幻想世界の統合者

砂鳥 ケイ

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第九十四話:魔界【後編】

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魔界と思われる場所に突如として転移させられた俺達は、洞窟の中へと逃げ隠れていた。

魔族で知り合いのイスを駄目元で大声で呼んでみたのだが、嘘か本当か範囲探索エリアサーチに反応が現れたのだ。

反応からすると敵対勢力ではないようだが、二つの点が高速で移動している。
そして、その反応の正体が目の前まで接近してきた。
透明化で隠れようかとも思ったが、接近する二つの影が視界に入り、その必要はないと判断した。

「ユウ!」
「ユウ様!」

そう、現れたのはイスではなくジラとクロだったのだ。

「ジラ、クロ!どうしてここが分かったんだ?」
「それは後から説明します。それより早く脱出しましょう」
「分かった。あと、ユウ様って?」
「はい。マスターでは、アリスと被ってしまいますので、ユウ様と呼び方を変更しました」

あ、そうですか。。

俺は二人にここへ来るに至った経緯を簡単に説明した。

「困りましたね。ユウ様だけでしたら、いざ知らず、他に10人以上となると、別ルートを考えないといけないですね」
「何か手はありそうか?」
「はい、たぶん何とかなるでしょう。問題は移動手段です」

魔界はとにかく広大なのだそうだ。
魔族以外にも行き来出来る祠があるそうなのだが、ここからだとかなりの距離があるようだ。

俺もジラに確認したが、まずこの場所は魔界で間違いないようだ。 
クロとジラは元々魔族の為、正規ルートでこちらに来たらしい。
魔族以外の者が魔界に来る場合、非合法な方法を取る必要があるそうだが、同時にこの方法は時間を要する為、ユイ達はこちらに来れなかったそうだ。

どちらにしても簡単には帰れないみたいだね。
取り敢えず、皆に事情を説明し、ジラの言ったルートで帰るのが得策だろう。

いや、ちょっと待てよ。
この状況で皆に魔族の仲間が居て、助けに来たと伝えても大丈夫だろうか?

「無理だな・・」

一冒険者のユウならまだ良いかもしれないが、今はガゼッタ王国のシャロン王女のパートナーという事になっている。
少なくとも、ジラ達の事を話すならば、パートナーである事は、嘘偽りだった事を告げる必要があるだろう。
どちらにしてもシャロンには迷惑が掛かってしまう。

今は無理だ。

「駄目だな・・」
「はい?」
「二人とも、せっかく助けに来てくれて悪いんだが、皆今はかなり衰弱しきっていて、魔族という言葉に凄く敏感になってるんだ」
「はい、大丈夫ですよ。皆まで言われなくても理解しています」

二人に事情を説明し、ギリギリまでは隠れて行動してもらう事になった。透明化マントを二人に手渡す。

「セリア、悪いけどジラ達と一緒に居てくれないか。念話で会話の中継を頼みたいんだ。念話の届く範囲内は確か10m位であってたよな?」
「分かりました。今でしたら20mは大丈夫だと思いますよ」

よし、これで離れていても精霊を通して、ジラ達と会話する事ができるな。

洞窟へと戻った俺は、入り口で見張りをしてくれていたサナにだけ今の事を伝えた。
ジラの事は知らないだろうが、クロとは面識あるしね。


一通り全員が休息した所で、今後の動向を皆で話し合う。
その際に隙を見て、シャロンにもジラとクロが助けに来てくれた話をした。

「このまま宛てもなく彷徨ってもいつかは見つかり、皆殺しにされるだけだ」
「助けがくるまでこの場で動かない方が良いんじゃない?」
「誰も来ないわよ。このまま殺されるのを待つだけだわ」
「俺はこんなとこで死なないぞ!せめて魔族共に一泡吹かせてやる!」

流石に、このメンバーでも平静を装うのが難しくなったのか、余裕がなくなっているのが伺える。
上手い事、自分の正体を隠したまま出口の場所へと皆を誘導する方法を俺は探していた。

その時だった。

範囲探索エリアサーチにこちらに近付く反応があった。

おいおい、こんな時に・・

シャロンにアイコンタクトを送る。

「少し外を見回ってくるよ」
「ええ、お願い」

どうやら伝わったようだ。

(ノア、セリアに伝えてくれ。誰かがこっちに来る。でも攻撃するかは俺の判断を待ってくれ)

(おっけー、伝えたわ)

見られても面倒なので洞窟入口とは裏手に回る。
ジラとクロも俺に気が付き、姿を現し隣に来ていた。

「さあ、どこからでもかかって来い!」

反応の主が視界の端に入る。
魔族で間違いない。俺は、杖を構えた。
隣のジラとクロも臨戦態勢に入っていた。

相手の人数は一人だ。
俺達三人を相手にたった一人で挑もうなど、魔王でも連れて来ないとお話にならないと思うけどね。
いや、流石にそれは言い過ぎか。

そして見覚えのある魔族が俺達三人の前に降り立った。

「ユウ、攻撃する?」
「いや、どうやらその必要はないみたいだな」
「やっぱり、ユウじゃん!」
「イス・・だよな?」
「ヒッドーイ!そっちが私を呼んだくせに!グレるよ!」

え、半分ふざけてたつもりだったが、あれ届いてたの?

「お久しぶりですね、バーミリオン卿」
「え!ジラお姉様!?」

イスは、猛烈なスピードでジラの側に駆け寄り、抱き付いていた。
ジラは愛娘に見せるような表情で頭を撫でている。
少しだけ羨ましい。

「二人は知り合いだったのか」
「会いたかったです、ジラお姉様。クオーツを抜けられたって聞いた時は心配しましたよ」

俺をそっち退けでイスが一方的に会話をしていた。

「ジラお姉様は、私が唯一尊敬出来る人なの」
「慕われてるんだな、ジラは」
「この子は少し特別なだけです」

イスは一頻りジラの温もりを堪能した後、思い出したかのようにこちらに視線を向ける。

「で、なんでアンタが魔界にいるのよ。もしかして、私に会いたくて遥々追っかけて来たの?」
「な訳あるか! 魔族に強制転移させられたんだよ」

俺達の身に起こった事をイスにも説明した。

「なるほどね。恐らく魔王様復活に躍起になってる一部の過激な連中の仕業ね」

そういえば、魔王復活の贄にするとか言ってた気がするな。

「で、俺達は戻れるのか?」
「すぐには無理よ。本来魔族でない者が魔界に来る場合、それ相応の準備が必要なの。何処かに転移用の魔法陣でもあればいいんだけど。ここから祠を目指すのは歩いて移動していたら何日も掛かっちゃうし」

やはり祠は遠いようだ。

魔法陣か、そんな都合の良いものがある訳ないよな・・・ん、あれ?そういえば、俺達が飛ばされた場所に魔法陣があったような気がしたが。いや、あったな。間違いない。
その事をジラとイチャイチャしていたイスに告げる。

「うん、ユウが来た魔法陣がまだ残ってるなら大きさも問題ないと思うから、大丈夫かな」

魔族の魔法陣を発動させる事が出来るのは魔族だけのようだ。
かなりの魔力を消費する為、ジラやクロだけではなく、イスにも協力してもらう事になった。

「でも、イス。協力してくれるのはありがたいけど、魔族の立場からしても大丈夫なのか?」
「あーいいのいいの。こう見えても私、結構立場高いのよね。ジラお姉様と同じ、クオーツだしね。それなりに顔が効くの。惚れた?私のつがいになる気になった?」
「いや、それはないけど、取り敢えず礼は言っておくよ。ありがとう」

そうと決まれば、俺達を連れてきた奴らにバレる前に魔法陣の場所まで移動する事にしよう。

俺は洞窟の中へと戻った。

「皆さん、聞いて下さい」

恐らくまだ作戦会議中だっただろう。活発に意見が飛び交う中、俺の声が遮っていた。

「ユウ殿か、どうしたのだ?まさか外に魔族が?」

「私には魔族の知り合いがいます。詳しい事情は省略しますが、良き友です」

サナとシャロン以外は皆驚いた表情をしていた。
質問が来るのは分かりきっていた為、その前に間髪入れずに話を続ける。

「知り合いの魔族と連絡が取れて駆けつけてくれました。全員を元の世界に送ってくれると約束までしてくれています」
「やっぱりここは、魔界だったのね・・」
「その話、信じられるのか?いや、ユウ殿を疑っている訳でないのだ。知り合いという魔族が絶対に裏切らないと断言出来るのか?」

「「出来ます!」」

返答に答えたのは俺ではない。
サナとシャロンの二人だった。
お互いも驚いたのか、顔を見合っていた。
弁護してくれたのだろう。
俺には皆を納得させるような口上を持ち合わせていない為、ここは二人に甘える事にする。

上手い事イスの事を説明してもらい、イスを洞窟内へと呼び、紹介する事が出来た。

「私はイスよ。あんまし人族と馴れ合うつもりもないんだけど、他でもないユウの頼みじゃね。今回だけは助けてあげるわ」

何とも反感を買いそうな自己紹介、いや、事故紹介と言えるかもしれない。
ヒヤヒヤしながら聞いていたが、誰も口答えする者はいなかった。
というのもイスの威圧感が半端ないからなのだが。。
味方をビビらせてどうするよ。
何だか本人は隠れてニヤニヤしているし。

「帰れるのでしたら文句はありません」
「ああ」
「そうですね」
「さて、そうと決まれば、元の場所へ移動しましょう」


洞窟から出て、ひたすらに元の場所を目指す事になった。
先程とは違い、目的地が明確になっているせいか、皆の表情も悪くなく、歩くスペースも気持ち早い気がする。

目的地が近付いた所で、恐れていた事が起きた。

「待った!!」

俺の声に皆が振り向く。

「ユウさん、どうしたの?」
「まだ少し先だけど、大量の魔族が待ち伏せてるみたいだ」

反応があるのは、ざっと100程度の反応がある。

「イス、なんとかならないか?」
「私に言う? 無理よ。多すぎるわ」

出口は目の前だってのに困ったな。
こっちの戦力は、俺、ジラ、クロ、イスの4人だけだ。
悪いが魔族を相手に他の者達は戦力にならないだろう。ムー王女も戦力としては今回は除外する。

どうしたものかと考えていると、1体だけこちらに接近してきた。

かなりの大柄な魔族だ。
背丈はイスの2倍くらいはあるだろうか。
イスが小柄なのもあるけどな。

「人族風情がベルーガを倒すなどありえぬと思っていたが、まさかバーミリオン卿が手助けしていようとはな」
「イス、知り合いか?」
「ええ、同じクオーツの一員で、ゲルザーク卿よ」
「人族に手を貸している事はあえて問うまい。邪魔をするならば、貴様諸共排除するまでだ」
「アンタとは、昔から対立してばっかだったわよね。魔王様復活に託つけて残虐非道の限りを尽くすアンタ達の行動は議会でも問題視されていたわ」
「ふっ、貴様一人で我々とやり合うつもりか?笑わせる」

イスが俺の方を見て、ニヤリとしていた。

え、なに? 何か期待されても無理だぞ・・。
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