異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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四百八話

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 静寂に包まれる中、アビィは大元を抱きしめながら看取った。

 幼馴染を止めてやるのは、彼女なりのケジメだったのだろう。
 
 ようやく、その身を支配していた悪魔から解放できた。
 大元の身体を取り返せた。そう思わなければならない。

 ベシュトックの悪意がもたらした惨劇により、あまりに数多くの命が失われた。
 例え、大元が正気に戻ったとしても死をもって償うことになる。

 アビィはそれを理解していた。理解していた上で、大元の業を裁いた。

 誰一人として、うつむく彼女に声をかけられなかった。
 今は、ただそっとしておいてやるべきだと皆、察していた。

「大元聖斎の力ことを知りたければ、ロッチさんに聞くといいよ。
あの人は魔装化(神威)や魔人化の研究していたから、セイサイが見つけた第三のファクターについても何か知っているかもしれない」

 先に口を開いたのはアビィの方だった。
 確かに真相を白日のもとにさらす必要があるし、超越者についても気はなる。
 しかし、現状その時ではない。
 不適切な発言が、今のアビィの心情を物語っていた。

 こうしている間にも、北西連合と国王軍の衝突により両軍から甚大な被害がでている。
 戦火の拡大を防ぐためにクドを連れて国王軍を撤退させないといけない。

 まずは、この戦の終わりをドルゲニア全土に知らせないといけない。

「アビィ……僕たちはこの戦いを終わらせに行くよ。すべては、それが終わってからだ」

 アビィからの返事はなかった。
 それだけを伝えるとギデオンはクドが開いた空間の亀裂へと戻ろうとした。

「ギデオン、先に渡しておく」

 クドが小袋を投げ渡してきた。
 つかみ取ると中には人型の紙と髪の毛の切れ端が入っていた。

「燃やせ。それで、あの娘に掛けられた呪いは解呪させる」

「本当だな? 信じるぞ」そう言うとギデオンは闘気で小袋を灰にした。

「ああ、だが完全じゃない。後遺症は残るはずだ……どういう症状がでるのかは分からないが」

「なんだと! それでは話が違うだろう」

 目を見開き、今にもクドに掴みかかろうとするギデオン。
 そこに無言で立ち塞がったのは他ならぬランドルフだった。

「邪魔をするな、ランドルフ」

「落ち着け、今はいがみ合っている場合じゃないだろう!」

「その男の言う通りだ。すぐに感情的なるのはギデオン、お前の悪い癖だ。
人の話は最期まで聞けよ」

 ランドルフに護られながらクドは苦笑していた。
 反省の色も罪悪感すら感じられない様に、ギデオンも怒りを覚えずにはいられない。
 直情的だったとしても、そこは譲れない。
 仲間の命がかかっているのだ、許せるわけがなかった。

「言いたいことがあれば言えよ!」

「ラスだ。アイツなら完全に後遺症を打ち消すことができる」

 クドの一言に衝撃が走った。
 ラスことラスキュイは聖王国にて現在【審問官】を務めている。
 彼に会うためには、聖王国に戻らないといけない。

 聖王国内で指名手配されているギデオンが故郷に向かうのはリスクを伴う。
 ラスキュイを知るシルクエッタ、もしくはランドルフに頼むしか方法はない。

「ランドルフ――――」

 ギデオンが声をかけようとした瞬間、背後で激震が走った。
 即座に振り返ると閉ざされていたアビスの門に異常が発生していた。

 門前に暗雲が立ち込め、雷光がバチバチと音を鳴らしながらほとばしっていた。
 次第に空間の一部が湾曲し、その中からスッと腕が伸びてきた。
 ゲートの封印が解けたのかと一同の顔に焦りの色が見えた。

 恐る恐る門の方を見上げると以前として塞がったままだった。
 ならば、何が起きているのか? 誰にも分からない。
 ただ、手招くように上下する腕は、こっちに来いと訴えているように見える。

「どうした? ギデオン!」

「なんだ? 身体が勝手に引き寄せられているのか!?」

 磁石のごとく見えない力にギデオンは引っ張られていた。
 踏ん張りをきかせ、その場に留まろうとするが押さえることができず、一歩また一歩と進んでゆく。

「ギデ君! 逃げて」

 すぐにアビィが練功の矢を放つ。
 流線形のアーチを描く闘気の矢がゲートへと飛んでゆくもそこまでだった。
 腕から発せられる衝撃波により、全部かき消されてしまった。

「そんな……いとも簡単に」

「問題ない、アビィ。相手の方からわざわざ出向いてきてくれたんだ。
それなら、僕の方も応じてやらないとな」

 聖剣スコルハーティアを手にギデオンはアビスの門へと高速でかけてゆく。

「くらえぇぇ! グリッドカ――――っと! どこなんだ……ここは?」

 ギデオンは思わず、剣を振る腕を止めた。
 今し方まで砂の大地を駆けていたはずなのに……景色がガラリと変わっていた。
 だだっ広い石畳にしかない広間に彼はいつの間にか移動していた。

「君も呼ばれたんだね。あの男に」

 近くで聞こえた声に視線を移すと、聖鳥を肩に乗せた女神がそこにいた。
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