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四十三話 アニキ、と魔法少女トリオ
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波間に沈みゆくカルロス。
助けてやりたい気持ちはあるけど、ボクたちの前には大きな障害がある。
砂塵をまき散らし、陸に上がってきたのは全身に輪ゴムをまとう変体だった。
ずいぶんと古いゴムなのか色が浅黒く変色している。
おまけに頭の部分は苔むしているらしく碧っぽい。何かをブツブツ言っているが、よく聞き取れない。
取り敢えず、今回の怪人は大したことがなさそうだ。
アイカちゃんたちチームなら楽勝で勝てるはず。
「ヤキソバ……」リユちゃんがボソッと言った。お腹がすいたのだろうか?
「ヤキソバだわ」レネ子さんも共感するように頷く。
「皆、ソイツは怪人だ! 見た目で騙されちゃダメだよ、急いでこの場から移動するんだ!」
ボクはわざと大袈裟に騒いでみせた。
自分たちはともかく、魔法少女ではないリユちゃんと茜音ちゃんがいる限り三人は変身できない。
早く、二人を安全な場所に移動させないと。
「お嬢様ぁあああああああああああああ―――――!!!」
耳をつんざくスピーカーと共に、回転するローター音が浜辺全体に通り抜けた。
上空から接近してくる機影が風を従えながら、降下してくる。
空気の層に押し飛ばされそうになりながらも、ボクらはプライベートなヘリが海岸に着陸するのを待った。
むろん、お嬢様といえば田宮さんしか該当しない。
居ないと思っていた奈美宗さんが、操縦席に座っているのが見える。
「……奈美宗さんってヘリコプターも操縦もできるんだね」
「ま、田宮家の執事をしているから大抵の乗り物は乗り凝りこなせるようになっているわ」
どういう基準で人を雇っているのだろう?
普通ではありえない言葉がポンポン出て来る。
「お嬢様、お迎えに参りました。ささ、安全な場所まで運んでいきますのでヘリにお乗りください!」
「丁度、良かったわ。奈美宗、他の人も乗せてあげて! まずは、私と小橘さんと中条さん。あと……海で溺れている馬鹿も拾ってあげて」
「田宮さん! キュイちゃんたちは一緒じゃないの!?」
「小橘さん、一度に全員は無理よ。私たちの避難が完了したら、すぐにまた向かわせるから我慢いてちょうだい」
「キュイちゃん……」
リユちゃんが不安そうにボクの方を見詰めていた。
普段は頼りないところばかり見せてしまっているから、心配させてしまうのも無理はない。
けれど、ボクはベテランのヒーローであり、魔法少女でもある。
機転を利かせてくれた田宮さんには感謝だ。
いつまでも、リユちゃんたちに甘えてはいられない……たまには格好つけないと。
「行って、ボクなら大丈夫! アイカちゃんたちもいるから!!」
「そうよ! 私らがいる限り、キュイには指一本触れさせないから安心しなよ」
アイカちゃんの一言とともに他の二人も頷く。
それで、ようやく納得がいったようだ「キュイちゃんのことお願いします」と頭を下げながら、リユちゃんはヘリコプターに搭乗した。
「キュイちゃん、後で怪人の動画撮って送ってくれん?]
「はい? 何故に動画が必要なの? 茜音ちゃん」
「いやーな、とある人からアルバイトとして撮影を頼まれたんよ。もし、怪人が出てきたら撮ってくれって」
「茜音ちゃん……バイトはちゃんと選んだ方が良いよ」
犯人の目星はおおよそついているが、そこには触れなかった。
確認しようとしても秘匿事項で茜音ちゃんも言えないだろうし、本人にじかで問い詰めた方が手っ取り早く済む。
名残惜しそうにしている彼女を無理やり機内に押し込み、ヘリはようやく離陸した。
ゴム……ではないヤキソバの変体は、それまで大人しくして待っていてくれた。
なかなか気の利く奴だと思ってしまうが、そうでもない。
海水を吸い過ぎて完全に伸びていた。麺だからこそ、伸びてしまったら弱体化必死だ。
だから、ヤキソバはサンオイルを求めていた。
海水浴客が置いて行ったであろう、ソレを全身に塗りたくり初夏の太陽にその身を捧げた。
パチパチパチと弾く音に合わせ、それまでフニャフニャだった容姿がカリッとスッキリとしたものとなる。
奴はカタヤキソバとして再臨したのだ。
「二人とも、変身するよ!! ハブァーブレイク!」
「ええっ、うちらの力を披露する時がきたようね、ハッピーセット!」
「キャ……キャッチ ザ ハート」
アイカちゃんの胸元にあるドッグタグが輝く。
レネ子さんはピアス、フィグちゃんは指環がそれぞれの変身アイテムだ。
眩い閃光の中から、三人の魔法少女が出現する。
一人はビキニアーマーを装着したポニーテールの戦士、アイカ。
一人はバニーガールをベースとしたマジシャンガール、レネ。
そして、ゴスロリ風のドレスを着用したアサシン、フィグ。
三人ともボクたちと負けず劣らず、際立った格好をしている。
魔法少女という認識がなければ、見ているこちらがハラハラしてしまう。
どうして、こうもR指定よりなのだろうか……?
ボクだけはないと安心する一方で、自分もああなのかと思うといたたまれない気分になる。
そろそろ、本気で倫理委員会が動き出してもおかしくはない気がする。
νtuberの動画が削除されないのは、やはり魔法の力なのだろうか?
助けてやりたい気持ちはあるけど、ボクたちの前には大きな障害がある。
砂塵をまき散らし、陸に上がってきたのは全身に輪ゴムをまとう変体だった。
ずいぶんと古いゴムなのか色が浅黒く変色している。
おまけに頭の部分は苔むしているらしく碧っぽい。何かをブツブツ言っているが、よく聞き取れない。
取り敢えず、今回の怪人は大したことがなさそうだ。
アイカちゃんたちチームなら楽勝で勝てるはず。
「ヤキソバ……」リユちゃんがボソッと言った。お腹がすいたのだろうか?
「ヤキソバだわ」レネ子さんも共感するように頷く。
「皆、ソイツは怪人だ! 見た目で騙されちゃダメだよ、急いでこの場から移動するんだ!」
ボクはわざと大袈裟に騒いでみせた。
自分たちはともかく、魔法少女ではないリユちゃんと茜音ちゃんがいる限り三人は変身できない。
早く、二人を安全な場所に移動させないと。
「お嬢様ぁあああああああああああああ―――――!!!」
耳をつんざくスピーカーと共に、回転するローター音が浜辺全体に通り抜けた。
上空から接近してくる機影が風を従えながら、降下してくる。
空気の層に押し飛ばされそうになりながらも、ボクらはプライベートなヘリが海岸に着陸するのを待った。
むろん、お嬢様といえば田宮さんしか該当しない。
居ないと思っていた奈美宗さんが、操縦席に座っているのが見える。
「……奈美宗さんってヘリコプターも操縦もできるんだね」
「ま、田宮家の執事をしているから大抵の乗り物は乗り凝りこなせるようになっているわ」
どういう基準で人を雇っているのだろう?
普通ではありえない言葉がポンポン出て来る。
「お嬢様、お迎えに参りました。ささ、安全な場所まで運んでいきますのでヘリにお乗りください!」
「丁度、良かったわ。奈美宗、他の人も乗せてあげて! まずは、私と小橘さんと中条さん。あと……海で溺れている馬鹿も拾ってあげて」
「田宮さん! キュイちゃんたちは一緒じゃないの!?」
「小橘さん、一度に全員は無理よ。私たちの避難が完了したら、すぐにまた向かわせるから我慢いてちょうだい」
「キュイちゃん……」
リユちゃんが不安そうにボクの方を見詰めていた。
普段は頼りないところばかり見せてしまっているから、心配させてしまうのも無理はない。
けれど、ボクはベテランのヒーローであり、魔法少女でもある。
機転を利かせてくれた田宮さんには感謝だ。
いつまでも、リユちゃんたちに甘えてはいられない……たまには格好つけないと。
「行って、ボクなら大丈夫! アイカちゃんたちもいるから!!」
「そうよ! 私らがいる限り、キュイには指一本触れさせないから安心しなよ」
アイカちゃんの一言とともに他の二人も頷く。
それで、ようやく納得がいったようだ「キュイちゃんのことお願いします」と頭を下げながら、リユちゃんはヘリコプターに搭乗した。
「キュイちゃん、後で怪人の動画撮って送ってくれん?]
「はい? 何故に動画が必要なの? 茜音ちゃん」
「いやーな、とある人からアルバイトとして撮影を頼まれたんよ。もし、怪人が出てきたら撮ってくれって」
「茜音ちゃん……バイトはちゃんと選んだ方が良いよ」
犯人の目星はおおよそついているが、そこには触れなかった。
確認しようとしても秘匿事項で茜音ちゃんも言えないだろうし、本人にじかで問い詰めた方が手っ取り早く済む。
名残惜しそうにしている彼女を無理やり機内に押し込み、ヘリはようやく離陸した。
ゴム……ではないヤキソバの変体は、それまで大人しくして待っていてくれた。
なかなか気の利く奴だと思ってしまうが、そうでもない。
海水を吸い過ぎて完全に伸びていた。麺だからこそ、伸びてしまったら弱体化必死だ。
だから、ヤキソバはサンオイルを求めていた。
海水浴客が置いて行ったであろう、ソレを全身に塗りたくり初夏の太陽にその身を捧げた。
パチパチパチと弾く音に合わせ、それまでフニャフニャだった容姿がカリッとスッキリとしたものとなる。
奴はカタヤキソバとして再臨したのだ。
「二人とも、変身するよ!! ハブァーブレイク!」
「ええっ、うちらの力を披露する時がきたようね、ハッピーセット!」
「キャ……キャッチ ザ ハート」
アイカちゃんの胸元にあるドッグタグが輝く。
レネ子さんはピアス、フィグちゃんは指環がそれぞれの変身アイテムだ。
眩い閃光の中から、三人の魔法少女が出現する。
一人はビキニアーマーを装着したポニーテールの戦士、アイカ。
一人はバニーガールをベースとしたマジシャンガール、レネ。
そして、ゴスロリ風のドレスを着用したアサシン、フィグ。
三人ともボクたちと負けず劣らず、際立った格好をしている。
魔法少女という認識がなければ、見ているこちらがハラハラしてしまう。
どうして、こうもR指定よりなのだろうか……?
ボクだけはないと安心する一方で、自分もああなのかと思うといたたまれない気分になる。
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