異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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五話

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お互いの屋敷が近いこともあり、彼らは幼少のころから共に過ごす機会が多かった。
幼馴染との偶然の再会は、ギデオンにとって不幸中の幸いだった。
彼女になら自身の身に降りかかた災難を打ち明けられる。

「あのさ、シルクエッタ――「ギデオン! すぐにお屋敷に戻って! 叔父様が大変なの!!」

「ち、父上が? でも僕は今――――」

「いいから、急いで」

伏し目がちになる彼の手を掴み、引っ張っていくシルクエッタ。
よほど切迫しているらしい。
ギデオンは事情を説明する間も与えられず、彼女についてゆくのに必死だ。
その足取りは傍から見ていても重々しい。

「だ、大丈夫? どこか怪我でもしているのギデオン?」

「いや……変だな。身体が思うように動かない。どうやら酒を飲み過ぎたようだ、ハハッ」

「そう言えば、君からお酒の匂いが漂っているね」

面目ないと額に手をあてがう。
表面的には平静を取り繕うも、すでに彼は理解していた。
こんな事は有り得ないと、体力ばかりか魔力も大幅に消耗してしまっている。
それに身体から酒の匂いが消えない。
不快ではないが甘ったるい香り、ずっと嗅ぎ続けていたら酔いが回ってしまう。
ほどなくして、見覚えのある景色が彼の瞳に映った。

「まぁ――坊ちゃま!! ご無事でしたか? シルクエッタ様も有難う御座いました」

屋敷に戻るなり、給仕長のカーラが彼らを出迎えた。
彼女のことについて、屋敷に住まうギデオンでもあまり詳しくは知らされていない。
ここ最近、屋敷に勤めはじめたと思いきや、いきなり給仕長を任されるという異例の厚遇。
父アラドとの関係もさることながら謎多き人物である。

「シルクエッタに急かされてきたのだが、父上は?」

「はい、旦那様は書斎の方におられます。ただ……」

「いいから申せ、父上に何が起きた?」

「その……坊ちゃまの件について酷く気落ちしておりまして、加えて昨晩、司教様が逝去なされました……ゆえに取り乱してしまいまして」

「なっ、なんだって……そんな莫迦な。冗談だろ、なっ! 冗談と言ってくれ」

声を殺して咽び泣く姿は、天啓の儀にて司教をおとしめようとした彼とは、まるきり別人だった。
人とは一日でこうも変われるものかと司教本人が生きていればそう言ったはずだ。
もっとも彼の周りにおいては疑念など浮かばない。
シルクエッタもカーラも、彼が心優しい清らかな心の持ち主だと信じ切っているからだ。
皆を欺いている……。
だとしても今、ギデオンの瞳から溢れ流れる涙が偽物だとは一概には決めつけられないだろう。
ギデオンからすれば悲しむ演技は出来ても、涙する必要はないのだ。
だからこそ、誰も疑わない。
皆、彼に対して愛おしささえ感じ、慈悲の手を差し出してくれる。

「落ち着いてギデオン。グスッ、貴方が悲しむばかりでは司教様だって心配して安らかに眠れないわ。今は祈りを捧げましょう、司教様が無事、ミルティナス様の元に辿り着けるように」

「シルクエッタ様の仰る通りです、坊ちゃま。詳しくは、旦那様からお聞きくださいませ。何より……坊ちゃま、でなければ今の旦那様をお救いする事は叶いません」

「二人とも、すまない。もう大丈夫だ、父上と二人だけで話をしてくる」

そう言うとギデオンは書斎の扉を開き中へと入った。
書斎のデスク、そこに父の姿があった。
早速、声をかけようとするも思わず、ためらってしまう。
目の前にいる父は虚ろな目をしたまま、ふさぎ込んでいた。
その手には空の酒瓶が握られている。
迂闊に励ましの言葉を投げようなら、どうなってしまうのか誰にも想像はできない。

「帰ってきたのか……」力のない声で父が呟く。

「はい、只今。父上……此度はご迷惑をかけてしまいました。何の申し開きもございません」

「よい。お前が、パラディンになれない事を悔い自己喪失してしまったのは、何も手助けできなかった私にも責任がある。お前には期待していたが、同時に不安でもあった。私にとって、お前は過ぎた息子だったが少し安堵している。もし、お前がパラディンに選ばれてしまったら私は自分の存在意義を失っていたやもしれん」

「父上に限ってそんな事は……でしたら、どうしてその様に……やはり、司教様が逝去なされた事が関係しているのですか?」

「関係? ああ、あるとも……司教の死因は聞かされているか?」

「いえ……」ギデオンは首を横に振った。

「何者かに毒殺されたそうだ。天啓の儀が終わった後にな」

「それで犯人は!! 犯人は捕まったのですか!?」

「憲兵が動き出した。そして、調査の結果……私が容疑者として挙げられているそうだ。間もなく、憲兵隊が屋敷にやってくるだろう」

「そんな、証拠はあるんですか!?」

ギデオンの両手がダン! とデスクを打ち鳴らした。
その物音に動じる素振りもなく父は淡々と続けた。

「証拠はなくとも動機は充分にある。ギデオン、お前のせいでグラッセ家は領地の大半を没収される事になる。その中で司教が暗殺されれば、逆恨みした私が犯人だと世間は真っ先に疑う……証拠があってもなくてもだ!」

「父上……」

返す言葉もなかった。
聡明な父が唇を噛みしめ苦悩する姿は今まで一度たりと見た事がない。
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