32 / 59
三十一話 アニキ、共闘する
しおりを挟む
会計を済ませるボクの隣でカルロスと名乗った彼は、一人で勝手に盛り上がっていた。
「パナンじゃない、パナンじゃない」と連呼しているが、問題はそこではない。
ボク自身が彼にまったく興味を持てないということが状況的に厳しいのだ。
「名前ぐらい、いいじゃないか? まさか、こんな場所で地上に降りた天使に出会えるとはぁぁああ――――!」
クッサァアアア―――!! 言っていることが臭過ぎて鼻が曲がるわ。
あと、大声だすのは止めてほしい。他のお客さんが迷惑そうにコチラを見ているじゃないか……。
「分かった! 僕に名前を当てて欲しいんだね。なんて、きわどいアピールの仕方なんだ!!」
こういう輩は基本、相手にしない方がいい。
一つでも、話に応じてしまえば、グイグイと引っ張られて相手の術中にハマってしまう。
ボク一人だったら、この場から逃走すれば済むけど今は都合が悪い。
田宮さんを一人にするわけにもいかないし、この男が彼女にチョッカイをかける可能性もある。
弱ったぞ……中々、諦めてくれそうにない。
どんだけメンタルモンスターなんだよ。
「どうしたの? 新庄さん」
そうこうしているうちに、田宮さんが戻ってきてしまった。
なるべく、コチラに近寄らないでと視線で訴えっているんだけど、伝わっていない。
難しい顔をしながら、逆に駆け足でやってきた。
「ふぉおぉお――――うう!! これまた、お連れの娘もエレガンツ!! ボクの名前はカルロス、少子高齢化問題を解決するために現れた救世主さ。よろぴくね~」
「…………フェザータッ「待って待て!! 怪人じゃないから、この人。変態だけど変体じゃないから」
出会い頭に変身バックルを取り出そうとした田宮さんを辛うじて止めた。
カルロスのナンパな態度を見れば、そうしたくなるけど悪党でもない限り、魔法少女に変身して戦うのは厳禁である。
「そうだよ! 僕は変態なんかじゃないよ。上から呼んでも下から読んでも、恋愛マスター。略してアイマスのカルロスだよぉぉぉ!」
「どこをどう読もうが、アンタのしていることはセクハラじゃないの? 私の友人にチョッカイださないでよ! 困っているでしょ、彼女」
おおっ! さすがは田宮さんだ。
カルロス相手に毅然とした態度で、言い返している。
けれど、それでどうにかなる奴だったら、ボクも困りはしない。
むしろ、強い言い方するのは、この男にとっては御褒美みたいなものでしかない。
「嫌いじゃないよ、そのストロングスタイル!」
「アルコール飲料みたいに言わないでよ! そろそろ引いてくれないかしら、でなけば――――」
「でなければ? 警察でも呼ぶのかい? 別に僕は何もしていないよねぇぇ~。せいぜい、注意されて終わりだよぉぉぉん」
「もしもし、奈美宗? 私だけど、今から人を寄こして頂戴。そう……分かったわ」
突然、スマホを取り出して彼女はどこかに連絡を取っていた。
警察ではなさそうだけど……。
口を半開きしたまま呆然とするカルロスを見ながら、田宮さんは肩をすくめて妖艶に笑う。
頬にふれるサイドテールの髪が、その美を際立たせていた。
ボクには真似できない魅力がそこあった。
カルロスは、当然ならが大ハシャギするのだろうと思っていた。
しかし、意外にも彼の反応は素っ気なく、どこか怯えているようにも見えた。
「誰を呼んだのかな? 警察ではなさそうだけどぉ」
「専属のボディーガードよ。あと、三十秒でアンタを捕まえるから覚悟なさい」
「はぁ? ハッタリだろぉぉぉぉぉ! えっ? えっ? 何だ!? お前ら、どこから出てきた!?」
カルロスを包囲するべく、田宮さんの言った「ボディガード」が続々と駆けつけてきた。
ある者は観賞用植物に擬態し、またある者はショップの店員に扮していたり、買い物にきた家族に触れられているペットを演じていた。
よくよく考えてみれば彼女は令嬢なんだ。
一人勝手に行動できることなんてあり得ない。
常に大勢の付き人に守られているんだ。
抵抗、虚しく連行されるカルロスを見ながら、自分と田宮さんとでは住んでいる世界が違うことを実感させられてしまった。
過保護というよりも、そうせざるを得ない環境にある彼女が、父親に対してあまり良い印象を持っていないのも納得できてしまう。
おそらく、親子ありながもその距離感は遠い。
彼女が否定した通り、ボクは上辺だけで物事を判断していたのかもしれない。
そう痛感すると何だか、申し訳ない気分になってくる。
「お嬢様……また、こんなに買ったのですか!?」
「いいじゃない。小遣いで買ったんだから! 私じゃあ、運ぶの大変だから、誰かに運ばせておいてね」
レジカウンターの前で田宮さんと会話しているのは、グレイのスーツを着た女性だった。
間違いなく、田宮家の関係者だろう。
二人して、親し気にあーでも、こーでもないと言い合っている。
カウンターの上に置かれた三つの大袋には、ベルゼットグッズがぎっしりと詰まっていた。
いきなり、ここまで買うとは恐るべし、令嬢。
「大人買いかぁ~」
思わず呟くボクに、さきほどの女性が、跪いて名刺を差し出してきた。
奈美宗 千穂と名が刻まれている、ソレをボクは戸惑いながらも受け取った。
「メルナお嬢様がお世話になっております。ワタクシ、専属執事の奈美宗と申します。新庄様には挨拶もせず、突然押しかけてしまうカタチとなってしまい申し訳ありませんでした。どうか、我ら一同の非礼をお許しください」
女性の執事さんとは珍しい。
「パナンじゃない、パナンじゃない」と連呼しているが、問題はそこではない。
ボク自身が彼にまったく興味を持てないということが状況的に厳しいのだ。
「名前ぐらい、いいじゃないか? まさか、こんな場所で地上に降りた天使に出会えるとはぁぁああ――――!」
クッサァアアア―――!! 言っていることが臭過ぎて鼻が曲がるわ。
あと、大声だすのは止めてほしい。他のお客さんが迷惑そうにコチラを見ているじゃないか……。
「分かった! 僕に名前を当てて欲しいんだね。なんて、きわどいアピールの仕方なんだ!!」
こういう輩は基本、相手にしない方がいい。
一つでも、話に応じてしまえば、グイグイと引っ張られて相手の術中にハマってしまう。
ボク一人だったら、この場から逃走すれば済むけど今は都合が悪い。
田宮さんを一人にするわけにもいかないし、この男が彼女にチョッカイをかける可能性もある。
弱ったぞ……中々、諦めてくれそうにない。
どんだけメンタルモンスターなんだよ。
「どうしたの? 新庄さん」
そうこうしているうちに、田宮さんが戻ってきてしまった。
なるべく、コチラに近寄らないでと視線で訴えっているんだけど、伝わっていない。
難しい顔をしながら、逆に駆け足でやってきた。
「ふぉおぉお――――うう!! これまた、お連れの娘もエレガンツ!! ボクの名前はカルロス、少子高齢化問題を解決するために現れた救世主さ。よろぴくね~」
「…………フェザータッ「待って待て!! 怪人じゃないから、この人。変態だけど変体じゃないから」
出会い頭に変身バックルを取り出そうとした田宮さんを辛うじて止めた。
カルロスのナンパな態度を見れば、そうしたくなるけど悪党でもない限り、魔法少女に変身して戦うのは厳禁である。
「そうだよ! 僕は変態なんかじゃないよ。上から呼んでも下から読んでも、恋愛マスター。略してアイマスのカルロスだよぉぉぉ!」
「どこをどう読もうが、アンタのしていることはセクハラじゃないの? 私の友人にチョッカイださないでよ! 困っているでしょ、彼女」
おおっ! さすがは田宮さんだ。
カルロス相手に毅然とした態度で、言い返している。
けれど、それでどうにかなる奴だったら、ボクも困りはしない。
むしろ、強い言い方するのは、この男にとっては御褒美みたいなものでしかない。
「嫌いじゃないよ、そのストロングスタイル!」
「アルコール飲料みたいに言わないでよ! そろそろ引いてくれないかしら、でなけば――――」
「でなければ? 警察でも呼ぶのかい? 別に僕は何もしていないよねぇぇ~。せいぜい、注意されて終わりだよぉぉぉん」
「もしもし、奈美宗? 私だけど、今から人を寄こして頂戴。そう……分かったわ」
突然、スマホを取り出して彼女はどこかに連絡を取っていた。
警察ではなさそうだけど……。
口を半開きしたまま呆然とするカルロスを見ながら、田宮さんは肩をすくめて妖艶に笑う。
頬にふれるサイドテールの髪が、その美を際立たせていた。
ボクには真似できない魅力がそこあった。
カルロスは、当然ならが大ハシャギするのだろうと思っていた。
しかし、意外にも彼の反応は素っ気なく、どこか怯えているようにも見えた。
「誰を呼んだのかな? 警察ではなさそうだけどぉ」
「専属のボディーガードよ。あと、三十秒でアンタを捕まえるから覚悟なさい」
「はぁ? ハッタリだろぉぉぉぉぉ! えっ? えっ? 何だ!? お前ら、どこから出てきた!?」
カルロスを包囲するべく、田宮さんの言った「ボディガード」が続々と駆けつけてきた。
ある者は観賞用植物に擬態し、またある者はショップの店員に扮していたり、買い物にきた家族に触れられているペットを演じていた。
よくよく考えてみれば彼女は令嬢なんだ。
一人勝手に行動できることなんてあり得ない。
常に大勢の付き人に守られているんだ。
抵抗、虚しく連行されるカルロスを見ながら、自分と田宮さんとでは住んでいる世界が違うことを実感させられてしまった。
過保護というよりも、そうせざるを得ない環境にある彼女が、父親に対してあまり良い印象を持っていないのも納得できてしまう。
おそらく、親子ありながもその距離感は遠い。
彼女が否定した通り、ボクは上辺だけで物事を判断していたのかもしれない。
そう痛感すると何だか、申し訳ない気分になってくる。
「お嬢様……また、こんなに買ったのですか!?」
「いいじゃない。小遣いで買ったんだから! 私じゃあ、運ぶの大変だから、誰かに運ばせておいてね」
レジカウンターの前で田宮さんと会話しているのは、グレイのスーツを着た女性だった。
間違いなく、田宮家の関係者だろう。
二人して、親し気にあーでも、こーでもないと言い合っている。
カウンターの上に置かれた三つの大袋には、ベルゼットグッズがぎっしりと詰まっていた。
いきなり、ここまで買うとは恐るべし、令嬢。
「大人買いかぁ~」
思わず呟くボクに、さきほどの女性が、跪いて名刺を差し出してきた。
奈美宗 千穂と名が刻まれている、ソレをボクは戸惑いながらも受け取った。
「メルナお嬢様がお世話になっております。ワタクシ、専属執事の奈美宗と申します。新庄様には挨拶もせず、突然押しかけてしまうカタチとなってしまい申し訳ありませんでした。どうか、我ら一同の非礼をお許しください」
女性の執事さんとは珍しい。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる