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本編 浮島編
異空間は天使の楽園
しおりを挟む「あっ……あわっ……」
異空間の扉を出し、中に招待したんだがエンリケ皇子達が固まってしまった。
異空間の中に初めて入ると、皆同じ様に驚き、感嘆の声をあげるんだけど、今回は一番酷いかもしれない。
なんせみんながプルプルと小刻みに震え、中には感極まり泣いている者さえいる。
「ええと……だな? エンリケ皇子そのう……」
「あっ……すっすみません。感動のあまり声を失っていました。私共の様な下民を、天使様の楽園に招待して頂き本当にありがとうございます。天使様達はこの様な素晴らしき場所で生活されているのですね」
熱く語るエンリケ皇子の視線の先には、たわわに実った野菜や果実の畑。その横には美しく咲きほこるジュエルフラワーの花畑が、甘い香りを漂わせている。
エンリケ皇子が瞳をキラキラ輝かせながら、異空間の感想を述べてくれるんだが、なんだろう……凄く恥ずかしい。天使の楽園ってなんだよ!
「まっあれだ。この場所には色々な魔獣や種族が居るが、みんな良い奴なんだ。気にせず好きに過ごしてくれ」
「はいっ!」
元気に返事を返すと、俺に深くお辞儀をするエンリケ皇子達、だがだ。好きに過ごしてくれと言ったのに、全員が一箇所に集まり静かに正座している。
「おいおいっ! エンリケ、好きに行動してくれて大丈夫なんだぞ?」
「いやっ……ですが。緊張して……天使の楽園を闊歩するなど……烏滸がましくて……」
エンリケ皇子がそう言うと、全員がそうだと頭を縦に振る。
これは早急に肉祭りの準備をしないと、みんなの緊張が和らがないな。
「ティーゴ! 戻ってきたのか? また沢山連れてきたなぁ」
『ティーゴしゃま♪』
『主様。妾も一緒に手伝うのじゃ』
「アレク、キュー、コンちゃん!」
アレク達は野菜を収穫していたらしく、手にはトウモコロシとトゥマトを持っている。
「ちょうどよかった! 今から肉祭りをするんだよ。手伝ってくれないか?」
「肉祭りだと!? そりゃ良いな、シファ達も呼んでくるよ」
アレクはシファを呼びに獣人街へと走って行った。
「ありがとな! 頼んだぞ」
『美味しいでキュよ? どじょ』
知らぬ間にキューは、大きな尻尾をフリフリせながら、新鮮なトゥマトをブルネイ帝国の人々に配っていた。その可愛さに緊張が緩んで行くのが見て分かる。うんうん。その気持ち分かる。
キューの可愛さに悶えながらも、受け取ったトゥマトにガブリとかぶりつくブルネイ帝国の人々。
「うんまっ」
「なんて美味しさなんだ」
「心が満たされていく……」
『まだまだいっぱいありまっキュからね。一緒に畑に行きまっキュー♪』
キューが楽しそうに、数名のブルネイ帝国の人達を連れ畑に走って行く。ふふっすっかりキューのペースだな。
『主~戻ってきたのか! もう終わったのか?』
「銀太!」
銀太が登場すると、一瞬悲鳴のような声が聞こえるも、俺がずっと銀太の柔らかな被毛を撫でていたからか、気が付くとウットリと銀太を見つめている。もしや銀太のフワ毛を触りたくなったか?
「「「「「神獣様」」」」」
どうやら銀太の事を神獣だと皆が呟いている。確かに銀色に輝く美しい被毛は神々しいもんな。銀太は聖獣なんだが、神獣も聖獣も似た様なもんだし、いちいち否定しなくてもいいか。
さてと肉祭りの準備をするぞー!
★★★
「ああっ美味しいです」
「もう死んでもいい」
「こんな美味い肉は初めて食べました」
「美味しすぎて……涙がとまりません」
外にある焼き台で、オークキングの肉とワイバーンの肉を焼いて行く。その肉を美味そうに頬張るブルネイ帝国の人達。
先程までの緊張は何処へやら、アレク達獣人と仲良く話しをしながら食べている。
キューが気を利かせて、お酒も配っているのでみんな少しほろ酔い気味だ。
「ティーゴさん。お野菜の追加持って来ました」
「シファ、ありがとう。もうお手伝いは大丈夫だから、シファもアレク達に混ざって食べてきなよ」
「はい!」
ふうぅぅぅっ!
両手を上に上げて、思いっきり延びをする。
「だいぶ焼いたなぁ」
俺もそろそろ食べようかな。みんなも食べるよりも呑むに、シフトチェンジしてるみたいだしな。
ガハハッと笑いながら、楽しそうに肉を食べたり酒を酌み交わしている幸せそうな姿を見て、なんだか胸が暖かくなる。
異空間に連れてきて正解だったと、俺は心からそう思った。
獣人達と仲良くなったブルネイ帝国の人達は、肉祭りの後も一緒に露天風呂を堪能したり、つぶれるまで酒を呑んだりと、異空間を堪能していた。
ん??
「俺……何か忘れて……」
…………あれっ?? そう言えばパールの事をすっかり忘れてたけど、どうなったんだ?!
大丈夫だよな?
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