447 / 546
神器争奪編
四百四十七話
しおりを挟む
「グスッ―――ヴィック―――グズッ、グスグス」
迸る蒼き剣閃の波間から、すすり泣くような声が聞こえた。
覚醒し澄み渡るギデオンの意識化で捉える、それは泣き声ではなく亡き者の声ように暗く沈んでいる。
全身からブワッと一気に悪寒が駆け巡ってくる。
ワイルドハンターとしての野生の勘が、この先にいる相手の危険性をしきりに訴えていた。
それでも後に下がることなどできない。
村の脅かす逝き人形たちを食い止めるには、その歪な存在を止めないといけない。
「みんなぁー、みんなぁー、楽しくおどりましょー。
手をつなぎ輪になって、きたなぁ~いネズミをいびりコロそう。
ほら、お母さんが呼んでいる。
早くこっちにおいで、ここにはキレイなおふとんもあるし、美味しいゴチソウだって用意されているよ。
恐がることはないよ。
みんなもそうしているから、おとなりのミーちゃんも施設のオジサンも……。
ほら! お兄さんだってやってきた。
ボクとワタシをむかえにきてくれた」
「お前が……そうなのか? 信じられない……教団の連中には道徳や倫理というものがないのか」
両眼を瞑ったままギデオンは拳を握りしめた。
怒りや憎しみ以上に、やるせない悲しさが彼の心に広がってゆく。
運命とは時に残酷な物となる。
人に沿いながら成り立つ事象でありながらも、バッサリと突き落としてきたり、気まぐれで救われることもある。
完全に人間を翻弄してくるが、大切なことを忘れてはいけない。
運命とは結果論であること……また、その解を導いたのは自身である。
望む望まぬことなど、運命にとっては、しょもない言い分でしかない。
いくら嘆いても過去は変わらないし、世界にとっては些末な個の出来事である。
だからこそ、気にも留められず目も向けて貰えない。
人はそれ不幸と感じ、自身と周囲を少しずつ壊してゆく。
目の前にいる幼き彼女……ラモードも、その犠牲となった一人と言えよう。
大きな瞳を見開いたまま、少女は顔だけを向けてくる。
その視界には誰も見えていない。人を見ようとはしない。
他者の魔力だけを感知し相手が誰かを言い当てている。
「ラモード、逝き人形たちを止めるんだ!
これ以上は無闇に犠牲者を出してはいけない。君は悪い大人たちに騙され利用されているだけだ」
「だまされる?
慈母なるマリーヴェンシルは、こうおっしゃいました。
だまされるのは、人のホマレだと。
それを許して愛せと。
ワタシはディングリング・A・ラモード……。
狂気の使徒であり教団の盾である」
齢十にも満たない少女の言葉とは思えないほど、ラモードの思考は歪んでいた。
教団側の言うがままに、都合の良く教育されてきたのだろう。
真意や疑念など微塵も感じず、あるがままの物としてブラックバカラの一員として人生を歩んできた。
そんな彼女に正論をぶつけても理解には及ばない。
「……他の皆はどこにいる。マダラ蜘蛛の巣穴の前で一緒にいたんじゃないのか?」
「さぁ? ワタシにも分からない。
狼さんだけいれば良い……他は一つも要らない。
さあ、お兄さんも一緒に人形とあそぼー」
「あくまで術を解かないつもりか。
子供とはいえ、僕はそこまで情けをかけないぞ」
ギデオンの練功、極天蒼炎鸞の炎が勢いを増して拡がってゆく。
決して脅しなどではなく、ラモードの暴走を食い止めるために立ち向かう。
覚悟の表れが、全身を包むように燃え盛っていた。
次の瞬間、鋭い闘気が空間を裂くようにしてラモードの身体に接触した。
小さな体で衝撃を受けているはずだが、あどけない表情で逝き人形たちに命を下す。
「みんなぁ―、あの人に花火をやってあげて」
涼しい声でラモードが告げると、逝き人形たちが次々にギデオンに向かって突進してきた。
体内の魔力を膨張させているらしい、急激に身体がパンパンに膨れていった。
ギデオンの傍まで接近してから爆発し、致命傷を負わせようとしてきた。
単体では爆破を避けれるが、大人数で迫られるとどこにも逃げ場がない。
たちまち連鎖爆発を起こし、大地を激震させる炎の柱が天高く上昇していた。
「キャンプの時期には少し遅い。
でも、キレイに散っていった……よかった」
「何も良くはないぞ。
このていどで僕をどうにかできると思ったのか?」
旋風が巻き起こり炎の柱が弾かれるように消失した。
その中から無傷の状態でギデオンが悠々と歩いてきた。
小首を傾げるラモード。
彼女には見えなかった、一瞬で放たれた多数の斬撃、その剣圧が。
爆風の威力をも上回り、逆に逝き人形たちの自爆を完全に封殺していた。
迸る蒼き剣閃の波間から、すすり泣くような声が聞こえた。
覚醒し澄み渡るギデオンの意識化で捉える、それは泣き声ではなく亡き者の声ように暗く沈んでいる。
全身からブワッと一気に悪寒が駆け巡ってくる。
ワイルドハンターとしての野生の勘が、この先にいる相手の危険性をしきりに訴えていた。
それでも後に下がることなどできない。
村の脅かす逝き人形たちを食い止めるには、その歪な存在を止めないといけない。
「みんなぁー、みんなぁー、楽しくおどりましょー。
手をつなぎ輪になって、きたなぁ~いネズミをいびりコロそう。
ほら、お母さんが呼んでいる。
早くこっちにおいで、ここにはキレイなおふとんもあるし、美味しいゴチソウだって用意されているよ。
恐がることはないよ。
みんなもそうしているから、おとなりのミーちゃんも施設のオジサンも……。
ほら! お兄さんだってやってきた。
ボクとワタシをむかえにきてくれた」
「お前が……そうなのか? 信じられない……教団の連中には道徳や倫理というものがないのか」
両眼を瞑ったままギデオンは拳を握りしめた。
怒りや憎しみ以上に、やるせない悲しさが彼の心に広がってゆく。
運命とは時に残酷な物となる。
人に沿いながら成り立つ事象でありながらも、バッサリと突き落としてきたり、気まぐれで救われることもある。
完全に人間を翻弄してくるが、大切なことを忘れてはいけない。
運命とは結果論であること……また、その解を導いたのは自身である。
望む望まぬことなど、運命にとっては、しょもない言い分でしかない。
いくら嘆いても過去は変わらないし、世界にとっては些末な個の出来事である。
だからこそ、気にも留められず目も向けて貰えない。
人はそれ不幸と感じ、自身と周囲を少しずつ壊してゆく。
目の前にいる幼き彼女……ラモードも、その犠牲となった一人と言えよう。
大きな瞳を見開いたまま、少女は顔だけを向けてくる。
その視界には誰も見えていない。人を見ようとはしない。
他者の魔力だけを感知し相手が誰かを言い当てている。
「ラモード、逝き人形たちを止めるんだ!
これ以上は無闇に犠牲者を出してはいけない。君は悪い大人たちに騙され利用されているだけだ」
「だまされる?
慈母なるマリーヴェンシルは、こうおっしゃいました。
だまされるのは、人のホマレだと。
それを許して愛せと。
ワタシはディングリング・A・ラモード……。
狂気の使徒であり教団の盾である」
齢十にも満たない少女の言葉とは思えないほど、ラモードの思考は歪んでいた。
教団側の言うがままに、都合の良く教育されてきたのだろう。
真意や疑念など微塵も感じず、あるがままの物としてブラックバカラの一員として人生を歩んできた。
そんな彼女に正論をぶつけても理解には及ばない。
「……他の皆はどこにいる。マダラ蜘蛛の巣穴の前で一緒にいたんじゃないのか?」
「さぁ? ワタシにも分からない。
狼さんだけいれば良い……他は一つも要らない。
さあ、お兄さんも一緒に人形とあそぼー」
「あくまで術を解かないつもりか。
子供とはいえ、僕はそこまで情けをかけないぞ」
ギデオンの練功、極天蒼炎鸞の炎が勢いを増して拡がってゆく。
決して脅しなどではなく、ラモードの暴走を食い止めるために立ち向かう。
覚悟の表れが、全身を包むように燃え盛っていた。
次の瞬間、鋭い闘気が空間を裂くようにしてラモードの身体に接触した。
小さな体で衝撃を受けているはずだが、あどけない表情で逝き人形たちに命を下す。
「みんなぁ―、あの人に花火をやってあげて」
涼しい声でラモードが告げると、逝き人形たちが次々にギデオンに向かって突進してきた。
体内の魔力を膨張させているらしい、急激に身体がパンパンに膨れていった。
ギデオンの傍まで接近してから爆発し、致命傷を負わせようとしてきた。
単体では爆破を避けれるが、大人数で迫られるとどこにも逃げ場がない。
たちまち連鎖爆発を起こし、大地を激震させる炎の柱が天高く上昇していた。
「キャンプの時期には少し遅い。
でも、キレイに散っていった……よかった」
「何も良くはないぞ。
このていどで僕をどうにかできると思ったのか?」
旋風が巻き起こり炎の柱が弾かれるように消失した。
その中から無傷の状態でギデオンが悠々と歩いてきた。
小首を傾げるラモード。
彼女には見えなかった、一瞬で放たれた多数の斬撃、その剣圧が。
爆風の威力をも上回り、逆に逝き人形たちの自爆を完全に封殺していた。
0
あなたにおすすめの小説
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる