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2、隠された砦
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「ハル、」
息を潜めるように己の名を詰めて呼ぶ声に、ゆっくりと瞬く。
唇を這い込んで歯列を割ろうとする舌にためらい、思わず下がる背が後ろの樹にぶつかる。
背を抱いていた腕が緩んだかと思えば、手首を掴んで幹に縫い止められ、顎から離れた手は肩から腕へと指の跡を残すように掻いて下りていく。
「やらせろよ」
長身を屈めて唇の端から耳の下へ、なぞる唇から吹きかけられる息が熱い。
「い、…今、ここでか…」
腕を巡って離れた手が腰骨にまとわりつき、背筋に薄らと震えがはしる。多少動きの妨げになっても、甲冑を着けておけばよかった。
淡く首を吸われて、胸が震える。
「お前が変なとこで止めッから、血が燃えてんだよ」
ささやく声に混じる悪辣の色で、目に映らずともこれがアギレオだと実感できる甘やかさ。
「今、今は…」
指を伸ばし、なめし革のような褐色の首筋から、探るように髪を抱く。
弓を負った背を幹に着けたままで腰を抱き寄せられ、バランスを取ろうとする膝が開いてしまう。
「あン?」
笑う唇を寄せられ唇が開くのは、言葉をつごうとするせいだ。
「おまえ、…お前の部下が、まだ、」
差し出される舌を唇の先でついばみながら、声を途切れるさせる息をつき。逃げてしまう舌を唇が勝手に追って、唇を吸う。
「ガキじゃねえんだ、気がつきゃ遠慮するさ」
売り飛ばしてしまうために、殺しおおせた谷のエルフの身包み剥がしているだろうアギレオの部下、砦の面々の立てる物音も聞こえない。だが、今回の戦闘に加わっていたのは獣人ばかりだ、近くにいても大きな音をさせるとは限らない。
「そうでは、なくて、」
離された手を下ろし、尻を鷲掴みにする手を掴んで止めさせる。
「お前が言ったんじゃねえか」
ン?と、語尾上がりに笑う声を恨めしく見上げて。
身体にまとわりつく腕を遠ざけさせてから、代わりに身を寄せアギレオの背を抱いて、息を緩めた。
「…昨日の夕方身を清めたきりだ。…嫌だ…」
晒さねばならない身の内まで清潔である確信が持てない。最後に食事を摂ったのはいつで何だったかと、考えを巡らせれば憂鬱だ。
「よっと、」
「うわ!」
勝手に背の弓を奪って放り出したかと思えば、物のように草の上に押し倒され、覆い被さるアギレオを見上げる。
面白がるよう片頬に笑う顔に手をやり、飛沫いた跡を残す返り血を拭ってやって。殺戮や残酷が曇らせぬほど手強い明るさを顔と声に見つけて、少し目を閉じる。
かつてこの男に囚われてから、自分の方が雇い主ともいえる今でも、己はこの男の虜だ。
目を開いて見つめる、瞳孔の周りの砂色が、広がる途で天色へと変わる混色の瞳。褐色の指が目の縁をなぞり、己の瞳を見つめ返しているのが知れる。
「大丈夫だろ。お前はいつもキレイだよ」
笑いながらの声に、隠さず大きくため息をつく。言葉の甘さは魅力的でも、内容を思えば呆れる心地で。
「…どうしても今だと言うなら、身を清めてくる」
「なあンで」
笑いながら首筋に舌を這わせる男の、耳を摘んで強く引いてやる。
「お前の身体を汚したくない」
「俺は気にしねえぜ」
「私は屈辱だ」
胸当ての留めを外されるに任せながら、まだ迷う。
膝の間にアギレオの腰を抱きながら、背に回した手で男の衣服を掴んで引き。
「んじゃいいさ、突っ込まねえどいてやるよ」
「ぁ、」
身勝手にひとの衣服をはだけ、鎖骨から胸の筋肉をなぞって乳首を濡らす舌の柔らかさ、熱さ、離されて唾液の冷える冷たさに、身震いし。
「やり方はいくらでもある」
乳首を吸い上げられ、もうひとつ上げそうになる声を歯噛みして堪える。
「そうか、」
アギレオが自分の鎧を外して放り出し、続けて腰帯を解くのを見守り、手を伸ばす。
「…ン?」
捲れた上衣の裾から覗く肌を指でなぞっていれば、その手を取って布越しにペニスを握らされる。
手の甲を覆われ揉まされる手の中で、大きくなっていく。
「なあ、」
「ああ」
手を引いて離し、眉を上げる顔を見上げる。
「やはり夜にするか、すぐに済ませるから、水浴びしてくるのを待てないか…?」
「なんだよ?」
笑いながら頬に手をかけられて、逸してしまう目線を戻され、また視線を外す。
「…、今、したら、もう夜はしないだろう?」
思案のため斜め上に逸れるアギレオの目を、今度はこちらから見つめ。
「…そうだな。まあ、かもな?」
目を見つめながら言うには躊躇われ、頭を抱き寄せ頬をすりつける。
「抱き合うなら、……て欲しい」
ひそめる声に間を置いて、なんだって?と、囁き返してくる声が耳に甘い。
とろけたものが胸に詰まるようで、短く唾液を飲み込んでから、目を伏せ耳元に唇を触れ。
息が震える。
「――入れて欲しい…」
顔をずらされ、淡く噛みつかれる唇がおののく。
「何を?」
むしろ抑えたいのに湧き上がる昂揚を堪え、抱いた後ろ頭に指を立てる。
「っ、」
喋ろうとしてあふれそうになった唾液をもう一度飲み、口を開こうとするところに、脚を開かされて股座を擦り合わされ、眉が下がる。
「お前のペニスを、」
脚の間に押し付けられる、まだ柔らかい熱さ。そうすれば互いに剛直くなると思い描けて、腰を上げて擦り返しそうになるのを堪え。
「どこに?」
頬を滑って耳の下の皮膚に囁かれ、背が震う。
身体に渦巻いていく熱がたまらず、アギレオの首筋から背を掻いて、引き剥がそうと衣服を引く。
「わざとだろう、お前…!」
「あッたり前じゃねえか、」
笑いながらまだ肌を舐めている不遜が憎たらしく、押し退けようと肩に手を突く。突いた途端にその手を捕まえられ、絡め取るよう片手でまとめて頭の上に縫い止められて、浅く目を剥く。
「言えよ、」
片脚を抱え上げられ、押し付けられるペニスの膨らみの位置がずれて、カッと顔が熱くなる。
「俺のペニスを? どこに入れて欲しいって?」
服越し尻の間に届きそうで届かない熱と肉の感触で、快楽の記憶にたやすく身体が飢える。
足掻こうとして戒められた手首がつっかかり、もどかしく踵でアギレオの背を掻く。
「、たし、私の、…、…尻の穴に、」
口に出すのも耳で聞くのも恥ずかしい。上がる体温は羞恥のためのはずなのに、劣情の熱と区別がつかず煽られて困る。
焦らすように繰り返し擦りつけられて息がとろける。
ようやく解放された手を伸ばして、覆い被さる背の浅い位置で布地を掴んで縋り。
「どうやって入れんだ? そのままじゃ入らねえだろう」
「アギレオ…!」
舌を伸ばして唇を舐める意地の悪い声に、何を抗議しているのか曖昧になる。
もどかしさを通り越して、もはやくるしい。
ン?と、先を促すお決まりの短い語尾上がりに、背を引き寄せ肩口に鼻先を擦りつけ。
「ゆび、指で、ほぐして、」
「尻の穴に指を入れて欲しいのか。――さて、とっとと開いて入れちまうか? それとも、指でもイカせて欲しいか?」
膝から裏返すように、両手で更に足を開かされ、衣服の中の尻の肉の奥で、穴が開いてしまうように感じる。
場所も時も失って、普段の荒っぽさを裏切るような、細やかで執拗な愛撫ばかりが頭を占め。
「イカせて、イカせてくれ、アギレオ、」
顎を仰のいてえら骨に噛みつき、顎に歯先を擦りつける。
「いいぜ。――じゃあ、夜にな」
チュッと音を立てて頬に触れたのが唇なのは解る。
「――…」
これほど呆然としたことが今まであったかという、心地で。
二の句の継げない口を閉じることも忘れて、勝手に開かせていた脚を手放し、腰を引いて離したアギレオの眉を上げた顔を、目を剥いて見つめる。
「おま、お前、――ッ」
「いやそれはお前が言ったんだろ」
おかしげに笑われるのに、勢いよく食いかかりたいほどの言葉が逆に詰まる。
「このまましていいのかよ」
眉を上げる顔を睨むように見上げ、問いかけてくる瞳の色が、けれど真面目には訊いていると理解できて。己をなだめるために大きく息を吸い、長く吐き出す。
身体中が、滲んで明滅するように熱い。
「嫌だ」
遠慮なく嘆息しながら今度こそアギレオを押し退け、身を起こす。先に立って伸ばされる手を借りて立ち上がり、草と土を払って放り出された装備を拾う。
「あまり弄ばないでくれ…。身がもたない」
頭を振りながら並んで歩き出し、歩きながら互いに装備をつけなおし、木々の間を抜けていく。
「嫌だったかよ?」
寸分も悪びれぬ声に、あてこすりのつもりで再び大きくため息をついてみせ。
「そうではないが…」
「ンじゃいいじゃねえか。楽しいだろ」
「たの、」
あっけらかんとした言いように額を押さえざるをえない。
「お前は楽しいのかもしれないがな。できもしないのに熱を煽るだけ煽られれば苦しいだろう」
「だろ?」
変なとこで止めんじゃねえよ、と、こめかみを浅く指弾ではじかれ、いた、と思わず声が出る。
その意味を考え直し、先も同じ台詞を聞いたと思い当たれば、呆れてしまう。
「ちょっと待て、それは承服しかねる。私はお前たちを焦らしているわけでは、」
話している内に森を抜け、木々の葉が遮る影が晴れるように別の景色が現れる。
お、と、声を上げるアギレオに揃うようにその先に目をやれば、並ぶ建物と、そこを往来する人間達の姿があり。
「産まれたか?」
「本当か? 何故分かる、どうなったんだ?」
「今までお前といただろ、俺に分かるかよ」
互いに互いを振り返らず思わず早足になりながら、家々の中でもやや奥まった位置にある一軒を目指す。
谷のエルフの姿を見たという報告で飛び出していった今朝よりも、ただ砦と呼ばれる彼らの住処も慌ただしくなくなり、まるでいつも通りのように人間達がそれぞれの仕事を始めている。
境の森の中に隠すように築かれた砦には、半日向こうの峠から湧く川が流れて途中で二筋に分かれ、また森へと流れ込んでいる。
そこにいくつかのささやかな橋をかけて往来を助け、川沿いから広がるように数十軒の家々がのどかに立ち並ぶ。他にも、砦の中心と端には少し大きな建物があり、その間や影に、砦の暮らしを支える畑や、山羊を飼う囲いが見え隠れする。
「おい、ゼンガー! どうだ!」
人家のひとつ、ある夫婦の家のそばまで行けば、その戸口へと水の入った盥を抱えて運ぶ若い男を見つけてアギレオが先に声を掛ける。
「お頭!」
振り返るゼンガーの顔がパッと輝き、それを見るだけで安堵と喜びが湧く。
「男の子だ!」
アギレオが早足に近付き、大柄な彼と並べば小さくすら見える新米の父親の背を思い切り叩いて、水が零れるだの、やったなだのと笑い合っている。
「見てやってくれよ。なあ、ハルも!」
もちろん、と笑みを添えて二人の後に続き、開く扉を潜れば途端に柔らかな静寂で満たされた室内に、慌てて声と足音をひそめる。
「ミーナは? どうしてる?」
本日最大の功労者と呼ぶべき友人の名を尋ねれば、夫であるゼンガーが笑顔で頷き、胸を撫で下ろす。
「元気よ。すっごく大変だったけど!」
家の中、簡単な衝立の向こうから声が聞こえて、思わず足が速まる。
「ミーナ!」
「しぃ、坊やが起きちゃうわ、ハル」
「ああ、すまない…」
寝台に横たわる彼女の傍らに寝ても、その頭の倍もなさそうな小さな赤子と、疲れきった顔の友人に思わず跪いて目線を合わせる。
「すごいな…小さい…なんて可愛いんだ…」
今いるのとは違う世界から現れたといわんばかりの不思議な水っぽい顔と、驚くほどの小ささながらきちんと揃った目鼻や口や、緩く握られた指に胸が明らむ。
「ね。すごいの、とってもかわいい…」
息が掛からぬように少し身を離し、伸ばされるミーナの手を取ろうとして、慌てて引っ込め。
「っ、すまない、今まで外にいて汚れている」
まあ、と、くすぐられたように笑う彼女の方から手を伸ばして握られ、少し指がもたついてしまう。
「いいじゃないの握手くらい。後で手を洗うわ」
「そうか…。よく頑張ったな、ミーナ」
「ありがとう、ハル」
「でかしたな、ミーナ」
労って撫でる彼女の手を、降ってくるアギレオの声できりをつけて離し、立ち上がる。二人の声を聞きながら、目を落とす先で、赤子がただ息をして時折むずりと小さく動くのが、見ていて飽きない。
「ありがとう、お頭。色々手を焼いてくれて、ほんとに助かったわ」
「なんの。実際手ェ焼いたのなんざ、ほとんどルーだしな」
いいえ本当に、と、和らぐ笑みを見せるミーナを眺めてはまた思わず感嘆の息をつき、ゼンガーと顔を見合わせては笑みを交わす。
「あらあら。ミーナが疲れちゃうわ、長居しないでちょうだい、二人とも」
息を潜めるように己の名を詰めて呼ぶ声に、ゆっくりと瞬く。
唇を這い込んで歯列を割ろうとする舌にためらい、思わず下がる背が後ろの樹にぶつかる。
背を抱いていた腕が緩んだかと思えば、手首を掴んで幹に縫い止められ、顎から離れた手は肩から腕へと指の跡を残すように掻いて下りていく。
「やらせろよ」
長身を屈めて唇の端から耳の下へ、なぞる唇から吹きかけられる息が熱い。
「い、…今、ここでか…」
腕を巡って離れた手が腰骨にまとわりつき、背筋に薄らと震えがはしる。多少動きの妨げになっても、甲冑を着けておけばよかった。
淡く首を吸われて、胸が震える。
「お前が変なとこで止めッから、血が燃えてんだよ」
ささやく声に混じる悪辣の色で、目に映らずともこれがアギレオだと実感できる甘やかさ。
「今、今は…」
指を伸ばし、なめし革のような褐色の首筋から、探るように髪を抱く。
弓を負った背を幹に着けたままで腰を抱き寄せられ、バランスを取ろうとする膝が開いてしまう。
「あン?」
笑う唇を寄せられ唇が開くのは、言葉をつごうとするせいだ。
「おまえ、…お前の部下が、まだ、」
差し出される舌を唇の先でついばみながら、声を途切れるさせる息をつき。逃げてしまう舌を唇が勝手に追って、唇を吸う。
「ガキじゃねえんだ、気がつきゃ遠慮するさ」
売り飛ばしてしまうために、殺しおおせた谷のエルフの身包み剥がしているだろうアギレオの部下、砦の面々の立てる物音も聞こえない。だが、今回の戦闘に加わっていたのは獣人ばかりだ、近くにいても大きな音をさせるとは限らない。
「そうでは、なくて、」
離された手を下ろし、尻を鷲掴みにする手を掴んで止めさせる。
「お前が言ったんじゃねえか」
ン?と、語尾上がりに笑う声を恨めしく見上げて。
身体にまとわりつく腕を遠ざけさせてから、代わりに身を寄せアギレオの背を抱いて、息を緩めた。
「…昨日の夕方身を清めたきりだ。…嫌だ…」
晒さねばならない身の内まで清潔である確信が持てない。最後に食事を摂ったのはいつで何だったかと、考えを巡らせれば憂鬱だ。
「よっと、」
「うわ!」
勝手に背の弓を奪って放り出したかと思えば、物のように草の上に押し倒され、覆い被さるアギレオを見上げる。
面白がるよう片頬に笑う顔に手をやり、飛沫いた跡を残す返り血を拭ってやって。殺戮や残酷が曇らせぬほど手強い明るさを顔と声に見つけて、少し目を閉じる。
かつてこの男に囚われてから、自分の方が雇い主ともいえる今でも、己はこの男の虜だ。
目を開いて見つめる、瞳孔の周りの砂色が、広がる途で天色へと変わる混色の瞳。褐色の指が目の縁をなぞり、己の瞳を見つめ返しているのが知れる。
「大丈夫だろ。お前はいつもキレイだよ」
笑いながらの声に、隠さず大きくため息をつく。言葉の甘さは魅力的でも、内容を思えば呆れる心地で。
「…どうしても今だと言うなら、身を清めてくる」
「なあンで」
笑いながら首筋に舌を這わせる男の、耳を摘んで強く引いてやる。
「お前の身体を汚したくない」
「俺は気にしねえぜ」
「私は屈辱だ」
胸当ての留めを外されるに任せながら、まだ迷う。
膝の間にアギレオの腰を抱きながら、背に回した手で男の衣服を掴んで引き。
「んじゃいいさ、突っ込まねえどいてやるよ」
「ぁ、」
身勝手にひとの衣服をはだけ、鎖骨から胸の筋肉をなぞって乳首を濡らす舌の柔らかさ、熱さ、離されて唾液の冷える冷たさに、身震いし。
「やり方はいくらでもある」
乳首を吸い上げられ、もうひとつ上げそうになる声を歯噛みして堪える。
「そうか、」
アギレオが自分の鎧を外して放り出し、続けて腰帯を解くのを見守り、手を伸ばす。
「…ン?」
捲れた上衣の裾から覗く肌を指でなぞっていれば、その手を取って布越しにペニスを握らされる。
手の甲を覆われ揉まされる手の中で、大きくなっていく。
「なあ、」
「ああ」
手を引いて離し、眉を上げる顔を見上げる。
「やはり夜にするか、すぐに済ませるから、水浴びしてくるのを待てないか…?」
「なんだよ?」
笑いながら頬に手をかけられて、逸してしまう目線を戻され、また視線を外す。
「…、今、したら、もう夜はしないだろう?」
思案のため斜め上に逸れるアギレオの目を、今度はこちらから見つめ。
「…そうだな。まあ、かもな?」
目を見つめながら言うには躊躇われ、頭を抱き寄せ頬をすりつける。
「抱き合うなら、……て欲しい」
ひそめる声に間を置いて、なんだって?と、囁き返してくる声が耳に甘い。
とろけたものが胸に詰まるようで、短く唾液を飲み込んでから、目を伏せ耳元に唇を触れ。
息が震える。
「――入れて欲しい…」
顔をずらされ、淡く噛みつかれる唇がおののく。
「何を?」
むしろ抑えたいのに湧き上がる昂揚を堪え、抱いた後ろ頭に指を立てる。
「っ、」
喋ろうとしてあふれそうになった唾液をもう一度飲み、口を開こうとするところに、脚を開かされて股座を擦り合わされ、眉が下がる。
「お前のペニスを、」
脚の間に押し付けられる、まだ柔らかい熱さ。そうすれば互いに剛直くなると思い描けて、腰を上げて擦り返しそうになるのを堪え。
「どこに?」
頬を滑って耳の下の皮膚に囁かれ、背が震う。
身体に渦巻いていく熱がたまらず、アギレオの首筋から背を掻いて、引き剥がそうと衣服を引く。
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「あッたり前じゃねえか、」
笑いながらまだ肌を舐めている不遜が憎たらしく、押し退けようと肩に手を突く。突いた途端にその手を捕まえられ、絡め取るよう片手でまとめて頭の上に縫い止められて、浅く目を剥く。
「言えよ、」
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「、たし、私の、…、…尻の穴に、」
口に出すのも耳で聞くのも恥ずかしい。上がる体温は羞恥のためのはずなのに、劣情の熱と区別がつかず煽られて困る。
焦らすように繰り返し擦りつけられて息がとろける。
ようやく解放された手を伸ばして、覆い被さる背の浅い位置で布地を掴んで縋り。
「どうやって入れんだ? そのままじゃ入らねえだろう」
「アギレオ…!」
舌を伸ばして唇を舐める意地の悪い声に、何を抗議しているのか曖昧になる。
もどかしさを通り越して、もはやくるしい。
ン?と、先を促すお決まりの短い語尾上がりに、背を引き寄せ肩口に鼻先を擦りつけ。
「ゆび、指で、ほぐして、」
「尻の穴に指を入れて欲しいのか。――さて、とっとと開いて入れちまうか? それとも、指でもイカせて欲しいか?」
膝から裏返すように、両手で更に足を開かされ、衣服の中の尻の肉の奥で、穴が開いてしまうように感じる。
場所も時も失って、普段の荒っぽさを裏切るような、細やかで執拗な愛撫ばかりが頭を占め。
「イカせて、イカせてくれ、アギレオ、」
顎を仰のいてえら骨に噛みつき、顎に歯先を擦りつける。
「いいぜ。――じゃあ、夜にな」
チュッと音を立てて頬に触れたのが唇なのは解る。
「――…」
これほど呆然としたことが今まであったかという、心地で。
二の句の継げない口を閉じることも忘れて、勝手に開かせていた脚を手放し、腰を引いて離したアギレオの眉を上げた顔を、目を剥いて見つめる。
「おま、お前、――ッ」
「いやそれはお前が言ったんだろ」
おかしげに笑われるのに、勢いよく食いかかりたいほどの言葉が逆に詰まる。
「このまましていいのかよ」
眉を上げる顔を睨むように見上げ、問いかけてくる瞳の色が、けれど真面目には訊いていると理解できて。己をなだめるために大きく息を吸い、長く吐き出す。
身体中が、滲んで明滅するように熱い。
「嫌だ」
遠慮なく嘆息しながら今度こそアギレオを押し退け、身を起こす。先に立って伸ばされる手を借りて立ち上がり、草と土を払って放り出された装備を拾う。
「あまり弄ばないでくれ…。身がもたない」
頭を振りながら並んで歩き出し、歩きながら互いに装備をつけなおし、木々の間を抜けていく。
「嫌だったかよ?」
寸分も悪びれぬ声に、あてこすりのつもりで再び大きくため息をついてみせ。
「そうではないが…」
「ンじゃいいじゃねえか。楽しいだろ」
「たの、」
あっけらかんとした言いように額を押さえざるをえない。
「お前は楽しいのかもしれないがな。できもしないのに熱を煽るだけ煽られれば苦しいだろう」
「だろ?」
変なとこで止めんじゃねえよ、と、こめかみを浅く指弾ではじかれ、いた、と思わず声が出る。
その意味を考え直し、先も同じ台詞を聞いたと思い当たれば、呆れてしまう。
「ちょっと待て、それは承服しかねる。私はお前たちを焦らしているわけでは、」
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お、と、声を上げるアギレオに揃うようにその先に目をやれば、並ぶ建物と、そこを往来する人間達の姿があり。
「産まれたか?」
「本当か? 何故分かる、どうなったんだ?」
「今までお前といただろ、俺に分かるかよ」
互いに互いを振り返らず思わず早足になりながら、家々の中でもやや奥まった位置にある一軒を目指す。
谷のエルフの姿を見たという報告で飛び出していった今朝よりも、ただ砦と呼ばれる彼らの住処も慌ただしくなくなり、まるでいつも通りのように人間達がそれぞれの仕事を始めている。
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「おい、ゼンガー! どうだ!」
人家のひとつ、ある夫婦の家のそばまで行けば、その戸口へと水の入った盥を抱えて運ぶ若い男を見つけてアギレオが先に声を掛ける。
「お頭!」
振り返るゼンガーの顔がパッと輝き、それを見るだけで安堵と喜びが湧く。
「男の子だ!」
アギレオが早足に近付き、大柄な彼と並べば小さくすら見える新米の父親の背を思い切り叩いて、水が零れるだの、やったなだのと笑い合っている。
「見てやってくれよ。なあ、ハルも!」
もちろん、と笑みを添えて二人の後に続き、開く扉を潜れば途端に柔らかな静寂で満たされた室内に、慌てて声と足音をひそめる。
「ミーナは? どうしてる?」
本日最大の功労者と呼ぶべき友人の名を尋ねれば、夫であるゼンガーが笑顔で頷き、胸を撫で下ろす。
「元気よ。すっごく大変だったけど!」
家の中、簡単な衝立の向こうから声が聞こえて、思わず足が速まる。
「ミーナ!」
「しぃ、坊やが起きちゃうわ、ハル」
「ああ、すまない…」
寝台に横たわる彼女の傍らに寝ても、その頭の倍もなさそうな小さな赤子と、疲れきった顔の友人に思わず跪いて目線を合わせる。
「すごいな…小さい…なんて可愛いんだ…」
今いるのとは違う世界から現れたといわんばかりの不思議な水っぽい顔と、驚くほどの小ささながらきちんと揃った目鼻や口や、緩く握られた指に胸が明らむ。
「ね。すごいの、とってもかわいい…」
息が掛からぬように少し身を離し、伸ばされるミーナの手を取ろうとして、慌てて引っ込め。
「っ、すまない、今まで外にいて汚れている」
まあ、と、くすぐられたように笑う彼女の方から手を伸ばして握られ、少し指がもたついてしまう。
「いいじゃないの握手くらい。後で手を洗うわ」
「そうか…。よく頑張ったな、ミーナ」
「ありがとう、ハル」
「でかしたな、ミーナ」
労って撫でる彼女の手を、降ってくるアギレオの声できりをつけて離し、立ち上がる。二人の声を聞きながら、目を落とす先で、赤子がただ息をして時折むずりと小さく動くのが、見ていて飽きない。
「ありがとう、お頭。色々手を焼いてくれて、ほんとに助かったわ」
「なんの。実際手ェ焼いたのなんざ、ほとんどルーだしな」
いいえ本当に、と、和らぐ笑みを見せるミーナを眺めてはまた思わず感嘆の息をつき、ゼンガーと顔を見合わせては笑みを交わす。
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冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
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