幻想世界の統合者

砂鳥 ケイ

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第九十話: 魔導兵器アリス

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大孔洞から帰還してから1週間が過ぎていた。

このガゼッタ王国で一通りの事はやり終わり、数日後には次の街に出発しようと考えていた。

皆は、出発に備え各々が必要な物を買いに行っている。
俺は、久々に留守番だ。
女性陣だけの方が気兼ねなしに買い物出来るだろうからとアドバイスをしたのもある。
というのも、男では入りにくいお店などに平気で引っ張って行かれるのが嫌だからなんだけどね。

お兄ちゃんはどの下着が好み?と何度問われたことか・・・
その時の周りの客、はたまた店員の視線が痛かったことを覚えている。絶対間違った想像をされているに違いない。
俺は無実だ!と叫びたいがムキになるとそれはそれで怪しまれてしまう事もある。

一度しか立ち寄らない店ならばまだいい。
しかし、長期滞在する場所だと自ずとその回数も増えてくる。
故に留守番するに越したことはないのだ!

今は、部屋でアリスと一緒に過ごしていた。

アリスと言うのは、大孔洞から連れ帰ったというか持ち帰ったというか、とにかく魔導兵器のアリスだ。
名前が無かったので俺自身が命名したわけだが・・

ネーミングセンスはお察しと自覚しているので、誰の文句も受け付けない。

「マスター、アリスは暇です。命令を下さい」

アリスが来てから1週間が経過したが、1回だけヒヤッとさせられた事がある。
その1回というのが、アリスが初めてジラとクロを見た時の反応だった。
アリスはそもそも対魔族用の兵器として造られたそうだ。
俺と二人っきりの時に色々と話してくれたのだが、相手が魔族かどうか判別する術を備えていて、クロとジラが魔族だとすぐに判断していた。
一応二人には魔族の特徴である角と翼は形態変化メタモルフォーゼで見えないようにしているんだけど、アリスには見た目だけでは誤魔化せないようだ。

しかし、アリスは予め主人の命令がなければ動かないようで、(魔族発見!殲滅許可を下さい)と俺への許可を求めていた。
取り敢えず、勝手には暴走しないと分かっただけでも良しとする。
それと、アリスの外見は皆が人族と勘違いする程に遜色がなく、まず見た目での判別は出来ない。
それは、一緒に外出してバレない事で確認済みだった。

もう一つだけ確認しておく案件がある。
その為に一人で留守番をしてる訳でもある。

「よし、アリス。一緒に出かけようか」
「了解です、マスター」

まずは王国の外まで移動する。
ブースト状態で|妖精の羽フェアリーウィングで上空を高速で移動する。
正直アリスを置いて行くつもりの全力飛行したんだが、アリスも空を飛び俺のスピードについて来る。
もしかすると、スピードは俺以上かもしれない。

「さて、ここまで来れば大丈夫だろう。それにしても、アリス速いな・・」
「私は飛行石を搭載しています。それとブースターを2つ内蔵していますので、高速移動は得意です」

良く分からないか、取り敢えず1000年前とは思えないハイスペック仕様なんだろう。
まぁ、それはさて置き、まずはここへ来た理由をアリスに説明する。

そう、アリスが兵器たる所以が知りたかったのだ。

「あそこに見える大岩を攻撃してみてくれるかい」
「了解です、マスター」

アリスは、右手の人差し指を大岩に向けると、魔力を練るわけでもなく、レーザービームを放った。
俺の知る閃光レーザービームは、貫通の効果しかないはずだ。
しかし、これは・・・大岩に触れた途端に大岩が蒸発して溶けてしまったぞ。

「笑える威力だな・・・」

俺が驚いていると、アリスが不思議そうに顔を覗き込む。

「威力が弱かったですか?対象が脅威ではないと判断した為、射出力を30%で撃ちました。結果目標は完全に破壊されました」

あれで30%ですか、、ははっ、底が知れないな。

「ちなみに他にはどんな攻撃手段があるんだ?」
「そうですね、近接ならばこんな事も出来ます。少しの間、上空に退避をお願いします」

そう言い、アリスは拳を天に向けた。そして俺がジャンプしたのを確認し、そのまま勢い良く拳を地面に叩きつけた。

「うお・・大地が揺れたぞ・・」

凄まじいパワーで地面を殴るものだから、直径数十メートルのクレーターが出来てしまった。

その他に分かったのは、アリスは魔術の類は一切使えないという事。
つまり、先程のレーザービームは、魔術の閃光レーザービームではなく、アリスのスキルみたいなものらしい。

動く為には常に一定の魔力を消費する。
故に魔力を充填しておかないと動けなくなる。
MAXまで充填したとして、普通に日常を送るだけならば、1ヶ月は大丈夫だそうだ。
しかし、戦闘時は魔力の消費量が跳ね上がり、戦闘中に魔力切れを起こしてしまう場合もあるようだ。
魔力を充填出来るのは、現在主人となっている俺だけで、他の人が同様の手順を踏んでも受け付けないのは確認済みだった。

また、アリスの行動パターンに関しては予め教えておく必要があった。
この場合は、こういう動作を取ること。と言った具合にだ。
可能性として考えられそうなパターンは1週間掛けて、あらかた教えたつもりだった。
教えられていない行動に関しては、”マスター指示を要求”の一点張りだ。

ちなみにアリスには食事の必要はない。
クロと同じで魔力の補給だけなのだ。

「マスター、周囲10km圏内に魔族の気配を察知しました」
「10km圏内って事はガゼッタ王国にいるクロ達の事か?」
「王国とは、逆の方向。あちらです」

アリスは、真東の方向を指していた。
俺の範囲探索エリアサーチには反応はない為、1km以上先なのだろう。

放ってもおけない為、取り敢えず魔族の正体をつきとめよう。

「アリス、案内してくれ」
「了解です、マスター」

なるべく気配を消し、地上を進む。

暫く進むと、俺にも複数の反応が確認出来た。

「数は12か・・中々多いな」
「マスターも察知出来るのですか?」
「ああ、俺は特別なんだ」

何故だかアリスが、足にガシッと抱きついてきた。

「マスターも高性能。アリスは嬉しいです」

高性能って、俺は機械じゃないからな?
何の事だか良く分からないが、反射的にアリスの頭を撫でてしまった。
何処となく嬉しそうな顔をしている気がするので、ユイ達のように時々やってみてもいいかもしれない。
この位の高さが撫でるのに丁度いいんだよね。

俺達は魔族の集団のすぐ目の前までやって来ていた。
アリスと二人で透明化状態で潜伏中だ。

「お前達、早く作業を終わらせろ!誰かに勘付かれでもしたら面倒だぞ!」

リーダー格と思われる魔族と、その手下だろうか?
11人の計12人だ。
何やら、見た事のない装置を設置しようとしていた。
普通に考えて良からぬ事を企てているのは一目瞭然だろう。
リーダー格の魔族のレベルは58で手下達のレベルは30~45か。
まとめて相手をしても、恐らく俺なら大丈夫だろう。
そんな事を考えているとアリスが俺の袖をクイクイと引っ張ってくる。

「マスター、あの魔族の排除許可を」
「いいかアリス。魔族だろうが何だろうが問答無用で排除は駄目だぞ。取り敢えず、まずは話を聞いてからだな」

透明化のマントを外し、姿を晒す。

おー驚いてる驚いてる。流石に急に現れたからな。

「な、何者だ!」
「通りすがりの冒険者だ。あんた達こそ、ここで何をしてるんだ?」
「ち、任務の遂行は絶対だ!バレたからには消えてもらう」

有無を言わず手下共が俺達に襲い掛かって来た。
アリスが俺の前に立つ。

「最優先事項を実行。マスターに害を為すものは強制排除します」

え?
何が起きた?

俺が瞬きをしている間に、飛び掛かり襲って来た複数人の魔族が消し飛んでしまった。

何が起きたのか俺にも見えなかった。

目の前で起こった出来事に残りの魔族がどよめき出す。

「き、貴様!!何をした!!」

いきなり体内から爆発したような感じだった。
アリスの能力だろうが、なんて恐ろしい技だ・・

残りの魔族の数は、リーダー格が一人と手下が二人だけだ。

「このまま素直に帰るならば見逃すけど?」

取り敢えず救いの手を差し伸べておく。
流石に今のを見せられれば敵ながら同情してしまう。

「ナメるなよ!人族の分際で!消し炭にしてくれるわ!」

リーダー格の魔族が、両手を合わせて何やらブツブツと詠唱を始めている。

「危険察知。排除します」

今度は、隣にいたはずのアリスが消え、詠唱を唱えていた魔族のすぐ前まで移動していた。

そのまま手を振り上げ、振り下ろそうとした時だった。
突如地面に広範囲の魔法陣が出現した。
魔法陣の範囲内には俺も入っている。

アリスが手を挙げたまま不自然な形で停止していた。

「惜しかったな・・俺様の得意とする魔術の一つ。時間停止だ。発動中、この魔法陣内にいる魔族以外の生物は行動不能になるのだっ!」

おっとまじか。確かに身動きが取れないな。これは冗談抜きでまずったかもしれない。
と、思ったのもつかの間。
リーダー格の魔族が真っ二つとなり、地面へと倒れ込む。

「あれ、アリス動けたのか」
「はい、動きが止められたので、一度動作を停止し、再起動しました」

何そのパソコンがフリーズしたから再起動したみたいなニュアンスは・・何でもありか?アリスは何でもありなのか?

全員倒してしまった為、何を企んでいたのか結局の所不明なままだが、良からぬ事を企んでいた事は間違いないだろう。

それにしてもアリスのスペックが高すぎる件、もしかしたらリンやジラ以上かもしれない。

「アリス一つ確認だ」
「何でしょうか?」
「アリスの最優先事項は?」
「私の最優先事項はマスターの身を守る事です。それはどんな命令、任務よりも優先的に扱われます」

やはりか。
つまり、今回のような魔族に襲われるならばいざ知らず、例えば窃盗やスリなどに巻き込まれた時、相手側に殺意はなかったとしてもアリスが俺に危険が及んだと判断したならば例えそれが俺の大切な人だとしても躊躇なく危害を加えてしまうという事だ。

それだと困るわけで、俺は事前にアリスに遵守すべき命令を与えていた。

1.自分が魔導兵器と悟られる行動はしない事。
2.例えどんな理由があろうと仲間に危害を加えない事。
3.魔族だろうと、第三者への攻撃はマスターである俺の許可がなければ実行してはいけない。

先程の行為は、俺の許可なしに攻撃しているので、命令違反なのだ。
恐らく、最優先事項は前提の3つの命令よりも重たいのだろう。
何かしら対策をしないと最悪な事態にもなりかねない。

「アリスは、相手の実力は把握出来るのか?」
「潜在魔力量、歩行時の筋肉のしなり方で、大方の予想は出来ます」
「だったら、俺の強さも分かるか?」
「はい、マスターはかなりの強者と判断します」
「だったら、ちょっとやそっとじゃ、怪我なんてしないから、俺に向けたられた危害であっても最優先事項の前に少し考えて欲しい」

要は、相手の力量で自己判断して欲しいって事だ。
アリスにとって、最優先事項は絶対で、命令の変更はどうやっても出来なかった。
なのでその為の予防策なのだが。

「善処します」

アリスの実力も大方把握出来たので、今日の目的は達成だ。

俺達は宿へと戻った。
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