異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

文字の大きさ
381 / 546

三百ハ十一話

しおりを挟む
「ががあああああああ――――!!!!!!! いつもいつもいつもいつも、こうだぁぁああああ!! 俺が何をした!? 何が悪かったんだ? 答えすらねぇぇじゃねぇぇか!!! どいつもこいつも、勝手に壊れやがるんだよ! 壊れる壊れる壊れるなら!! 最初から存在すんんああぁああああああああ」

 ファルゴの狂乱がゼナンの沙漠に、反響する。雄々しき恐怖に国王軍の兵士たちも震え上がった。
 全身が縮こまり、その場から一歩も動けない。
 脳裏には『死』がチラついているが、生物として本能が動くなと叫んでいた。

「ああああっ、ぐわああああああ―――――!!」

 緊迫、重圧の空気に耐え兼ねた兵士の一人が槍を握りしめ突撃した。
 その瞬間、投石が兵士の頭部にめり込み吹き飛んだ。

「なんんで、かわせねねえんだ!! チクショォォォ――――!! これじゃ、俺が一方的にいたぶっているだけじゃねぇぇか!!」

「なんなの……あの男は?」ミューティスの表情に困惑の色が混じる。

 全てにおいて常識が通用しない。規格外でありながら、その心はあまりにも子供じみている。
 ここまで自由奔放に殺戮を行う戦士に若き女軍師は初めて遭遇した。
 人の命に見向きもしない鬼畜の所業は純然たる悪そのものだった。
 高貴なる不徳(アーデルヴァイス)を名乗る彼らにとって、ファルゴ・エンブリオンは醜悪そのものだ。
 決して野放しにはできない。
 世の中には二種類の悪が存在するといわれている。
 自らを穢し間違い正す者を生みだす必要悪と、自分以外の者を不幸に陥れる害悪だ。

 ドルゲニアの兵士たちを片っ端から叩き潰してゆく、あの男は最大級害悪である。目的も願望もなく自己を犠牲を嫌う。一時の不満を解消するために無抵抗な人間まで巻き添えにして拳を血で洗う。

 バトルジャンキーと一括りにするのは極めて危険だ。

「総員、後退しなさい!!この男には真向勝負を挑んではいけない。奴の目的は勝利などではない」

 ミューティスにはファルゴの思考など筒抜けだった。
 単純にどれだけ暴力を振るえるのか? 肉の感触に飢えている半面、どこか自暴自棄になっているようにも見受けられる。
 占星術を得意とする彼女はとりわけ人相学のスペシャリストだ。
 相手の顔を診ただけで体調や思考、感情などを読み取ることができる。
 この才能を活かしミューティスは戦略を練っていた。
 敵だけではなく味方にも視野を広げて状況に応じた最適解を導きだしてきた軍師に死角はない。

「やはり、準備してきて良かった。出て来なさい! タオティエ」

 パチンと指を鳴らす音にあわせ、地表の砂がファルゴの手前で爆発を起こした。
 噴射された砂の中から厳つい獣の手が飛び出し容赦なく掴もうとしてくる。
 バチン! と正体不明の手を叩くファルゴの指先から雷光が走る。

「パルサーディオニクス!!」蒼白い放電が空を切り裂き、闇を振り払う光刃となり咎人を捌く。
 突き刺さった三本の棘に感電したまま地中から出現したのは、人ではなく魔物だった。

 羊の頭部を持つ魔人がファルゴに立ちはだかる。ナイフのように鋭利な爪と真っ青な皮膚が強烈なインパクトを与えてくるが、それ以上に目を引くのは腹部に開いた空洞である。
 穴はタオティエ自身の意識とは関係なく存在し悪食である。
 空洞の正体は、だった。身体に突き刺さったパルサーディオニクスを吸い上げて一気に飲み込んでしまう。

「おいおいおい……マジか?」

 不測の事態にファルゴは愚痴りながらも、ニヤついていた。
 目の前にいる半裸の怪物は、どこまで自分の攻撃に耐えうるのか? 背後に飛び出している光背こうはいは何のか? 一番の特徴でもある腹部の口は、いかほどに喰らいつくすのか?
 気にはなるものの……ファルゴにとって肝心なのは感触である。
 自分を満足させるに足り得る力を所持している。そのような人物をファルゴは常に求めていた。

 ギデオンも悪くはないが、求めるのはそれ以上に手強い相手だ。
 そうなるとファルゴの望むモノは滅多やたらには出て来ない。

「どうした? かかって来ないのか? 人がせっかくチャンスを与えているのに無反応とはな……やる気あんのか?」

 一向に動き出さないタオティエに苛立ちを隠せない彼の全身が発光する。

「なら、俺の方から行かせてもらう、雷牙!!」

 雷属性の練功が発動した。肉体を駆け巡る闘気は凶悪な破壊力と脅威的な瞬発力を生みだす。
 一歩、踏み込むだけで打ち込める。
 その拳が雷神の鉄鎚と化して、唸り上がる。

「どちらが先に相手を喰らい尽くすか勝負だ!!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

処理中です...