星に牙、魔に祈り

種田遠雷

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48、出迎え

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 結局、誰にも秘密にしておこうと、牙の首飾りは、細工師が一緒に用意してくれた箱に仕舞い。せっかく水を浴びたついでにと、香油を少し腰元に伸ばしておいて、境の森の隠れ道へと馬を入れた。
 日差しはすでに高くなり、足を踏み入れるものを迷わせるよう蛇行する道にも、木漏れ日がまぶしいほどに降り注いでいる。
 目前の夏を思いながら隠れ道を抜け、突然のようにぽっかりと開けた場所に築かれた砦を目にすれば、大きく息をついた。
 畑や牧畜、またそれぞれの労働に精を出す人間達と、よう、とか、やあとか短い挨拶を交わして、そのまま馬小屋へとスリオンを連れて行く。
 荷と鞍を下ろし、楽にさせてやって、ついでに馬たちの飼い葉と水と、と辺りを整えてから、馬小屋を後にした。
 さて、荷を置いて、報酬と見舞いの話をしに、アギレオが逃げ回るようならまずリーと話して、と考えながら、ひとまずは家へと足を向ける。
 見えてきた家の扉をやれやれと目指すところへ、ふいに気を引かれて振り向き。目を向け、誰かと立ち話をしているアギレオに気づいたと同時に、アギレオの方でもこちらを振り返ったのが分かった。
 話していた相手に何か告げてから、こちらへと向けられる、大股の早足にいくつか瞬いて。
 みるみる距離が詰まる。歩いても足が速いなと感心するところへ、速度も緩めず、そのままぶつかる勢いで迫ってくるのに、目を丸くしてしまう。
「アギレ、オ、!?」
 両手を塞いでいた荷物が落ちる、ドサリという音。
 早足の勢いのまま、抱きすくめられた腕の強さに、まずとりあえずとにかく驚く。
「なんだ、何かあっ」
「手前ェ、黙ってどこ行ってやがった…」
 ええ?と、腹の内で思わず唸る。
 お前が出て行けと言ったんだが、とか、黙って出て行っただろうか?などと首をひねる思いで。
 けれど。腕と、肩と、背と。強く抱きしめる腕にこめられた力。その手先で、衣服を掴んで握られている指の背の固さ。
 隙間をかいくぐるように腕を上げて、その逞しい背を抱いて返す。
「リーとルーに話してから出かけたのだが。すまなかった、心配を掛けただろうか」
 聞いてる、と、くぐもるような声が耳に届いて、少し考え。そうか、と、息を抜くように返して、腕が緩むまでその背を撫でてやる。
 背と胸を大きく波打たせて息をつき、腕を緩められて、もう一度ぎゅっと抱き返し。
 首筋の辺りで匂いを嗅いでいるらしい鼻息に、少しドキリとする。
「なんかお前…いい匂いすんな…」
 身を離され、こちらも身を引き、ようやく顔を見て頷く。
「そうなんだ。報告することが山ほどある」
「おう、…そうだな、」
 アギレオが振り返るのにつられるよう、先ほど立ち話をしていた辺りを見れば、話し相手だったはずの誰かの姿は既に見えない。
 もうちょい掛かるわ、夜でもいいか、と、ついでのようにアギレオが背肩を伸ばす寛いだ仕草に、なんだか大きく胸を撫で下ろした。

 結局、馬小屋で埃を被り、荷ほどきもしたことだし、アギレオが帰ってくる前にと、もう一度泉で身を清め直した。
 香油も着け直したところでアギレオが帰ってくれば、残念ながら報告はなかなかままならず。話を中断して寝台に放り出され、覆い被さる背を抱き寄せながら、鼓動が早い。
 上手くいくだろうか、いくといい、と祈るような思いで。
 首筋から肩や胸へと唇と舌で辿られ、焦らすような手つきで胸を揉まれて、息が浮く。
 時折顔を上げるアギレオと目が合えば、三日月のように撓んで笑う双眸の悪辣な色に、股の間が濡れるように感じる。
 けれど、手で押し退けて脚を開かされ、練り薬を塗り込められながら、自分でも少し濡らしておけばよかっただろうかと、眉を寄せ。
「ハル、」
 声に呼ばれて目を上げ、頭の横に腕を着いて顔を覗き込んでくる、混色の瞳を見上げる。
「んッ」
 遊ぶように性腺を撫でられ、腰が跳ねた。
「指だけでイクとこ見せろよ」
 片方の口角だけを深く吊り上げる顔に、う、うん…?と、言い淀んでしまう。
 どうしてか、突然、あらためてそんな風にからかわれるのが気恥ずかしい。
 顔を隠したくなり、けれどそれでは見せることにはならないのか、と、口角を下げる。くちづけをしてくれるなら、と、口ごもるように訴えて。
 ひたりと、唇を覆う唇に息をつき、押し込み直された二本指が動けるように身を開く。
 目に見えるほど、節張った二本の指のそれぞれの形まで、明瞭に感じる。
「ぁっ、んッ、――…っ、ん、くぅ、ン…」
 どんな風にしているのか、動き出したと思った途端、性器の裏のあたりにぬるいものが湧き出すような快感に、顎が浮く。
 一度離れた唇を追ってふさがれ、身悶える快感をこらえようと、口の中に這入ってくる舌に、おぼつかなくしゃぶりつき。
 尻の穴の浅いところに無闇にあふれる性悦で、口の中すら性的に悦い。口蓋の裏や歯を舐められてすら感じ入り、身がよじれる。
「はァっ、ふ、ゥふ、はふ、――ぁ、」
 とめどなく腹の奥から湧いて、肌を震わせるような快感に、予兆が高まり。
「はっ、あ! っ、ぁ、あア……ッ」
 ああ、イク、イク、と脳裏で数えて、極まり降り注ぐような絶頂に浸る。
「……」
「!?」
 耳朶を揺らしたかすかな低い囁きが、可愛い、と、短く呟いたように聞こえ。
 なにが!?まさか!?とでもいうような、何故か慌てるような心地をそっちのけで、まだ甘く痺れている穴に太いものを押し込まれて、背が浮く。
「あっ、あぅ、あっ、あ、あ!」
 大きな声が勝手に出てしまう。
 先端の太いところを飲み込まされたところで止まり、髪を退けるよう額を撫でられるのに気づいて、目を上げ。
「すげえ声。大丈夫か?」
 悲しくも困ってもいないのに、勝手に眉が下がってしまう。大丈夫だ、と答える代わりに、頷き。
 亀頭の下の首回りを銜え、皮膚を薄く伸ばされ敏感な穴が、不随意にヒクリと震える。縫い目のような裏筋や、薄皮の下の血管が脈打って幹を熱くしているのが伝わり。
 じっとしているだけで、そこがアギレオの形に吸いついていくようで。
 全身がたまらない感じがして、その背にすがりつく。
「きもち、いい、すごく…アギレオ…」
 俺もだ、と、返された囁きは、今度は聞き間違いようがなく。
 馴染ませるよう時折揺すりながら入ってこられて、みるみる身体が開いていく。崩れてしまいそうな身体のやり場を探して力を込め、腕や足をやたらに擦りつけ。
 奥まで収めてから止まるアギレオが、己が慣れるのを待ってくれているのだと知っているのに、その先を急かしたくて、絡める脚をもぞもぞと動かしてしまう。
 笑う息を聞きながら、ああ噛み合ったと思うのと同時に動き出されて、歓喜としか呼びようのない声が出る。
「はァ…っ、あ、ぁぅ、ん、っふ、は、あ、あっ」
 快楽によじる身を押さえつけられ、まるごと腰を抱えられて、ようやく落ち着くところを見つけて。開きっぱなしのだらしない身体を、アギレオに預け。
 なめらかに突き入れ、もてあそぶように掻いて引かれ、やりようもなく溢れる声になんとか悦を逃がし。
 性腺のしこりだけでなく、熱く硬いペニスの通るところはどこでも感じる。入り口の敏感さ、性腺のたまらなさ、どこと知れないあちこちの内壁の、身が跳ねるような悦さ。素早く抽挿ちゅうそうする熱い杭に引きずられ、掻き回されて、それらが混じってしまう。
 溢れる快楽に容易く極めてしまうのすら、まだ途中のアギレオに轢き潰されて、身体中に拡がって。
「は、ぁ、…ぁふ、アギ、ギレオ、も、駄目だ、も、」
 堪えきれず訴えるのに、ああ、と深いため息のような声が聞こえて。もうちょっと待て、と掠れるような声に、腕と足に力をこめながら小さな頷きをなんとか重ね。
「ぅ、ぅぅ…」
「ハル、」
 ハル、ともう一度呼ばれて、目を上げる。滲んで熱を持った視界は曖昧で、褐色の陰と美しい混色をおぼろに知れるばかりで。
「…ちっと、…痛くするぜ」
 鼻先を押し込まれ、斜めに顎をやって首筋を晒し、ああ噛まれる、と胸の内で息をつく。
 駄目だったか、と、それでもいい、と、委ねる首に尖った牙の食い込む痛みが刺さり。
 短く呻くような声に少し遅れて、腹の奥に熱いものが広がって染み、小さく絶頂する。
 額に唇を捺されて、思わずパッと目を瞠った。
「悪かったな…平気か?」
 目を丸くしたままアギレオの顔を見上げ、なんだよと言うよう眉を上げるのに、言葉を失う。
 迷いなく指し示せるほど、まだ尖った牙の痛みが残った肌に、手をやって触れる。指は濡れず、目で確かめても、血は付着していない。
 抜いてもいいか、と言われるのに答えそびれ、まだ太いペニスをずるりと抜かれるのに、勝手に身が震えた。
 全身に漂うような甘い感覚の気怠さをこらえながら、手を上げてアギレオの頬を両方包んで。
「……落ち着いたか?」
「おう。なんだお前、何したんだよ。……あー、いや、まだだわ」
「えっ、あっ、あ!?」
 勝手に抜いたくせに、間も置かず再び挿入されるペニスがまた硬くなっているのに、目を剥いた。
「あー、ヤベ気持ちいい」
「ちょ、ちょっと待て、今、話、を…、んっ」
「すぐ済むすぐ済む。済んでから聞くわ」
「あっ、いやだ、浅い、もっと奥、奥まで、」
「いやちょっと待て、今ここがいいんだわ」
「ん! う、うぅ…ッ」
 結局アギレオの気が済むにはもう数回を要し、疲れ果てて、二人でそのまま朝まで眠ってしまった。
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