秘密を隠した護衛騎士は、お嬢様への溺愛を抑えきれない

はるみさ

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第四章

8.

 「お嬢様、お気をつけてくださいませ。どうぞご無事で」

 「ありがとう、屋敷をよろしくね」

 執事長に留守を託して、私とセドリックは次の日の朝早くに出発することにした。
 護衛がほとんどいない現状では、陽の上っている時間にどれだけ移動できるかが鍵だからだ。

 朝日に照らされた平地を、風を切るように馬が駆け抜ける。

 私はセドリックに後ろから抱きしめられるようにして、馬に乗っていた。もちろん手綱を握るのはセドリックだ。
 山賊などが出る道では後ろから狙われることも多いため、私は前にというセドリックの判断だった。

 私も騎乗はできるため、自分で馬に乗るつもりだったのだが、山道を急いで隣領に向かうとなると私の騎乗技術では足りないようだった。

 「だけど、こんなに密着して相乗りすることになるなんて……」

 上下するたびにセドリックの胸板が背中に擦れる。
 しかも、耳元で感じる真剣な息遣いは、お腹の奥まで微かに響き、心臓に悪い。

 セドリックと抱き合ったあの夜から、微かな快感も拾うようになった自分がひどく恥ずかしい。

 「お嬢様、何か?」

 耳元でセドリックの落ち着いた声が響く。こんな時なのに、いつもより真剣なその声に胸が跳ねてしまう。

 「な、何でもないわっ!」

 「では、スピードを出しますので、しっかりつかまっててくださいね」

 セドリックの温かさを背中に感じながら、私たちは隣領に向かって、スピードを上げた。

   ***

 「どんどんと暗くなってきたわね……」

 私は、切り株に腰かけて、水筒の水をこくりと一口流し込んだ。

 「そうですね。ここからはより一層気を付けて進まなければ」

 セドリックが周りを注視しながら、私を休ませてくれていた。

 先ほど狼に襲われそうになったので、それを何とか撒いてようやく一息をついたところだ。

 それにしても、先ほどのセドリックは見事だった。狼に追われていると気付いた瞬間、彼は私に手綱を任せた。
 そして、馬上で後ろを向き、背負っていた弓矢を構えると……狼を次々と射貫いていった。

 耳元でセドリックの弓矢がパシュッと鋭い音を立てて一つ放たれる。そのたびに狼の鳴き声はどんどんと減っていき、最後に山道に響くのは、馬蹄の音だけだった。

 騎士科を首席で卒業したと聞いてはいたが、弓にまで精通しているとは知らなかった。以前私を助けてくれた時も相手を殴り飛ばしていたし、セドリックは何でもできることに驚く。

 それでも、これからの時間帯はますます危険が伴う。徐々に暗くなり、視界が確保しづらくなってくるからだ。

 「急かすようで申し訳ないのですが、もう行けますか?」

 一番疲労が溜まっているのはセドリックだろうに、申し訳なさそうに手を差し出してくれる。
 その手を私はしっかり掴んだ。

 「もちろん。行きましょう」

 私たちは、再び走り出した。もう山場は越えた……あともう少し。
 山に完全な夜が訪れるまでには、隣領に到着できる見込みだ。ここまで来たなら、きっともう大丈夫なはず――

 その時、ひゅんと風が鳴った。

 次の瞬間、突然馬が身をのけぞらせ、前脚を振り上げた。
 バランスを崩した私の手は空を掴み、その身は投げ出される。

 「お嬢様っ!!」

 セドリックの叫ぶ声と同時に強く後ろから抱きしめられたと思った時には、私たちは並んで、地面に転がっていた。

 「セドリック! 大丈夫⁉」

 彼は、私が馬から落ちる瞬間、後ろから抱きしめ、落下の衝撃をその身に全て受けてくれていた。

 「うっ。大丈夫……です。それより、お嬢様、早く私の後ろに隠れてください」

 セドリックの声に緊張が走る。
 彼は、落下の痛みもまだ身体に響いているだろうというのに、私を庇うようにあたりを見回す。

 風もないのに、目の前の林ががさっと揺れる。
 気のせいであってほしいと願ったのに……身体が震えて、声が出ない。

 「くそ……」

 セドリックが呟く。
 彼が睨みつける向かい側の林から、不気味な笑みを浮かべ出てきたのは、黒光りする剣を持った山賊だった。
 

 
 

 
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