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神器争奪編
四百四十六話
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悩んでいる暇などなかった。
状況は刻一刻と厳しくなってゆく。
防壁を破った逝き人形たちが早速、群がってやってきた。
スコルが攻撃を止めない以上、対処しようにも身動きがとれない。
逼迫するギデオンは、旧友に任せることしかできなかった。
「チッ、まだこんなに多くの兵力を残していたのか……」
「ラス! ジャスさんを呼んだ方がいいんじゃないか?」
「ダメだ。敵の本隊はこれからやってくるはずだ。
ここで戦力となる術師殿を消耗させてはならない。
魔女に対抗しうるのは、彼だけなのだから。
中途半端に魔法が使える私や、適性能力のないお前では太刀打ちならない相手だ」
「そこまで先が見えているのか……」
ラスキュイは匍匐の魔女、マリーヴェンシルの襲来まで予見していた。
ギデオンも魔法を行使するマリーの姿をドルゲニア公国で見ていた。
あれは、魔術の域を超越する自然現象に近いものがあった。
たった一つの魔法で大いなる影響をもたらす。
あまりにも練度が高すぎて魔法だと教えられなければ気づくことはない。
教団の実質トップとなるマリーヴェンシルと対峙したら、魔術師以外は太刀打ちできない。
単純に戦闘能力の問題ではなく相性の関係でそうなってしまう。
魔女に物理や闘気は通用しない。
加えて、膨大な魔力により肉体よりも先にコチラの精神を蝕み破壊してくる。
だからこそ手に負えないのだ。
「好き勝手にさせんぞ」
拳を握りしめ、ラスキュイがグッと自身の方へと引き動かしてゆく。
その動きと連動し、家屋を襲おうとしていた逝き人形たちが急に進路を変え、彼の方へと集まってきた。
【引き寄せる力】により敵の行動を制限する。
ただ、ラスキュイのリボルバーでは一度に多くを仕留めることはできない。
などと心配するのは愚の骨頂だ。
慎重な彼が何の策も講じないわけがない。
「魔力を凝縮するとどうなるか知っているか?」
口角を吊り上げて、迫りくる生ける屍に若き審問官が問う。
手の中に丁度納まる大きさの鉱石を取り出すと、彼は逝き人形の群れに向かって投げつけた。
虹色の光沢を放つ半透明の結晶が宙を舞う。
それは魔素を固めた物、魔晶石と呼ばれる鉱石だった。
魔晶石の性質として衝撃が加えると中のエネルギーが膨張し大爆発を引き起こす。
銃弾が鉱石を貫いていた。
一発の銃声とともに砕けた結晶が発光し、逝き人形たちを吹き飛ばしてゆく。
退路すら確保できない人形に、爆発を回避するすべなどない。
ラスキュイに引き寄せられては抹消されていた。
「アッチはしばらく持ちそうか……問題は僕の方だよな」
依然、スコルを相手に苦闘する。
ギデオンとしてもこれ以上は時間をかけるわけにはいかない。
どうにかして相棒の動きを封じないといけなかった。
スコルはギデオンの一部だ。
ゆえに下手に傷をつけるとダメージが自分に返ってくる。
シオン賢者の一人である【バリュエーション】との一戦でそのことは明らかになっている。
「クッ、どうにかしてスコルを元に戻さなければならない。
ラス、どうにか引き戻せないのか?」
「すでに試みている! 何かが、障壁となり私の力を阻害している」
「黒薔薇か。スコルを操っている奴を見つけて直に押さえ込むしか方法はない。
ただ、この状況をどう切り抜けるのかが問題だ」
困難に苛まれるギデオンに呼応するかのごとく、手元のアサルトライフルが光を帯びていた。
主のために自ら、その姿を白狼に変えて現れたのはハーティである。
敵意と憎悪を振り撒きながら突進してくるスコルに彼女は果敢に立ち向かう。
そよぐ風のように軽やかな身のこなしで、連撃を避け黒き獣を御している。
ハーティが注意を引きつけてくれているおかげで、ギデオンはようやくフリーになった。
「すまない。ハーティ、頼んだぞ」
大地を蹴り一気に加速する。
それまで遅れを取り戻そうとギデオンは村の外へと飛び出す。
近場にいる逝き人形を流れるような斬撃で切り崩し尚も進んでゆく。
極限まで集中している時の彼は誰にも止められない。
スコルを操っている者の位置の目星はまったくついていない。
しかし、迷うことなく突き進んでゆく。
微かな人間の匂いを超嗅覚で辿り、どんなに些細な変化も見落とさない。
光源すらない闇夜でも練功により強化された視力で周囲を見通すことができる。
「そろそろ術者に近づいてきたというわけか。隠し玉が出てくるとはな」
雑木林を抜けてゆくと一際、巨大な逝き人形が待ち構えていた。
そびえ立つ壁のような巨体を揺らし、人形は鉄球のついた鎖を振り回してきた。
地面に向かい、凶悪な一撃が叩き込まれた。
「悪いがお前の相手をする時間はない。極天無抜刀・残花」
音速を越えた光刃が鉄球もろとも巨人を真っ二つしていた。
かつて相対した斬鬼と呼ばれた剣豪の技は、文字通り一撃必殺の剣となった。
状況は刻一刻と厳しくなってゆく。
防壁を破った逝き人形たちが早速、群がってやってきた。
スコルが攻撃を止めない以上、対処しようにも身動きがとれない。
逼迫するギデオンは、旧友に任せることしかできなかった。
「チッ、まだこんなに多くの兵力を残していたのか……」
「ラス! ジャスさんを呼んだ方がいいんじゃないか?」
「ダメだ。敵の本隊はこれからやってくるはずだ。
ここで戦力となる術師殿を消耗させてはならない。
魔女に対抗しうるのは、彼だけなのだから。
中途半端に魔法が使える私や、適性能力のないお前では太刀打ちならない相手だ」
「そこまで先が見えているのか……」
ラスキュイは匍匐の魔女、マリーヴェンシルの襲来まで予見していた。
ギデオンも魔法を行使するマリーの姿をドルゲニア公国で見ていた。
あれは、魔術の域を超越する自然現象に近いものがあった。
たった一つの魔法で大いなる影響をもたらす。
あまりにも練度が高すぎて魔法だと教えられなければ気づくことはない。
教団の実質トップとなるマリーヴェンシルと対峙したら、魔術師以外は太刀打ちできない。
単純に戦闘能力の問題ではなく相性の関係でそうなってしまう。
魔女に物理や闘気は通用しない。
加えて、膨大な魔力により肉体よりも先にコチラの精神を蝕み破壊してくる。
だからこそ手に負えないのだ。
「好き勝手にさせんぞ」
拳を握りしめ、ラスキュイがグッと自身の方へと引き動かしてゆく。
その動きと連動し、家屋を襲おうとしていた逝き人形たちが急に進路を変え、彼の方へと集まってきた。
【引き寄せる力】により敵の行動を制限する。
ただ、ラスキュイのリボルバーでは一度に多くを仕留めることはできない。
などと心配するのは愚の骨頂だ。
慎重な彼が何の策も講じないわけがない。
「魔力を凝縮するとどうなるか知っているか?」
口角を吊り上げて、迫りくる生ける屍に若き審問官が問う。
手の中に丁度納まる大きさの鉱石を取り出すと、彼は逝き人形の群れに向かって投げつけた。
虹色の光沢を放つ半透明の結晶が宙を舞う。
それは魔素を固めた物、魔晶石と呼ばれる鉱石だった。
魔晶石の性質として衝撃が加えると中のエネルギーが膨張し大爆発を引き起こす。
銃弾が鉱石を貫いていた。
一発の銃声とともに砕けた結晶が発光し、逝き人形たちを吹き飛ばしてゆく。
退路すら確保できない人形に、爆発を回避するすべなどない。
ラスキュイに引き寄せられては抹消されていた。
「アッチはしばらく持ちそうか……問題は僕の方だよな」
依然、スコルを相手に苦闘する。
ギデオンとしてもこれ以上は時間をかけるわけにはいかない。
どうにかして相棒の動きを封じないといけなかった。
スコルはギデオンの一部だ。
ゆえに下手に傷をつけるとダメージが自分に返ってくる。
シオン賢者の一人である【バリュエーション】との一戦でそのことは明らかになっている。
「クッ、どうにかしてスコルを元に戻さなければならない。
ラス、どうにか引き戻せないのか?」
「すでに試みている! 何かが、障壁となり私の力を阻害している」
「黒薔薇か。スコルを操っている奴を見つけて直に押さえ込むしか方法はない。
ただ、この状況をどう切り抜けるのかが問題だ」
困難に苛まれるギデオンに呼応するかのごとく、手元のアサルトライフルが光を帯びていた。
主のために自ら、その姿を白狼に変えて現れたのはハーティである。
敵意と憎悪を振り撒きながら突進してくるスコルに彼女は果敢に立ち向かう。
そよぐ風のように軽やかな身のこなしで、連撃を避け黒き獣を御している。
ハーティが注意を引きつけてくれているおかげで、ギデオンはようやくフリーになった。
「すまない。ハーティ、頼んだぞ」
大地を蹴り一気に加速する。
それまで遅れを取り戻そうとギデオンは村の外へと飛び出す。
近場にいる逝き人形を流れるような斬撃で切り崩し尚も進んでゆく。
極限まで集中している時の彼は誰にも止められない。
スコルを操っている者の位置の目星はまったくついていない。
しかし、迷うことなく突き進んでゆく。
微かな人間の匂いを超嗅覚で辿り、どんなに些細な変化も見落とさない。
光源すらない闇夜でも練功により強化された視力で周囲を見通すことができる。
「そろそろ術者に近づいてきたというわけか。隠し玉が出てくるとはな」
雑木林を抜けてゆくと一際、巨大な逝き人形が待ち構えていた。
そびえ立つ壁のような巨体を揺らし、人形は鉄球のついた鎖を振り回してきた。
地面に向かい、凶悪な一撃が叩き込まれた。
「悪いがお前の相手をする時間はない。極天無抜刀・残花」
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