超絶転身少女 インフィニティアニキ 特撮ヒーローから魔法少女系νtuberに転職します

心絵マシテ

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大晦日、特別編 一杯のドブ蕎麦

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賑やかなクリスマスも終わりを迎え、よいよ暮れの気配が近づいてきた。
人生初のクリスマスパーティーは、いわゆる女子会でありパジャマパーティーでもあった。
正直、身が持たない……リユちゃんと茜音ちゃんが眩しすぎる。
こんな自分には勿体ないくらいのシチュエーションと男であるという罪悪感から戸惑いは残る。
けれど、二人とすごす時間はとても楽しかった。
これからも、そんな日々を過ごせたらと願うのは間違いなのだろうか?

葛藤する時間は、まったく無かった。
大晦日の夜だというのに、この客の入りよう……今までで一番、多いのではないのか……。

最近では年越しそばならぬ、年越しラーメンが流行っているのか?
日本人の文化や伝統の心はどこへ行ってしまったのだろう……?
疑問に思うボクの前に温かな蕎麦が入ったドンブリが置かれる。
原因はコレだ! ラーメン屋でありながら蕎麦も提供してしまうという大将の柔軟なスタンスが、客足を増加させているんだ。

年の瀬ぐらい休業しても良いのではないのか思うが、地域密着型の大将にその言い分は通じない。
むしろ、年の終わりだからこそ麺次郎の味を堪能してもらおうと、修羅ごとく湯切りしている。

「ち、ちがれたぁあ――――!! (疲れた)」

23時半、ようやく閉店を迎えた。
そのころには、もうボクは完全燃焼してしまっていた。
大将のゲンジさんと女将さんのチエコさんは、これからお客さんと一緒に、近くの神社に参拝にいくらしい。
一緒にこないかと誘われたけど「自分、もう無理っす」とやんわり断った。
どうせ、明日にはリユちゃんたちと初詣はつもうでに行くんだ。
今は、その時のためにエネルギーチャージする時間が必要なのだ。

ドンドン! 閉めたドアが叩かれる音がした。
時刻は23時40分、大将たちは数分前に店を出てボクだけが留守番として残っていた。

「あの……誰かいませんか?」

外から、か細い女性の声がした。
閉店の看板を出しているのになんて不作法なお客さんだと、ボクはムッとした。

「すみません、今日はもう閉店なんで!」

「無理を言って申し訳ありません。ですが、どうしても今日、麺次郎さんの方にお伺いしたくて!」

暮れ限定のメニューをどうしても食べたい。その気持ちは分からなくもないけど、ボクには決定権がない。
何より、誰か一人を特別扱いすることなどできない。
前例を作ってしまえば、他のお客さんにも同様のサービスをしなければならない。
ましてや大将不在の今、誰が調理をするというのだろうか?
ここは、後日改めて来店して貰うことにしよう。

「そう言われましても、店主は外出中なので……日を改めて来てください」

「手前勝手な話ですが……明朝、この街を発つので最後に麺次郎さんで蕎麦をと思ったのですが……」

何やら訳ありのようだけど、ことさら受け入れることはできない。
情に流されるほど、ボクもお人好しではない。

『キュイちゃん、店の中に入れてあげたら?』

「えっ?」意外過ぎるドブさんの言葉に耳を疑った。
利己主義のベルトが他者の心配をするなんてあり得ないと思っていた。

『どうしたんだい? UMAを見た時のような顔をして? 年の終わりぐらい大目に見てあげなよ』

「けど、蕎麦なんて作れないし……」

『その事なら大丈夫、吾輩がサポートするからさ』

それが一番の不安だ……。
一体、どこで蕎麦の作り方を学んだというのだ?
ネットワークを介して得た情報でも、求められているのは麺次郎の味である。
いくら知識を持っていても実際に作るのは容易ではない。

『ほら、昔からよく言うだろう~。信じるか、どうかはアナタ次第ですって』

「ダメじゃん、ソレ。モロにボク責任を押しつけているよね?」

『かあぁぁ――――! これだから堅物は。チエコ婆も言っていただろうエンジョイって。規則も大事だけど場合によっては対応しきれないこともある。これはヒーローだった君だからこそ、理解できる話のはずだよ』

ドブさんに言われてボクは思い出した。
確かにヒーローには人命を最優先にする使命がある。
セコイヤのように悪の組織は、常に真向から仕掛けてくるわけでもない。
あの手この手を駆使してずる賢く嫌がらせをしてくる。

人々を守るためには、時に指令本部の命令に背くこともあった。
それはレッドが取り決めた、やり方でありボク的にはスッキリとしない対応策に感じた。
浮かない表情をするボクたちにレッドは、決まってこう告げた。

ルールに守られながら生き方を縛るのはヒーロー失格だ。
人は自らの意思で困難に立ち向かった時、ヒーローとして真の道が開かれる。
それはレールという不安定ものではなく、しっかりとした地盤だ。
人々の背中を支え、押してあげるのも自分たちの役割だと。

「あ、有難うございます」

気づけば、ボクはドアを開いていた。
正面にいたのは、二十歳前後のお姉さんと小学生ぐらいの男の子だった。
右目下の泣きボクロが印象的な彼女と、ムスったした顔つきの少年。
こんな夜更けにどうして? そう疑問に思うも言葉にはならない。
小さな子がいたことにボクは衝撃を受けていた。
知らなかったこととはいえ、危うく追い返しまうところだった。

流石にこの凍えるような寒さ中、お店にきてくれた彼女たちに帰れというのは酷だった。
思い返してみれば、ボクもゲンジさんにここで助けてもらったのだ。
自分の受けた恩は別の誰かにしてあげる。
これも何かの縁だろう。そう思うと今までのわだかまりが嘘のようにスッと消えた。

「本当に大将がいないんで、ボクが作ることになりますけど構いませんか?」

「はい、それでも構いません」

ボクの言葉を聞いて、彼女は白くなった息を弾ませてそう答えた。
まぁ、ここで文句を言われてもどうにもできない。

大将たちは参拝した後、知り合いの家で飲み明かすと言っていた。
帰ってくるのは明日の午前中だろう。
待っていても間に合わないのは確定している。
ならば、ボクとドブさんで対応するしかない。
制服の上からエプロンをつけるとボクは調理場へと足を踏み入れた。

「どうしよう……緊張してきた」

『言っただろう? 吾輩に任せておけば万事解決さ。なぜなら、ゲン爺の作った蕎麦は丁度、二玉残っている。蕎麦ツユの方もちゃんとある。キュイちゃんがやることは麺を茹でて、盛り付けをすることぐらいさ。簡単でしょう?』

「それぐらいなら、あまり料理をしないボクでもできる……と思う」

『しっかぁーし! やはり、そこは麺次郎、普通の茹で方ではない。ゲン爺のように適切な温度とタイミングで茹で上げる必要がある。今から、吾輩がそれを伝授しよう』

「伝授って……やり方を知っているの?」

『当然! 魔法の力で店の防犯カメラを操作してデータ解析までした吾輩にぬかりはない!!」

それってハッキングじゃない、そう言いかけたが止めた。
方法なんて、別にどうでもいい……ドブさんのおかげで、二人のお客さんに蕎麦を出せるのだから!
ドブさんの指示に従い具材を慣れない手つきで切り準備をする。
湯が沸いてきたら、ここからが本番だ。
麺を踊らされるように湯の中へと投入する。

『キュイちゃん、無駄にかき混ぜてはいけないよ。麵の声を聞くんだ』

肝心なところで意味不明なことを口走るのは、やはりドブさんとしか言いようがない。
声と言われても、グツグツと煮立った湯の音しかしない。

『今だ! 麺を湯がいて。そこから三十秒でファイナルフィニッシャーだ!!!』

「でりゃあああああああ―――――!!」

タモ網で魚をすくい上げるような勢いで、一気に湯の中から麺を引き出す。
そこから、渾身の湯切りが始まる。
すでに身体は疲労でキシキシと言っている……にもかかわらず、ボクのテンションは爆上りしてきた。
これがランナーズハイって奴か!?

温めたドンブリに麺を入れて汁をかける、具材をトッピングしてこれで完成……ではない。
ここからがボクのオリジナル、極めつけに削り節と温泉タマゴを乗せて――――

「出来たぁぁぁ……!!」

『ついに出来てしまったか。吾輩のドブ蕎麦が……』

「食欲を無くすようなネーミングをつけるの止めてくれません?」

出来立ての蕎麦を、二人がいるテーブルへと運ぶ。
時刻は23時55分、男の方は眠そうに半目を開いていたけれど、お姉さんに起こされると出てきた蕎麦に、今度は目を見開いていた。

「いい香り! それじゃあ、いただきましょうか!」
お姉さんがそう言うと、隣にいる男の子は、割りばしを手に取り「いただきます」と蕎麦をすすった。

再度、緊張が高まる。いくらドブさんの指示に従ったとはいえ、家で蕎麦を茹でるのとはわけが違う。
その上、独自のアレンジを加えたのだ……麺次郎の味をダメにしていないか心配になってくる。

「どう、美味しい?」
自分の蕎麦には、手をつけずに彼女は、男の子聞いた。
すると、大粒涙がテーブルの上にポタリと落ちた。

「うん、とっでも美味しいよ! おねぇじゃん!!」

男の子は号泣していた。
それまで溜め込んでいたものがせきを切ったように一斉に湧き出したように思えた。
その小さな体を抱きしめて、お姉さんも泣き出していた。

「ごめんね。お姉ちゃん、アンタが大変な時に一緒にいられなくて……本当にゴメンね!」

これ以上、ここに居るのは無神経だ。
ボクは、静かにその場を去った。
店を出ると澄んだ夜空に満天の星が散らばっていた。
前に住んでいた場所では、こんなにも綺麗な星空は見られなかった。

「星、綺麗だね」

『そうだね。いずれ、君たちもあの星ように輝く時がくる。だからキュイちゃん』

「ん? どうしたの? あらたまって」

『明けましてオメデトウだ!!』

「あっ……おめでとう。今年もよろしくね」

いつの間にか午前零時を回っていた。
しばらくして、店の中からボクを呼ぶ声が聞こえた。

「ご馳走でした。お蕎麦、美味しかったです。本当に私のワガママを聞いて貰い有難うございました」

「いえ、そんな……ボクはただ、麺を茹でただけですから」

「ここは私たち家族とって思い出のお店だったんです。店主さんや女将さんには会えませんでしたが、貴女に出会えて、また一つ思い出が増えました」

深々と頭を下げる、お姉さんに倣い男の子のペコリとお辞儀をしてくれた。
二人にどんな事情があるのか? ボクには分からないし詮索するつもりもない。
純粋に美味しいと言って貰えたことが何よりのご褒美だ。
それ以上は望む必要はない。
なぜなら、ボクの作った食事で二人を笑顔にすることが出来たんだ!

大丈夫、きっと上手く行く。
魔法少女であるボクがそう念じるのだから二人は、どんな苦難も乗り越えられる。
根拠なんか要らない。
時として想いは奇跡を越える。

遠くなってゆく二人の背を見送りながら、ボクは新たに決意を固めた。
守るだけではなく、立ち上がる勇気を人々に与える、そんな魔法少女になりたいと。 特別編 FIN
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