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第二百五話:神の祝福
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「ユウ。良く来てくれましたね」
フランさん達と別れた俺は、ムー王女の待つ大聖堂の一室へと戻って来た。
しかし、丁度そのタイミングで、天からの声が届く。
そのまま目を閉じて流れに身をまかせるようにしていると、懐かしく、それでいて優しさと温かさを肌に感じた。
きっと、天智を全うして昇天するのって、こんな感じなのだろう。
ソッと目を開けた先は、何度か訪れた事のある神の社だった。
「お久しぶりです。メルウェル様」
金髪碧眼の人形のような完璧な容姿。純白のドレスに身を包んだ少女が俺の目の前に立っている。
その姿はまさに女神様と言っても過言ではない。
しかし、実際はこの世界の神様だ。
優しく微笑んでいる。
「久しぶりですね。急に呼び出してごめんなさい」
「メルウェル様からお呼びが掛かるなんて余程の一大事ですか?」
ニッコリとした表情から真剣な眼差しへと変貌する。
「ええ。前々から危惧していた事態がついに動き出しました」
十分な説明は必要なかった。
その一言だけで大体の事情を察する事が出来た。
それは、俺がこの世界に連れて来られた理由にも起因する内容だ。
俺が選ばれ、この世界へと誘われた理由。それは簡単に言えば、この世界の危機を救う事だった。
それは俺にしかそれは出来ない事だとメルウェル様は言っていた。
このタイミングでこの世界を仇なす存在がいるとすれば、先程の7大魔王達でまず間違いないだろう。
「では、この世界を破滅へと追いやる輩と言うのは、あいつら7大魔王の事なんですね」
メルウェル様は、静かに頷く。
「確かに奴らは驚異的な力を有していました。だけど、現にそのうちの一人に俺たちは打ち勝っています。メルウェル様が脅威に感じる程には思えないですけどね」
「ユウが対峙した時、既に対象が満身創痍でないとしたらどうかしら?」
満身創痍ではない?
その言葉ですぐにピンと来たのは、直前まで魔王様と戦っていた事だ。
あの魔王様と戦い、生きていると言う事実だけでも驚異的だってのにその魔王様自体の行方が分からなくなっている。
「対象は、魔王であるバルちゃんに致命的なまでのダメージを与えられていたの。恐らく、本調子の1/3の強さも発揮出来ていなかったと思うわ」
仮にそれが事実だとすれば、魔王様が奴にダメージを与えていなければ、やられていたのはこっちだったって事だ。
魔王様に感謝しないとな・・。
それにしても、一体魔王様はどこに?
メルウェル様なら何か知っているだろうか。
「バルちゃんは、生きています」
!?
「本当ですか! あれ、今口に出してましたっけ?」
「うふふ。顔を見れば分かりますよ。案じなくともバルちゃんは大丈夫です」
バルちゃんと言うのは、魔王様の名前だ。
なぜ、そんなに神様と魔王様とがフレンドリーなのかと言うと、実のところ本当に二人は仲が良い。
勿論それは、他者には絶対に内緒らしい。
魔王様が封印されている間、メルウェル様だけがずっと封印中の魔王様の話し相手になっていたようだ。
ホッと胸をなでおろす。
肩の力がフッと抜けてしまった。
勿論生存を信じてはいたが、ここへ来て確証が得られた事に安堵する。
その後、メルウェル様の説明によると、魔王様の現在の境遇は粗方俺が想像していた通りの状況のようだ。
何処か別の亜空間に閉じ込められ、すぐには戻ってこれないという。
「最悪、バルちゃん抜きで7大魔王と戦わなくてはならないの」
この世界最高戦力である魔王様がいないのはかなりの痛手だ。だけど、強い人物なら他にもいる。
地界にだって魔界にだって、ゾロゾロと猛者はいる。
「正直7大魔王の強さの全容は不明だけど、皆で一致団結して戦えば何とかなるんじゃないですかね」
「簡単に言いますが、その一致団結と言うのが実はとても難しい事なのよ? 普通ならばね」
言動とは裏腹にメルウェル様は、ニヤニヤと笑みを浮かべている。
「だけど、共通の敵がいればそれも可能になります。不死の王の時のように共闘出来れば、今回の難敵も必ずや打ち倒す事が出来ると私は信じています」
それは確かに一理ある。
多少いがみ合っていても、互いに脅威となる存在が現れれば一時停戦なんてのは戦術的に見ても割とよく使われる手だった。
「それだけではないわ。他種族の架け橋となれる存在がいたらどうかしら? 勿論それは互いの信頼を勝ち得ている存在でなければ務まらない。でも、もしそのような架け橋となれる人物がいれば?」
満面の笑みで語り掛けてくるメルウェル様。
「まぁ、共闘できる人数と成功率は上がるかもしれないですね」
「そうです。自体は一刻を争うのです。手遅れとなってしまう前に、来るべき7大魔王との戦いに備えなくてはなりません。共に手を取り戦う前にやられてしまっては意味がありません」
ここで俺は、全てを察した。
「だから俺に旅をするように言ったんですね。各地を回り、交流を深め、有事の際に協力してくれる仲間を増やす為に⋯俺がその種族間の架け橋となるように」
「そうです。だから私は、最初から貴方にしかこの世界は救えないと言ったんです。他種族に対して何の偏見も持たないユウだからこそ、皆が慕ってくれて協力してくれるんです」
この世界に降り立ち、今まで色々な場所を旅して来た。
種族間の争いを失くしたい。
こんな素晴らしい世界で争いなんて、勿体無いじゃないか。元いた世界でも戦争は普通に存在していた。
だからこそ、戦争のない争いのない世界にしたい。
俺には、普通の人とは違う力を授かってこの世界に舞い降りた。
だったら、その力を使って争いのない世界にしたい。
実際にこの世界を旅して、種族間のゴタゴタは、確かに存在する。
だけど、当事者たちの話を聞く限りでは、決して相容れない訳ではないとそう感じた。
時間は掛かるかもしれない。
でも、争いは無くす事が出来る。
その為の架け橋となりたい。
その為だったら、どんな事も惜しまない。
この世界に来た当初より抱いていた思いだ。
その気持ちは今でも変わらない。
「俺に出来ますかね?」
不安そうな俺を心配させまいと、メルウェル様は、優しく手を握ってくれた。
「宿命を背負わせるようで本当に申し訳ないと思ってるわ。でも、ユウにしか出来ないと私は思います。そして、きっと成し遂げてくれると信じています」
出来る出来ないは関係ない。
大好きなこの世界を守る為。俺に出来ることは全てやろう。
大きく深呼吸すると、改めてメルウェル様へと向き直る。
「良い眼をしていますね。ユウ。こちらへ。貴方に祝福を授けます」
手招きするメルウェル様。
メルウェル様の前に立ち、改めて彼女を見る。
なんて華奢な身体なんだろうか。
身長に至っても俺より頭一つ分小さいし、腕や足にしてもだいぶ細い。
ちょっと押したら倒れてしまいそうだ。
こんな娘が、神様なんて大役をしてるんだもな・・。
協力できる事ならば、力になりたい。
互いが見つめ合う。
気まずい。
改めて向かい合うと何だか気恥かしさを感じる。
そのまま、メルウェル様が俺の顔に手を回す。
え?
何このシュチュエーション
突然の行動とは言え、見つめ合った瞬間からそういう雰囲気が漂っていた為、多少は身構えつつもその行動に応じた。
そして、仕草で頭を下げるように言われ、言われるがままに頭を下げる。
「恥ずかしいので眼を閉じて下さい⋯」
頬を若干桃色に染めながら、メルウェル様も気恥かしそうな顔をしている。
こういう仕草も凄く可愛らしい。
いや、仮にも神様に向かって可愛らしいとかそういった感情を抱くこと自体駄目なのかもしれない。
だけど、言わせてもらう。
可愛いと!
何をされるかなんてこの際聞くまでもない。
されるがままに応じるだけだ。
神様の言う事は絶対だしね。
唇に感じる柔らかな感触。
温かい⋯?
何かが唇を伝い身体の中に流れ込んでくる。
これは⋯
メルウェル様の意思? とでも言うのだろうか?
俺に対して本当に申し訳ないと言う強い想いが伝わってくる。
どれくらいの時間が過ぎたのか。
実際は数秒程度なんだろうけど、体感的には数分にも感じていた。
「なぜ泣いているんですか?」
「え?」
ゆっくりと眼を開ける。
俺は泣いていたのか⋯
頬を伝うものを拭う。
指摘されるまで涙を流している事に気が付かなかった。
「メルウェル様は本当に優しいですね⋯。触れ合った瞬間にメルウェル様の気持ちが俺の中に入って来たんです。この世界に連れて来てしまった事を未だに悔いているんじゃないですか?少なくとも今の俺はそんな事気にしてませんし、それによってメルウェル様が気に止むことは⋯ん!」
右手で口を塞がれてしまった。
それ以上は言わないでと言う事なのだろう。
しばしの間沈黙がこの場を掌握する。
何とも気まずい雰囲気になってしまった。
目と目が合う。
メルウェル様の頬はまだ若干ながら桃色に染まっていた。
自分の行った行為がはずかしのか、モジモジとしている。
「えっと⋯」
喋り出そうとしていると遮られた。
「勘違いしないで下さいね。今の行為には⋯その、邪な意味はありませんから⋯。バルちゃんがしていたから対抗しようだなんて事はこれっぽっちも考えていませんからね! これからのユウにとって役立つスキルを授けだだけです」
確かに気が付けばスキル獲得の文字が表示されていた。
''指定把握''
スキルの説明はこうだった。
指定した対象の動向を把握する事が出来る。
指定する為には、一度でも対象を視認する必要がある。
使う相手がいるとすれば、7大魔王だろう。
だけど⋯
メルウェル様は、何もない空間に映像を映し出した。
「彼等がこの世界に降り立った時の映像です」
まるで、見えない巨大スクリーンに投影された映像だ。
何処かに映写機でもあるのかと思い、チラチラと辺りを見渡してみる。
当前の事ながら何も見当たらない。
流石は神様、何でもありだな⋯。
この映像に映っている7人の顔を把握する。
その中の一人にあのアーネストの姿があった。
そしてスキルを発動する。
指定把握の対象に他の6人を指定する。
よし、これでターゲットの居場所が分かった。
俺の顔色を察知したメルウェル様は、映像を消した。
神様は多くを語らない。
以前メルウェル様自身が言っていたのは、この世界に過度な介入をする事は禁じられているというものだった。
十分過度な介入だと思うんだけど…こちらとしては有難いので何も言わないでおく。
「私の大好きなこの世界を守って下さい。お願いします」
神様が一般人である俺に頭を下げていいのだろうか。
偉そうにしている神様よりも全然親近感が湧いてくるのも確かだ。
多くは語らない。ただ一言だけ⋯
「精一杯頑張ります」
「はい、でも、決して無理はしないで下さいね」
その時、ユイから連絡が入った。
「お兄ちゃん! すぐに来て! アリスちゃんとグリちゃんが酷い怪我なの早くお願い!」
フランさん達と別れた俺は、ムー王女の待つ大聖堂の一室へと戻って来た。
しかし、丁度そのタイミングで、天からの声が届く。
そのまま目を閉じて流れに身をまかせるようにしていると、懐かしく、それでいて優しさと温かさを肌に感じた。
きっと、天智を全うして昇天するのって、こんな感じなのだろう。
ソッと目を開けた先は、何度か訪れた事のある神の社だった。
「お久しぶりです。メルウェル様」
金髪碧眼の人形のような完璧な容姿。純白のドレスに身を包んだ少女が俺の目の前に立っている。
その姿はまさに女神様と言っても過言ではない。
しかし、実際はこの世界の神様だ。
優しく微笑んでいる。
「久しぶりですね。急に呼び出してごめんなさい」
「メルウェル様からお呼びが掛かるなんて余程の一大事ですか?」
ニッコリとした表情から真剣な眼差しへと変貌する。
「ええ。前々から危惧していた事態がついに動き出しました」
十分な説明は必要なかった。
その一言だけで大体の事情を察する事が出来た。
それは、俺がこの世界に連れて来られた理由にも起因する内容だ。
俺が選ばれ、この世界へと誘われた理由。それは簡単に言えば、この世界の危機を救う事だった。
それは俺にしかそれは出来ない事だとメルウェル様は言っていた。
このタイミングでこの世界を仇なす存在がいるとすれば、先程の7大魔王達でまず間違いないだろう。
「では、この世界を破滅へと追いやる輩と言うのは、あいつら7大魔王の事なんですね」
メルウェル様は、静かに頷く。
「確かに奴らは驚異的な力を有していました。だけど、現にそのうちの一人に俺たちは打ち勝っています。メルウェル様が脅威に感じる程には思えないですけどね」
「ユウが対峙した時、既に対象が満身創痍でないとしたらどうかしら?」
満身創痍ではない?
その言葉ですぐにピンと来たのは、直前まで魔王様と戦っていた事だ。
あの魔王様と戦い、生きていると言う事実だけでも驚異的だってのにその魔王様自体の行方が分からなくなっている。
「対象は、魔王であるバルちゃんに致命的なまでのダメージを与えられていたの。恐らく、本調子の1/3の強さも発揮出来ていなかったと思うわ」
仮にそれが事実だとすれば、魔王様が奴にダメージを与えていなければ、やられていたのはこっちだったって事だ。
魔王様に感謝しないとな・・。
それにしても、一体魔王様はどこに?
メルウェル様なら何か知っているだろうか。
「バルちゃんは、生きています」
!?
「本当ですか! あれ、今口に出してましたっけ?」
「うふふ。顔を見れば分かりますよ。案じなくともバルちゃんは大丈夫です」
バルちゃんと言うのは、魔王様の名前だ。
なぜ、そんなに神様と魔王様とがフレンドリーなのかと言うと、実のところ本当に二人は仲が良い。
勿論それは、他者には絶対に内緒らしい。
魔王様が封印されている間、メルウェル様だけがずっと封印中の魔王様の話し相手になっていたようだ。
ホッと胸をなでおろす。
肩の力がフッと抜けてしまった。
勿論生存を信じてはいたが、ここへ来て確証が得られた事に安堵する。
その後、メルウェル様の説明によると、魔王様の現在の境遇は粗方俺が想像していた通りの状況のようだ。
何処か別の亜空間に閉じ込められ、すぐには戻ってこれないという。
「最悪、バルちゃん抜きで7大魔王と戦わなくてはならないの」
この世界最高戦力である魔王様がいないのはかなりの痛手だ。だけど、強い人物なら他にもいる。
地界にだって魔界にだって、ゾロゾロと猛者はいる。
「正直7大魔王の強さの全容は不明だけど、皆で一致団結して戦えば何とかなるんじゃないですかね」
「簡単に言いますが、その一致団結と言うのが実はとても難しい事なのよ? 普通ならばね」
言動とは裏腹にメルウェル様は、ニヤニヤと笑みを浮かべている。
「だけど、共通の敵がいればそれも可能になります。不死の王の時のように共闘出来れば、今回の難敵も必ずや打ち倒す事が出来ると私は信じています」
それは確かに一理ある。
多少いがみ合っていても、互いに脅威となる存在が現れれば一時停戦なんてのは戦術的に見ても割とよく使われる手だった。
「それだけではないわ。他種族の架け橋となれる存在がいたらどうかしら? 勿論それは互いの信頼を勝ち得ている存在でなければ務まらない。でも、もしそのような架け橋となれる人物がいれば?」
満面の笑みで語り掛けてくるメルウェル様。
「まぁ、共闘できる人数と成功率は上がるかもしれないですね」
「そうです。自体は一刻を争うのです。手遅れとなってしまう前に、来るべき7大魔王との戦いに備えなくてはなりません。共に手を取り戦う前にやられてしまっては意味がありません」
ここで俺は、全てを察した。
「だから俺に旅をするように言ったんですね。各地を回り、交流を深め、有事の際に協力してくれる仲間を増やす為に⋯俺がその種族間の架け橋となるように」
「そうです。だから私は、最初から貴方にしかこの世界は救えないと言ったんです。他種族に対して何の偏見も持たないユウだからこそ、皆が慕ってくれて協力してくれるんです」
この世界に降り立ち、今まで色々な場所を旅して来た。
種族間の争いを失くしたい。
こんな素晴らしい世界で争いなんて、勿体無いじゃないか。元いた世界でも戦争は普通に存在していた。
だからこそ、戦争のない争いのない世界にしたい。
俺には、普通の人とは違う力を授かってこの世界に舞い降りた。
だったら、その力を使って争いのない世界にしたい。
実際にこの世界を旅して、種族間のゴタゴタは、確かに存在する。
だけど、当事者たちの話を聞く限りでは、決して相容れない訳ではないとそう感じた。
時間は掛かるかもしれない。
でも、争いは無くす事が出来る。
その為の架け橋となりたい。
その為だったら、どんな事も惜しまない。
この世界に来た当初より抱いていた思いだ。
その気持ちは今でも変わらない。
「俺に出来ますかね?」
不安そうな俺を心配させまいと、メルウェル様は、優しく手を握ってくれた。
「宿命を背負わせるようで本当に申し訳ないと思ってるわ。でも、ユウにしか出来ないと私は思います。そして、きっと成し遂げてくれると信じています」
出来る出来ないは関係ない。
大好きなこの世界を守る為。俺に出来ることは全てやろう。
大きく深呼吸すると、改めてメルウェル様へと向き直る。
「良い眼をしていますね。ユウ。こちらへ。貴方に祝福を授けます」
手招きするメルウェル様。
メルウェル様の前に立ち、改めて彼女を見る。
なんて華奢な身体なんだろうか。
身長に至っても俺より頭一つ分小さいし、腕や足にしてもだいぶ細い。
ちょっと押したら倒れてしまいそうだ。
こんな娘が、神様なんて大役をしてるんだもな・・。
協力できる事ならば、力になりたい。
互いが見つめ合う。
気まずい。
改めて向かい合うと何だか気恥かしさを感じる。
そのまま、メルウェル様が俺の顔に手を回す。
え?
何このシュチュエーション
突然の行動とは言え、見つめ合った瞬間からそういう雰囲気が漂っていた為、多少は身構えつつもその行動に応じた。
そして、仕草で頭を下げるように言われ、言われるがままに頭を下げる。
「恥ずかしいので眼を閉じて下さい⋯」
頬を若干桃色に染めながら、メルウェル様も気恥かしそうな顔をしている。
こういう仕草も凄く可愛らしい。
いや、仮にも神様に向かって可愛らしいとかそういった感情を抱くこと自体駄目なのかもしれない。
だけど、言わせてもらう。
可愛いと!
何をされるかなんてこの際聞くまでもない。
されるがままに応じるだけだ。
神様の言う事は絶対だしね。
唇に感じる柔らかな感触。
温かい⋯?
何かが唇を伝い身体の中に流れ込んでくる。
これは⋯
メルウェル様の意思? とでも言うのだろうか?
俺に対して本当に申し訳ないと言う強い想いが伝わってくる。
どれくらいの時間が過ぎたのか。
実際は数秒程度なんだろうけど、体感的には数分にも感じていた。
「なぜ泣いているんですか?」
「え?」
ゆっくりと眼を開ける。
俺は泣いていたのか⋯
頬を伝うものを拭う。
指摘されるまで涙を流している事に気が付かなかった。
「メルウェル様は本当に優しいですね⋯。触れ合った瞬間にメルウェル様の気持ちが俺の中に入って来たんです。この世界に連れて来てしまった事を未だに悔いているんじゃないですか?少なくとも今の俺はそんな事気にしてませんし、それによってメルウェル様が気に止むことは⋯ん!」
右手で口を塞がれてしまった。
それ以上は言わないでと言う事なのだろう。
しばしの間沈黙がこの場を掌握する。
何とも気まずい雰囲気になってしまった。
目と目が合う。
メルウェル様の頬はまだ若干ながら桃色に染まっていた。
自分の行った行為がはずかしのか、モジモジとしている。
「えっと⋯」
喋り出そうとしていると遮られた。
「勘違いしないで下さいね。今の行為には⋯その、邪な意味はありませんから⋯。バルちゃんがしていたから対抗しようだなんて事はこれっぽっちも考えていませんからね! これからのユウにとって役立つスキルを授けだだけです」
確かに気が付けばスキル獲得の文字が表示されていた。
''指定把握''
スキルの説明はこうだった。
指定した対象の動向を把握する事が出来る。
指定する為には、一度でも対象を視認する必要がある。
使う相手がいるとすれば、7大魔王だろう。
だけど⋯
メルウェル様は、何もない空間に映像を映し出した。
「彼等がこの世界に降り立った時の映像です」
まるで、見えない巨大スクリーンに投影された映像だ。
何処かに映写機でもあるのかと思い、チラチラと辺りを見渡してみる。
当前の事ながら何も見当たらない。
流石は神様、何でもありだな⋯。
この映像に映っている7人の顔を把握する。
その中の一人にあのアーネストの姿があった。
そしてスキルを発動する。
指定把握の対象に他の6人を指定する。
よし、これでターゲットの居場所が分かった。
俺の顔色を察知したメルウェル様は、映像を消した。
神様は多くを語らない。
以前メルウェル様自身が言っていたのは、この世界に過度な介入をする事は禁じられているというものだった。
十分過度な介入だと思うんだけど…こちらとしては有難いので何も言わないでおく。
「私の大好きなこの世界を守って下さい。お願いします」
神様が一般人である俺に頭を下げていいのだろうか。
偉そうにしている神様よりも全然親近感が湧いてくるのも確かだ。
多くは語らない。ただ一言だけ⋯
「精一杯頑張ります」
「はい、でも、決して無理はしないで下さいね」
その時、ユイから連絡が入った。
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