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三百三十話
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聖王国ゼレスティアは東大陸一の宗教国家である。
その国の起源はメサイヤ戦争と呼ばれる大戦からはじまった。
太古の昔、大陸は魔族の手によって支配されていた時期があった。
不毛の冬と呼ばれる時代、人々は魔族により畜同然の扱いを受けて日々を絶望しながら暮らしていた。
男は労働力、女子供は慰みの報酬として人権も尊厳もなく商品と見なされていた。
彼らの有り様を不憫だと感じたのは天上の星にいた四柱の神々。
その中で、かの女神ミルティナスだけが、六神将を従え地上へと降臨した。
ミルティナスは増えすぎた悪しき魔族を討ち払うために大陸各地に将を配置し、その絶大なる力とセブリナスという名の十六体の機械使徒により、奪われし大地を奪還していった。
観測者である神の彼女がどうして一方的に人間の味方についたのかは定かではない。
とある歴史学者の見解では、魔族に対して強い憎しみを持っていたとも言われている。
最初は、天の軍勢のみだった戦争も状況がミルティナスサイドに大きく傾くと、それまで生きる気力を失っていた人間たちも再び、希望を見出し徐々に参戦者の数を増やしていった。
枯渇していた彼らの怒りが燃え盛るにつれ魔族たちは大陸の南へと追いやられてゆくようになった。
現在、聖王国の首都グラダートはメサイヤ戦争、最終決戦の地にあたる。
魔族アークデーモニアたちが最後まで護ろうとした都が、再生と復活の女神に手により解放されると魔族と魔物は海へと散り散りとなり逃げ去っていった。
ミルティナスはそこを平和の始まりと象徴し人々に新たなる国を建国するように命じた。
以来、救いの女神を崇拝する者たちにより、ゼレスティアは少しづつ発展し国としての盤石な体制を築き上げてきた。
その成り立ちゆえに、国民の大多数がミルティナス信徒である。
特に強い権力を持つのが法王庁であり聖王の名の下、国内の教会、修道会を管理している。
導師エゼックトは当時、神父でありながらも修道会に集まった子供たちの中から優れた人材を選別し、聖歌隊と呼ばれる特務機関を新設するよう法王庁から命ぜられていた。
神職につく前、エゼックトが何をしていたのかは、公式にも記録されてはいない。
ただ、スパイや密偵としては超一流とも言える腕前を持つ。
彼の非凡な才能は情報収集や戦闘術、交渉術など多岐に渡り発揮されていたという。
聖歌隊を創設した時のメンバーは22人。
その中には、ギデオンやシルクエッタも加えられていた。
5人~6人で一チームとなり、国家の為に暗躍するのが聖歌隊の役目だった。
むろん、大半の子供は祈りの合唱を天に捧げる崇高な楽隊だと信じ切っていた。
彼らの中でごく一部は特務を与えられて、遂行する者がいた。
それがギデオンやクドにあたる。
特務機関の聖歌隊としての役割は主に教会に敵対する勢力の情報収集や教会関係者の不始末の隠蔽。
場合によっては劇薬を使用した暗殺も担うことがあった。
そんな組織の中で、子供たちは同じチームメイトとして行動をともにすることとなる。
「僕たちが出会ったのは、聖歌隊が創設されて間もない頃だった―――――」
大元導士とオッドに向けて語る過去により少しずつ、あの時の記憶が鮮明なってきた。
聖歌隊に入隊した当時、ギデオンは八歳、シルクエッタは九歳だった。
昔から隣近所に住んでいた二人は、貴族でありながらも親友と呼べるほどの絆で結ばれていた。
修道会に入ること自体は、彼らが望んだことではなく貴族の子供は修道会に参加する責務があった。
いわゆる御家柄という奴である。
その一方で、修道会は民間からも募集をかけていた。
参加を希望するのは主に信徒であり、自分の子供を女神に遣わせたいという一心から修道会に入会させるのである。
クドも、その中の一人だった。母親に手を引かれて教会へと足を運んできた。
その瞳は最初から虚ろだった。
とてもではないが、神を信仰しているとは言い難かった。
「何を見ている? 見世物じゃないんだぞ!!」
修道会でのクドの素行は決して褒められたものではなかった。
周囲と打ち解けようとすることもなく、誰かが近づくと凄まじい形相で睨みを利かす。
常に一匹オオカミを貫いていた。
ギデオンはクドに興味を示さなかったが人の好いシルクエッタは違った。
皆が、彼を避けるようになる中で常に声をかけていた。
案の定、まくし立てるクドに他の子供たちは呆れていた。
しかし、シルクエッタだけは諦めようとせず話かけ続けた。
「相変わらず、頑なに他者を拒んでいるのか……クドのやつは」
「また、怒られちゃった。俺に関わるって―――エヘヘッ」
「よくもまあ、めげないな。シルクエッタも」
「うん、ボクたちきっと仲良くなれると思うから……そう思うと何も辛くはないよ」
「そうか、君の瞳にそう映るのなら間違いないんだろう」
ギデオンはシルクエッタなら万事上手く成し遂げられると確信し彼女を応援していた。
幼い二人にとって社会の窓口となる修道会は、様々な事を知る学び舎だった。
その国の起源はメサイヤ戦争と呼ばれる大戦からはじまった。
太古の昔、大陸は魔族の手によって支配されていた時期があった。
不毛の冬と呼ばれる時代、人々は魔族により畜同然の扱いを受けて日々を絶望しながら暮らしていた。
男は労働力、女子供は慰みの報酬として人権も尊厳もなく商品と見なされていた。
彼らの有り様を不憫だと感じたのは天上の星にいた四柱の神々。
その中で、かの女神ミルティナスだけが、六神将を従え地上へと降臨した。
ミルティナスは増えすぎた悪しき魔族を討ち払うために大陸各地に将を配置し、その絶大なる力とセブリナスという名の十六体の機械使徒により、奪われし大地を奪還していった。
観測者である神の彼女がどうして一方的に人間の味方についたのかは定かではない。
とある歴史学者の見解では、魔族に対して強い憎しみを持っていたとも言われている。
最初は、天の軍勢のみだった戦争も状況がミルティナスサイドに大きく傾くと、それまで生きる気力を失っていた人間たちも再び、希望を見出し徐々に参戦者の数を増やしていった。
枯渇していた彼らの怒りが燃え盛るにつれ魔族たちは大陸の南へと追いやられてゆくようになった。
現在、聖王国の首都グラダートはメサイヤ戦争、最終決戦の地にあたる。
魔族アークデーモニアたちが最後まで護ろうとした都が、再生と復活の女神に手により解放されると魔族と魔物は海へと散り散りとなり逃げ去っていった。
ミルティナスはそこを平和の始まりと象徴し人々に新たなる国を建国するように命じた。
以来、救いの女神を崇拝する者たちにより、ゼレスティアは少しづつ発展し国としての盤石な体制を築き上げてきた。
その成り立ちゆえに、国民の大多数がミルティナス信徒である。
特に強い権力を持つのが法王庁であり聖王の名の下、国内の教会、修道会を管理している。
導師エゼックトは当時、神父でありながらも修道会に集まった子供たちの中から優れた人材を選別し、聖歌隊と呼ばれる特務機関を新設するよう法王庁から命ぜられていた。
神職につく前、エゼックトが何をしていたのかは、公式にも記録されてはいない。
ただ、スパイや密偵としては超一流とも言える腕前を持つ。
彼の非凡な才能は情報収集や戦闘術、交渉術など多岐に渡り発揮されていたという。
聖歌隊を創設した時のメンバーは22人。
その中には、ギデオンやシルクエッタも加えられていた。
5人~6人で一チームとなり、国家の為に暗躍するのが聖歌隊の役目だった。
むろん、大半の子供は祈りの合唱を天に捧げる崇高な楽隊だと信じ切っていた。
彼らの中でごく一部は特務を与えられて、遂行する者がいた。
それがギデオンやクドにあたる。
特務機関の聖歌隊としての役割は主に教会に敵対する勢力の情報収集や教会関係者の不始末の隠蔽。
場合によっては劇薬を使用した暗殺も担うことがあった。
そんな組織の中で、子供たちは同じチームメイトとして行動をともにすることとなる。
「僕たちが出会ったのは、聖歌隊が創設されて間もない頃だった―――――」
大元導士とオッドに向けて語る過去により少しずつ、あの時の記憶が鮮明なってきた。
聖歌隊に入隊した当時、ギデオンは八歳、シルクエッタは九歳だった。
昔から隣近所に住んでいた二人は、貴族でありながらも親友と呼べるほどの絆で結ばれていた。
修道会に入ること自体は、彼らが望んだことではなく貴族の子供は修道会に参加する責務があった。
いわゆる御家柄という奴である。
その一方で、修道会は民間からも募集をかけていた。
参加を希望するのは主に信徒であり、自分の子供を女神に遣わせたいという一心から修道会に入会させるのである。
クドも、その中の一人だった。母親に手を引かれて教会へと足を運んできた。
その瞳は最初から虚ろだった。
とてもではないが、神を信仰しているとは言い難かった。
「何を見ている? 見世物じゃないんだぞ!!」
修道会でのクドの素行は決して褒められたものではなかった。
周囲と打ち解けようとすることもなく、誰かが近づくと凄まじい形相で睨みを利かす。
常に一匹オオカミを貫いていた。
ギデオンはクドに興味を示さなかったが人の好いシルクエッタは違った。
皆が、彼を避けるようになる中で常に声をかけていた。
案の定、まくし立てるクドに他の子供たちは呆れていた。
しかし、シルクエッタだけは諦めようとせず話かけ続けた。
「相変わらず、頑なに他者を拒んでいるのか……クドのやつは」
「また、怒られちゃった。俺に関わるって―――エヘヘッ」
「よくもまあ、めげないな。シルクエッタも」
「うん、ボクたちきっと仲良くなれると思うから……そう思うと何も辛くはないよ」
「そうか、君の瞳にそう映るのなら間違いないんだろう」
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