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本編 燦聖教編
慰霊祭
しおりを挟む王様が部屋を出て行った後も、リィモは嗚咽を漏らし泣いていた。
ホッとしたんだろうな。
まさか何も咎められない何て、思いもよらなかっただろう。
リィモは罵詈雑言を浴びせられる覚悟をして、俺について来ていたのだから。殴られても斬り付けられても抵抗しなかったんじゃないかなと思う。
それ程の覚悟を決めた面持ちだった。
「リィモ少しは落ち着いたか? こっちに来て座りなよ」
「そうじゃ! そんな端っこで突っ立っておらんと横に座れ」
「ふぇ……はっはい」
俺はソファーに一緒に座ろうとリィモを呼んだ。
リィモ自らこちらに来るのを待っていたんだが、一向にこっちに来る気配がないからな。
リィモはおずおずとしながら、パールの横に座った。その表情は目は腫れているが、以前と比べると格段に生き生きとしていた。
前は心がない人形みたいだったからな。この変化には驚きだ。
「リィモこれどーぞ。俺の特製ジュースだ。美味いぞ」
「ぬっ……リィモだけずるいのじゃ! ワシも欲しい」
それを見たパールが、自分にも寄越せと騒ぎだした。相変わらず食いしん坊なパール様だ。
そうなると黙っていないのがこの二匹。
「わっ!? 我も欲しいのだ!」
「もちろん俺もだぜ!」
銀太の尻尾がブンブンと回り、スバルは翼をファサファサと忙しそうに羽撃かせる。
その所為で軽い突風が巻き起こる。
「ちょっ! 銀太とスバルにもあげるから! だからお前ら落ち着けって」
俺は慌ててみんなの分のジュースをアイテムボックスから出した。
「ブッッあはっあはははっ」
「えっ……リィモ?」
「ゴッゴメン……みんなを見てたら楽しくなって来てっ……あははっ」
そう言いながらもリィモは声を上げて楽しそうに笑う。
リィモが笑った……初めて見たぞ。
「なんだよ! お前っ……笑えるんじゃねーか! ははっ良かったな」
リィモの吹っ切れた笑顔が眩しくて嬉しくて……俺は何だか泣きそうになった。
★ ★ ★
「して……このジュースは何の果実じゃ? この味は初めて味わうのう。甘いのにサッパリしてて美味いのじゃ。ワシはコレ気に入った」
「これはキィの実だよ。ソフィアがくれたんだ。これだよ」
俺はキィの実を、アイテムボックスから取り出しパールに渡す。
「ほう……赤い果実か……甘い良い匂いがするのう」
「だろ。そのまま食べても美味いんだ。でも貰った分しか数がないからさ、だから種をとっておいて、後で異空間に植えようと思ってるんだ」
「ナイスアイデアじゃティーゴ! さすがはワシの弟子じゃ」
「いやいや、いつからパールの弟子になったんだよ!」
「むう? ワシが魔法を教えてやるのは弟子だけじゃ」
パールはどうじゃ? 凄いじゃろうと言わんばかりに俺をみる。
いつの間にか弟子になるとか……聞いた事ないけどまぁ良いか。
「それはありがとうございます。パール大師匠様」
「ふふん。では師匠にそのキィの実ジュースをもっと寄越すのじゃ。さぁ? さぁ?」
パールが師匠に寄越せ、などと横暴な事を言いだした。
お前……俺の事を弟子とか言って、ジュースのおかわりが欲しいだけだろ!
「だめだ。残りはみんなの分だ。飲んでない奴らが殆どなんだからな? いくら師匠であってもダメです」
「なっ! ティーゴのケチ。ちょっとくらい……」
「はいはい。ダメなもんはダーメ」
「ぐぬう……解せぬ」
「あはははっぷぷっ」
そんな俺達の横で、リィモは楽しそうにケタケタと声を出してずっと笑っていた。
そんなに笑う所あったか?
★ ★ ★
部屋で寛いでいると、ドアがノックされ中に侍女の人達が葉っぱを沢山持って入って来た。
何だ? あの細長い葉は。
侍女達は大きなテーブルにその葉を並べると、部屋を出て行った。その直ぐ後から入れ替わる様に王様と王太子フィリップ様が入って来た。
一体何をするんだ?
「あの……王様。この葉っぱは一体?」
俺は机に置かれた葉っぱを、不思議そうに見ながら王様に質問する。
「ふふふ……それは僕から説明させて下さい。この葉がこれから開催される慰霊祭の、メインなんですから」
フィリップ王子が前に出て葉っぱを手に取った。
「この葉っぱがメイン?」
「はい。この葉はファータの木の葉なんです。この国ではファータの木は精霊が宿り休憩するといわれていて」
ファータの木だって? 初めて聞く木だな。チラリとパールを見ると首を横に振る。
パールも知らないなんて、ファータの木はジャバネイル王国だけに生息している木なのかもな。
「この葉をこうやって二枚重ねて舟の形に折るんです」
フィリップ王子は慣れた手付きで、ファータの葉でささっと舟を作り見せてくれた。
「上手いもんだな」
「ふふっありがとうございます。この国の者は皆、幼少期から何度もこの舟を折りますから。自然と上手くなるんです」
フィリップ王子は舟を手に優しく笑った。
「天使様も舟を折ってくれませんか? 天使様に追悼されるなら死んでいった国民達も報われるでしょう」
「でも舟を折ってどーするんじゃ?」
パールが不思議そうに聞いた。それは俺も思っていた。
舟を作ってどう追悼するんだ?
「それはですね。この王都には大きな河が流れていませんか?」
「ああっ! 王城から見えるあの大きな河か! ローレライと言ったか? 分かったぞ。その河にこの舟を流すんだな」
俺が得意げに答えると
「さすが天使様です! 先見の明がおありですね」
などと大袈裟に返された。
何だか居た堪れない。
頼むから褒めすぎないでくれ……恥ずかしくてむず痒い。
それから俺達はフィリップ王子と王様に、作り方を教えてもらいながら舟を作った。
「出来たー!」
「ぷぷっティーゴのは何だか太っちょじゃのう」
「なっ……どっしりと言ってくれ」
くそう……簡単に見えたのに舟作りは意外と難しかった。
パールは猫の姿なのに、見本の様な美しい舟を作りやがった。なんでだよ。
まぁ見た目なんて関係ない。
ようは気持ちだからな。俺は心を込めて作ったんだ。それが一番だよな。
ふとスバルと銀太をみると、二匹も俺より上手く舟を作っていた。
うそだろ?
リィモを見ると舟を十艘も作っていた。
「お前……そんなにいっぱい流すのか?」
「ええ、本当はもっと流したいくらいですが、手に持てませんから。この数で我慢します」
「そっそうか……」
そこまでしなくてもいいと思うんだけど……それでリィモが納得するなら、いいのかな。
「それと、一番のポイントは舟の真ん中に甘い蜜を垂らす事ですからね」
「蜜を? なんでだ?」
「それは舟を流して見れば分かります」
「甘い蜜だったら何でも良いのか?」
「はい。無ければこちらで用意させて頂きます」
なら……ジュエルフラワーの蜜で良いな。
「大丈夫だ。ありがとう」
「そうですか」
フィリップ王子は窓際に歩いていくと外を見た。
「おおっ……人が沢山集まって来ましたね。天使様、こちらに来て外を見て下さい」
フィリップ王子が、部屋の窓から外を眺めて見ろと言うので見て見ると、ローレライ河の河岸に人が沢山集まっているのが見える。
みんな舟を流すために集まっているのか。
「さぁ僕達も行きますか」
★ ★ ★
「また……これは凄いな」
河岸には大勢の人達で賑わっていた。
そんな中、打楽器やラッパなどの演奏家達が、軽快なリズムを刻み一際目立ち、その横で踊り子達が音に合わせて楽しそうに踊っている。
この場所は笑顔が溢れていた。楽しそうに笑い酒を酌み交わす者、食事を食べ談笑する者と色々だ。
少しの間、美しい音楽と踊りに見惚れていると、フィリップ王子がそっと耳打ちして来た。
「天使様。大きな太鼓の音が鳴り止むと、舟を河に流す合図です。流す前に蜜を垂らす事を忘れずに」
「おう。分かった」
しばらくすると音が鳴り止んだ。
ええと舟に蜜を入れてっと……んっ? ちょっと入れ過ぎたか? まぁ大丈夫だろう。
「ふふ……ティーゴの旦那。どっちが早く流れるか俺と競争だ!」
「何? 負けないからな」
またスバルが競争しようと言い出した。直ぐ競いたがるんだから。
俺達は舟を河にそっと置いた。
「ブッッ! ティーゴの旦那の舟、太すぎてなかなか動かないぞっ」
「なっ?! 本当だ」
蜜を入れ過ぎたか? このまま沈んだら縁起が悪いなぁなどと考えていたら。
「おっ! 俺の舟が飛んだっ?」
突然舟が空へと舞い上がった。一体何がおこってるんだ?!
「ふふっ……空を飛ぶ舟。これがこの祭りのメインイベントなんですよ」
目を見開き驚いていると、フィリップ王子が和かに笑いながら、メインイベントだと話す。
「空を飛ぶ舟が!?」
「はい。この時期には水辺にエスプリと言う虫が集まるんです。この虫は精霊の使いとも言われていて。甘い蜜を見つけると、蜜を抱きしめ天に向かって飛び立つんです。その時に蜜を舐めると、虹色に体が煌めく習性があって……ほらっ。見て下さい」
「うわあーっ!」
何千と言う煌きが、天へと昇って行く。
なんて美しい景色なんだろう。
俺はこの景色を忘れない様に心に刻んだ。
俺達は天に上がっていく煌めく数千の光を、ずっと見つめていた。
いつもふざけるスバルでさえ、何も話さなかった。ただ黙って煌めく空を見つめていた。
★ ★ ★
これにて一番長かった燦聖教編は終了です。次話からはまた新たなる旅がはじまります。召喚勇者達のその後なども番外編にて登場します。(*´꒳`*)
お楽しみにです♡
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