異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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四百九話

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 シルクエッタは無言のまま、周囲を眺めていた。

「ここが何処なのか知っているのか? 君もあの腕に引き寄せられたのか?」

 急かすように質問を投げかけると、シルクエッタはとある一点を指差した。
 そこは広間を囲うようにそびえる壁の一画、上階に位置する窓枠の一つだった。

「ボクたちは、あの部屋で監禁されていたんだ。
だけ捕まらずに済んだキュピちゃんが兵士たちの注意を引きつけてくれた。
その隙にシゼルさんのホワイトナイトで鉄格子を切り刻み脱出したんだ。
でも、本当にそれで良かったのかな? もっと別の方法があったんじゃないかと思うんだ」

 言葉の端々に後悔の念があふれていた。
 何が最良最善の選択なのか、答えは誰にも分からない。

 ギデオンは一呼吸おくと自信の言葉を紡いだ。

「シルクエッタ、君が今ここに居るのは多くの人たちが君の進む道を照らしてくれたからだ。
ブロッサムだってそうだ。
自分が護りたい未来があったからこそ僕たちに託したんだ。
彼は犠牲になったわけじゃない。犠牲だと思うのは僕たちの思い上がりだ。
誰だって譲れない物の一つや二つある。
皆、自分が自分であるために正しいと信じる選択しただけだ」

「フフッ」

 目元を細めて微笑むシルクエッタを見て、ギデオンは照れ臭くなってしまった。
 それとなく視線を外し、顔を合わせないようにする。

「僕は変なことを言ってしまったのか?」

 その言葉にシルクエッタはゆっくりと首を横に振ってみせた。

「ううん、君がこんなにも気にかけてくれるなんて夢にも思わなかったから。
いつもなら、クールに受け答えしていた君がね……」

「それだけ大人になったってことだろうさ。
外側ばかり立派に見せていても中身がスカスカなら意味がない。
そんな曖昧でいい加減な考え方を受け入れてくれるほど、世間は優しくないさ」

 聖王国以外の国々を知ったことで、ギデオンの物の見方もハッキリと変わっていった。
 正しさだけが正解ではない。
 誰もが自分を見失うことなく前へと進んでゆけることこそが大事だ。
 それなくして世界から毒を抜き取る方法はないと彼なりに答えを見出していた。

「世界の在り様が大きな刺激を与えてくれたようだね」

「ああ、お互いにな。シルクエッタが女神かどうかなんて正直どうでもいい。
君は僕が知っている幼なじみのままさ」

 ギデオンの前で、頬を赤らめながらシルクエッタは「うん……」とだけ答えた。

 ンゴオオオオオオ―――――

 二人の会話をさえぎり、正面に見えるバルコニーの奥から低い項垂れ声が聞こえてきた。

「どうやら、お出ましのようようだね。ジェイクさん!」

 女神の呼びかけに、それまで瞳を閉じていたミミズクが目覚め翼を広げた。
 神器シャングドリングを手に握るシルクエッタから少しずつ神気が流れ出てくる。

「この胸のざわつく感覚は……悪魔か!?」

「ほぅー、さすが余のせがれだ。一発で人ではないと見抜くとはな……だが少し違うぞ。
 余は邪神だ」

 バルコニーの影から白髪の老人が姿を見せた。
 赤地に煌びやかな金装飾をほどこしたローブに身を包む。
 この男こそがドルゲニア公国、大王アナバタッタである。

 大王と対面した途端、ギデオンは身の毛がよだつ思いをした。
 そこにいたのは良く知る人物で、もうこの世には存在しないはずの人間だ。

「アドミラル枢機卿……馬鹿な、アンタは――――」

「やぁ! ギデオン、パパだよぉぉおぉお――――ん!! んん、こんな感じだったかな?」

「ふ、ふざけるな! 邪神だか何だか知らないが、お前は僕の父親ではないだろう!」

 頭上から見下ろしてくる悪意ある視線に、ギデオンは腸を煮えくり返していた。
 素早くアサルトライフルを構えると銃口をアナバタッタに向けた。

「ヤツの挑発に乗るな、ギデオン。このまま怒り任せに立ち向かって行ってもヤツの思う壺だ」

 ジェイクが引き留めたことによりギデオンは引き金から指を離した。
 経験上、悪魔の挑発に載せられると後々、厄介なことに巻き込まれる。
 正しい、指摘だと判断しこみ上げてくる怒りを抑え込んだ。

「あらら、残念だなぁっ。パパは悲しいなぁ~。
アドミラル・アシュクロフトがこの世界に一人しか存在しないと思ったのか?
貴様らが亡き者にした個体は、増産した出来損ないにすぎん」

「つまりは、君が本体だというわけか。なら、話は早い。
君を討伐すれば他の個体はすべて機能しなくなる」

「女神か……本当に甦るとはな。
貴様が【マイトリーの大椿】を修復しおったおかげで、余の計画が狂っただろうに」

 手すりをつかんで抗議する邪神に対し、女神の眼光が鋭く輝いた。
 威圧の神気が衝撃波の層を生み大気が唸りを上げた。
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