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第五話
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数日後、モンスターの気配は日増しに増えていき、ついに昼間でも感じるようになってしまった。
そして、気配と共に奴らから殺意も感じ始めている。もうすぐ奴らは動き出すだろう。
もう少し時間があれば城からの大規模な増援が間に合ったかもしれないし、女子供の隣町への避難も出来たかもしれない。しかし、この僅かな時間でも出来る事はたくさんあった筈だ。
僕は長い間ここで人間の逞しさや優しさ、そしてみんなが協力して問題を解決していく強さをよく知っている。だから大丈夫。きっと大丈夫だ。僕はそう思いながら村を見守っていた。
そしてその日の深夜、運命は動き出した。
大小合わせて数十体のモンスターがいくつかの集団になり、ルマルの村に一直線で突っ込んでいくのを感じる。村一つ襲撃するには多すぎる数で、集団というより軍隊とすら思える。
「……コレホドトハ」
奴らの”圧”に思わず声を出してしまう。まるで” 暴力の濁流”だ。そしてモンスターとはここまで組織的に動けるものなのかと恐怖していた。
おそらく奴らを率いている幹部クラスのモンスターがいるのだろう。ここまで本気で攻め込んでくるという事はこの村の価値が知られてしまったのだろうか。
その原因を作ったのは僕かもしれない。もしそれが事実だとするのなら一人も死んでほしくない。
いや、死なせない。
その為ならこの命を投げ出しても構わない。村のみんなを救う為なら喜んで投げ出せる。
「……ラヒム」
だから僕は友人からの合図を待つ。全てのモンスターじゃなくてかまわない。数を半減させる事が出来たら、あとは村に滞在しているあの専属パーティーが何とかしてくれる。僕は彼らの力を、そして村のみんなの力を信じている。
…………
一方、ルマル村のラヒムは深夜にも関わらず急ピッチで防衛の準備を整えつつあった。警戒の鐘が鳴り響く中、武器を持つ者は最前線で襲来に備え、その他の男は既に構築してあった陣地で投石器の準備を進め、戦えない女性や老人、子供は安全な所に避難を始めた。
その光景を見てパーティーのリーダーはラヒムの手際の良さに感心すると共に、村の人があの爆弾岩、いや” 聖なる柱”をどれだけ信仰していたかを痛感していた。
もし、村人達がバクの言う事を疑って対策をしない、もしくは決定に時間がかかってしまっていたら、深夜の襲撃で大混乱したまま蹂躙されていただろう。確かに色々ありはしたものの、やはりルマル村にとって聖なる柱は大切な存在なのだ。
城からの増援は間に合わなかったものの、隣町からの武器、支援物資の調達と一部の人ながら村外退避も間に合った。限りある時間を有効に使い、今出来る事を全てやった結果だ。
「ここまでは予定通り。あとは魔王軍がどれだけの規模で来るかだが、もし監視兵の言う通り鉱山町襲撃並だとしたら……」
最後まで持ちこたえられない。 口に出すのも恐ろしい結末を予想してしまう。
その時、遠くからモンスター達が突進してくる地響きのような音と咆哮が聞こえ、同時に監視兵から悲痛な声が飛び込んでくる。
「大型モンスター発見!正面と左右の橋から合わせて…… 20体以上!」
20!?
鉱山町襲撃を上回る最悪の数字を聞いて、戦い慣れていない村民達は狼狽えてしまう。
「恐れるな!奴らは烏合の衆だ!ここには俺達がいるんだぞ!」
場を落ち着かせようと叱咤するリーダーを横目に、ラヒムはバクがいる森を見ながら一人呟く。
「……すまん」
………………
「アッ!」
戦いが始まった。とうとう始まってしまった。
ここは村から離れているから細かい様子を見る事は出来ないが、村の雰囲気と感じてくるモンスターの様子で大体の予想は出来る。
三方向から一気に突っ込んでいくモンスター達に対して正面から食い止めるラヒム達、そして罠や大型の投石器で援護する村の人達。
モンスター達は想定外の抵抗によりたじろいているのを感じるが、今は優勢だとしても元々の戦力差は大きい。時間が経過すればする程人間側が不利になっていくだろう。
だから動くとするなら今だ。一気にこちらに押し込んでくれたら被害を最小限に食い止めながら全てを終わらせる事が出来る。ラヒムにその事は伝えているし長期戦が出来ない今の状況も理解している筈だ。
僕を戦わせないようにしてくれるのは嬉しい。でも、そんか事より人を死なせない事が遥かに重要なんだ。
「ラヒムー!」
僕は聞こえないとわかってても、叫ばずにはいられなかった、が。
………ドンッ
その声が届いたかのように村の方角から何かが打ち上げられた音がして、その数秒後に季節外れの一発の花火が炸裂した。その花火は村と森の周辺を明るく照らし、僕はそれを見てゆっくり頷く。
「ソウ、ラヒム。ソレデイインダ。アリガトウ」
これこそが事前に決めていた作戦開始の合図だ。
合図の後、村の方では総力を持ってモンスター達を一気にこの森まで押し込むように動き、可能な限り誘導したと判断した時、次の合図が来ることになっている。それから僕の出番だ。
「……」
本当はもっとこの村を見ていたかった。トコやラヒム、村長さん、村の人達全てを見ていたかった。だからこのような事になった事がとても悔しく、辛く、そして悲しい。しかし、それはあのモンスター達に捕まった時点で到底叶わぬ夢だったのだ。
今はまだ大丈夫だとしても、いつの日にか完全なモンスターとなって人に危害を与える事になっていただろう。それくらいこの “呪い”が強力で恐ろしい物なのを今も味わっている。
なら、このタイミングで死ぬのがベストだ。どうせ死ぬなら人の役に立って死にたい。
「……トコ」
“きっとまた遊ぼうね。 絶対だよ!”
という最後にトコと交わした約束は残念ながら果たされないけれど、大人になったら許してくれるよね? トコは強くて優しい子だから。
そして、気配と共に奴らから殺意も感じ始めている。もうすぐ奴らは動き出すだろう。
もう少し時間があれば城からの大規模な増援が間に合ったかもしれないし、女子供の隣町への避難も出来たかもしれない。しかし、この僅かな時間でも出来る事はたくさんあった筈だ。
僕は長い間ここで人間の逞しさや優しさ、そしてみんなが協力して問題を解決していく強さをよく知っている。だから大丈夫。きっと大丈夫だ。僕はそう思いながら村を見守っていた。
そしてその日の深夜、運命は動き出した。
大小合わせて数十体のモンスターがいくつかの集団になり、ルマルの村に一直線で突っ込んでいくのを感じる。村一つ襲撃するには多すぎる数で、集団というより軍隊とすら思える。
「……コレホドトハ」
奴らの”圧”に思わず声を出してしまう。まるで” 暴力の濁流”だ。そしてモンスターとはここまで組織的に動けるものなのかと恐怖していた。
おそらく奴らを率いている幹部クラスのモンスターがいるのだろう。ここまで本気で攻め込んでくるという事はこの村の価値が知られてしまったのだろうか。
その原因を作ったのは僕かもしれない。もしそれが事実だとするのなら一人も死んでほしくない。
いや、死なせない。
その為ならこの命を投げ出しても構わない。村のみんなを救う為なら喜んで投げ出せる。
「……ラヒム」
だから僕は友人からの合図を待つ。全てのモンスターじゃなくてかまわない。数を半減させる事が出来たら、あとは村に滞在しているあの専属パーティーが何とかしてくれる。僕は彼らの力を、そして村のみんなの力を信じている。
…………
一方、ルマル村のラヒムは深夜にも関わらず急ピッチで防衛の準備を整えつつあった。警戒の鐘が鳴り響く中、武器を持つ者は最前線で襲来に備え、その他の男は既に構築してあった陣地で投石器の準備を進め、戦えない女性や老人、子供は安全な所に避難を始めた。
その光景を見てパーティーのリーダーはラヒムの手際の良さに感心すると共に、村の人があの爆弾岩、いや” 聖なる柱”をどれだけ信仰していたかを痛感していた。
もし、村人達がバクの言う事を疑って対策をしない、もしくは決定に時間がかかってしまっていたら、深夜の襲撃で大混乱したまま蹂躙されていただろう。確かに色々ありはしたものの、やはりルマル村にとって聖なる柱は大切な存在なのだ。
城からの増援は間に合わなかったものの、隣町からの武器、支援物資の調達と一部の人ながら村外退避も間に合った。限りある時間を有効に使い、今出来る事を全てやった結果だ。
「ここまでは予定通り。あとは魔王軍がどれだけの規模で来るかだが、もし監視兵の言う通り鉱山町襲撃並だとしたら……」
最後まで持ちこたえられない。 口に出すのも恐ろしい結末を予想してしまう。
その時、遠くからモンスター達が突進してくる地響きのような音と咆哮が聞こえ、同時に監視兵から悲痛な声が飛び込んでくる。
「大型モンスター発見!正面と左右の橋から合わせて…… 20体以上!」
20!?
鉱山町襲撃を上回る最悪の数字を聞いて、戦い慣れていない村民達は狼狽えてしまう。
「恐れるな!奴らは烏合の衆だ!ここには俺達がいるんだぞ!」
場を落ち着かせようと叱咤するリーダーを横目に、ラヒムはバクがいる森を見ながら一人呟く。
「……すまん」
………………
「アッ!」
戦いが始まった。とうとう始まってしまった。
ここは村から離れているから細かい様子を見る事は出来ないが、村の雰囲気と感じてくるモンスターの様子で大体の予想は出来る。
三方向から一気に突っ込んでいくモンスター達に対して正面から食い止めるラヒム達、そして罠や大型の投石器で援護する村の人達。
モンスター達は想定外の抵抗によりたじろいているのを感じるが、今は優勢だとしても元々の戦力差は大きい。時間が経過すればする程人間側が不利になっていくだろう。
だから動くとするなら今だ。一気にこちらに押し込んでくれたら被害を最小限に食い止めながら全てを終わらせる事が出来る。ラヒムにその事は伝えているし長期戦が出来ない今の状況も理解している筈だ。
僕を戦わせないようにしてくれるのは嬉しい。でも、そんか事より人を死なせない事が遥かに重要なんだ。
「ラヒムー!」
僕は聞こえないとわかってても、叫ばずにはいられなかった、が。
………ドンッ
その声が届いたかのように村の方角から何かが打ち上げられた音がして、その数秒後に季節外れの一発の花火が炸裂した。その花火は村と森の周辺を明るく照らし、僕はそれを見てゆっくり頷く。
「ソウ、ラヒム。ソレデイインダ。アリガトウ」
これこそが事前に決めていた作戦開始の合図だ。
合図の後、村の方では総力を持ってモンスター達を一気にこの森まで押し込むように動き、可能な限り誘導したと判断した時、次の合図が来ることになっている。それから僕の出番だ。
「……」
本当はもっとこの村を見ていたかった。トコやラヒム、村長さん、村の人達全てを見ていたかった。だからこのような事になった事がとても悔しく、辛く、そして悲しい。しかし、それはあのモンスター達に捕まった時点で到底叶わぬ夢だったのだ。
今はまだ大丈夫だとしても、いつの日にか完全なモンスターとなって人に危害を与える事になっていただろう。それくらいこの “呪い”が強力で恐ろしい物なのを今も味わっている。
なら、このタイミングで死ぬのがベストだ。どうせ死ぬなら人の役に立って死にたい。
「……トコ」
“きっとまた遊ぼうね。 絶対だよ!”
という最後にトコと交わした約束は残念ながら果たされないけれど、大人になったら許してくれるよね? トコは強くて優しい子だから。
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