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第一章
14.いざ平民街へ
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お茶会の後、ソフィアだけ残ってもらった。
応接室に場所を移し、向かい合って座る。
ソフィアにお願いしていたジョシュア様の話を聞くためだ。
「ジョシュア様の様子が変わった前後に何があったか分かった?」
「私付きの侍女たちに話を聞いてみたの。みんな分からないって言ってたんだけど、一番古い侍女だけ心当たりがあるって言ってて。
その侍女の話によると、お兄様は幼い頃、頻繁に平民街に遊びに行っていたらしいの。だけど、ある時を境にパタリと行かなくなったって。で、行かなくなった後から様子が変わったって言っていたわ。」
「ジョシュア様が平民街に?」
それが本当だとしたら、到底信じられない話だ。
あんな身分差別甚だしい人が平民街に行くなんて。
「私も知らなかったの。お兄様が八歳くらいの頃の話らしいわ。まぁ、よく出掛けるな…とは当時思っていたような気がするけど。」
「そう…八歳の頃、平民街で何かがあったのかもしれないわね。」
「えぇ。でも、それ以上調べたくとも、平民街は危険だからと言って行かせてもらえないし…。」
「そう…。」
私も平民街には行ったことがないけど、木刀ならそれなりに扱えるようになってきた気がするし…許可してもらえるかなぁ。というか、お父様に内緒で行っちゃおうかしら……。
私がそんなことを考えていると、ソフィアが向かい側から身を乗り出して、私の手をギュッと握る。
「アンナ!絶対に危険なことはしないで!
平民街なんかに行っちゃ駄目よ?!
お兄様のことは私の問題なんだから、アンナが危険を犯す必要はないんだからね?分かった?!」
「……う、うん。」
「約束よ?」
「分かったよ…。」
とは言ったものの、このままこの問題を放っておくつもりはない。だって、ジョシュアさまがそんなんじゃソフィアがせっかく変わろうとしているのに変われないもの!
お父様に相談しても、絶対に無理だと言われることは分かりきっているので、結局強行策で平民街へ行くことにした。
◆ ◇ ◆
その日はよく晴れていた。
新しいドレスを自分でお店にあるものからたまには選びたいと言って、王都内のブティックに連れていってもらうことにした。
ブティックだけでいい、すぐに帰ると私が言ったため、侍女はオルヒだけと護衛が二人だ。
ブティックの中に入り、適当に商品を見ていく。狙うは会計に時間がかかる小物だ。ソフィアやジュリーにプレゼントしたいと言って、リボンやハンカチなどを見ていく。
ドレスも勿論買うが、これが目的ではないので、安いものでいい。勿体無いしね。
小物を沢山、ドレスを一着だけ買って、オルヒにお会計をお願いする。オルヒは離れたが、護衛は私にぴったりと一人、お店の扉前に一人だ。
側にいる護衛に向かいの店のパンが食べたいから買ってきて欲しいとお願いをする。パン屋は行列だ。
私から離れることを渋る護衛に絶対にここから動かないから大丈夫、どうしてもあのパンが食べたいんだと潤んだ瞳でお願いをすれば、少し頬を赤らめて、了承してくれた。
あとは、扉前にいる護衛だけだが…
私はお手洗いを探すフリをして、店員専用の扉にさっと入る。ウロウロと裏口を探していると、案の定、店員に見つかった。
「お嬢様!困ります。すぐに戻ってー」
私は慌ててその店員に駆け寄り、その手を取ると、ポケットから出したある物を掴ませた。
「お願い。ここから出たいの。裏口まで案内して。貴女には迷惑を掛けない。何か聞かれたら、何も知らないと言って。
これ、あげるから。」
彼女の掌に私は大きな宝石の付いたブローチを押し付けた。彼女はそれを見て、ゴクッと喉を鳴らした。
「…………わかりました。こちらです。」
彼女の案内で、他の人に見つかることもなく、無事に店の外に出ることが出来た。ここからは走って平民街へ行く。比較的平民街に近い店を選んだから、ここから全速力で走っていけば、十分くらいで着くだろう。
私はドレスの裾を手に持ち、思いきり駆け出した。
周囲の人々はドレス姿で駆ける私に目を丸くする。だが、今はオルヒと護衛を撒くことが先決だ。
私は全力で平民街を目指して走った。
◆ ◇ ◆
平民街に到着する。貴族街とそう大きくは変わらないようにも見えるが、私のようなドレスを着ている人はほとんどいない。
本当はもっと地味な格好で着たかったのだが、オルヒがお出掛けだからと、無駄に張り切ってくれたのだ。本当にオルヒは私を着飾るのが好きで、ちょっと困る。
「うーん…お金はオルヒが持ってるし、どうしよう。」
目立たないように道路の隅の茂みに隠れていると、目の前に誰かが立った。
「へ?」
「お前、こんなとこで何してんだ?」
恐る恐る顔を上げると、そこにはユーリがいた。
「ユーリ!!」
「よう!」
ユーリはニカッと笑う。ユーリは貴族とは思えないような姿だった。見た目は完全に平民だ。
こんなところで知り合いに会えたのが嬉しくて、私は興奮気味に尋ねる。
「なんで、ユーリがこんなとこにいるの?」
「それはこっちの台詞だ。
俺は社会勉強だよ。」
「社会勉強?」
私が首を傾げると、ユーリは顎をぐっとあげて、自慢げに言った。
「あぁ、ここから自領まで一人で帰るんだよ。」
「え?一人で?!
そ、それって危なくない?!」
今度はムッとした表情になる。分かりやすい子だなぁ。
「俺を王都の軟弱者貴族と一緒にすんな。俺はこの歳にして、剣聖の生まれ変わりとも言われてんだからな。
で、お前はなんでこんなとこにいんだよ?
危ないだろが。」
「うーん、ちょっとした聞き込みに…」
そう、私は平民街にジョシュア様を知る人がいないかと思って聞き込みに来たのだ。おばあちゃんがよく見ていた二時間ドラマの刑事も情報は足で稼げって言ってたし。
「はぁ?
お前、その格好でここで聞き込みするつもりか?」
呆れたような目線をユーリが私に向けてくる。
私はその目線に泣きそうになって、溜息を吐く。
「…だよねぇ。
はぁ~、やっぱ諦めるしかないのかなぁ…。」
「来いよ。」
そう言って、ユーリは私の手を引いた。
「え?」
私はズンズンと何処かへ連れて行かれる。
……ライル様に他の人に触れられるなって言われてるけど、力が強くて、手が離せないし…。
私は諦めて、ユーリにそのままついて行った。
ユーリが連れてきてくれたのは、平民街の服屋だった。
ユーリは私の体に服を合わせていく。
おそらく平民街でも目立たない服を見繕ってくれているんだろう。しかし、私はお金を持っていないのだ。
「…ユーリ。申し訳ないんだけど、私、お金を持ってきてないの。だから、買えない…。」
「はぁ?アンナは俺がこんな安い服も買ってやれない奴だと思ってんの?」
「いや…そういうことじゃー」
「大丈夫だよ、気にすんな。
初プレゼントが平民街の服なのは俺も不本意だがな。」
結局ユーリは帽子から服、靴まで全てを買ってくれた。
お店の人に言って、試着室で着替えさせてもらった。着てきた服は、このまま捨てても良かったのだが、オルヒが気に入ってるドレスだったので、仕方なくお屋敷まで差出人は書かずに送ってもらうことにした。
試着室から出てきた私を見て、ユーリは満面の笑みを見せてくれた。
「良いじゃん!よく似合ってる!!」
平民街の服が似合うというのは果たして褒め言葉なのだろうか……。でも、とにかく助かった。
「アンナは元が良いから、どんな服でも似合うんだな!」
そんなことを不意に言われて、顔が火照る。
「じゃ、デートに行くか。」
あんまりユーリが嬉しそうに笑うから、私はギュッと繋がれたその手を振り払うことが出来なかった。
応接室に場所を移し、向かい合って座る。
ソフィアにお願いしていたジョシュア様の話を聞くためだ。
「ジョシュア様の様子が変わった前後に何があったか分かった?」
「私付きの侍女たちに話を聞いてみたの。みんな分からないって言ってたんだけど、一番古い侍女だけ心当たりがあるって言ってて。
その侍女の話によると、お兄様は幼い頃、頻繁に平民街に遊びに行っていたらしいの。だけど、ある時を境にパタリと行かなくなったって。で、行かなくなった後から様子が変わったって言っていたわ。」
「ジョシュア様が平民街に?」
それが本当だとしたら、到底信じられない話だ。
あんな身分差別甚だしい人が平民街に行くなんて。
「私も知らなかったの。お兄様が八歳くらいの頃の話らしいわ。まぁ、よく出掛けるな…とは当時思っていたような気がするけど。」
「そう…八歳の頃、平民街で何かがあったのかもしれないわね。」
「えぇ。でも、それ以上調べたくとも、平民街は危険だからと言って行かせてもらえないし…。」
「そう…。」
私も平民街には行ったことがないけど、木刀ならそれなりに扱えるようになってきた気がするし…許可してもらえるかなぁ。というか、お父様に内緒で行っちゃおうかしら……。
私がそんなことを考えていると、ソフィアが向かい側から身を乗り出して、私の手をギュッと握る。
「アンナ!絶対に危険なことはしないで!
平民街なんかに行っちゃ駄目よ?!
お兄様のことは私の問題なんだから、アンナが危険を犯す必要はないんだからね?分かった?!」
「……う、うん。」
「約束よ?」
「分かったよ…。」
とは言ったものの、このままこの問題を放っておくつもりはない。だって、ジョシュアさまがそんなんじゃソフィアがせっかく変わろうとしているのに変われないもの!
お父様に相談しても、絶対に無理だと言われることは分かりきっているので、結局強行策で平民街へ行くことにした。
◆ ◇ ◆
その日はよく晴れていた。
新しいドレスを自分でお店にあるものからたまには選びたいと言って、王都内のブティックに連れていってもらうことにした。
ブティックだけでいい、すぐに帰ると私が言ったため、侍女はオルヒだけと護衛が二人だ。
ブティックの中に入り、適当に商品を見ていく。狙うは会計に時間がかかる小物だ。ソフィアやジュリーにプレゼントしたいと言って、リボンやハンカチなどを見ていく。
ドレスも勿論買うが、これが目的ではないので、安いものでいい。勿体無いしね。
小物を沢山、ドレスを一着だけ買って、オルヒにお会計をお願いする。オルヒは離れたが、護衛は私にぴったりと一人、お店の扉前に一人だ。
側にいる護衛に向かいの店のパンが食べたいから買ってきて欲しいとお願いをする。パン屋は行列だ。
私から離れることを渋る護衛に絶対にここから動かないから大丈夫、どうしてもあのパンが食べたいんだと潤んだ瞳でお願いをすれば、少し頬を赤らめて、了承してくれた。
あとは、扉前にいる護衛だけだが…
私はお手洗いを探すフリをして、店員専用の扉にさっと入る。ウロウロと裏口を探していると、案の定、店員に見つかった。
「お嬢様!困ります。すぐに戻ってー」
私は慌ててその店員に駆け寄り、その手を取ると、ポケットから出したある物を掴ませた。
「お願い。ここから出たいの。裏口まで案内して。貴女には迷惑を掛けない。何か聞かれたら、何も知らないと言って。
これ、あげるから。」
彼女の掌に私は大きな宝石の付いたブローチを押し付けた。彼女はそれを見て、ゴクッと喉を鳴らした。
「…………わかりました。こちらです。」
彼女の案内で、他の人に見つかることもなく、無事に店の外に出ることが出来た。ここからは走って平民街へ行く。比較的平民街に近い店を選んだから、ここから全速力で走っていけば、十分くらいで着くだろう。
私はドレスの裾を手に持ち、思いきり駆け出した。
周囲の人々はドレス姿で駆ける私に目を丸くする。だが、今はオルヒと護衛を撒くことが先決だ。
私は全力で平民街を目指して走った。
◆ ◇ ◆
平民街に到着する。貴族街とそう大きくは変わらないようにも見えるが、私のようなドレスを着ている人はほとんどいない。
本当はもっと地味な格好で着たかったのだが、オルヒがお出掛けだからと、無駄に張り切ってくれたのだ。本当にオルヒは私を着飾るのが好きで、ちょっと困る。
「うーん…お金はオルヒが持ってるし、どうしよう。」
目立たないように道路の隅の茂みに隠れていると、目の前に誰かが立った。
「へ?」
「お前、こんなとこで何してんだ?」
恐る恐る顔を上げると、そこにはユーリがいた。
「ユーリ!!」
「よう!」
ユーリはニカッと笑う。ユーリは貴族とは思えないような姿だった。見た目は完全に平民だ。
こんなところで知り合いに会えたのが嬉しくて、私は興奮気味に尋ねる。
「なんで、ユーリがこんなとこにいるの?」
「それはこっちの台詞だ。
俺は社会勉強だよ。」
「社会勉強?」
私が首を傾げると、ユーリは顎をぐっとあげて、自慢げに言った。
「あぁ、ここから自領まで一人で帰るんだよ。」
「え?一人で?!
そ、それって危なくない?!」
今度はムッとした表情になる。分かりやすい子だなぁ。
「俺を王都の軟弱者貴族と一緒にすんな。俺はこの歳にして、剣聖の生まれ変わりとも言われてんだからな。
で、お前はなんでこんなとこにいんだよ?
危ないだろが。」
「うーん、ちょっとした聞き込みに…」
そう、私は平民街にジョシュア様を知る人がいないかと思って聞き込みに来たのだ。おばあちゃんがよく見ていた二時間ドラマの刑事も情報は足で稼げって言ってたし。
「はぁ?
お前、その格好でここで聞き込みするつもりか?」
呆れたような目線をユーリが私に向けてくる。
私はその目線に泣きそうになって、溜息を吐く。
「…だよねぇ。
はぁ~、やっぱ諦めるしかないのかなぁ…。」
「来いよ。」
そう言って、ユーリは私の手を引いた。
「え?」
私はズンズンと何処かへ連れて行かれる。
……ライル様に他の人に触れられるなって言われてるけど、力が強くて、手が離せないし…。
私は諦めて、ユーリにそのままついて行った。
ユーリが連れてきてくれたのは、平民街の服屋だった。
ユーリは私の体に服を合わせていく。
おそらく平民街でも目立たない服を見繕ってくれているんだろう。しかし、私はお金を持っていないのだ。
「…ユーリ。申し訳ないんだけど、私、お金を持ってきてないの。だから、買えない…。」
「はぁ?アンナは俺がこんな安い服も買ってやれない奴だと思ってんの?」
「いや…そういうことじゃー」
「大丈夫だよ、気にすんな。
初プレゼントが平民街の服なのは俺も不本意だがな。」
結局ユーリは帽子から服、靴まで全てを買ってくれた。
お店の人に言って、試着室で着替えさせてもらった。着てきた服は、このまま捨てても良かったのだが、オルヒが気に入ってるドレスだったので、仕方なくお屋敷まで差出人は書かずに送ってもらうことにした。
試着室から出てきた私を見て、ユーリは満面の笑みを見せてくれた。
「良いじゃん!よく似合ってる!!」
平民街の服が似合うというのは果たして褒め言葉なのだろうか……。でも、とにかく助かった。
「アンナは元が良いから、どんな服でも似合うんだな!」
そんなことを不意に言われて、顔が火照る。
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