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十七話 アニキ、制服される
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朝の空気が清々しい。小鳥のさずりが聞こえる。
世界はこんなにも明るいのに、どうしてこんなに眠いのか……?
春眠暁を覚えずというが季節は汁濁に入ろうとしている。
ボクは愚かだ。一刻も早く制服に袖を通したくて早朝から学校に来てしまった。
べ、別に女子の制服がどうこうとかではなくて……そんなやましい気持ちはないような、在るような……。
と、とにかく着慣れない服装だ。何か、不備があるといけない。
たとえ校門が閉まっていると分かっていても、ジッとしてはいられなかったんだ。
パチ屋の開店を待つオッサンたちも、こんな感じで気分を高揚させながら待機しているだろうか?
しっかし、最近の女学生の制服はやけにお洒落というか、アバンストラッシュ……じゃない、ずいぶんとアバンギャルドな感じだ。
こげ茶色ブラウスと白い縦線が入ったワインレッドのリボンタイ。
汚れが目立ちそうな純白のスカート、もちろんスソの黒線は欠かさずについている。
極めつけはグレイだか、紺だか分からない絶妙な色合いをしたカーディガン風の上着。
どんだけ、お洒落イズムを極めようとしているのか……。
前のボクが学生だった頃は、カラスアーマーとか言って制服の黒一色に皮肉を込めたもんだ。
『やぁ、キュイちゃん!』
「のわぁああ!!」人は浮かれている所で声をかけられると奇声を発する。
そんなのアニメの世界だけだと思っていた……。
「何か……御用ですか? ドブさん」
『あれれ? 吾輩が出て来るのを待っていたんじゃないの?』
「そ、それです! 博士を元の姿に戻す方法を知っているんですよね? 教えてください」
『……にしても、とうとう学校にまで足を伸ばしたかぁ。女子としての初めての学校生活、ワックワクのドッキドキだね』
「人の話を聞けや、こら~」
死人が出そうな物言いをするガーターベルト。
その両端を指でつまむと真横に引っ張ってやった。
スカートに手を突っ込んでいるから傍目から見れば変な行動だけど、まだ周囲に人の気配はない。
事件が起こる前に元を叩けばすべては丸くおさまる。
『イデデデデ―――!! 乱暴は良くないよ、キュイちゃん。魔法少女は……イデ、いつも朗らかにトンチンカンなことを言ってなきゃ』
「勝手に魔法少女にするなぁあああ。ボクにだって選ぶ権利ぐらい――――」
『無いよね? 君が今の姿を否定しても、肯定しても、あのブクブクとした姿に戻りたいとは思わないだろっ? つまり吾輩は恩人になるわけだ。もとの君には選択肢すらなかったんだ、選ぶ自由なんてあるわけがないさ』
冷たく言い放つドブさんに、ボクは返す言葉もなかった。
あまりにも図星すぎて抗えば、逆にボロを出してしまうように思えた。
『――――手堅いね。こんな気不味い空気もなんだから教えてやるよ~。あのジジイが知らないことは吾輩にも分からない。ジジイが戻り方を知っているなら、保険をかけているはずだよ。でなきゃ、吾輩をロールアウトしていないだろうからね』
ドブさんの話は回りくどくて小難しい。要は博士なら自力で戻れるということらしい。
もっとも、戻る方法がある前提での話だけど……。
「教えてくれて、ありがとう……ところでドブさんは、どうして出てきたの? わざわざ、ボクの編入祝いをしに来たわけじゃないでしょ?」
『物分かりがいい娘はキライじゃないよ。そのとぉーり! ドブちゃん的に、前回のことは後に回したいんだよねぇ~。だから、もう一回変身して変体を倒して欲しい』
「後回し? 何のことか分からないけど……変質者ならお巡りさんに任せればいいんじゃない?」
『ブーブー! 違いますぅ。君たち一帯戦隊のおかげで悪の組織は壊滅したけど、世の中に蔓延る悪自体が消えたわけじゃない。統率者を失った彼らは性癖をこじらせ悪党から変体へと成長を遂げた。今や、この街だけではなく、日本全国、津々浦々と変体たちが産声を上げている。まさにワダツミの声……』
絶対に聞きたくない。間違いなく卑猥な言葉のオンパレードだ。
元,イエローとしては放置できなない由々しき事態なんだけど……今のボクって、彼らにとって格好の獲物じゃないか!?
そう考えるだけで膝がガクガクと震えてくる。
「なんてことだ……こんな、朝早くから登校する生徒がいるとは……」
ドサッと何かが落ちる音とともに声が聞こえた。
見ると、アタッシュケースを手放したまま放心しているスーツ姿の男性が立っていた。
「あのぉ……」
「ああっ! すまない。今までこんなことを無かったからね、つい驚いてしまったよ。君、見ない顔だね?」
「はい、今日から……この学校でお世話になる新庄と申します。もしかして、先生ですか?」
「左様、私は体育教諭の軽田という。宜しくな、新庄さん」
「体育ですか? てっきり数学の先生かと……」
「ハハハッハ! 良く言われるよ、インテリ臭いって。それじゃ、私は先を急ぐから失礼するよ!」
「んえっ?」カルタ先生はアタッシュケースを拾うとエアーウォークをきめながら宙へと浮上してゆく。
気づくと、ステップだけであっさりと校門の柵を飛び越える背中があった……。
「もしや、変体って彼のような存在なのかな?」
キツネにつまれたような、不可思議な光景を目にし今度はボクの方が呆然としてしまった。
世界はこんなにも明るいのに、どうしてこんなに眠いのか……?
春眠暁を覚えずというが季節は汁濁に入ろうとしている。
ボクは愚かだ。一刻も早く制服に袖を通したくて早朝から学校に来てしまった。
べ、別に女子の制服がどうこうとかではなくて……そんなやましい気持ちはないような、在るような……。
と、とにかく着慣れない服装だ。何か、不備があるといけない。
たとえ校門が閉まっていると分かっていても、ジッとしてはいられなかったんだ。
パチ屋の開店を待つオッサンたちも、こんな感じで気分を高揚させながら待機しているだろうか?
しっかし、最近の女学生の制服はやけにお洒落というか、アバンストラッシュ……じゃない、ずいぶんとアバンギャルドな感じだ。
こげ茶色ブラウスと白い縦線が入ったワインレッドのリボンタイ。
汚れが目立ちそうな純白のスカート、もちろんスソの黒線は欠かさずについている。
極めつけはグレイだか、紺だか分からない絶妙な色合いをしたカーディガン風の上着。
どんだけ、お洒落イズムを極めようとしているのか……。
前のボクが学生だった頃は、カラスアーマーとか言って制服の黒一色に皮肉を込めたもんだ。
『やぁ、キュイちゃん!』
「のわぁああ!!」人は浮かれている所で声をかけられると奇声を発する。
そんなのアニメの世界だけだと思っていた……。
「何か……御用ですか? ドブさん」
『あれれ? 吾輩が出て来るのを待っていたんじゃないの?』
「そ、それです! 博士を元の姿に戻す方法を知っているんですよね? 教えてください」
『……にしても、とうとう学校にまで足を伸ばしたかぁ。女子としての初めての学校生活、ワックワクのドッキドキだね』
「人の話を聞けや、こら~」
死人が出そうな物言いをするガーターベルト。
その両端を指でつまむと真横に引っ張ってやった。
スカートに手を突っ込んでいるから傍目から見れば変な行動だけど、まだ周囲に人の気配はない。
事件が起こる前に元を叩けばすべては丸くおさまる。
『イデデデデ―――!! 乱暴は良くないよ、キュイちゃん。魔法少女は……イデ、いつも朗らかにトンチンカンなことを言ってなきゃ』
「勝手に魔法少女にするなぁあああ。ボクにだって選ぶ権利ぐらい――――」
『無いよね? 君が今の姿を否定しても、肯定しても、あのブクブクとした姿に戻りたいとは思わないだろっ? つまり吾輩は恩人になるわけだ。もとの君には選択肢すらなかったんだ、選ぶ自由なんてあるわけがないさ』
冷たく言い放つドブさんに、ボクは返す言葉もなかった。
あまりにも図星すぎて抗えば、逆にボロを出してしまうように思えた。
『――――手堅いね。こんな気不味い空気もなんだから教えてやるよ~。あのジジイが知らないことは吾輩にも分からない。ジジイが戻り方を知っているなら、保険をかけているはずだよ。でなきゃ、吾輩をロールアウトしていないだろうからね』
ドブさんの話は回りくどくて小難しい。要は博士なら自力で戻れるということらしい。
もっとも、戻る方法がある前提での話だけど……。
「教えてくれて、ありがとう……ところでドブさんは、どうして出てきたの? わざわざ、ボクの編入祝いをしに来たわけじゃないでしょ?」
『物分かりがいい娘はキライじゃないよ。そのとぉーり! ドブちゃん的に、前回のことは後に回したいんだよねぇ~。だから、もう一回変身して変体を倒して欲しい』
「後回し? 何のことか分からないけど……変質者ならお巡りさんに任せればいいんじゃない?」
『ブーブー! 違いますぅ。君たち一帯戦隊のおかげで悪の組織は壊滅したけど、世の中に蔓延る悪自体が消えたわけじゃない。統率者を失った彼らは性癖をこじらせ悪党から変体へと成長を遂げた。今や、この街だけではなく、日本全国、津々浦々と変体たちが産声を上げている。まさにワダツミの声……』
絶対に聞きたくない。間違いなく卑猥な言葉のオンパレードだ。
元,イエローとしては放置できなない由々しき事態なんだけど……今のボクって、彼らにとって格好の獲物じゃないか!?
そう考えるだけで膝がガクガクと震えてくる。
「なんてことだ……こんな、朝早くから登校する生徒がいるとは……」
ドサッと何かが落ちる音とともに声が聞こえた。
見ると、アタッシュケースを手放したまま放心しているスーツ姿の男性が立っていた。
「あのぉ……」
「ああっ! すまない。今までこんなことを無かったからね、つい驚いてしまったよ。君、見ない顔だね?」
「はい、今日から……この学校でお世話になる新庄と申します。もしかして、先生ですか?」
「左様、私は体育教諭の軽田という。宜しくな、新庄さん」
「体育ですか? てっきり数学の先生かと……」
「ハハハッハ! 良く言われるよ、インテリ臭いって。それじゃ、私は先を急ぐから失礼するよ!」
「んえっ?」カルタ先生はアタッシュケースを拾うとエアーウォークをきめながら宙へと浮上してゆく。
気づくと、ステップだけであっさりと校門の柵を飛び越える背中があった……。
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