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本編 燦聖教編
前を向いて
しおりを挟む「さてと……心配してるだろうから、みんなに報告するか」
「そうじゃの」
俺達はソフィアを見送ると、再び異空間へと戻った。
異空間に戻ると、みんなが慌てて俺の所に集まって来た。
ソフィアの事がどうなったのか、結果を知りたい様だ。そんなに気になるなら一緒に来て、見送りしたら良かったんじゃないのか?
「くくっ……安心してくれ、無事元の世界に帰れたよ」
それを聞いて安心したのか、みんなは安堵の表情を浮かべると、再び自分達の好きな場所へと帰って行った。
さてと……次はジャバネイルの王都に戻って、復興を手伝わないとだな。
ソフィアの事がなければ、もう少し早く手伝えたんだが。
まぁ……あの王太子様達はしっかりしてたし、どのみち俺達の出る幕など無かったかもな。
お昼を食べたら、様子を見に行ってみるかな。
さてと……昼メシまで時間があるし。少し休憩するか。
「あの……ティーゴ様」
「えっ?」
不意に背後から声をかけられ、振り向くと、神妙な顔つきのグリモワールが立っていた。
「グリモワール……その、大丈夫なのか?」
グテ村でも、ずっと虚な様子で頑なに何も話さず、何を考えているのか全く分からなかったグリモワール。
そのグリモワールが俺の目を見て話しかけて来た。
「少し……お話を聞いて頂けませんか?」
「話? 俺で良ければもちろん」
グリモワールから俺に話? パールじゃなくて? 何で俺? 色々と気になるが、やっと少し正気を取り戻した見たいだし。
何の話かは分からないけど、精一杯聞いてあげよう。
「あの……出来たら二人で話がしたくて……その」
グリモワールは目線を下げ、キョロキョロと周りを見る。
俺と二人だけで? なんでだ? まぁ……改心しもう変な事もしないだろうし。
「分かった。じゃあ異空間の外に出て、話を聞くよ」
「ありがとうございます」
俺の横にコンちゃんと銀太が寝そべっていたので、ちょっと外に出てくると伝えて、異空間を出た。
★ ★ ★
「グーテの花が綺麗だな。この場所で良いか」
外に出ると、グーテの花畑の前だったので、そこにマットを敷き二人で座る。
「まっこれ飲んでくれ」
俺はグリモワールにブルーティーを渡す。
「で? 俺に話したい事ってなんだ?」
「はい…………ティーゴ様にお願いがあって」
「俺に?」
俺にお願いって何だ? もしかして甘いパイが食べたいとかか?
少し沈黙の後、グリモワールはブルーティーを一気に飲み干すと、とんでもない事を言った。
「僕を殺してくれませんか?」
「えっ? は?」
今……殺してと言った?
「分かってます。僕の様な屑が、楽に死ねるなんて思ってません」
「いやっちょっ……?!」
「何百年もかかって、苦しむ死に方でお願いします。僕は正気になる度に、自分のして来た事の過ちが許せません。だからお願いします」
そう言ってグリモワールは、俺の前で平伏した。
殺してくれ? しかも何百年も苦しむ様な? こいつは何を言ってるんだ?
「グリモワール! 顔を上げてくれ」
「あっ……」
顔を上げると、大粒の涙が頬をつたって雫となりポロポロと地面に落ちていく。
そんなにも泣くほどに、追い込まれてたのか。
「俺はな? お前を殺さない」
「ええっ……何でですか! 僕みたいな奴生きる価値なんてないんです」
「あのな? お前は人を殺めたことを後悔してるんだろう?」
「…………はい」
「じゃあさ? グリモワールを俺が殺したらさ? 俺もお前みたいな気持ちになると思わないのか?」
「あっ! でも僕の命なんて、価値なんてないです。ゴミです」
自分の命をゴミだなんて……どこまで自分の事を卑下するんだ。
そんな事ないからな。
「あのな? 価値のない命なんてないんだ。俺にはお前の命も他の人達の命も、みんな平等なんだ」
「でも………僕は」
「お前を殺したら、俺はこの先一生を悔いて生きないといけない。グリモワールは自分さえよければいいのか? 違うだろう?」
「っ!……ティーゴ様にそんな思いをさせるつもりは……っ」
「じゃあもう殺してなんて言うな。なっ?」
「でも僕は、幸せになっちゃいけないんだ!! ティーゴ様といると、僕は幸せで楽しくて……ううっカッカスパール様とっカリンの三人で暮らした日々を思いだす……こんなゴミの僕が! 幸せになる権利はないのにっ……ふうっウワァァァァ」
グリモワールは、幼な子の様に大声で泣きじゃくり、中々泣き止まなかった。
俺は黙って、泣き止むまでその背中を撫でていた。
幸せになっちゃいけない。そんな呪縛を足枷のように………グリモワールは元々正義感の強い良い奴なんだろう。だから余計に自分のして来た事が許せないんだ。
それが邪神に取り憑かれていたとは言え。
どうすればこの足枷を取ってやれるんだろう。
あんまりじゃないか。
「あの…………すみません。取り乱して」
「良いんだよ。なぁグリモワール。俺と一緒に旅をしないか? そこで困った人達がいれば助けてあげる。それで今までにして来た事が許される訳じゃないけどな?」
「でも……そんな」
「大司教グリモワールは、あの邪神と共に死んだんだ。お前は今日からただのリィモだ。な? よろしくなリィモ」
「えっ?……死んだ?」
そう言ってリィモの頭をくしゃりと撫でた。
「コンちゃんもな? 間違えて色々とやらかしてしまってな?」
「コンちゃんが?」
「そう。だから今は人の為に良い事をする旅の最中なんだ。お前とコンちゃんはよく似てるよ。だからリィモも仲間だ」
「僕が……? 仲間?」
「ああ。リィモはコンちゃんの弟子だ。一緒に頑張って生きよう」
「人の為に生きる…………僕に出来るかな?」
「ああっ出来るさっ」
俺は再びリィモの頭を撫でた。
「ふぁあああああああっ」
リィモはまた泣きだした。
子供のように俺にしがみついて。
俺は妹のリムが泣いた時にするように、リィモの背中を優しくトントンとたたいた。一定のリズムで。
気がつくとリィモは、スヤスヤと寝息をたて気持ち良さそうに寝ていた。その姿は憑き物が取れたようにスッキリしていた。
リィモ………前に向いて進んで行こうな。
もう絶対に死ぬなんて言うなよ。
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