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3巻
3-1
しおりを挟む第一章 女神様じゃありません。
『着いたのう』
精霊王様が一言つぶやくと、空を飛んでいた馬車がゆっくりと降下していく。
――なんで空を飛んでいる馬車に乗っているかって?
私――ソフィア・グレイドルは現在巻き戻りの人生を送っている。
元々の【ソフィア】の運命である処刑エンドを回避するために、ダイエットに励んだり、精霊たちと契約したり、第三皇子のアイザック様と婚約したり……断罪されないよう奮闘し、どうにかその未来は回避できたのだけど(たぶん)。
巻き戻る前の人生でアイザック様の婚約者でもあり、私が処刑されるきっかけになった令嬢――アイリーンの発言で、今度はスタンピードが近々起こると判明!
さらに王都を守るための結界を張ることが出来るのは、光の妖精リムと契約した聖女だけとわかり。なんとその聖女が、今私の横に座っているシャルロッテ。
精霊王様曰く。私も結界を張ることが出来るらしいので、シャルロッテだけにそんな苦労はさせられない! 私に出来る事なら、なんでも協力しようと決意したのも束の間。
辺境の村が魔獣に襲われているとの情報を聞き、慌てて村に向かっているのだ。
次から次に騒動が起こるなんて、本当にどうなってるの!?
そうそう、なんで空を飛ぶ馬車に乗っているか? だったよね、興奮しすぎて話がそれてしまったわ。
辺境の村が襲われている事を知った時、『後一日で村は全滅する』と偶然居合わせた精霊王様が言ったのだ。普通の馬車では、どんなに早く走っても、辺境の村にたどり着くには一週間はかかる。
だけど精霊王様なら一日もかからず辺境の村に到着できると言うので、精霊王様にお願いし、連れて行ってもらう事になったのだ。
その方法が空を飛ぶ馬車だったってわけ!
ちなみに、私とシャルロッテだけでなく、その時に居合わせたアイザック様とジーニアス様も一緒に行く事になった。
「空の旅も終わりかぁ」
「ふふっ楽しかったですね」
シャルロッテと見つめ合い、少し残念な気持ちで笑い合う。
対照にアイザック様とジーニアス様は、やっと着いたのかと安堵の表情に変わる。二人は浮いている事が怖いのか、窓に近づくことすらしなかった。
――ふふっ、そんなに怖いかなぁ?
「はぁ……生きた心地がしなかったよ。馬車がいつ落ちないかと、気が気じゃなかった」
地上が近づき、アイザック様がやっと窓から外の景色を見る。
『なっ!? 我の魔法を信用しておらんのか、落ちるわけがなかろう!』
精霊王様がアイザック様の頭の上に乗り、ドスドスと暴れる。
「わっ、イテテっ、すみません」
「ふふっ、何やってるんですか」
「あっ、下に着きました」
シャルロッテが馬車の扉を開けてくれた。
馬車の中では空の旅にワクワクし私たちは笑っていたが、そんな柔らかな雰囲気も馬車から降りると一変した。
辺境の村は私たちが想像していたよりも酷く荒れていた。
村の入り口や壁も破壊されている。魔獣に壊されたのだろうか。
そんな村の姿に焦り、私たちは慌てて村の中に入るとさらに驚愕する事に。
「これは一体!」
村の至る所で呻き声が聞こえる。
声の先を確かめると、血を流し倒れている人たち。
「なんて酷い……魔獣討伐よりも先に、怪我人の救助をしないと」
「そうだね! アイザック急ごう」
アイザック様とジーニアス様がそう言うと、村人たちの所に走っていく。
「私も何か手助けしないと!」
「はい!」
シャルロッテも同じ気持ちなんだろう。真剣な面持ちで大きく頷く。
いつもの柔らかい表情とは別人のよう。
「あっ!」
ふと先を見ると、血だらけの子供を抱えた女性が泣き叫んでいた。
「お願いよ! 目を覚まして」
私は思わずその人の所に走っていく。
「ソフィア様、私もご一緒します」
シャルロッテも急いで後をついてきた。
私は泣き叫ぶ人に声をかける。
「大丈夫ですか?」
「私の可愛い坊やがぁ……神様ぁっ、ふぅぅっ」
女性の腕の中にいる血だらけの子供は、辛うじて生きてはいるが、いつ死んでもおかしくない状態だった。
こんな小さな子供が……助けてあげたい。
せっかく辺境の村の人達を助けに来たのに、私は何も出来ないの?
そんなの嫌だ。助けてあげたい。
せめて痛みだけでも和らげてあげたい。
私に魔力があるのなら力を貸して! お願いします。
私は子供の手を握り必死に祈った。
――治れ――治れ――お願い治って。
すると眩い光が子供を包み、光が落ち着くと、死にそうだった子供の怪我が治り全回復していた。
「……うんん? まま?」
「ぼっ、坊やがあああああっ! 神様、女神様ありがとうございます」
女性――子供の親は涙を流し私に跪いた。
「ソフィア様! なっ、何をされたんですか?」
シャルロッテも瞳を潤ませ、興奮気味に私を見つめる。
そんな目で見られても、私も意味がわからない。
「……いやぁ? お祈り的な?」
何をって言われても『治りますように』って、前世で言うところの『痛いの痛いの飛んで行け』っとおまじないのように必死にお願いしただけなんだけど。
それだけで治っちゃったの? そんなバカな!? これも魔力チート?
創造神様のチートって、とんでもないんじゃ!?
私が意味が分からないって顔をしていると、精霊王様が何を今さら? っとでも言うかのように不思議そうな顔をして、また爆弾を投下した。
『そりゃ全回復などソフィアには朝飯前じゃ! じゃって聖魔法のレベルは最高値、レベルМAXじゃろ? それくらい簡単に出来るさ』
「ええー!?」
聖魔法って回復なの? 知らなかった。
私……知らないうちに魔法を使ってた?
戸惑い驚いていると……子供を治した事に気づいた他の人たちが、私の周りに少しずつ集まってきた。
「女神様! お願いします。助けてください!」
「この子の傷も癒してください」
傷を治してと必死に訴えてくる人たちは、みんな本当に辛そう。
上手くできるか分からないけれど、傷が治せるなら私に任せてよ! バッチコイだ。
――この時私は、そばにいたシャルロッテだけでなく、すべての人たちが私の事を女神様と崇めて恍惚とした表情で見ていることに、治療に必死で全く気が付かなかった。
「ふぅーっ! これで最後ね」
馬車の近くで怪我をし倒れていた人達は、すべて快癒してあげる事ができた。
良かった……助ける事ができて。本当に良かった。
「ソフィア様! 私は感動しています。ううっふぐっ……」
全員を助け終えると、遠巻きで見ていたシャルロッテが、バタバタとこちらに走って来たかと思ったら。
「シャルロッテ!? どうしたの! なんで泣いてるの?」
大粒の涙をポロポロと流し泣いていた。なんで?
「だって……村の人達の傷を癒やすソフィア様が女神様に思えて……感動して」
「ちょっ! 何言って」
シャルロッテ? 恥ずかしいからね? そんな事言わないでね?
女神様なんて言われると赤面してしまう。
「女神様ありがとうございます! まだ怪我を負った者たちが、村の教会に多数います。お願いします! その者たちを助けてください」
助けた村人の一人が、まだ教会にたくさん怪我をした人がいると言って頭を下げる。
どうやらここにいた人たちは、教会に入れずにいた人たちらしい。
教会にいる人たちは、治癒師さんに治療をしてもらっているらしいけれど、それも追いついてないようだ。
「分かりました。私に任せてください。だからもう頭を上げてください」
「女神様……」
村人達が集まり私を見て拝みだした。何やら変な空気になってきたので、私は村人にお辞儀をすると、足早に教会へとシャルロッテを連れ走っていった。
教会の近くに行くと、アイザック様とジーニアス様もいた。
「アイザック様! ここにいたんですね」
私はアイザック様を見つけ駆け寄って行く。
「ソフィア! この場所は危険だ。さっき魔獣が歩いてきっ!?」
次の瞬間。アイザック様に手を引っ張られ後ろに下げられる。
「え!?」
なんと目の前には、二メートル以上の大きな体躯の狼? が突然現れた。
これが魔獣!? こんなに大きいの!?
「ソフィア後ろに下がって!」
そう言うとアイザック様は、魔獣に向かって切り掛かっていった。
アイザック様の鋭い剣捌きが大きな魔獣を一刀両断し、真っ二つに体を切り裂いた。
魔獣はなす術もなくその場に倒れる。
「すごい……」
アイザック様って、あんなにも強かったんだ。
「ソフィア、大丈夫か?」
「あっわっ、私は全然大丈夫です! アイザック様が助けてくれたので、私はなんともありません」
そう返事をすると、アイザック様にギュッと抱きしめられた。
「ひょっ!?」
「……良かった……心臓が止まるかと思った」
アイザック様の、声にならない声が唇から漏れる。私の耳元近くで……囁くように。
「あっ……う」
急に抱きしめられるわ、耳元で囁かれるわで、私はどーしたら良いのかも分からず、ドキドキして固まってしまう。
アイザック様の体は私よりも大きくて、私は腕の中にスッポリと収まっている。
いつの間に、こんなにも体格に差がついたんだろう。少し前までは私の方が大きかったのに。
ドキドキして胸が苦しい。
「あーーーーーーっ! アイザック何してるんだよっ。ソフィア大丈夫?」
ジーニアス様が、私とアイザック様の間に割って入る。
ふっ、ふう助かった。ジーニアス様グッジョブです!
「……ったく、目を離した隙に」
ジーニアス様がアイザック様に、何かブツブツと文句を言っているようだけれど、私はもはやそれどころではなかった。
――はぁ……ドキドキした。
大きく深呼吸して気持ちを落ち着かせ、教会の中に入ると……床に布を敷いただけの場所に、村人や防具を着た冒険者らしき人たちが、横たわっていた。
教会の中は、鉄臭い血の匂いでむせ返っている。
奥にいる白い服を着た人が、治癒しているのかな。ずっと一人で対応していたからか、その顔も青くなっており、疲弊しているのが分かる。
ざっと見ても、重傷者は二十人以上いる。こんなの一人一人治癒していったんじゃ間に合わない。
どうしたら良いの!
創造神様、女神様、妖精たち! どうか私に力を貸してください!
この教会内にいる人達を癒やしてあげたいんです。
傷を治してあげたいんです。お願いします私に力を貸してください!
私は手を組み、祈りの姿勢で必死にお願いした。
強く必死に願った次の瞬間。教会内を、目が開けられないほどの光の粒子が覆う。
「えっ?」
――何が起こってるの?
光がおさまると、教会内の怪我人はすべて全回復していた。
皆自分に何が起こったのか理解できない様子で怪我していたはずの体を何回も見ている。
なぜなら欠損部分まで修復し身体が快癒したのだ。理解が追いつかないんだろう。
良かった……なんだか分からないけれど、助けることができた。創造神様、女神様、妖精たち力を貸してくれてありがとうございます。
教会内の人たちが助かった事が嬉しくて、私は自分の姿がキラキラと神々しく輝いている事に、全く気づいていなかった。
良かった……みんな助かった。
助けられた事に安堵し、一気に身体中の力が抜け落ち放心状態に。
「……?」
ふと気づくと私の周りに村人たちが集まり次々跪いていく。
え? 何これ! ちょっとやめて? どうして跪くの?
慌ててアイザック様の方を見ると、アイザック様も目を見開いて固まり私を呆然と見つめていた。
ええ? どうしたの?
シャルロッテとジーニアス様まで同じ様に私を見て固まっている。
すると跪いていた一人が私に向かって「女神リリア様の降臨だ! ああ……」と叫んだ。
ちょっと待って? 女神リリアだって?
巻き戻る前に私を酷い目に合わせてくれたあの【駄女神リリア】が何で出てくるのよ?
え? 私に向かって言ってない?
私が駄女神リリア? それは勘弁してください!
女神って言われてるのに嬉しくない。
――ちょーーーーーーーっ!! 違うから!
「ちょっと待って! 私は女神リリアじゃありません。私はソフィアです! ソフィア!」
あんな駄女神と一緒にされたくない。
声を大にして女神じゃない! 私はソフィアだと叫んだ。
なのに……何を誤解したのか、集まった人たちは「失礼しました! 女神ソフィア様でしたか」と言い放った。
女神ソフィア?
だからなんで、女神が名前の前についているのよ。
それがいらないの! 私は女神様じゃないから!
助けてくれと言わんばかりにアイザック様を必死に見るも、まだピクリとも動かず固まっている。
ええ……
「ああ……女神様の神々しい光を浴びられて幸せです」
女神様の神々しい光? 何を言ってるの?
「神々しい光?」
「はい! 女神ソフィア様から溢れ出ている光の事です」
「私から……?」
そう言われて自分の体を見ると、私は自分が眩い輝きを放っていた事に、やっと気付いたのだった。
何これ、歩く電球なんだけど。
私の光は教会内だけでは収まらず、教会の外にまで溢れていた。
溢れる光に気付き、どんどん人が教会に集まり、私を女神様だと言い跪く。
この光を浴びた人は、みんな怪我が全回復していく。欠損していた腕や脚まで元通りに治っていた。
人間電球の力すごい……。もうこの村にいるすべての人を治癒したんじゃないかな? って程に広がっている。
いい加減この光収まってくれないかな? 目立って仕方ないよ。どうしたら良いの?
困り果てていたらやっと助け船がやって来た。
『おお、こりゃまた輝いておるのう』
精霊王様がトコトコと短い尻尾をフリフリ近付いて来た。
村が大変でバタバタしていた時に、一体どこにいたのやら。相変わらずマイペースなんだから。
『精霊王様! 来るのが遅いよっ。これっ……この光どうやったら元に戻るの?』
私は精霊王様を抱き上げ、早く直し方を教えてっと念話で話しながら体を揺する。
『ちょっ揺らすでない。魔力がずっと流れ出ておるから、輝いておるんじゃよ! 魔力の流出を抑えるんじゃ! 簡単じゃ』
――魔力の流出を抑える?
『そんな事言われても、やり方がわからないよー』
『はぁ……仕方ないの。これは貸しじゃ』
精霊王様は私のおでこを、前脚でコツンっと軽く叩いた。
すると輝きが次第に収まっていきあっという間に、いつもの姿に戻った。
「良かったぁ! 精霊王様ありがとう」
私は精霊王様をギュッと抱きしめ、ヨシヨシと頭を撫でた。
『むっ? それは嬉しいのう』
精霊王様は頭なでなでが気に入ったみたいだ。ふふっ、それじゃ神獣のリルと一緒じゃない。
私がクスリと笑いほっこりした気持ちで、精霊王様を撫でていると。
「ソフィア! さっきの光は一体なに?」
「私はソフィア様が、本当に女神様になってしまわれたのかと」
「本当だよ! キラキラ輝いて、それは綺麗だっゲフンッゲフン」
やっと正気に戻ったアイザック様たちが駆け寄ってきた。
「そのう……怪我をした人を助けたいって強く願ったら……体が光ってしまって」
「強く願うだけで?」
「……はい」
その私の答えに、困惑を隠せないアイザック様。
その気持ちは分かりますけど……本当にそうなんだから他に説明のしようがない。
『ソフィアは無自覚に、聖魔法である癒やしの光を発動したみたいじゃな。魔力数値が異常に高いソフィアじゃからできた事じゃろうがのう。普通ならあんな事をしたら魔力が枯渇して廃人になっておる』
「ヒョッ!」
喉の奥がキュッと締まる。
今サラっと精霊王様怖い事を言わなかった? 廃人?
「はっ、廃人て!」
『ああ? 変な心配はせんでもよい。ソフィアの魔力が、枯渇する事などないから安心せい。お主の魔力は無限じゃ』
そそっか、魔力無限も気になるけど……またさっきみたいな事になって、枯渇とかになったら嫌だから、無限の方がいいよね。うんうん。
などと良いように一人で納得していると。
『今この村に結界を張るチャンスじゃ。さっきの光で、魔獣たちもこの村から少し離れた。今結界を張ったら、もうこの村に魔獣たちは入ってはこられまい』
「そっ、そうなの? 分かった結界ね!」
たまにはいい事言うじゃない!
「廃人とか結界って言葉が聞こえたんだけど、精霊王様はなんて?」
私が精霊王様と、何を話していたのか気になったアイザック様が質問してきた。
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