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57、西へ
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一日三回の食堂の様子を全て見たいという、メリリエルとランシリエルを丸一日かけて案内し終え、そのまま馬小屋の世話をするさなか。
一息ついた肘を後ろから引かれ、おっと?と、振り返って。
「アギレオ」
「まァた妙に張り切りやがって、何やってんだ。とっとと帰って寝ろ」
「心配をかけたか、すまない。大丈夫だ、私は人間や獣人達より丈夫だ」
とはいえ、心地良い程度の疲労が満ちた身体は、アギレオと同じく休もうと訴えている。
戯れ半分に、肩の先だけアギレオの胸に預け。
遠い方の肩を軽く抱き寄せられるのに、甘えて頬をアギレオの顎に擦り寄せた。
「休めつっといてなんだが、6日で発つぜ」
どうだ?と問われるのに、話が早い、と驚いてその顔を見上げ。
「さすがだな…。分かった、私の方も支度を整えておく。ん、」
上げた顔を見下ろされ、ちょうどよかったからとでもいうよう、唇を重ねて。
喜びが身体中に満ちていて、なんでもしたくなり、ことのほかアギレオに触れていたい。じゃれるように絡ませる唇の合間に、ン、とアギレオが声をしたのが、そういえばと聞こえて少し顔を離す。
「うん?」
「まずは西の港まで行くんだが、馬はスリオン以外にしとけよ」
「分かった。だが何故だ?」
アギレオが顎をしゃくって馬たちを示すのを、目だけで追い。
「馬を船に乗せたくねえ。船賃がバカ高くなる上に、船の上で飯代わりにされねえとも限らねえからな。こっから乗ってく馬を港で売って、西に着いたら、今度は向こうの港で別の馬を買い直すんだ」
なるほど、と頷くのに、お前の馬は売らねえんだろ、と眉を上げられ。もちろん、と強く答える。
ほら寝ろと言いながら髪に触っているアギレオに、寝ると答えながらまだ身を預けたままで、頭に思い描く。
馬で西の港までゆき、こちらの港から、あちらの港までは船。あちらの大陸に着いたら、また馬で今度はアギレオの生まれた北の山を目指す。
近頃仕事終わりの楽しみとして、何度も眺めた二大陸の地図を思い浮かべ。
行って帰るだけで2年だとアギレオは言ったが、上手くいけばもっと短い期間で帰ってこられるかもしれない。
行きたいところへ行って、また、帰りたい場所へ帰っても来る。
胸には期待が溢れ。
ほら、と、身を起こさせるアギレオにもう一度唇を寄せてから、浮つくような気分で家路へと着いた。
アギレオと並べる馬を進ませながら、みなで見送ってくれた砦を少し、振り返る。
無論、必ず帰ってくるつもりだが、それが何年先になるのか、まだ予測もつけられない。砦だけではない、生まれ育ったクリッペンヴァルトをこれほど離れること自体が初めてだ。
早くも郷愁の切なさを覚える胸には、けれどざわつくほどに溢れる旅への期待も大きく、言葉は足らず、時々大きく息を吸い込んでは吐き出して。
ベスシャッテテスタルより少し手前、別の森の浅い場所で馬を休めるまで、ほとんど丸一日、アギレオと話すのも忘れて胸の内の動揺を楽しんだ。
彼ら自身の心安さも考えて、茂みに隠すように馬を繋ぎ、アギレオと手分けして野営の準備に取り掛かる。
傾いていく陽に急かされるように薪を集め、雨の心配はなさそうだと空を確かめて、少し空が見えるほどの開けた場所に小さな焚火を作って。
落ち着いてきた火を前に二人で腰を下ろす頃には、辺りも暗くなっていた。
「持ち出したものもあるからしばらくは保つが、食べるものを確保するというだけでも、確かにそれだけ足止めを食うな」
火を整えて湯を沸かすそばで荷物を開いているアギレオが、そうだなあと声で頷く。
「だが、食いもんは食うたびにかさが減って荷が軽くなるし、どっちにしても馬は休ませねえとな」
相槌を打ちながら小鍋を火にかけておくと、自分も荷物を探って、用意してきたものを取り出す。
互いに取り出した旅の最初の食事に、お、え、とそれぞれに声を上げ。
「なるほどパンか。ダイナにでももらったか?」
あらかじめ一食分と考えて切り分けておいたパンをアギレオにも分け、交換にカップを受け取る。
「私が作ったんだ。まさか酒を持ってきているとは」
確かに飲み水の代わりにもなるが、長旅の必須食料といえるだろうか。アギレオらしい、と笑いながらカップに注がれたリンゴ酒を傾け。
「へえ、お前が。意外だな、料理なんかすんのか」
身を緩めて火であたためながら、早速パンにかじりついているアギレオを眺める。
「砦には食堂があるからな。王都にいる間もあまり必要ないんだが、森の外の警らに長い間出たり、遠征が必要な時には、身の回りのことはすべて自分でできなければ困る」
「ああ。なーるほど、お?」
へえ、と、これは相槌ではなく、モグモグと顎を動かしながら手製のパンをためつすがめつ眺めているアギレオを、少しじっと見守る。
「口に合うといいのだが」
うん、としっかり返される頷きに、ひとまずは胸を撫で下ろした。
「薬草? 香草か? 色ンな味がすんなこれ。けど草っぽくもねえし美味えわ」
「そうか、よかった。王都の薬草を使えば、ほとんど味も柔らかさも落ちないようなものが作れるのだが、思ったよりも王都でしか手に入らないものが多くてな。幼馴染みたちとケレブシアにもずいぶん知恵を借りたんだ」
食堂の窯を借り、女性達の食事の仕度を少し待たせてしまうほど苦心して数を作ったもので、アギレオに気に入らないと言われれば、つまらなく一人で口にするばかりになるところだった。
安心した、と腹の内に安堵の息を隠し。
分けてもらったリンゴ酒を飲み飲みパンをかじれば、果実と薬草の香りが豊かで、ついつい食が進む。
食べてもらいたかった、と、これほど思うくせに、いるか?とアギレオに勧められた干し肉は断り。答えは知っていたのだろう、なんだかニヤニヤしている顔に肩を竦める。
「お前は嫌かもしんねえが、持ってきたモンを食い尽くす前には狩りもしねえとなあ」
そうだな、と相槌を打って。
「あまり得意ではないが、野菜や果実もいつも手に入るとは限らないからな。水だけあれば人間よりは何も食べなくても保つから、手持ちのものも節約しようとは思っているが」
霊力に満ちた王都の薬草ならばともかく、森の外で作ったものだ。エルフのパンとはいえ、数年の往来に耐えるというわけにもいかないだろう。
自分よりもアギレオだなと、考えるともなし思い浮かべるところへ、再びの「へえ」を聞いて顔を向ける。
「動物を殺して食うのが嫌なんじゃねえのか。他になければ肉も食うか?」
えっ、という内心の思いと、なるほど、いわゆる“エルフの印象”というものだろうかと、少し笑う。
「まさか。植物には命がないと思っているのか? 自らが生きるために他者の命を分けてもらうのに、エルフも人間もない」
えっ、という。自分ではなくアギレオの方が声を上げて、えっ、と、こちらでも思わず瞬いて。
「えっ…、…じゃあお前、普段あんなにかたくなに肉食わねえのは……」
改めて言い出されると、なんだかギクリとしてしまい。どんなものでも満遍なく口にするよう叱られたのは幼い頃の話で、今それにとらわれずとも良いのだが。ついつい、少し目を逸らしてしまう。
「いや……肉や卵の……匂いがあまり……」
「マジかよお前!? ほんとにただの好き嫌いじゃねえか!?」
「ぐぅ…! いや、人間と違ってエルフは、身体が成熟すれば、食物からいわゆる栄養ではなく霊力を得るんだ…! 私はこどもではないのだから、自分で選んだものを食べていても何も差し支えは…!」
「いやなんか崇高な理由かと思ってめちゃくちゃ尊重してたのにな!? 普通に好き嫌いかよ!?」
「尊重には感謝するが私はただの平凡なエルフなんだ…!」
そう、何も問題はなく、アギレオがそう思っていたというだけでも。ただのわがままだと言われてしまうと居心地が悪く、思わず顔を覆う。
おいおい、などと、もう既に面白がっているばかりの様子で肩を揺するアギレオに、極めて普通だと頭を振って抗議し。
間違いなく、少しはしゃぎすぎの賑やかな夕飯時を過ごした。
アギレオがまだ眠らないというので、このためにここを野営地に選んだ小川で身を清める。
水深は浅く水量も少なく、わずかずつ掬い上げては流すような水浴びに多少苦心しながらも、頭の先から指に至るまで丁寧に洗い流し、水から上がって身体を拭う。
とはいえ、と、来た道を振り返る。
木々の合間に小さな焚き火の明かりを知れるほど、アギレオのいるところは目と鼻の先だ。くちくなった腹に酒も入り、待たせてしまったから、もう眠っているかもしれない。
いたずらするような、そして、少しはしたない思いつきに、先も見た地図を頭に思い浮かべながら辺りを見回す。
木の葉の合間に時折やっと星が見えるほど、木々の茂った森の中。この辺りではもっとも大きなベスシャッテテスタルはもちろん、村や集落の類いも遠い。
少しくらい、と、衣服を携え、歩き出す。
整理する者もなく、長年降り積もっただろう葉が足を受け止める柔らかい土。
風に揺られて擦れ合う葉のささやき、獣たちは息をひそめ、夜の鳥や虫たちの声は遠い。降り注ぐような満天の星を遮る木の葉の屋根の下。
総身の肌を撫でていく風は心地良い。
木々の間からのぞいて、腕を枕に仰向けに寝そべっているアギレオが、目を閉じているのを確かめ。
足音を忍ばせて近づき、たくましい腰に跨がって裸の尻を下ろした。
「おっ、……」
そう言って目を開いたきり、目を丸くしているアギレオに声もなく笑う。してやったりの心地で、笑息に肩を揺らし。手を伸ばして腰を撫でる腕を、こちらからも手をやって撫で。
「悪さをしてやろうと思って」
「森でエルフに会ったら気をつけろって、ガキの頃言われたのを思い出したぜ。水浴びして、服着て戻って、また脱いだのか?」
それとも、と、眉を上げるのに笑うまま頷く。
「裸のまま歩いてきたんだ」
「そりゃあ悪いエルフだな」
抱いた己の腰を支えに身を起こすアギレオに、脚の位置を動かしてバランスを取り。
息継ぎのように一度唇を重ねてから、促されて立ち上がった。
一緒に立ち上がったのに、踵を摺るようにして二歩下がり、頭のてっぺんから爪先めいて、じっくり眺められるのに瞬く。
一息ついた肘を後ろから引かれ、おっと?と、振り返って。
「アギレオ」
「まァた妙に張り切りやがって、何やってんだ。とっとと帰って寝ろ」
「心配をかけたか、すまない。大丈夫だ、私は人間や獣人達より丈夫だ」
とはいえ、心地良い程度の疲労が満ちた身体は、アギレオと同じく休もうと訴えている。
戯れ半分に、肩の先だけアギレオの胸に預け。
遠い方の肩を軽く抱き寄せられるのに、甘えて頬をアギレオの顎に擦り寄せた。
「休めつっといてなんだが、6日で発つぜ」
どうだ?と問われるのに、話が早い、と驚いてその顔を見上げ。
「さすがだな…。分かった、私の方も支度を整えておく。ん、」
上げた顔を見下ろされ、ちょうどよかったからとでもいうよう、唇を重ねて。
喜びが身体中に満ちていて、なんでもしたくなり、ことのほかアギレオに触れていたい。じゃれるように絡ませる唇の合間に、ン、とアギレオが声をしたのが、そういえばと聞こえて少し顔を離す。
「うん?」
「まずは西の港まで行くんだが、馬はスリオン以外にしとけよ」
「分かった。だが何故だ?」
アギレオが顎をしゃくって馬たちを示すのを、目だけで追い。
「馬を船に乗せたくねえ。船賃がバカ高くなる上に、船の上で飯代わりにされねえとも限らねえからな。こっから乗ってく馬を港で売って、西に着いたら、今度は向こうの港で別の馬を買い直すんだ」
なるほど、と頷くのに、お前の馬は売らねえんだろ、と眉を上げられ。もちろん、と強く答える。
ほら寝ろと言いながら髪に触っているアギレオに、寝ると答えながらまだ身を預けたままで、頭に思い描く。
馬で西の港までゆき、こちらの港から、あちらの港までは船。あちらの大陸に着いたら、また馬で今度はアギレオの生まれた北の山を目指す。
近頃仕事終わりの楽しみとして、何度も眺めた二大陸の地図を思い浮かべ。
行って帰るだけで2年だとアギレオは言ったが、上手くいけばもっと短い期間で帰ってこられるかもしれない。
行きたいところへ行って、また、帰りたい場所へ帰っても来る。
胸には期待が溢れ。
ほら、と、身を起こさせるアギレオにもう一度唇を寄せてから、浮つくような気分で家路へと着いた。
アギレオと並べる馬を進ませながら、みなで見送ってくれた砦を少し、振り返る。
無論、必ず帰ってくるつもりだが、それが何年先になるのか、まだ予測もつけられない。砦だけではない、生まれ育ったクリッペンヴァルトをこれほど離れること自体が初めてだ。
早くも郷愁の切なさを覚える胸には、けれどざわつくほどに溢れる旅への期待も大きく、言葉は足らず、時々大きく息を吸い込んでは吐き出して。
ベスシャッテテスタルより少し手前、別の森の浅い場所で馬を休めるまで、ほとんど丸一日、アギレオと話すのも忘れて胸の内の動揺を楽しんだ。
彼ら自身の心安さも考えて、茂みに隠すように馬を繋ぎ、アギレオと手分けして野営の準備に取り掛かる。
傾いていく陽に急かされるように薪を集め、雨の心配はなさそうだと空を確かめて、少し空が見えるほどの開けた場所に小さな焚火を作って。
落ち着いてきた火を前に二人で腰を下ろす頃には、辺りも暗くなっていた。
「持ち出したものもあるからしばらくは保つが、食べるものを確保するというだけでも、確かにそれだけ足止めを食うな」
火を整えて湯を沸かすそばで荷物を開いているアギレオが、そうだなあと声で頷く。
「だが、食いもんは食うたびにかさが減って荷が軽くなるし、どっちにしても馬は休ませねえとな」
相槌を打ちながら小鍋を火にかけておくと、自分も荷物を探って、用意してきたものを取り出す。
互いに取り出した旅の最初の食事に、お、え、とそれぞれに声を上げ。
「なるほどパンか。ダイナにでももらったか?」
あらかじめ一食分と考えて切り分けておいたパンをアギレオにも分け、交換にカップを受け取る。
「私が作ったんだ。まさか酒を持ってきているとは」
確かに飲み水の代わりにもなるが、長旅の必須食料といえるだろうか。アギレオらしい、と笑いながらカップに注がれたリンゴ酒を傾け。
「へえ、お前が。意外だな、料理なんかすんのか」
身を緩めて火であたためながら、早速パンにかじりついているアギレオを眺める。
「砦には食堂があるからな。王都にいる間もあまり必要ないんだが、森の外の警らに長い間出たり、遠征が必要な時には、身の回りのことはすべて自分でできなければ困る」
「ああ。なーるほど、お?」
へえ、と、これは相槌ではなく、モグモグと顎を動かしながら手製のパンをためつすがめつ眺めているアギレオを、少しじっと見守る。
「口に合うといいのだが」
うん、としっかり返される頷きに、ひとまずは胸を撫で下ろした。
「薬草? 香草か? 色ンな味がすんなこれ。けど草っぽくもねえし美味えわ」
「そうか、よかった。王都の薬草を使えば、ほとんど味も柔らかさも落ちないようなものが作れるのだが、思ったよりも王都でしか手に入らないものが多くてな。幼馴染みたちとケレブシアにもずいぶん知恵を借りたんだ」
食堂の窯を借り、女性達の食事の仕度を少し待たせてしまうほど苦心して数を作ったもので、アギレオに気に入らないと言われれば、つまらなく一人で口にするばかりになるところだった。
安心した、と腹の内に安堵の息を隠し。
分けてもらったリンゴ酒を飲み飲みパンをかじれば、果実と薬草の香りが豊かで、ついつい食が進む。
食べてもらいたかった、と、これほど思うくせに、いるか?とアギレオに勧められた干し肉は断り。答えは知っていたのだろう、なんだかニヤニヤしている顔に肩を竦める。
「お前は嫌かもしんねえが、持ってきたモンを食い尽くす前には狩りもしねえとなあ」
そうだな、と相槌を打って。
「あまり得意ではないが、野菜や果実もいつも手に入るとは限らないからな。水だけあれば人間よりは何も食べなくても保つから、手持ちのものも節約しようとは思っているが」
霊力に満ちた王都の薬草ならばともかく、森の外で作ったものだ。エルフのパンとはいえ、数年の往来に耐えるというわけにもいかないだろう。
自分よりもアギレオだなと、考えるともなし思い浮かべるところへ、再びの「へえ」を聞いて顔を向ける。
「動物を殺して食うのが嫌なんじゃねえのか。他になければ肉も食うか?」
えっ、という内心の思いと、なるほど、いわゆる“エルフの印象”というものだろうかと、少し笑う。
「まさか。植物には命がないと思っているのか? 自らが生きるために他者の命を分けてもらうのに、エルフも人間もない」
えっ、という。自分ではなくアギレオの方が声を上げて、えっ、と、こちらでも思わず瞬いて。
「えっ…、…じゃあお前、普段あんなにかたくなに肉食わねえのは……」
改めて言い出されると、なんだかギクリとしてしまい。どんなものでも満遍なく口にするよう叱られたのは幼い頃の話で、今それにとらわれずとも良いのだが。ついつい、少し目を逸らしてしまう。
「いや……肉や卵の……匂いがあまり……」
「マジかよお前!? ほんとにただの好き嫌いじゃねえか!?」
「ぐぅ…! いや、人間と違ってエルフは、身体が成熟すれば、食物からいわゆる栄養ではなく霊力を得るんだ…! 私はこどもではないのだから、自分で選んだものを食べていても何も差し支えは…!」
「いやなんか崇高な理由かと思ってめちゃくちゃ尊重してたのにな!? 普通に好き嫌いかよ!?」
「尊重には感謝するが私はただの平凡なエルフなんだ…!」
そう、何も問題はなく、アギレオがそう思っていたというだけでも。ただのわがままだと言われてしまうと居心地が悪く、思わず顔を覆う。
おいおい、などと、もう既に面白がっているばかりの様子で肩を揺するアギレオに、極めて普通だと頭を振って抗議し。
間違いなく、少しはしゃぎすぎの賑やかな夕飯時を過ごした。
アギレオがまだ眠らないというので、このためにここを野営地に選んだ小川で身を清める。
水深は浅く水量も少なく、わずかずつ掬い上げては流すような水浴びに多少苦心しながらも、頭の先から指に至るまで丁寧に洗い流し、水から上がって身体を拭う。
とはいえ、と、来た道を振り返る。
木々の合間に小さな焚き火の明かりを知れるほど、アギレオのいるところは目と鼻の先だ。くちくなった腹に酒も入り、待たせてしまったから、もう眠っているかもしれない。
いたずらするような、そして、少しはしたない思いつきに、先も見た地図を頭に思い浮かべながら辺りを見回す。
木の葉の合間に時折やっと星が見えるほど、木々の茂った森の中。この辺りではもっとも大きなベスシャッテテスタルはもちろん、村や集落の類いも遠い。
少しくらい、と、衣服を携え、歩き出す。
整理する者もなく、長年降り積もっただろう葉が足を受け止める柔らかい土。
風に揺られて擦れ合う葉のささやき、獣たちは息をひそめ、夜の鳥や虫たちの声は遠い。降り注ぐような満天の星を遮る木の葉の屋根の下。
総身の肌を撫でていく風は心地良い。
木々の間からのぞいて、腕を枕に仰向けに寝そべっているアギレオが、目を閉じているのを確かめ。
足音を忍ばせて近づき、たくましい腰に跨がって裸の尻を下ろした。
「おっ、……」
そう言って目を開いたきり、目を丸くしているアギレオに声もなく笑う。してやったりの心地で、笑息に肩を揺らし。手を伸ばして腰を撫でる腕を、こちらからも手をやって撫で。
「悪さをしてやろうと思って」
「森でエルフに会ったら気をつけろって、ガキの頃言われたのを思い出したぜ。水浴びして、服着て戻って、また脱いだのか?」
それとも、と、眉を上げるのに笑うまま頷く。
「裸のまま歩いてきたんだ」
「そりゃあ悪いエルフだな」
抱いた己の腰を支えに身を起こすアギレオに、脚の位置を動かしてバランスを取り。
息継ぎのように一度唇を重ねてから、促されて立ち上がった。
一緒に立ち上がったのに、踵を摺るようにして二歩下がり、頭のてっぺんから爪先めいて、じっくり眺められるのに瞬く。
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