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本編 浮島編
王様に会いますか?
しおりを挟む「俺たちは幻覚を見ているのか……」
「ワッキヤク隊長……私も同じように思います」
レミアールの兵士達は、自分達に何が起こったのか理解出来ず、皆声を押し殺し、街並みや人々が再生されて行くのを、ただ呆然と見ていた。
さっきまでの景色は、自分達が造った魔導兵士達に、散々攻撃され破壊された街並み、あちこちから火の手が上がり燃え盛っていた景色。
それが何故か、突然雨がふりだし火が消し去ったと思っていたら、次の瞬間。天が神々しく煌めき、キラキラ輝く光の粉が天から降ってきたのだ。
「この光の粉はなんだと言うんだ。天からの啓示だと言うのか?」
ワッキヤクは空中庭園から天を掲げ、自分達に降り注ぐ神々しい光の粉をどうしていいか分からず、ただ呆然と浴びていた。
「ワッキヤク隊長! 怪我が治っています。こいつの脚は千切れて無くなっていたというのにっ……ううっ」
部下が泣きながらワッキヤクに怪我を見せる。
「えっ……治って? 俺の手は?」
ワッキヤクは血まみれの右手を拭き取ると、そこに傷は無くなっていた。
「傷が無い! 爆発した時かなり深手を負ったはずなのに……一体どうなってるんだ?」
「ワッキヤク隊長……神が我らを助けてくれたのでしょうか?」
部下のひとりが、泣きながらワッキヤクに神の仕業だと告げる。
「神が!? 俺たちをか?」
ワッキヤクは混乱していた。なぜ神が自分達を助けるのかと、だって自分達はもっと酷い事をし、国を侵略していた。
奪った国の人族達を奴隷して販売したり、自国の労働力として道具の様にこき使ってきた。
そう、自分達のして来た行いは、決して褒められた行為でない事を、ワッキヤクは分かっているからだ。
「神は俺たちを生かして、何をさせたいのだ……」
ワッキヤクは、部下達が神様のおかげだと泣いて喜んでいる中、ひとり黙っていた。
そんな時だった。空から神々しい人物が舞い降りてきたのは。
威厳に満ちたその姿は、まるで神が降臨して来たかと思わせる風貌だった。
「「「「あっ」」」」
声も出ずに神と見紛う人物を、皆が注目して息を飲んで見つめている。
「ここにおる中で、一番偉い奴は誰じゃ?」
「えっ?」
神かと思われる謎の人物の発言に兵士達は戸惑う。何故いま偉い人物が知りたいのかと。
「誰じゃと聞いておろう? さっさと言わんか!」
どうやら神らしき人物は、かなり短気なようで早く言えと急にキレる。
「「「あっあわ」」」
これには兵士達が慌てて、一斉にワッキヤクを指さした。
「ほう……お主が一番偉いのか」
一番偉いのがワッキヤクだと分かると、謎の人物はふわりと飛んで、ワッキヤクの前に舞い降りた。
「あっあわっ……」
じっと見つめられているだけなのに、嫌な汗と震えが止まらないワッキヤク。その理由は本人には全くもって分からない。
だが自身の前に立つ、腹まである長い髭をはやした老人が、桁違いの実力者だと言う事を、感じ取り怯えているのだろう。
「おいっこの国の王の所に連れて行くのじゃ」
「へっ? おっ俺っいやっ私がですが?」
「そうじゃ! 他に誰がおる? お主がこの中で一番偉いんじゃろう? 早う連れていくんじゃ」
「おっ王に何の用事が?」
「お主に言う必要はないんじゃっ! 早うせんと、またさっきの様に国をぐちゃぐちゃにされたいのか? せっかくワシが元に戻してやったと言うのに」
「ヒイッ!」
(嘘だろっ?! さっきの大惨事はこの人の仕業だったのか! そしてそれをまた元に戻した? 何がしたいのかは分からないけどやばい人物なのは分かった。絶対におこらせちゃいけねぇ)
「ああっ案内させて下さい。私に任せて下さい!」
ワッキヤクはこうして、この魔道国家レミアールにとって、一番王と合わせてはいけない人物を引き合せてしまうのだった。
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