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本編 燦聖教編
グテ村 ②
しおりを挟むグテ村に向かって歩いて行くと、銀太に気付いた村人達が少し騒つき出した。
最近銀太の事で驚かれる事がなかったんで、気にして無かったが、田舎の村からしたら伝説の聖獣フェンリルが突然登場したんだ。
そりゃビックリもするよな。
しまった……こんな事なら銀太に獣人化してもらったら良かった。
……などと思いながら、村の入り口近くまで歩いて行くと、村から鎧を来た数人の男性が慌てて走って来た。
「すみません! この大きな魔獣は村に危害を加えたりしないのでしょうか?」
鎧を着た人達の間から、一人の男性が不安げな顔をして前に出て来た。
「この子は俺の使い獣の銀太です。優しくて賢いので、危害を加えることなど一切ありません」
俺はそう言って、銀太の耳の後ろ辺りをかいてやる。ここを触られるのが銀太は大好きなんだよな。
『ぬっ……きっ気持ち良いのだ……そうっ……そこなのだっフンスッ』
銀太はしっぽをふりふり気持ち良さそうに声を上げる。
その姿を見た目の前に立つ人達が、あんぐりと口を開け驚いている。
少しの間銀太のもふもふを堪能していると、村人が何かをつぶやいた。
「……もふもふ……」
「えっ? なんて?」
「ゲフッ! あっいやっ……私はこのグテ村の村長ジャイロと申します。フェンリル様が危害をくわえないのは重々承知しました。感じの悪い態度を取ってしまい、申し訳ありません」
「いやっ気にしてないので! 全然大丈夫です。いきなりフェンリルが現れたらビックリするのは当たり前だからな! 俺は魔物使いのティーゴだ。村に入っても良いかな?」
「もちろんでございます! 今丁度、グテ村で年に一度開催される。花祭りの準備をしているんです。昔は小さな村の豊穣を祈る祭りだったんですが、今や近隣から沢山の人達が、この花祭り目当てに訪れてくれるようになりました」
「……花祭り」
村長の話を黙って聞いていたカリンが、嬉しそうな顔をしてポツリと呟く。もしかして……この花祭りは……カリンの話に出て来た。
「パール……この花祭りって……」
「そうじゃ。カリンがワシらと行きたいと話しておった祭りじゃ……なんと……こんなタイミングがあって良いのじゃろうか?」
やはり!……パールは何か思うところがあったんだろう、俯き黙ってしまった。
花祭りは、パールやカリン達にとっては、楽しみであり悲しい思い出の祭りだもんな。
「さあさあ! 立ち止まっていないで村に入って下さい。祭りの開催は明日ですので、今日は村の探索などして下さい」
ジャイロさんがそう言って、中々村に入ろうとしない俺の肩をポンッと軽く叩く。
「そうだな。ありがとう」
俺達は、ジャイロさんに案内されながら村に入った。
村の中は、グーテの花が至る所に飾られていてグテ村までが金色色に輝いているみたいだ。
「うわぁ……これは綺麗だ!」
「ふふふっそうでしょう。皆この景観が見たくて、祭りに訪れるんですよ」
ジャイロさんは、ニコニコと少し得意げに話してくれる。
「折角なんで、メインイベントの場所に案内しますよ!」
「メインイベント?」
「はいっ! ついて来て下さい」
俺達はジャイロさんの後をついて行く。
お店や村人達の家が並ぶ通りを歩いて行くと、村の中央広場の様な所に出る。
「うわぁ! 路面店がいっぱいだ」
美味しそうな匂いを放ち、色々な種類の食べ物の路面店が軒を連ねていた。
「お祭りはまだ始まっていませんが、お店は一週間前から出店しているんです。どのお店も美味しいので、後で食べてくださいね。さぁ! メインイベントの場所に向いますよ」
村長は興奮気味に、広場の中央へと意気揚々と歩いて行く。
路面店に興奮して、俺は気付かなかった。
広場の中央には、見た事のある人物が……村のシンボルかの様に。高さ十メートルはある銅像の姿となって建っていた。
「これって……」
「大きさにビックリしましたか? この銅像の周りに、グーテの花を置いて感謝と願いを唱えるんです。あっグーテの花を持ってきますね」
そう言ってグーテの花を取りに行ってくれた。
ジャイロさんは、銅像のデカさに俺がビックリしていると思ったみたいだけど……驚いたのは別の理由だ。
「……なぁパール? これってカスパール様だよな?」
俺はヒソヒソとパールに話しかける。
「ふふふっ! そうじゃ。やっと気付いたか? なかなかカッコいいであろう? 当時の村長がワシの銅像を建てたいと五月蝿くてのう。じゃから……折角銅像を建てるならと、カッコ良いのを作って貰ったんじゃ!」
パールはどうだと言わんばかりの得意げな顔で俺を見る。
早くカッコいいと褒めろと言わんばかりのアピールをしっぽでしながら。
「ブフッ!カッ…かっこ」
俺が笑いを必死に堪えて、カッコ良いと言おうとしたら、パールが追い討ちをかける様に「このポーズが一番の拘りなんじゃ」っと言い放った。
「ブハハッ! このっくくっ……このポーズって……くくっ」
「なっ……なんじゃ! ティーゴよ急に」
パールが言う拘りのポーズとは、天に向かって右手を高く上げ、人差し指を突き出している。左手は腰に。
何の拘りポーズだよ!
「あはっ……あはははっ! もう我慢できない! あはははははっ」
「なっ何が可笑しいのじゃ! ティーゴよ」
「ふふふっ……」
「なっ! カリンまで笑って」
『主~カッコ良いなぁー!』
「スバルよ! そうじゃろう? ワシカッコ良いじゃろ?」
『うん! 最高だ』
スバルよ? 何が最高だ。だ。
見ろ? パールが褒められてニマニマしてるじゃないか!
くくっ……ま、楽しそうだから良いか。
★ ★ ★
しばらくすると、ジャイロさんが両手いっぱいにグーテの花を持って戻って来た。
「お待たせしました! グーテの花をどうぞ」
ジャイロさんが花を手渡しながら、俺がカリン達から聞いた話をしてくれた。
「実は……私達の先祖は、間違いをおかしました。同じ事を繰り返さない為にも、感謝と戒めの気持ちを込めて、この銅像を建てました。カスパール様は村を復興してくれました。そしてその横にたつカリン様は村を一人で守ってくれました。そして最後に、グリモワール様は村を消滅させ、私達が如何に間違った事をしたのかを教えてくれました」
「えっ……でも……グリモワールは村を消滅させたんだろ? なんでだ? その事を恨んでないのか?」
「………はい。誰もグリモワール様を恨んだりしていません。私達は村の行く末を一人の少女に委ねたんです、そして村は助かり少女は亡くなりました。グリモワール様はそんな私達を裁いてくれたのです。だから私達は、この銅像を見て同じ過ちを犯さないように戒めとして毎年祈るのです」
パールが言っていた。村人達は前に進んでいるって言うのは、この事が言いたかったんだな。
ふとカリンを見ると、真っ赤な顔してプルプルと震えている。
「あっ…あわっ…」
「カリン? どうしたんだ?」
「こっこんなに大きな銅像が…… はっ恥ずかしい!」
するとカリンを見たジャイロさんが、何かに気付いた様な顔をする。
「カリン様と言われるのですか? お顔も銅像のカリン様と似ておられる……」
「んんっ! にっ似てないです! 全く! はいっ! だから私を見ないで下さい!」
カリンは真っ赤な顔を両手で覆い座り込んでしまった。
余程恥ずかしかったんだろう、まぁ。それが普通の反応だよな。
村にあんな大きな自分の銅像が建つんだ。ありえないよな。
「ええっ! 何か私……失礼な事を」
ジャイロさんがカリンの様子を見て困っている。「大丈夫だから。気にしないで」と説明しジャイロさんに別れを告げた。
カリンは真面に直視出来ないのか、未だ座り込んだままだ。
パールとスバルは銅像の周りをウロウロと楽しそうに歩いている。
三人の銅像の足元には沢山のグーテの花が捧げられていた。
グリモワールはこの村に入ってから一言も話さない。
目の焦点があってないような……ずっと考え事をしているんだろうか?
このデカイ銅像の事だって気付いてないのか、全く反応してないしなぁ。
とりあえず俺達もグーテの花を銅像に並べるか。
「なぁ……グーテの花を…」と言おうとしたら銀太が
『主! 何か揉めている声がするのだ。おなごが襲われておるぞ?
どうする?』
「ええ? そりゃ助けてあげないと! 銀太連れてってくれ!」
『分かったのだ! このすぐ近くだ』
俺は急いで銀太の背にのり、場所に向かった。
パール達は楽しそうにしているので、声をかけず俺と銀太それにコンちゃんで助けに行った。
『主! ここなのだ』
「えっ?」
ついた場所は村の路地裏で……
そこには冒険者風の大柄の男達が、呻き声をあげ横たわっていた。
その横には綺麗なドレスを着た、明らかに貴族にしか見えない女の子が一人立っていた。
「ええ? 何これ?」
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