし、よく聞こえない。
なんて思っていると視界の端にメッセージが現れた。
”聞き耳スキルを獲得しました”
案の定スキルを獲得してからは筒抜けのようによく聞こえる。
しばらく聞いていて、分かった情報は、
どこかから獣人族をさらって来た。
中にいる人数は5人。
護衛付きの奴隷商人がもうすぐ来るので、引き渡しまで待っている。
うーん。どうするか。
最初に見た3人は、職種は盗賊でレベルは10~15程度だった。
俺は別に正義の味方でも獣人の味方でもないのだが、この状況を見てしまったからには、どうにかしないとと思ってしまう。
ストレージから服を取り出した。
フード付きの黒いローブだ。
昨日購入しておいたのだ。主に姿を隠したい時に使用する為に。
まさかこんなに早く使う事になるとは思わなかった。
「奴隷商人が来るまで時間がないな」
意を決して中へ踏み込む。相手の居場所はレーダーで手に取るように分かっていたので、そっと歩み寄り、背後から一撃で相手を気絶させる。なるべく物音を立てないように。
恐らくコイツは見張り役だったのだろう。
残りの4人は一ヵ所に集まっている。俺はストレージから小石を4つ取り出す。
俺は今扉の前で踏み込むチャンスを伺っている。
相手はこの中にいるのだ。
心臓の鼓動がバクバクと音を立てていた。
大きく深呼吸して心を落ち着かせる。
そして扉を開けた。
目に入ってきたのは4人の盗賊たちが酒を酌み交わしていた姿だった。
彼らが驚いた表情でこちらを見る。
俺は、待ったなしに小石を彼らの腹に命中するように投げた。
もちろん威力を最小限に抑えてだ。
小石は見事狙い通りに命中し男たちはバタバタとその場に倒れていった。
視界に1つの大きな袋が目に入った。
その袋を開けようと近づいた時、レーダーにこの建屋に近付いてくる新たな3人の反応があった。恐らく奴隷商人とその護衛だろうか?
仕方がないので袋のまま担いでその場を後にする。
手頃な場所がなかったので、近くに人がいない事を確認し、宿屋の自分の部屋まで戻ってきた。
恐る恐る袋を開けてみる。その中にいたのは、やはり獣人族の女の子だった。ココナくらいの年齢だろうか?
唯一違うのは、耳と尻尾があることだ。
狐かな?
名前:ユイ・ハートロック
レベル:17
種族:獣人族 狐人
職種:なし
スキル:なし
状態:喉麻痺、催眠
狐人で名前はユイか。状態が催眠となっている。恐らく睡眠薬か何かで眠らされているのだろう。
喉麻痺はなんだろう?
誘拐犯になにかされたのだろうか。
俺は彼女をベッドに寝かせた。
後にイスの背もたれにアゴを置く形で座り、彼女が起きるのを待った。無理に起こすのも良くないしね。
気が付けばいつの間にか外はすっかり朝になっていた。
またしても、ウトウトしながらイスに座ったまま眠ってしまったようだ。
目を開けると至近距離に顔が見える。
どうやら彼女が気が付いたようだ。
にしても顔が近い。俺と彼女の距離は10cmあるかないかだ。
一瞬ドキっとしてしまったじゃないか。落ち着くんだ。
普通だったら驚いて後ろに下がるのだろうが俺はあえて下がらない。年上の風格を見せないとね。
つまり堂々としてよう。という事。
彼女は、俺の目をジッと見ている。
なぜ何も喋らないのだろう。流石に堪えきれなくなったので、ユウの方から話しかける。
「おはよう。よく寝れたかい?」
しばらく待ったが彼女からの返事はない。警戒しているのだろうか。
しばらく沈黙が続く。待てども一向に返事が返ってくるそぶりがない。
あーもう!無理だ。にらめっこも飽きた。
俺はイスと一緒に後ろに一歩下がる。
とりあえず、この状況を説明した方がいいか。
「俺の名前はユウ。昨日の夜に君が不審者に連れ去られているのを偶然目撃したから、隙を見て助けたんだ」
彼女は依然として俺の目を見つめたまま喋らない。
少しの沈黙があった後、彼女が口をモゴモゴさせている。何か喋りたいのだろか。
必死に何か伝えたそうにしている。
「もしかして声が出ないのかい?」
彼女はコクリコクリと頷いた。
これは想定してなかったな。さてどうするか。
あの盗賊たちにやられたのか、何かのスキルだろうか。
俺は再度彼女のステータスを確認した。
名前:ユイ・ハートロック
レベル:17
種族:獣人族 狐人
職種:なし
スキル:なし
状態:喉麻痺
これか。喉麻痺ってことは、ヒールで治せるのだろうか。
ヒールを唱えた。
彼女は驚いた表情を見せたが、依然口をモゴモゴさせている。
あれ、効いてないのだろうか。俺はすぐにステータスを確認した。
やはり治ってない。
何故だろうとしばらく考えていた。彼女は頭を横に振っている。
ああ、そうか。治癒Lvか!
俺の治癒はLv3。MAXLvは確か5だったはずだ。
すぐに治癒のLvを5まで振り、祈るように唱える。
「ヒール!」
気のせいだろうか。先ほどよりも眩い光に包まれてたような。
すぐに鑑定で確認した。
状態欄が消えていた。どうやら今度は成功したようだ。
俺は彼女に喋ってみるように促す。
彼女は恐る恐る口を開く。
「あ・・あー・・。話・せ、る・・・」
その表情は凄く驚いていた。
「良かった。治ったみたいだね」
すると、急に彼女は顔を真っ赤にして両手で顔を塞ぎ大泣きしてしまった。
え、なんで・・。
俺はなぜ彼女が急に泣き出してしまったのか、この時は分からなかった。
俺にはリアルで妹はいないし、こんな経験はない。
どうして良いか分からなかった為、いつもミリーにしていたように、優しく頭をなでなでしてみた。
すると俺の胸元に飛びついてきて泣いている。
困ったなこの状況。さてどうするか。
どれくらい時間が経ったのだろう。俺はその状態のまま一歩も動けずにいた。
彼女はしばらく俺の胸に顔を埋めて泣いていたのだが、今は泣き止んでいる。
しかし依然として顔を埋めたままだ。とりあえず声を掛けてみる。
「大丈夫かい?」
するとしばらくして、彼女がやっと顔を離してくれた。
目は泣いていたせいだろう、赤く充血している。
「う、うん」
コクリと頷いた。
「あ、あの・・えっと、ありがと。お兄ちゃん。私の声治してくれて」
彼女はお礼を言ってきた。
「いや、お礼を言われる事はしてないよ。それに、ゴメンな」
俺は謝った。
彼女は謝られた事に少し驚いていたようだった。
「俺たち人族が君に辛い思いをさせてしまった。だから、ゴメンな」
素直な気持ちだった。こんな幼い少女を拉致して奴隷にするなんて、到底許せる話じゃない。
「お兄ちゃんは悪くないよ!私を助けてくれた私の王子様だもん!」
ん?王子様?擁護してくれたのは嬉しいけど。王子様とはこれいかに・・。
「改めて自己紹介しようか。俺の名前はユウ。魔術師をしている」
彼女がやっとニコリとしてくれた。
「私は狐人のユイです。ヨロシクお兄ちゃん!」
「辛いことを思い出すかもしれないけど、何があったのか教えてくれるかい?」
彼女を元の場所に送り届けるためにも俺は聞かなければならなかった。
ユイはおもむろに話し始めた。
「うん・・。私はミザールという狐人の村で暮らしていたの。
でも急にモンスターの大群が襲ってきて、みんなやられちゃった・・」
「私は1人ぼっちになって、途方に暮れて歩いていたら、首元がチクッとして急に眠たくなっちゃって」
そうだったのか。しかしモンスターが襲ってきたのは、はたして偶然だったのだろうか。作為的な何かを考えてしまう。
でも困ったな、これだとユイを送り届ける先がないぞ。
「お兄ちゃん!お願いがあるの!」
何故だか目をキラキラさせている。嫌な予感がする。
「何?」
ユイは恥ずかしそうにモジモジしている。
「えっと、えっとね、私の・・その、お兄ちゃんになってほしいの!」
なんだと・・。
「お兄ちゃんは私を危険から救ってくれたし、それに、ずっと昔に無くしちゃった声まで取り戻してくれたの」
ずっと昔に無くした?
てっきり、盗賊どもにやられたのかと思っていたが、ずっと前からだったのか。
「えっと、ユイを助けたのは、そもそも俺達人族がユイに酷い事をしちゃったからで、当然の事なんだ。むしろお礼を言われる筋合いなんてないんだ」
「いやっ!」
ユイは、俺に抱き着いてきた。
「いやっ!いやっ!」
ユイは頭をフリフリさせている。
俺は振り払おうとするが、ユイはしがみついて離れない。
さて、どうしたものか・・。
かつて竜王にやられそうになった時よりも俺は動揺していた。
今の俺には、ユイを納得させて離れさせる方法が思い付かない。それにこのまま見放して、また同じような奴らに捕まっても後味が悪い。
「はぁ・・分かったよ。俺がお兄ちゃんになってあげる」
「ほんとっ!?やったぁ!」
ユイが飛び上がって喜んでいる。
「俺は世界を旅してる途中なんだ。もしユイと同じ種族の町があったら、そこでお別れだからな」
ユイが、頬を膨らませて、ムーと言っている。
「分かった!でもいいよー、その頃にはどうせお兄ちゃんが私と離れたくなくなってると思うからさー」
そんなことはない!と声に出して言えない自分が情けない。
そりゃ、こんなに可愛い妹がいたら、兄としては誇らしいし、元の世界で1人っ子だった俺は、妹という存在に少し憧れた時期もあった。
それは認める!さっきの返答にNo!と答えられなかった。それも認める!
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「私はユイ。よろしくお願いします!お兄ちゃんっ」
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